KATOH'S SHORT STORY

「調子はどうだ?加藤」
 愛機を整備する俺に呼びかける声があった。
「あちこちガタが来てるよ。こうも、連戦だとさすがの新鋭機も整備不良で落ちちまうよ」
 俺はそいつに苦笑混じりで言ってやった。もちろん、新鋭機コスモタイガーUの整備をしながらだ。
「そうか。これからが本番だからな」
「わかってるよ」
 そいつの名は古代進。ヤマトの艦長代理だ。俺達は白色彗星軍との戦いの真っ直中なのだ。
「休養を十分取れよ」
 古代はそう言い残して格納庫から去っていった。
 コスモタイガーのエンジン部を開けて、不良部分がないかを確認する。大昔の零戦が強かった理由の 一つが整備がしやすかったからだそうだ。俺も今、そう思う。いくら強い戦闘機でも、整備がしにくけ ればそのうち整備不良で戦闘不能は当たり前。それどころか飛べなくなってしまう。そうなったらお終 いだ。
「こりゃダメだ。噴射ノズルが逝かれてる。山本、そっちはどうだ?」
 逝かれた噴射ノズルを外しながら俺は俺と共に地球のエースパイロットの山本明に聞いた。
「ああ、ダメさ。パルスレーザーが焼き切れてるぜ」
 ヤマトに余分な乗組員はいない。ある程度の整備は自分自身でしなくてはならない。もちろん、整備 が出来ないパイロットなど本当の愛機の調子を知ることは出来ないだろう。愛機の調子がどうであるか 知ることはその時の戦闘に大きな影響を及ぼす。
 ヤマトにはそんな乗組員はいない。皆、超一流の戦士たちだ。自分の周りのことはほとんど自分で片 づけてしまう。おそらく、ヤマト一隻であのガミラスを破れた理由はそんなところにあるのだろう。新 鋭戦艦のアンドロメダなどでは到底無理だろう。
 俺は噴射ノズルの取り替えを終えて、山本の方へ目をやる。山本はパルスレーザーの銃身を外してい るところだった。
「手伝おうか?」
「頼む」
 山本の隣に入り、銃身を支えているボルトを外す。
「最近、あの空間騎兵の斉藤も自分の立場がわかってきたみたいじゃないか」
 山本が口を開く。斉藤を始めとする空間騎兵隊とはヤマトの乗組員とそりが合わなかったが、最近は そういういざこざも無くなってきていた。
「まったくだ。あいつに格納庫をうろちょろされたらかなわんからな」
「俺は、もうごめんだぜ。あいつに乗っ取られるのは」
 忘れもしない、斉藤がヤマトに乗って間もない頃、その好奇心からか出撃命令の下った山本から無理 矢理コスモタイガーを乗っ取り発進したのだ。
「おい、それを取ってくれ」
 足下にある新品の銃身を取り、機体へと取り付ける。この取り付けが終わると山本のコスモタイガー も整備が完了するはずだ。
「よし、終わった」
 右腕で額の汗を拭って山本は言った。
「コスモタイガーか。さすが新鋭機だ。いいなあ」
「ああ。あのブラックタイガーでガミラス機とまともにやり合っていたのが信じられないな」
 山本がこたえた。
 ブラックタイガーで性能のいいガミラス機に勝てたのは、それはおそらく乗っていた俺達の腕が一枚 も二枚も上だったからだろう(笑)
「あの頃はコスモゼロに乗りたかったが、コスモゼロに比べてもこっちの方が上だからな」
 当時、ヤマトの発進にコスモゼロの量産は間に合わなかった。当初の計画ではヤマトにはコスモゼロ タイプが十分配備されるはずだった。結果、ヤマトにはもう既に量産体制が整っていた1ランク下のブ ラックタイガーが採用されたのだ。量産前の、試験機同然のコスモゼロも指揮官機として搭載された。 今の古代機だ。
「ブラックタイガーが嘘のように、速いし、武装が強力だしな」
 いつしか愛機にもたれ掛かって言う。
「ブラックタイガーも速度があれば今でも通用するのにな」
 俺が言って、二人で笑った。
 ブラックタイガーの最大の難点はその速力だった。しかし、ブラックタイガーにあってコスモタイガ ーに無いものもある。それは、格闘能力だ。ドッグファイトに突入しようものならば、ブラックタイガ ーに分が上がるのは目に見えている。
「おっ、そろそろ昼飯だな」
 時計を見ていった。
「みんな、飯の時間だ!」
 俺はまだ整備をしている他の隊員に伝える。それも、隊長の役目なのだ。

 食堂にはいると、もう既に多くの乗組員達が来ていた。空間騎兵隊の品のなさは相変わらずだ。
 俺達、コスモタイガー隊は食堂の右端の方に席を取った。
 昼食を受け取り、席について食べ始めたときにそいつは言った。
「なぁ、加藤。お前の弟はどうしてるんだ?」
「そうだ、確か弟がいたんだよな、お前」
 最初に言ったのは鶴見で、続けていったのが山本だ。
「四郎は、俺と同じパイロットを目指しているよ。戦闘機のな。俺と共に飛ぶのが夢らしいぞ」
「そりゃ凄いじゃないか!将来は二人で地球のエースの座を確立だな」
「俺がその前に、加藤より優秀なパイロットだと言うことを証明するさ」
 山本が笑いながら言った。それにつられて、俺も鶴見も笑う。
「イエ、ワタシガ宇宙一ノえーすぱいろっとデス。ヒック!」
 いつの間にかアナライザーが横に来て茶々を入れる。いや、酔っぱらっているのだ。佐渡先生のとこ ろで一杯やっていたのだろう。
「アナライザー、お前酔っぱらってるな」
「ヒック、酔ッパラッテナンカイマセンヨ。ワタシハツネニシラフデス。ヒック」
「酔っぱらってるじゃないか」
 と、俺はアナライザーに突っ込みを入れた。
「加藤シャンガイジメル〜。ヒック」
 アナライザーはそう言って、雪の方へと駆け寄っていく。
「俺がいじめたか?」
 山本と鶴見が同時にクビを横に振る。しかし、アナライザーが雪の方へと駆け寄った理由はわかって いる。
「ユキサン、エイッ!……ヒック」
「キャ!アナライザー!」
 アナライザーが雪のスカートをまくり上げる。これが最初から目的だったのだ。そして、アナライザ ーは食堂を出ていった。おそらく、佐渡先生のところに戻るのだろう。
「アナライザーも相変わらずだな」
「ああ、あいつがいる限り、ヤマトは安泰だよ」
 コスモタイガー隊の中で笑い声がわき上がる。
『全艦戦闘準備、全艦戦闘準備。総員配置に付け!』
 非常警報と共に古代の声がスピーカーから聞こえてくる。
 それと同時に俺は残りの昼飯を掻き込んだ。
「山本、鶴見、行くぞ!」
 俺達は格納庫へと向かった。格納庫では整備万全のコスモタイガー達が待っているはずだ。ガトラン ティスよ、今行くからな!


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