逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第1章 接触

〈緊急事態発生、総員配置につけ、緊急事態発生、総員配置につけ〉
「ぐ……ううん……」
緊急用警報機が鳴り響く、そのかん高い電子音が葉月中尉から安眠を奪った。
「これは……そうだ!、起きろ!! 荒島、艦長!! 黒田さん! みんな、起きてください」
すると皆、まださっきのショックの後遺症があるのか頭を抑えながらも起き上がってきた。
「ぐうぅぅぅ、いったいなにが……」
「おお、荒島無事だったか、ほっとしたぜ」
「あんまり、大丈夫ともいえんがな」
「全艦、損害報告!」
艦長が一喝すると皆慌てて各部署のチェックに入った。
手際よく自分の担当の計器を確認し自分の部下に艦内のチェックをさせる。
「後続の艦隊はどうした?」
藤堂艦長が神村少尉に確認を求めるが。
「はい……え、し、識別信号応答なし、どこにもいません!」
「なに、レーダーの故障じゃないのか」
味方が一隻もいない、そんな馬鹿なことがあるはずがない。
「いえ、たしかにレーダーは使えなくなってますが相互位置把握装置は生きてます、本当にどこにもいないんです」
「くっ、葉月、僚艦は見えるか」
藤堂艦長は艦橋内でもっとも視力のよい葉月中尉に視認を求めた。
しかし葉月中尉は艦橋側面の窓から艦の後方を眺めたがただ星空だけの宇宙空間が広がっているだけだった。
「なにも見えません」
「なに、いまさっきまで十分に肉眼で確認できる位置にいたではないか」
藤堂艦長がさすがにあせりの色を隠せずに言うと。
「さっきわれわれが気絶している間に移動したんじゃないんですか」
桜田中尉がとっさに意見したが黒田大尉が冷静に反論する。
「いや、あの光にのまれてからまだ5分程度しかたっていない、そのあいだに姿を消すなんて無理だ、だいたい我々をおいてゆくはずはない」
「本当ですか、あの光が現れたときメーターが全部いかれちまったのになんで5分だって分かるんですか」
「ふ、俺の時計はクラシックなゼンマイ時計だ、あのなかでもこいつだけは狂ってなかった」
「はあ、なるほど、たしかにその時計が壊れるような衝撃がきたら俺たちもこんなもんじゃすまなかったでしょうしね」
黒田大尉の意外な答えに桜田中尉や荒島中尉が感心している間にも艦長は次々と指示を出していた。
「冥王星基地に問い合わせれば分かるかもしれん、桜田、冥王星基地とつなげるか」
「無理です、さっきの衝撃で送信機がとんでいます、受信はできますがこちらから送ることはできません」
「そうかわかった、修理を急げ、通信が回復すれば状況もわかるだろう」
「了解、すぐにかかります」
「とにかく船が動かなければ話にならん、まず艦の復旧に全力をつくす、全員艦の状況報告を急げ」
あらためて藤堂艦長が命令すると気をとられていた者達もいっせいに自分の部署のチェックに戻り、しばらくしてまず黒田大尉が艦長に状況報告を出した。
「工作機械には問題ありませんが、制御用コンピュータがとんでいます。すでに修復にはいっていますが、あと10分は必要かと」
次に、神村少尉が報告した、新人であるのに最古参である黒田大尉についで2番目に報告をまとめたのだから彼女がいかに有能かわかるというものである。
「レーダー関係も狂いが大きくやはりあと10分は必要かと」
次に荒島中尉と葉月中尉が前へでた。
「砲術関係は問題ありません、レーダーの修復が終わればすぐにも撃てます」
「対空火器は微調整が必要ですのであと10分は」
二人の報告が終わると藤堂艦長は。
「航行に支障はないのか?」
と、一番遅かった航海班長の山城浩一中尉と機関長の権藤天佑大尉に少々厳しい口調で尋ねた。
「さっきの衝撃で自動航行装置と姿勢制御ブースターがやられました。目下修復中ですがあと1時間は高機動運動は不可能です。」
「機関部はさして問題ありませんが、さきほどの衝撃で数名が医務室に運ばれました、軽症だそうですがあと半日は勤務は無理だそうです」
二人の部署が意外に深刻だったことがわかると藤堂艦長も口調を改めて。
「通常航行はできるのか?」
と、静かに尋ねた。
「はい、問題ありません」
「うむ、ごくろうだった」
山城中尉の力強い返答に優しい口調で二人をねぎらうと藤堂艦長は復旧作業の再開を命じようとした。
だがそこでまだ通信課の報告をうけていないことに気がつき、桜田中尉の席のほうに目をやってみると桜田中尉がまだ席に座ってなにかぶつぶつ言っているのが目に入ってきた。
「桜田どうした」
藤堂艦長は不思議そうに尋ねた、彼は仕事の遅いほうではないはずなのだ。
「はぁ……おかしいんです」
「なにがだ?」
「通信装置のチェックのために受信モードをニュートラル(全局総受信)にしていたんですが、まったくなにも入ってこないんです」
それを聞いて葉月中尉が横から口を挟んだ。
「故障じゃないのか?」
「いえ、雑多な宇宙電波や民間のC級タキオン通信のようなものは入ってきます、しかし艦隊やステーションや惑星基地の交信はまったく入ってこないんです」
C級タキオン通信とは、2200年代に恒星間通信用として使われていた軍事用通信であったが、電波障害を受けやすいという欠点があり2230年には軍用艦から廃止され2404年ではせいぜい民間航宙会社が補助回線として用いているぐらいのものなのである。
「あの現象のせいで各地の通信機関がマヒしたんじゃあないか」
荒島中尉が意見を述べると、故障かもと聞いて様子を見に来た黒田大尉が反論した。
「だったらC級タキオン波なんか入ってくるわけなかろう、むしろ真っ先に使えなくなるはずだ」
「だったら何故」
「それはまだわからんが、直接行ってみればはっきりするんじゃないか?」
「まあそりゃたしかにそうですね」
結局出てきて当然の結論に話が落ち着くと。
「よし、あと10分で修理をすませ冥王星へ急行する、全員部署にもどれ」
藤堂艦長の命令が下るや、すぐさま艦の復旧作業が再開された。

10分後
「艦長、チェック終了しました」
各部門の班長がほぼ同時に報告した、若くとも訓練が行き届いている証拠である。
「よし、テスト開始」
藤堂艦長の命令が下ると同時に『武蔵』の機能がフル稼働しだした。
「主兵装、以上なし」
「対空兵装、異常なし」
「工作および分析装置、問題なし」
「通常航行であれば支障なし」
「レーダー……???……!! 10時の方向に未確認艦隊発見! 距離28万宇宙キロ」
神村少尉が慌てぎみで報告する。
「僚艦か?」
もしかしたらはぐれた友軍かもと藤堂艦長が確認を求める。
「いえ、敵味方識別応答なし、巡洋艦級2、駆逐艦級5、後方に……これは空母と思われます、艦載機らしき小型反応を確認、30宇宙ノットで接近中」
「なに、ビデオパネルON」
神村少尉がボタンを操作すると、艦橋天井部のパネルに未確認艦隊が映しだされた。
「なんだ!? これは……」
山城中尉が驚いて叫んだが無理もなかった、巡洋艦級の船は濃緑色の塗装が宇宙空間に溶け込んでよくわからないが空母も駆逐艦もまったく見覚えのない奇妙な形をしていたからだ。
白色塗装に身を包んだ駆逐艦は現在の主要星間国家のどの軍でも装備していない無砲身型回転砲塔を多数持っている奇妙な形の艦であり。
空母は常識ではありえないことに飛行甲板をむき出しにしていた。
航空機運用能力を最後まで失わないために飛行甲板は艦内に収容し発艦および着艦口のみをあけておくのが今の時代の空母の常識なのである。
そして空母の飛行甲板からは見慣れないまるでエイかカブトガニのような姿の艦載機がワラワラと飛び出してきていた。
「どこの船だ」
藤堂艦長が問いかけるととっさに神村少尉がデータベースを検索して答えた。
「データにありません」
「なにっ」
この『武蔵』には現用のあらゆる星間国家の船が軍用、民間を問わずにデータとしてインプットされている。
それに該当しないということはまったくの未知の相手だということだ。
「くっ、全艦戦闘配置」
藤堂艦長が命じると艦内にブザーが鳴り響き乗員たちは突然のことに驚きながらも訓練どうりにそれぞれの配置についた。
「未確認戦闘編隊接近!! 攻撃態勢にはいりました」
神村少尉が絶叫するように叫ぶ、もう艦橋の窓からも謎の攻撃機が三機一組の体制で突進してくるさまがはっきりと見える。
「迎撃準備!! ただし命令あるまでぜったいに撃つな、桜田! あの艦隊と交信はとれないのか」
藤堂艦長が怒鳴るように問いかける。
「だめです、まったく通じません」
「敵機、ミサイル発射」
桜田中尉が絶望的に答えたとき神村少尉が絶叫する声が響いた。
見ると敵編隊の放った計六発のミサイルが『武蔵』に向かって一直線に進んでくるのが見える。
葉月中尉はとっさに迎撃命令をだそうとしたが、艦長命令が頭をよぎり「迎撃」の一言を飲み込んだ。
「左舷艦首に被弾」
艦橋に爆炎の閃光に一瞬遅れてダメコンチームからの報告が飛び込む。
「被害は?」
「装甲板に異常なし、非破壊弾頭の可能性あり、現在調査中」
ダメコンチームからの報告はとりあえずの損傷がないことを意味していた。
しかし安心はできない、放射線弾頭や遅延弾頭などの見た目には影響がなくてもあとからジワジワ効いてくる兵器もあるのだ。
「艦長、このままでは」
荒島中尉がたまりかねて艦長に決断を迫った、そのあいだにも艦のあちこちから被弾報告が飛び込んでくる、藤堂艦長はついに決断した。
「全艦、火器使用 回避運動自由、戦闘始め!!」
艦長の一声で、待ってましたといわんばかりに『武蔵』はその牙をむいた。
「パルスビーム砲、自動射撃、撃ち方始め!」
葉月中尉の指示で『武蔵』の艦体にハリネズミのように装備されているパルスビーム砲が一斉に火を噴く。
レーダー照準で照準は極めて正確なうえに確実に撃墜できるよう、網をかけるように大量の弾丸をあびせたために敵機は悪あがきをする暇すら与えられずにものの数秒で全機が爆発、四散した。
「主砲、発射用意、目標、敵空母」
荒島中尉は、まずは艦載機を射出し戦闘圏外へ離脱しようとしている小癪な空母をしとめることを選択した。
空母は普通戦艦の攻撃の届かない距離から艦載機でアウトレンジ攻撃を仕掛けてくるものだが今回は出会い頭の戦闘になったため敵空母は今『武蔵』の射程距離内にいる、このまま逃がしたら後が面倒になるのは目に見えているのだ。
荒島中尉の指示が射撃指揮所へ伝達され『武蔵』の主砲にエネルギーが送り込まれる。
『武蔵』には上部艦首に二基、艦尾に一基、艦底に一基の51センチ3連装衝撃砲が装備されている。
そのうち艦首と艦底の計三基の砲塔が獲物を狙う蛇のごとく、その三本の鎌首を噛み潰すべき小動物へと狙いを定めた。
「発射準備完了」
射撃指揮所から報告が入ると、荒島中尉は砲術を志す者なら誰しもが夢みる一声をすべての緊張とともにはきだした。
「発射ぁ!!」
「発射」
砲術長の復唱とともに静かに引き金がひかれ『武蔵』の9本の砲身から強力なエネルギー光線が発射された。
それは神の手に導かれたかのごとく目標の空母に全弾命中、あわれな空母はおのれの運命を悟る間もなく強大な力によって微塵に引き裂かれ、そのひとかけらも残さず蒸発した。
「敵空母、撃沈」
神村少尉の報告とともに艦橋に歓声が響きあった。
彼らにとっては初めての実戦であり初めての戦果である、しかもそれが空母となれば浮かれる気持ちもわからぬでもないが戦場で気持ちが浮つくと思わぬしっぺ返しを受けることになる。
「うかれるな! まだ戦闘中である!」
藤堂艦長の怒声が飛ぶ、若い彼らと違い藤堂艦長は長年経験をつんでいるため油断することの怖さを知っているのだ。
「はいっ、第2目標、敵巡洋艦、1番2番砲塔は敵先頭艦を4番砲塔は後方の船を狙え」
気を取り直した荒島中尉が再び攻撃命令を放つ、敵艦隊も散開して攻撃態勢をとろうとしているがその動きは呆れるほど鈍い。
再び轟然と主砲が放たれ二隻の巡洋艦を粉々に葬りさる。
故障により回避機動のできない『武蔵』にも何発かの敵弾が命中するが『武蔵』の装甲が軽々とはじきかえした。
なぜなら戦艦は対応防御といい自艦の主砲攻撃にまで耐えられる装甲を有すのが常識となっている。
つまり『武蔵』を沈めたくば『武蔵』以上の戦艦の火力が必要ということになり、戦艦の半分以下の口径の主砲しか持たない巡洋艦や駆逐艦の砲撃などまったく意味がなかった。
しかしその弱点をカバーするために駆逐艦などの小型艦にはミサイルや魚雷などの兵器が搭載されているのであなどることはできない。
事実敵駆逐艦から『武蔵』へ向かって多数のミサイルが発射されていた。
だがそれらのすべては『武蔵』のパルスビーム砲によって撃墜され『武蔵』にいささかの損傷も与えることはできなかった。

「魚雷発射管開け、目標、敵駆逐艦」
荒島中尉の命令で『武蔵』の舷側の魚雷発射管が開く。
戦艦や巡洋艦と違い駆逐艦は機動力が高く大口径砲で狙いうちするのは難しく、そこで追尾性能を持つ魚雷の出番となる。
もちろん駆逐艦のほうも必死になって逃げ回り、魚雷を打ち落とそうとするだろう。
だが『武蔵』に搭載されている魚雷は地球防衛軍ご自慢の必殺兵器[零式空間魚雷]であった。
これは発射されたら弾頭部のみを残して次元断層に入り命中すると空間の穴から一気にエネルギーが吹き出して敵に風穴をあけてしまうというもので、直径数ミリの弾頭部しか露出しないため迎撃はおろか補足することさえ極めて困難なまさに必殺の魚雷であった。
「これでとどめだ」
荒島中尉が必殺の念をこめて発射命令を下そうとしたとき、突然、藤堂艦長がまったをかけた。
「まて、あの最後尾の駆逐艦は沈めるな、機関部を破壊して航行不能にするのだ」
「わかりました、拿捕するんですね」
荒島中尉が即座に艦長の考えを理解し命令を変更する、理由はどうあれ太陽系内で勝手なことをするやつを許すわけにはいかない、ただちに正体をつきとめ対処しなければ地球人類の存亡にかかわる事態になりかねななくなる。
そこでてっとり早く敵の正体をつきとめようと思ったら、やはり敵を捕まえて調べ上げるのが一番である、幸い敵と『武蔵』の間には大きな戦力差があり拿捕することはそんなに難しいとは思えない。
「雷撃……今!」
荒島中尉の号令とともに魚雷発射菅から5本の魚雷が発射された。
発射された魚雷は青白い光を僅かに放つと次元断層へ沈みこみ、もはや肉眼ではまったく見えなくなった。

「敵駆逐艦、轟沈」
神村少尉の報告を待つまでもなく、艦橋の窓からでも四隻の敵駆逐艦が大爆発を起こして沈みゆく姿がはっきりと見える。
また、照準をずらして攻撃した駆逐艦はエンジンの噴射口を破壊され完全に航行不能におちいったようである。
「よし、微速前進、敵駆逐艦の横につけるのだ、陸戦隊は第一武装で待機、桜田、まだ通信はつながらないか」
「だめです」
降伏を勧告するためにはどうにかして相手とコンタクトする必要がある。
しかし通信が使えないこの状況では降伏を求めることができない、藤堂艦長は最悪の場合、力づくで敵艦を制圧する覚悟を決めた。
「敵艦発砲」
見ると敵駆逐艦はすでに絶望的な状況にもかかわらずに小癪にも残った砲で攻撃してきた、むろん『武蔵』の装甲がすべてはじいたが敵艦にまだ戦意が残っている証でもあった。
「パルスビームで敵艦の甲板を掃射せよ」
藤堂艦長が命じると葉月中尉がパルスビーム砲を駆逐艦の甲板に雨のように降らせた、たちまち敵駆逐艦の甲板は穴だらけになり残っていた砲も沈黙した。
「よし、陸戦隊は敵艦への突入準備」
藤堂艦長が命令し『武蔵』が敵駆逐艦の横につこうとした。
だがそのとき黒田大尉が慌てて叫んだ。
「艦長、敵駆逐艦より強力なエネルギーノイズ発生、これは……自爆シークエンスと思われます」
「なに!  急速反転、離脱しろ」
「間にあいません、敵艦自爆まで、あと5秒」
「くっ、総員対ショック用意」
その直後、敵駆逐艦は大爆発を起こした。
だがその衝撃のほとんどは『武蔵』の装甲にはじかれダメージをおよぼすことはなかった。
「ま、まさか自爆するとは……」
桜田中尉が愕然としてつぶやいた。
「これで奴らの正体も分からずじまいか」
葉月中尉ががっかりした様子で言ったが、黒田大尉は。
「いや、敵の破片を採取して過去のデータと照らし合わせれば何か分かるかもしれん。艦長、残骸の採集許可をお願いします」
そう技術屋らしい意見を述べると藤堂艦長もうなづいた。
「よし、さっそく破片を採取して分析にかけてくれ」
「了解」
「それから神村、あの艦隊は本当にデータに無かったのか」
「はい、現存のどの国家の艦船とも違っています」
神村少尉がそう言うと。
「じゃあ現存の物ではないということじゃないのか」
権藤大尉が意味ありげなことを言った。
「どういうことです?」
「あの艦隊、いま思えばやたらと鈍いうえにもろかったからな、どこかの旧式艦を持ち出してきて威力偵察をかけてきたんじゃないか」
「なるほど、艦長どう思われます?」
「その可能性もあるな、よし神村、過去の圧縮データをすべて解析しろ」
「了解、データの解凍と解析に10分ほどかかります」
「残骸の解析のほうはどうだ」
「いまかかりました、技術班総出で分析していますのでそう時間はかからないでしょう」
「そうか、よろしくたのむ」
藤堂艦長が二人に指示をしている間に他の者はさきほどの興奮がまだ冷め遣らぬようで、自身の席のパネルを見ながら戦闘の興奮を思い返していた。
だがそれはこれから起こるかもしれない得体のしれない恐怖から逃れるための自己防衛本能の表われでもあった。
「いったい何がどうなっているんだ……」
荒島中尉が不安げにつぶやいた。
彼の座席のパネルの時計は10分という時の流れを正確にきざんでいたが、彼にはそれが砂時計のようなあやふやなものに見えて仕方がなかった。

第1章 完

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