逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第15章 回想、植民地星【地球】

『ヤマト』は白色彗星帝国と刺し違えて沈んだ
それはひとつの歴史の真実
しかしそれで歴史が終わってしまったわけではない
そう、それがどれほどの苦渋に満ちたものであったとしても……

 

黒田大尉は『武蔵』から持ってきた最後のディスクをセットした。
それは彼らの祖先、その長い戦いの日々の記録であった。

ときに西暦2202年
復興を急ぐ地球は各惑星に基地を備え資源採掘と技術開発を急いでいた。
それと同時に防衛軍も一応の再建を果し、しばらく平穏な日々が続いていた。

だが、ある日それは一瞬にして崩壊する。
突然太陽系最外周第11番惑星基地を謎の大艦隊が急襲、微々たる戦力しかない基地をあっという間に破壊しそのまま冥王星を始めとする各基地へと襲い掛かってきた。
謎の敵は暗黒星団帝国と名乗り、地球の無条件降伏を要求してきた。
これに対して地球防衛軍は土星に絶対防衛線をひき、全戦闘艦を持って艦隊決戦に臨んだ。

(ここより先は戦後の資料も含む)
地球防衛軍は戦艦しゅんらんに将旗を構え、山南提督が指揮する総勢100隻
対する暗黒星団帝国軍はデーダー提督が指揮する戦艦プレアデスを旗艦とするおよそ300隻

戦いは数において圧倒的に勝る暗黒星団帝国軍の正面からの総攻撃によって開始された。
まず双方は空母から艦載機を放ち、空中戦を行った結果地球軍は空母戦力をほぼ失いながらも敵艦載機の戦力をすり減らし無力化することに成功する。

そして空の恐怖がなくなった地球軍は暗黒星団帝国軍を正面から迎え撃った。
資料によればこのとき敵将デーダー提督は勝利を確信し、本国へ勝利確定の電文まで打たせている。
確かに彼我の戦力100:300、戦力比にしてみれば10000:90000にもなるのだから勝ったも同然と思うのも当然かもしれないがあいにく彼は地球軍をなめすぎていた。

両艦隊がまもなく砲戦距離に突入しようとしたとき突然地球艦隊の戦艦の艦首が光り、次の瞬間暗黒星団帝国の艦隊は全滅していた。

茫然自失とするデーダー提督は自分の艦隊になにが起こったのかわからないままただ一隻残った戦艦プレアデスの艦橋に立ち尽くしていたという。
暗黒星団帝国にとっての最大の誤算、拡散波動砲の一斉射が彼の艦隊を殲滅したのだった。

偏向バリヤーを搭載し、唯一生き残ったプレアデスではあったがそのままほとんど抵抗らしい抵抗もできずに地球艦隊の集中攻撃を受けて沈んでいった。
すべては地球人をあなどり密集隊形を組んで正面攻撃をかけたデーダーのミスであった。

この大敗の報告を耳にするなり暗黒星団帝国聖総統スカルダートは怒り狂った。
辺境の未開民族と思っていた地球人にこれほどの大敗、しかも相手には被害らしい被害を与えていない。
彼はただちに増援の大艦隊の出撃を命じようとしたが、帝国の参謀長のサーダがそれを押しなだめた。

彼女はこの敗北の原因を地球に対する情報が不足していながら数に頼んだ幼稚な作戦にあるとして地球に関するあらゆる情報を集めさせた。
そしてそれらの情報は聖総統たち暗黒星団帝国の上層部を驚愕させるのに充分なものであった。

わずか3年前までは地球はそれこそ作戦もなにもなく駆逐艦に戦艦を屠られるほど貧弱な艦しか作れない遅れた科学力しかない民族だった。
だがたった一隻の戦艦の登場によってそれは大きく覆されることになる。
言うまでもない、宇宙戦艦ヤマトの登場である。
わずか1隻でありながらマゼラン雲一帯を支配していたガミラス帝国を打倒し滅亡させ
さらにその1年後にはそれ以上の軍事力を誇っていた白色彗星帝国までをも崩壊させていた
数年前よりマゼラン、銀河系への進出を狙っていた暗黒星団帝国としてはいずれガミラスとも砲火を交えることもあろうとひそかにガミラスを監視しており
その突然の衰退に奇異の念を抱いていたのだがそれがまさか戦艦一隻によるものだとは夢にも思ってはいなかった。
幸い『ヤマト』自体は彗星帝国の戦いで戦没していたがそれでも『ヤマト』以上の戦艦を多数保有する地球との戦略は大幅に変更を余儀なくされた。

新たな太陽系攻略艦隊はカザン総司令のもと帝国きっての切れ者ミヨーズ司令が艦隊を預かり、その後方にはメルダース司令指揮する自動惑星ゴルバ3基も配備された。
しかしこの艦隊の目的は艦隊決戦ではなかった。
前回同様土星圏に配備する地球艦隊に対しまずはミヨーズ司令の艦隊が少数部隊による遊撃作戦を展開。
地球軍が追撃してくると後方には空間歪曲装置を配して待ち構える本隊が弱体化した地球軍を迎え撃ち、地球軍が撤退するとまた遊撃戦法をとる。
空間歪曲装置自体は動けないため艦載機で一気に突破して後方の歪曲装置を破壊しようしてもゴルバ型を中心とした部隊が鉄壁の守りをとっている。
地球軍が徹底して守りにはいると今度は長距離ミサイルを放ってくる。
引くに引けず、波動砲も封じられた地球艦隊だったが暗黒星団帝国の狙いは別にあった。
地球艦隊が土星圏に釘付けにされているあいだに逆方向から地球に真っ直ぐ向かってくる物体があった。
それは猛烈なスピードで地球の警戒線を突破、対応しきれない防衛ステーションや戦闘衛星をあざ笑いながら地球に接近してきた。
これこそ暗黒星団帝国が対地球用に開発した新型兵器『重核子爆弾』であった。

地球艦隊はこの重核子爆弾の接近に気づいてはいたが眼前の敵のために対応することができずについに重核子爆弾は地球に到達してしまった。
そして、地球の崩落が始まった。

暗黒星団帝国は重核子爆弾の開いた航路を通って、待機させておいた別働部隊を地球圏へと侵攻させた。
数百隻からなる巨大輸送船と上陸用部隊をサーグラス准将率いる黒色艦隊が護衛し、ワープで一気に月軌道にまで侵入された地球軍にこれを押し返す力は残っていなかった。
迎撃ミサイル程度では足止めにもならず、地球軍の地上戦力も暗黒星団帝国の掃討三脚戦車をはじめとする強力な兵器にはまったく太刀打ちできなかった。
わずか1日にして地球は占領された。
そして、土星圏でなんとか持ちこたえていた地球防衛艦隊の戦いもこれで終わった。
暗黒星団帝国が地球に撃ち込んだ重核子爆弾はそれ一発をもって地球人類すべてを抹殺することのできる恐るべき兵器であり、敵はこれをもって地球人類全てを屈服させようとしてきた。
はじめは降伏した連邦政府の命令を無視して徹底抗戦を叫んでいた防衛艦隊も地球人類全てを人質にとられては従うしかなかった。
地球防衛軍は土星圏で暗黒星団帝国軍に全面降伏、武装解除された。
乗組員たちは最低限の操舵要員を除いて土星、火星の占領された基地に抑留され、艦隊は月基地にしばらくのあいだ置かれることとなった。

その後、地球占領軍総司令官にはカザン司令が任命され、占領政策が開始された。
まず各都市の武装は治安維持用を除いて全面解除
行政は基本的に地方自治を認めるがその内容はすべて占領軍の監視官に報告する義務がある
警察、裁判権は戦時特例によりその場での執行が認められる(要するにスパイ、ゲリラを抑止するために許可なしに射殺が認められる)
とりあえずすぐに執行された命令は大きなものでこれぐらいであった。
これは占領による治安の崩壊で占領政策がやりにくくなることを懸念し、ある程度元の行政機構を残すことで混乱を避ける意味合いがあったのだろう。
実際占領時に住民達が心配したような大量虐殺や奴隷化政策は一般市民のレベルでいえば占領後は行われず、街は静けさを取り戻していった。
だがその反面、暗黒星団帝国は地球を銀河系侵攻のための前進基地とするべく兵器工場などの建設をちゃくちゃくと進めていた。

しかしこれを阻止するべく、地下では地球防衛軍の生き残りたちがゲリラ組織を作り、チャンスをうかがっていた。
司令官は元地球防衛軍長官藤堂兵九郎、さらに島大介らをはじめとする元『ヤマト』乗組員たちが中核となり同志を集めていた。
そんなとき、彼らパルチザンの元にひとつの情報が届けられた。
月基地に係留されていた防衛軍艦隊がどこかへ移送されようとしているらしいと。

実はこれは暗黒星団帝国軍の戦力増加政策の一環であった。
初期のデーダー艦隊の敗北で暗黒星団帝国は300隻以上の艦隊を失い、手っ取り早く捕獲した地球艦を代わりにして穴を埋めようとしていたのだ。
もっともカザン司令などは地球人への見せしめのために公開演習の標的にしようと考えていたらしいが本星の決定とあらば従うしかなかった。
それからもうひとつ、暗黒星団帝国はデーダー艦隊の敗北から地球艦の波動エンジンに非常に興味を持っており。
占領後に戦艦の設計図を押収し、技術者を本国に連れ帰るなどしていたがやはり実物があったほうが何倍もいい。
結局、カザン司令の意向も受け入れ、損傷艦や旧式艦をいくらか残していくことになったが。
あとは銀河系ですでに殖民ずみの惑星に回航して帝国に合わせた小改造を行い艦隊に編入させ、10隻ほど研究用に本国に送ることになった。
しかしこれが後にとんでもない事態を巻き起こすことになった。

地球防衛軍の艦は元来太陽系内での防衛が主な任務であったために外宇宙航行のための性能はあまり高くはなく回航はワープと輸送戦艦を使っての補給を繰り返しながらゆっくり行われた。
そして2月かけてようやく半分の距離である暗黒銀河までたどりついたのだがここで思わぬアクシデントが発生した。
それまでの航海の無理がたたったのか戦艦の一隻がエンジントラブルを起こし、どうにも修理がおぼつかない。
やむをえずその艦は暗黒銀河守備隊のグロータス准将に預け、残りの艦は回航を続けることとなった。
だが、その修理中、ゴルバに接舷して修理をしていたその艦のエネルギー伝道管が破裂、波動エネルギーが艦外に流れ出しそのときちょうど主砲口を開けてメンテナンスを行っていたゴルバのα砲のエネルギーと混合して爆発を起こした。
爆発はゴルバのα砲から艦内へと誘爆が広がりついにゴルバ自体が大爆発を起こした。
さらにその爆発は周囲に停泊していたほかのゴルバや艦隊も巻き込み最終的にゴルバ7機、艦艇50隻が沈没する大惨事となってしまった。
死者・行方不明者はグロータス准将以下約5000名以上。
帝国の総戦力の10分の1が消失することになり、銀河系への大規模侵攻を計画していた帝国の意図は大きく変更を余儀なくされることとなった。

この報告を聞いた暗黒星団帝国聖総統スカルダートは愕然となりただちに原因調査を命じた。
しかし調査作業は難航した。
なにせ堅牢無比なゴルバ型要塞が全滅するほどの爆発である。残骸もほとんど残っておらず暗黒ガスの気流に呑まれて捜索不能になっているものも多く原因調査には遠距離にいて被害をまぬがれた艦の記録と乗組員の証言が中心とならざるを得なかった。
その結果、爆発の中心となったのは修理中の地球艦を接舷させていたゴルバからということが明らかになり周りのゴルバや艦艇は逃れるまもなく誘爆に飲まれたことがわかったが肝心の爆発理由が判然としなかった。
当初はゴルバの主砲であるα砲の爆発事故かと思われたがそれにしては爆発の規模が大きすぎる。
また、わずかに残ったゴルバの残骸などを検証したところ破損の仕方が外部からではなく内部から破裂したとしか考えられないことがわかり調査は暗礁に乗り上げた。

だが、真相は意外なところから明らかとなった。
本国のドックにまで回航されて調査されていた地球艦の波動エンジンを回転させてみたところ突然ドック内の温度が急上昇し整備員、技術者合わせて30人が焼死するという事故が発生したのだ。
同様の事故はほかの8隻でも発生し調査は一旦中断され、原因究明のためにあらゆる方向から検証された結果、地球艦の波動エンジンを稼動させるにつれてドック内の構造物が熱を発生させ始めることが判明した。
これの詳しい原理は分からなかったが科学者たちは波動エネルギーにこの星の構造をなす物質が共鳴しているのではないかと仮説を立てた。
そして、ゴルバの事故も停泊していた地球艦とゴルバのエネルギーが融合したことで起こった事故という結論を得たが事態はそれだけでは終わらなかった。
なにせわずかこれだけの期間で200隻近い艦艇と人員を失い帝国の戦力はがた落ちしていた上にその穴を捕獲した地球艦で埋めることもこのままでは不可能だということになり、地球で工場を作って穴埋めをしようにも結果が出るのは相当後になり、このままでは帝国はこの戦争で丸損することになってしまう。
当然捕獲した地球艦も帝国の艦隊に編入することは危険と判断され仕方なく係留されておくことになった。
また、地球から押収した技術による兵器製造も当然ながら停止された。

暗黒星団帝国は無理して高いところの果実を採ったのはいいがとんだ虫が巣くっていたのだ。

しかし暗黒星団帝国が地球を占領したもうひとつの目的、弱体化した生命力の回復のために使用できる生体パーツの発見という目的については研究が続行されていた。
暗黒星団帝国の人類は生命の種としての弱体化が進んで現在では半機械の生命体にまでなっており、生命力の回復のために移植可能な生命体を求めていたのだ。
地球人は彼らから見れば原始的な生命体だがそのあふれんばかりの生命力は彼らにはとてもまぶしく見えたのだ。
けれども地球人どうしでも個体が違えば拒絶反応は発生するのでまったく種族の違う両種族の移植の研究は当然のように失敗が続いた。
また、実験には当然地球人のサンプルが使われた(一般人の反乱、暴動を抑えるために当初は軍の捕虜が主に使われた)ために施設がパルチザンの主要攻撃目標にされたのも一因となっていた。
結局、暗黒星団帝国は苦労して地球を手に入れたもののその使い道に困ってしまった。
当初地球人は占領後、奴隷化され搾取される生活が来るものと覚悟していたが、前述したとおり暗黒星団帝国は地球人の肉体が目的で侵攻したわけだからせっかくの若い生命力をすり減らすようなまねをするわけもなく、労働力として駆り出されたのはごくわずかだった。
むろん科学技術では地球より勝る暗黒星団帝国としてはこれといって地球からほしいものもなく、太陽系はそう資源が豊富なわけでもなかった。
仕方なく、聖総統以下幹部での協議の結果、肉体移植の研究の結果しだいで地球人を奴隷化するかどうかを決めることとなった。
だが、研究の完成を待つことなく1年後事態は予想外の方向へと急転することになった。

西暦2203年
銀河系内周部へと偵察行動に出ていた暗黒星団帝国の一個艦隊が「ワレ敵ト遭遇ス」の電文を最後に突如連絡を絶った。
これを受けて帝国本部はただちに3個艦隊を持って威力偵察に出した。
戦いの舞台となったのは銀河系東部に存在する仮称65太陽系。

戦闘は艦隊が星系に到達した瞬間に勃発した。
敵はややずんぐりとした大型艦2種類で構成された打撃艦隊だった。
戦いの経過は船の大きさで劣る帝国艦隊は機動戦、敵は数を頼みにしっかりと隊列をとった砲撃戦をかけてきた。
敵戦艦は性能よりも量産性を重視しているらしく図体の割りには火力はさしたるものではなかったがそれなりに頑丈で帝国艦隊は苦戦を強いられた。
最終的に威力偵察が目的な帝国艦隊が被害の少ないうちに引き上げたがこの戦いはその後の大戦の前哨戦として歴史に記憶されることとなる。

当初は地球と同じくその星系の固有民族の艦隊と思われていた。
しかし事態は急転する。
偵察に出ていたほかの艦隊が同形式の艦隊と次々に遭遇、銀河系中心部にかなりの勢力を持つ星間国家の存在が確認されてきたのだ。

そしてあくる西暦2203年8月15日
銀河系内周、白鳥座に設置された暗黒星団帝国の移動補給基地が突然の攻撃を受けた。
基地艦隊は奇襲により大損害をこうむりながらも果敢に反撃を試みたものの衆寡敵すえず基地は破壊され、艦隊も90%が撃沈される大損害を受けた。

この未曾有の危機に対して帝国は強大な敵の存在を確信。
ただちにサーグラス准将を指揮官とする10個艦隊を報復のために白鳥座に派遣した。
地球との戦いによって戦力を大幅に減らしていた帝国にとってこれは緒戦で一気に優勢を確保するために選び抜かれた虎の子の部隊であった。

しかし敵もこの動きを見据えており、15個艦隊に匹敵する大戦力を白鳥座に送り込んできていた。
そして、ついに謎の敵の正体が明らかとなるときがきた。

サーグラス准将は敵の姿を認めると敵に対して暗黒星団帝国の名で挑戦状を送りつけた。
「我が暗黒星団帝国の名において貴官らにただいまより宣戦を布告する。艦隊指揮官サーグラス准将」
やがて敵旗艦より返信があった。
「神聖なるボラー連邦の領土を荒らす愚か者どもに死を。艦隊司令バルコム大将」

ボラー連邦
これがこの後200年にわたって地球と暗黒星団帝国の宿敵となる国家の名だった。

戦いはそれぞれが持ちうる戦力を正面からぶつけ合う大砲撃戦となった。
緒戦は数に勝るボラー側が押していたが、中盤にサーグラス准将は新型のα砲搭載の戦艦を投入し接近していた敵艦を一気に殲滅しようとした。
この艦は航行能力や耐久力は最低レベルだが目玉は自動惑星ゴルバの主砲と同じ威力を誇るα砲で地球艦の波動砲戦術の暗黒星団帝国版とでもいうものであった。
だがボラー側も温存していた高精密度誘導ミサイル『スペース・ロック』搭載艦でα砲艦を破壊しようと狙ってきた。
防御力と機動力のないα砲艦はこれに対応できず護衛艦隊も雨あられと向かってくるスペース・ロックを完全にはふせぎようがなかった。
切り札のα砲艦を次々に沈められ決定力を欠いた帝国艦隊に対してボラー艦隊は好機とばかりに総攻撃に打って出てきた。
これに対しサーグラス准将は最後まで残していた新型爆弾搭載機を搭載した空母艦隊を投入。
戦闘は両軍が近接しての殴り合いの様相となった。

結末はかろうじて空母の護衛により残ったα砲艦の砲撃によってバルコム大将の戦艦が撃沈されボラー側が撤退して終わった。
しかし暗黒星団帝国側も7割の艦が撃沈破され、追撃を行うことができなかった。

恐るべき戦力を持った敵、ボラー連邦の出現に帝国の宇宙戦略は大幅な転換を余儀なくされた。
そしてこれが地球の運命をも大きく変えていくことになるのである。

「少し、休憩にしましょう……」
ディスクがそこまで進んだとき黒田大尉は一旦ビデオを停止させた。
「ふぅ……」
古代や島、斉藤や加藤たちも一様に息をついた。
地球が占領される歴史は藤堂艦長たちにとっても忌まわしい過去だったが、それ以上に絶望的な未来の姿を見せ付けられたヤマトの面々にはこたえていた。
「まさか……たった1年程度のあいだにこれだけのことが起きるとは……とても信じられん」
島がしぼりだすように言った。
確かに、長い地球人類の歴史を紐解いてもこれだけの異変が立て続けに起こったことは2度の世界大戦を入れてもなかったであろう。
だが、逆を言えばそれだけ予測不能な事態が宇宙には多数点在しているということへの認識に地球人がまだ甘いという証明でもあった。
「気持ちはわかりますよ、地球人類にとってこれほど激動に満ちた2年間は例を見ませんでしたからね。私たちも昔歴史の授業でこの当時を習ったときはずいぶんいやな思いをしたものです」
黒田大尉が気休めにそう言った。
「ええ、実は私も歴史の授業ではずいぶん嫌な思いをしました」
「あなたの場合は赤点で嫌な思いをしたんじゃないの?」
「ギクッ」
便乗して余計なことを言って神村少尉に的確な突っ込みを喰らった荒島中尉は置いておいて。
「……赤点」
なおそのとき斉藤以下数名が荒島中尉を同志を見るような目で見ていた。

「こほん、さてうちの阿呆は置いておいて。10分くらい休憩にしませんか?」
「そうですね。では解散、10分後に集合せよ。以上だ」
藤堂艦長と土方艦長が合図をすると何人かは作戦室を出て行き、ひと時平穏な時間が訪れた。

「どうです? お飲みになりませんか」
黒田大尉が使ったディスクを片付けていると両手にドリンクのカップを持った古代と島に声をかけられた。
「ああ、いただきます…………へえこりゃうまい。野菜ジュースですか?」
「ええ、ヤマト農園特性のトマトジュースです。特産品ですよ」
古代と島は誇らしげに言った。
「いや、しばらくこれだけ新鮮な野菜は味わってなかったですからうれしいです。ありがとうございます」
「? 25世紀ではそんなに食料事情が切迫してるのですか?」
島が首をかしげた。
200年も未来の船なのだからかなりいいものを食べていると想像していたらしい。
「いえ、2405年では地球軍はこの時代とは比べ物にならないほどの宇宙艦隊を有していますから人件費も馬鹿にならないんです。それに前に言ったとおり、我々の世界ではボラー連邦と冷戦状態で常にある程度の部隊を稼動させていなければなりませんから生鮮食料品は貴重なんです。輸送にも量が運べる宇宙食が優先されますからね」
「はあ、あなた方も大変なんですね」
古代が心底同情したように言った。
以前の航海でヤマトも野菜などが不足し古代たちもストレスをためたことがあったから黒田大尉の気持ちはよくわかった。
「どうです? 皆さんも」
島は次に荒島中尉と神村少尉にジュースを勧めた。
当然ふたりともよろこんでいただいた。
「ほう、うまそうだな。私もいただけるかね」
そこへ土方艦長と話をすませた藤堂艦長もやってきた。
「ええ、どうぞ」
「ありがとう…………ふぅ、地球の味がするな。これだけは何百年たっても変わりはしないものだ」
藤堂艦長がしみじみと言った。
艦長を含め『武蔵』の乗組員の多くはもうかなりのあいだ地球へ帰っていない。望郷の念は誰の心にもあった。

地球をはるか幾千光年、幾億の星が瞬けどそのなかに地球の姿はなし
しかし宇宙の闇はそんななかでも全てのものを等しく優しく包み込んでいた

第15章 完

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