逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第19章 血闘、地球防衛艦隊

「敵機、2時の方向、仰角20度より5機接近」
「撃てっ、撃ち落せ!」
今、大久保隼人大佐率いる第5艦隊は重大な危機に瀕していた。
「敵機ミサイル発射!」
「パルスレーザー掃射!」
「空母アラスカに命中1、延焼を起こしています!」
「消化急げ! 陣形をさらに密にせよ」
彼らの第5艦隊の破壊目標とされている惑星アルクリムはライナ星系のなかでも軽金属系、つまり航空機の材料を多く含む星であった。
当然のようにここは航空機工場、そして大規模な迎撃機基地が建造された超巨大な航空母艦とでもいうべき要塞惑星だったのだ。
それに対して第5艦隊の空母に搭載されている艦載機は旧式のコスモタイガーが主だったために航空戦で不利な戦いを強いられていた。

そんななか、空母蒼龍戦闘機隊隊長坂本茂大尉は群がり来る敵機を前に苦戦を強いられていた。
「畜生、こいつら落としても落としても次から次へと……いったい何機いやがるんだ!」
彼は愛機コスモ・ゼロ73型でボラー爆撃機のコクピットをぶち抜きながら毒づいた。
コスモ・ゼロ73型は高性能を誇るが操縦性の低さにより正式機に採用されずにエースパイロット用に南部重工業が細々と生産していたコスモ・ゼロシリーズのその最終型である。
「まったく……数の暴力ってのはこのことだな」
彼がこの戦闘が始まってから撃墜した敵機の数はもう片手で数えて足りないほどだが艦隊を目指す爆撃機の数はいっこうに減る様子もなかった。
また、彼の部下たちも性能の劣るコスモタイガーでなんとか奮戦していたが、すでに旧世代のものとなってしまったコスモタイガーでは落とすよりも落とされないようにすることのほうが大切なようなありさまだった。
「隊長! 後ろです!」
「!!」
無線機から聞こえてきた叫び声に坂本はとっさに機を横滑りさせた。
そのコンマ数秒後、ボラー戦闘機のレーザー光線が坂本機のいた空間を貫いた。
「こ、この野郎!!」
坂本はそのまま機をコスモ・ゼロシリーズ特有の高機動性を生かして急旋回させると敵機の頭上に銃弾の雨を降らせた。
敵機は坂本機の機動に目がついていけずに直線機動を続けていたので対応が遅れ、それをもろに食らってしまった。
「撃墜!」
坂本は炎上する敵機を見てそう叫ぶとともに一瞬遅れたら自分がああなっていたことに冷や汗をかいた。
(そうか、コスモタイガーのままだったら今頃は死んでいたな)
坂本は自身の運に感謝するとともに自身に幸運を授けてくれた声の主を探した。
「隊長、さすがですね、一瞬ヒヤッとしましたよ」
「揚羽、貴様か!?」
それは空母蒼龍の艦載機隊副隊長揚羽武士中尉であった。
暗黒星団帝国の軍需物資の製造を任されて再興した揚羽財閥の嫡男でありながら防衛軍の再建が認められると若くしてパイロットに志願したという異色の経歴を持つ男だが、その技量はいまや坂本に迫るとまで言われている。
今でも性能の劣るコスモタイガーを駆使して3機を撃墜する戦果を上げていた。
「隊長、貸しにしときますぜ!」
揚羽はそう言い捨てるとまた敵機の大群のなかへ飛び込んでいった。
「ちっ、あの野郎」
坂本は後輩にいやな借りができてしまったことに舌打ちしたが、その借りをさっさと返すためにも、またさらに借りを作らないためにも自身もまた敵中へと戻っていった。

敵機の攻撃は敵機動部隊の艦載機隊の攻撃は収まり、地上基地からの重爆が中心になっていた。
重爆は動きこそ鈍重であったが、自動対空銃座と微力ながら電磁バリヤーを備えており戦闘機隊は苦戦していた。
「堕ちろ!!」
空母飛龍戦闘機隊隊長加藤四郎大尉は目の前の敵重爆に弾丸を叩き込みながら叫んだ。
ボラー重爆、コードネーム『ベアー』は編隊を組んで防空弾幕を張っていて並みのパイロットでは近づくこともできない。
しかも電磁バリヤーによってパルスレーザーも機関砲も弱体化させられ満足な効果を得ることができないでいた。
「堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろぉ!!」
だが浮かぶものが沈まないはずもないように飛ぶものが落せないはずもない。
加藤はベアーのエンジン部分に銃撃を集中、一点突破を図った。
直後、白い煙が一筋伸びたかと思うと、次の瞬間炎に変わり、それがベアーの機体を包み込むと爆発を引き起こした。
「撃墜!」
ベアーは粉々になって堕ちていった。
しかしまだ敵機の数は悲しくなるほど多い。
今の攻撃も敵機の攻撃をかわしつつ、一点攻撃のできる加藤の技量だったからこそ成功したのであって、そんな芸当のできる腕利きはあと何人もいない。
対空ミサイル攻撃であればほかのパイロットたちでも撃墜はできるだろうが、先の敵機動部隊の艦載機との戦いで使い果たしていた。
そんなとき、血気にはやったのか1機のコスモタイガーがベアーの編隊に突っ込んでいった。
「馬鹿! 貴様じゃ無理だ!」
加藤は慌てて叫んだ、進入角度が悪すぎてあれでは集中砲火を受けてしまう。
だが、時すでに遅くそのコスモタイガーはベアーの自動対空銃座によってあっというまに蜂の巣にされてしまった。
「馬鹿が……」
散りぢりの火の粉になって四散していった誰のものとも知れないその機体を悲しげに加藤は見ていた。
「全機、戦闘圏内から離脱せよ」
これ以上の攻撃は無意味と悟った加藤は残存全機に撤収を命じた。
どのみちベアーの編隊はまもなく艦隊の砲撃可能位置へと入る。そうなればもう戦闘機はまきぞえを喰らわぬように退避するしかない。
やがて5式焼散弾の花火がいくつもベアーの周辺で炸裂しだした。
いかに防御力の高いベアーも戦艦主砲の炸裂にはひとたまりもなく、花火の花弁に触れたものから順に自分も炎の華となっていく。
加藤にはその花が死に逝く戦士たちの魂のように感じられた。

「敵重爆、5式焼散弾の弾幕を突破、ミサイルを投下しました。数は10、空母へ向かっています!」
「護衛艦隊は陣形を密にせよ、ありったけの弾幕を張るんだ!」
重爆ベアーの搭載しているミサイルは艦載機のものとは段違いの威力を誇る。
直撃を許せば大型艦でも危ない。
主砲の直接射撃や対空機銃の弾幕だけでなく、電磁チャフやフレアーができうる限りの防御を張る。
しかし必死の防御弾幕も撃墜率100%とはいかなかった。
「敵ミサイル1基接近」
ベアーのミサイルがついに主力戦艦改造空母フォーミダブルの艦体を捉えた。
旗艦ネメシスの艦橋からでもはっきりとわかるくらいの爆発がフォーミダブルを包み、次の瞬間フォーミダブルは無残な姿をさらしていた。
「空母フォーミダブル大破ぁ!!」
フォーミダブルはミサイルが命中した船体中央部から「く」の字に折れ曲がり、戦艦のなごりだった主砲のあった部分はターレットから吹き飛びただの丸い穴となっていた。
「あれでは生存者は到底おるまい……」
第5艦隊司令大久保大佐は悔しげにつぶやいた。
そしてフォーミダブルは機関室か弾薬庫に火が回ったのか大爆発を起こしてバラバラに消し飛んだ。
脱出艇で逃げ出せた者はただのひとりもいなかった。
「アルクリムの衛星よりさらに攻撃機が発進してきたもよう、第2艦隊はボラー機動艦隊との近接戦に移ります」
「これ以上の空襲を受けたら危険だ、第2艦隊が敵機動部隊を押さえているあいだに我々は敵惑星へ急行する」
第5艦隊はボラー機動艦隊を迂回するように進路をとった。
「艦載機隊を帰艦させ補給を急げ、フォーミダブルの艦載機は飛龍と蒼龍が受け持て」
ベアーの次の編隊が追いついてくるまで少しだが時間がある、そのあいだにどれだけの艦載機を高速補給できるかが戦局の分かれ目になるはずだった。
急いで帰艦してきたコスモ・ゼロやコスモタイガーが母艦からの誘導に従い続々着艦してくる。
だが新鋭の大型空母飛龍と蒼龍は広大な甲板でスムーズに帰艦機を受け入れるが、巡洋艦改造のアラスカやグァムは甲板が狭く、さらに鹵獲改造空母であるホワイトスカウトは本来コスモタイガーを受け入れるようにはできていないために着艦から補給開始までに倍近い差がついてしまっていた。
「敵機接近!」
「補給が完了した機から発艦させろ、急げ!」
この時点になってもまだ補給完了どころか全機の収容すら終わっていなかった。
着艦を切り上げたいところだが残っているコスモタイガーは激しい空戦をおこなった後でもう燃料すらろくに残っておらず無理をしてでも収容する必要があった。
「対空ミサイル全弾発射! 少しでも時間を稼げ!」
「しかし、さきほどまでの戦闘で駆逐艦などはもう対空ミサイルの残数が限界にきています!」
「かまわん! 出し惜しんで沈められるよりはいい!!」
そして全艦からあるだけの対空ミサイルが放たれた。
空母ではミサイルが時間を稼いでいるうちに1秒でも無駄にすまいと甲板作業員たちが必死の努力を続けていた。
「敵機動部隊はどうだ?」
「第2艦隊がなんとか抑えています、今のところこちらへ向かってくるものはありません」
「よし、次の空襲を切り抜けたら波動砲発射だ。皆ここが正念場だ、あと少し頑張れ!!」
大久保大佐は士気をあげるために激をとばした。

「全機続け! これ以上1機たりとも艦隊に近づけるな!」
加藤はどうにか補給を終えた分のコスモタイガーを率いて敵機編隊へと突き進んだ。
まだ大半が補給の真っ最中であり、数のうえでは心もとないがミサイルと銃弾だけはたんまりとくれた。
「敵機視認!! 前方より11時と1時の方向より2つに分かれて急接近中、すべてベアーです」
「やはり護衛機はいないか、だが油断するな!」
どういうわけかボラーは爆撃機に護衛戦闘機をつけるという発想を持っておらず、もっぱら爆撃機自身の装甲と機動性、防御火力の充実を計る傾向にあった。
だがそれゆえにボラーの爆撃機は航空機と駆逐艦の中間とも言える頑強さを持っており、多数で編隊を組んだ火力の密度はもはや編隊というより艦隊と言ったほうがいいような高さであった。
「空母飛龍戦闘隊、隊長加藤より蒼龍戦闘隊へ!」
〔こちら蒼龍戦闘隊、隊長坂本〕
「11時方向の敵編隊は飛龍戦闘隊が引き受ける」
〔了解した、1時方向は蒼龍隊が引き受けた、幸運を祈る!〕
加藤と坂本は自分の空母の戦闘機隊とかろうじて発艦してきた3隻の空母の艦載機を率いてベアーの編隊に突撃した。
巨大な機体に備えられた多数の機関砲から無数の火矢が飛んでくる。
「全機、最初の一撃で決めるぞ! ミサイルも銃弾も出し惜しみするな、ありったけを叩き込め!!」
コスモ・ゼロ、コスモタイガーの両翼から火煙をひいて無数のミサイルが雨あられと発射された。
それと同時にベアーの対空攻撃も命中し始め、ミサイルを発射した直後のコスモタイガーが数機火達磨になる。
しかし放たれたミサイルはまるで散華したパイロットの魂が乗り移ったように突進を続け、数十機のベアーを黄泉路の道連れにした。
「撃ぇ!!」
ミサイルについで今度は機銃とパルスレーザーが放たれる。
例によってベアーのバリアに押し返されるがパイロットたちは皆体当たりをするつもりでベアーの急所であるエンジン部分へと弾丸を撃ち込んだ。
その攻撃によってさらに5機ほどを撃墜したものの、敵編隊の反対側へ飛び去ったときには戦闘機隊は最初の半分以下の数に減らされていた。
「加藤隊長!」
「おう坂本、それに揚羽も無事だったか」
蒼龍の戦闘機隊もすでに数えるほどしか残っていない。
「隊長、第二次攻撃は……」
「いや、もう無駄だろう。あとは艦隊の対空砲火に任せよう。これ以上の犠牲は価値がない」
揚羽の進言を坂本はにべもなく退けた。
残数も少なく弾丸も付きかけた今の状態で突っ込んでも特攻にしかなるまい、加藤も坂本も部下にそんな死に方はさせたくなかった。
やがて残ったベアーの編隊を艦隊の5式弾が迎撃し始めた。
その火炎地獄のすきまを縫って、1機、また1機とベアーが大型ミサイルを放つ。
艦隊の対空弾幕がそれを押しとどめようとするが、ミサイルはつきかけ機銃にのみ頼った防御ではもはや効果的な迎撃は難しかった。

「駆逐艦『太刀月』轟沈、巡洋艦『アトランタ』大破!」
旗艦ネメシスの艦橋に次々と悲惨な報告が入ってくる。
軽快な駆逐艦や巡洋艦は避けようと思えば避けられたはずだ、しかし彼らは輪形陣のなかにいる戦艦を守るためにあえてその身を火中に投じたのだろう。
「すまん……」
艦長大久保隼人大佐は誰にも聞こえないくらいの声でそうつぶやいた。
「敵機編隊、離脱していきます!」
ミサイルを撃ちつくしたベアーの編隊はさっさと戦線を離脱していった。
「敵艦隊は?」
「第2艦隊が抑えていますが戦況ははかばかしくありません」
「波動砲の射程は?」
「ぎりぎりです」
「よし、チャンスは今しかない。全戦艦、波動砲発射用意!」
「了解、旗艦ネメシスより全艦へ、波動砲発射用意、全戦艦マルチ隊形、空母艦隊は全艦載機を収容後後方へ退避せよ」
第5艦隊の主力戦艦全てがネメシスを中心にした上下二列の横列陣形に移行した。
空母は残存の戦力を率いて敵艦隊の反攻に備える。
「波動砲発射用意、目標敵惑星アルクリム。エネルギーバイパス解放、充填開始!」
「了解、エネルギー充填開始、薬室内圧力上昇」
「波動エンジン出力120%」
「安全装置解除、圧力限界へ」
「ターゲットロック、目標への自動追尾問題なし」
「波動砲発射準備完了!」
「全戦艦シグナルグリーン、波動砲発射態勢完了しました」
「よし、全艦波動砲発射!!」
「発射!!」
ネメシスと主力戦艦の艦首が一斉に光った。
次の瞬間幾筋もの光の束が放たれ、やがてひとつに収束してアルクリムへ向かった。
「命中……!?」
波動砲の強大なエネルギーはアルクリムの地表とマントルを軽く貫通すると星のコアに命中し、そこでエネルギーを炸裂させた。
アルクリムは中心からの強力な膨張力に耐え切れずに瞬間的に表面に亀裂が入ったと思われたとき、火球となって大爆発を起こした。
「全艦反転、安全圏内へ退避せよ」
「了解、波動エンジン出力推進へ戻します。反転180度、両舷全速」
ネメシス以下第5艦隊は全力で退避行動に移った。
後方から星の爆発による衝撃波が迫ってくる、それはこの星系のどこからでも観測できる明るさを放っていた。

「司令、第2惑星が」
「地球人どもめ、やりおったか」
第2艦隊司令ルーギス大佐は旗艦エルドラAの艦橋で毒ずいた。
彼の艦隊は第5艦隊に敵機動部隊が向かわせないために足止めをおこなってたいたが、その役目が終わったことを悟った。
「残存艦はいくらだ?」
「はっ、本艦ほか戦艦2、空母6、巡洋艦5、護衛艦9」
開戦時の戦力50隻の半分にも満たない数しか残っていない、しかも残っている艦にも損害を受けていないものはなかった。
「全艦転進、敵は惑星の爆発で浮き足立っている今がチャンスだ」
ルーギス大佐は迷わず逃げを打った。
作戦目標を達成した今これ以上戦力をすり減らす必要はない、それにこのまま戦い続けたらよくて敵と相打ちだ。
第2艦隊は敵のすきまを潜り抜けるとそのまま全速前進に入った。
「敵艦隊の一部が追撃してきます」
「かまうな、このままつっきれ」
第2艦隊は可能な全速力を発揮、数十分後には敵を振り切って第2惑星軌道から脱出に成功していた。

同時刻第4惑星ゲムフロブスク
「桂司令、第2艦隊から入電、我第2惑星アルクリムを破壊せり」
「大久保司令がやったか、こちらも急ぐぞ、波動砲の有効距離まではまだか?」
「あと30宇宙秒です」
「敵艦隊は?」
「第3艦隊が抑えています。今のところは互角のようです」
「よし、射程に入り次第波動砲エネルギー充填にかかるぞ」
桂司令はこの無茶な作戦にわずかな光明が見えたように思ったが、あいにくボラーもそこまで甘くはなかった。
「司令、衛星より熱反応多数! ミサイル攻撃です」
「ちいっ、まだ来るか! 迎撃ミサイル発射! 護衛艦は円陣を組んで戦艦を死守せよ」
味方を巻き込まぬためにと発射を控えていたボラーのミサイル基地は第6艦隊が充分離れたのを見るとただちに全発射菅を開放した。
その数およそ3000発、この程度の艦隊を撃滅するには多すぎる量であったが、惑星が破壊されては元も子もないので基地司令官は全力攻撃を始めから命じていた。
迎撃ミサイルが火を噴き、敵ミサイル群へと向かうがその数は圧倒的に少なく、全体の一割程度を撃ち落すのだけで精一杯であった。
「ECM弾、タキオン妨害チャフ、フレアー全開放、撃て!」
護衛艦隊からありったけの対ミサイル用妨害兵器が撃ちだされる。
それらはミサイルの目であるセンサーをかく乱させ、方向をずらしたり自爆させたりしたが、そのすべての目をごまかすまでにはいたらなかった。
「敵ミサイル群接近、数およそ500!」
「近距離対空戦、主砲および高角砲機銃オープンファイア!!」
接近してきた敵ミサイルに艦隊の全対空砲がありったけの弾幕を張るがそれでもすべてを撃ち落すまでにはいたらない。
「敵ミサイル接近、命中まであと5秒!」
「対空戦闘撃ち方やめ! バリヤー展開!」
ミサイルのほとんどは艦隊の中央に陣取っていた戦艦に集中した。
対空弾幕を突破した200発前後の敵ミサイル群は一瞬周囲の宇宙空間を白く染めると次の瞬間赤く照らし出した。
それは第6艦隊がまるで太陽に飲み込まれてしまったかのように見えたが、爆炎が消え去った後、そこには無事な艦影を保つしゅんらんたちの姿があった。
「エネルギー出力20パーセントまでダウン、ですが敵ミサイル群は完全に防ぎきりました」
「そうか、なんとかしのぎきったな……中和バリヤーのおかげで命拾いしたか」
桂司令は胸をなでおろしながら言った。
このとき第6艦隊を守ったものこそ地球艦隊でもしゅんらんだけに新設された中和バリヤーであった。
これは元々暗黒星団帝国の母星、デザリアム星の防備に使われていたものを艦艇用に改良したものであらゆる攻撃を中和し無効化する威力があった。
しかしこれとて完璧な兵器というわけではなかった。
「だがこれでもうしゅんらんは役に立たん、艦隊戦艦は波動砲の用意を急げ、2度目は防ぎきれんぞ!」
そう、中和バリヤーは強力な分、莫大なエネルギーを必要とし、その結果しゅんらんはバリヤーの再起動どころか波動砲すら使えないほどエネルギー出力が低下してしまっていた。
「全艦波動砲用意、目標敵惑星ゲムフロブスク」
「敵ミサイル群、第2波接近!」
「全護衛艦は少しでも時間を稼げ! 戦艦はエネルギーチャージに全力をそそげ!」
桂司令は必死に叫んだ、波動砲のチャージが早いか、敵ミサイルの着弾が早いか。
しかしどのみちこの第6艦隊が助かるみこみはほぼゼロというのは確実であった。
(だがまあいい、このまま生き延びて暗黒星団の奴らに使われ続けるよりも地球のためにここで散るほうがよほど気持ちいい最後かもしれん)
覚悟を決めた桂司令はなんとなく晴れ晴れとした気持ちになった。
だがそのとき。
「桂司令、これはどういうことですか!」
見るとおじけづいて自室に逃げ込んでいたはずの監査官が血相を変えて立っている。
「どうもこうも、任務達成のために波動砲の発射準備をしているところですが?」
桂司令はせっかくの心地よさを邪魔されて苦々しく思いながらも答えてやった。
「そんなことではない! このままではこの艦も危険なのだろう! 貴官はこの艦隊が全滅してもいいのか、そんなことになって貴官の身がどうなってもいいのか!?」
明らかにわが身かわいさに詭弁を弄して怒鳴りまくる監査官に桂司令は冷断に言い放った。
「おや、貴官はこの祖国の命運をかけた戦いで生きて帰ろうなどと考えていたのですかな?」
「!?」
その言葉を聞いて監査官の顔が明らかに青ざめた。
そして慌てて踵を返して走り去ろうとしたところでそれより速く桂司令は腰のコスモガンを抜いて監査官の後頭部に突きつけた。
「監査官どの、どちらへ?」
「い、いや、そ……」
「敵前逃亡は銃殺だ」
桂司令は言い捨てるとためらわずに引き金を握った。
にぶい音をして床に重いものが倒れる音がしたが誰一人気に留める者はいない。
(はじめからこうしておけばよかった)
桂司令がそう思ったとき、弾道計算をしていたレーダー手が報告してきた。
「司令、敵ミサイル命中まであと60宇宙秒、波動砲チャージ完了まであと54宇宙秒です」
「そうか、全戦艦チャージ完了しだい発射せよ、それから護衛艦にもう援護はいいから退避せよと伝えろ。あと通信長、全部隊に打電、幸運を祈るとな」
桂司令は言うべきことをすべて言い終わると座席に深々と腰を下ろした。
しかし次に通信長がしてきた報告を聞いたときには少しだけ眉を動かして反応した。
「司令、護衛艦隊から返信"ワレ最後マデ任務ヲマットウス"」
見ると残っている護衛艦のどれもがすでにほとんど弾丸を撃ちつくしているにもかかわらずにその場から微動だにせずに残った備砲で砲撃を続けている。
「わかった……やれやれ、どいつもこいつも……」
桂司令は短く答えると目を閉じた。
それからどの程度の時が流れたのか。
「全艦波動砲、発射!!」
しゅんらんの艦橋に波動砲の心地よい振動が伝わってきたとき、桂司令は一言だけつぶやいた。
「地球の未来に、栄光あれ」
その数秒後、しゅんらんと第6艦隊は数百発のミサイルの着弾を受けて紅蓮の業火に包まれた。
しかしその代償として放たれた波動砲の光芒は狙いたがわずにゲムフロブスクに命中し、この星をも紅蓮の火球と化さしめた。

第19章 完

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