逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第10章 予期せぬ誤算
史実ではすでに終わっているはずの『ヤマト』とデスラーの決戦、だが歴史の流れはゆがみ続け、本来無いはずの流れに変わりつつあった。
「総統、形勢は圧倒的に有利です、『ヤマト』は我々の作戦の前に手も足も出ていません」
艦隊旗艦、デスラー艦の艦橋でタランがうれしそうに言った。
「はっはっはっはっ、そうだ、これでこそ今日まで生き延びてきたかいがあるというものだ、さあ『ヤマト』よ、甦りし大ガミラスの力を存分に味わうがいい、これしきで沈んでもらっては張り合いが無いぞ、ふははは」
デスラーの呵呵大笑する声が艦橋に響いた。
だが、『ヤマト』もけっして黙ってやられていたわけではなかった。
「左舷よりミサイル接近」
「取り舵20度よーそろー」
「前方にさらに新手の艦隊です、艦数3、巡洋艦クラスです」
「前部砲塔射撃用意」
全身から火炎を噴出しのたうっているように見える『ヤマト』ではいまだ乗組員たちの必死の防戦が続いていた。
しかし圧倒的なガミラスの攻撃によって次々に牙は折られ被害も拡大していっていた。
「第三艦橋大破」
「魚雷発射管室損傷」
各部からたえまなく損害報告が入ってくる、もはや無事なところがあるのかどうかすらわからないぐらいだ。
「艦長、このままでは」
「落ち着け、報告をまとめろ」
土方艦長はあくまで冷静に指揮をとっていた、そして逆襲に転じるためにも状況の確認に務めようとしていた。
「主砲射撃管制室被弾」
「第一、第二副砲大破」
「格納庫炎上、艦載機発進不能」
「艦長、本艦の戦闘能力の90%が喪失しました」
真田に言われるまでも無くもはや『ヤマト』が死に体なのはたびかさなる報告を聞けば分かった、もはや使える武装はわずかなミサイルと機銃くらいだろう。
「敵の総数と配置はどうなっている?」
しかし土方はあきらめていなかった、万が一の死中に活を求める、それが『ヤマト』の戦い方だからだ。
「戦闘空母1、大型三段空母3が離れた空域から艦載機で攻撃してきています。左舷に大型戦艦3、巡洋艦10、右舷にも同じく大型戦艦2、巡洋艦10」
完全に包囲されているとしかいえない。逃げ場はどこにもなくもはや戦う力も底をついている。
「ちっくしょう、デスラーめ」
南部が悔しげに言った。
「くそぉ奇襲なんかしてきやがって、正面きって戦えば負けやしないのに」
太田も心底悔しそうに言った。デスラーは『ヤマト』がワープをする直前に瞬間物質移送機を使って爆撃機、雷撃機による奇襲をかけてきた、そのため対応が遅れさらに艦隊の接近を許したため一方的な攻撃を許してしまった。
しかもデスラーは先手で『ヤマト』の艦載機発進口へ集中攻撃をかけてきた、そのためコスモタイガー隊は戦わずして戦力を封じ込められてしまったのだ。
「このままじゃなぶり殺しだ」
「いや、そうともかぎらんぞ、あのデスラーのことだ、必ず最後は自らの手でとどめを刺しに来るはずだ、逆転のチャンスがあるとしたらそのときだ」
島が苦々しく言うと真田が一縷の望みをかけてそう言った。だが、そうしている間にも被弾は続き『ヤマト』の力は削がれていっていた。
そしてそのころ、噴煙を上げる『ヤマト』の姿を望みながらデスラーは悦に入っていた。
「ふははは、さしもの『ヤマト』の命運もそろそろ尽きるときが来たようだな」
デスラーが愉快げに言うと。
「まったくです、これまで作戦は全て予定通りに進行しています、もう『ヤマト』には満足に使える武装はほとんど残っていないでしょう」
タランも満足そうに答えた。
「うむ、ではそろそろ作戦の最終段階に入るとするか、『アスタロス』『ケール』を前面に出せ」
デスラーの命とともにこれまで温存されてきた超巨艦、殲滅戦艦『アスタロス』と『ケール』が動き出した。
「瞬間物質移送機出力最大、目標は『ヤマト』の両舷それぞれ100だ」
ゆうにデスラー艦の2倍はあろうかという巨艦をワープさせるにはいかにガミラスの誇る瞬間物質移送機といえどもその出力を100%引き出さねば不可能である。しかしワープによって戦艦を送りつけ奇襲をかけられるということは戦闘において絶大なアドバンテージを得ることができる。そしてそのチャンスをみすみす逃すほどデスラーは暗愚の将ではない。
「ワープ光線、発射」
デスラー艦の艦首に2基装備された瞬間物質移送機から青白い光線が放たれ、直後それを浴びた『アスタロス』と『ケール』の姿がゆらめき溶け込むように消えていった。
「ワープ成功、誤差0.001、総統、やりました」
タランの喜ぶとおり、二隻は『ヤマト』の両舷に出現し、完全に『ヤマト』をはさみこむ体勢をとっている。
「よし、撃ち方始め、もうなんの抵抗も出来ないように『ヤマト』の艦上の全てのものを破壊するのだ」
やるとなれば完璧を期すのがデスラーのやり方である、カンプルード級戦艦やデストロイヤー艦で完全に包囲して十字砲火をあびせてはいるものの『ヤマト』はそのもちまえの頑丈さでまだ持ちこたえている。
それにこれまで幾度と無く『ヤマト』を追い詰めることはできたがいつもあと一歩というところで大逆転されている。
『ヤマト』はたとえミサイル発射管の一門、パルスレーザーの一基でも残っている限り油断できない、二隻の殲滅戦艦による攻撃は全ての不安材料を消し去るための最後の一手であった。
だがそんな絶望的な状況にありながらも『ヤマト』はまだあきらめてはおらずむしろピンチをチャンスに変えるべく虎視眈々と反撃の機会を狙っていた。
「左右の敵艦、距離を保ちつつ砲撃してきます、損害さらに拡大中」
「まだだ、こんなものでは『ヤマト』は沈まん」
土方艦長の言葉どおり、まだだれひとり闘志を失ってはいない、最後の逆転を誰もが信じていた。
そしてその闘志に呼応するかのように第三の戦力が戦いに臨もうとしていた。
「全艦砲雷撃戦用意!」
『ヤマト』を救うべく戦艦『武蔵』は戦場に急行しつつあった。
「主砲照準、目標『ヤマト』両舷の大型戦艦」
藤堂艦長の命のもと『武蔵』の第一、第二主砲が旋回する。
「発射準備完了」
「撃ぇ!!」
間髪いれず強力なエネルギー波が放たれ二隻の殲滅戦艦を直撃する。
かつてラーゼラー艦隊の巡洋艦や駆逐艦を一撃で粉砕した『武蔵』のショックカノンだがさすがは彗星帝国が誇る最強の殲滅戦艦である。
大破しながらもその原型を保ちなおよろめきながら航行する姿にはその防御力の優秀さを確かに現すものがあった。
「しぶとい、第2斉射用意」
荒島中尉が二隻の戦艦にとどめをさそうとしたとき。
「待て、史実なら『ヤマト』はこれからデスラー艦に白兵戦を挑むはずだ、状況は変わっているが恐らく今の『ヤマト』でもそれを狙っているだろう、今下手に暴れすぎたらデスラー艦がこなくなる可能性がある」
藤堂艦長がそう言って押しとどまらせた。
「デスラーとの決戦は後の戦いの趨勢を決める重要な一戦だ、我々が下手に手を出したら後の説明が面倒になる、ここは史実の保持に努めるべきだろう」
だが、そんな『武蔵』の事情とは別に『ヤマト』のほうでは、いきなりの敵艦大破に驚きながらも動きの鈍った二隻をうまく盾がわりに使い、修理の時間稼ぎを始めていた。
さらにデスラー艦のほうでは突然二隻が大爆発を起こしたことによって一瞬驚いたものの『ヤマト』の意外性を知り尽くしているデスラーはすぐに次の命令を下していた。
「さすがは『ヤマト』しかし悪あがきもそれまでだ、最後は抵抗する間もなく宇宙の塵にしてくれる。タラン、全速前進『ヤマト』へ向かえ」
「了解、機関最大目標『ヤマト』」
それを聞いて、これまで戦況を観戦していたミルが慌てふためいて言った。
「デスラー総統、気は確かか? 今ここで我らが行けば『ヤマト』に狙ってくださいと言うようなもの、そんなことをせずとも今包囲している艦隊の攻撃で充分に『ヤマト』は沈められるではないか」
それに対して、デスラーは冷ややかに答えた。
「ミル司令、ご忠告ありがたく承っておこう、しかしこの戦いはただの戦いではない、これは『ヤマト』によって滅ぼされたガミラスの雪辱をかけた決戦なのだ、ただ遠巻きから攻めるだけでは恨みは晴らされん、最後はこのデスラーの、ガミラス総統たるこのデスラーの手によってとどめが刺されてこそ意味があるのだ」
ミルはなにも言うことができずただ押し黙った、デスラーの言葉の裏には、これ以上余計な口出しをすれば射殺するという無言の脅迫と殺気があったからだ。
そして『ヤマト』でも、ようやく姿を現したデスラー艦に対して最後の逆襲をするべく着々と準備がととのえられていた。
「白兵戦だ、こうなればデスラー艦に直接乗り込んで戦うしかない」
古代進の発案による強襲作戦は小ワープにより一気にデスラー艦との距離をつめようというものであった。
「戦闘員は各チーフの指示に従え……斉藤以下第一戦闘班は上甲板から攻撃しろ。第二戦闘班はおれが指揮してエアロックを破壊してデスラー艦に突入する……加藤は第三戦闘班を指揮して突入を援護しろ!」
このとき『ヤマト』には地球防衛軍屈指の精強部隊、空間騎兵隊が乗艦していた。
特にそのなかでも勇猛を持ってなる猛者、空間騎兵隊隊長斉藤始の勇名はのちの世でも知らぬ者はいないほどであった。
彼らは『ヤマト』がやられていくのを歯噛みしながら見守ることしかできないでいたが、思いもよらぬ敵旗艦への突入作戦を知らされてまさに水を得た魚のごとく手に手に愛用の武器をとって突入開始に備えていた。
「デスラー砲、発射用意」
「ワープ準備」
くしくもデスラー砲の発射準備と『ヤマト』のワープ準備はまったく同じタイミングで進められていた。
そのため必然的に。
「発射!!」
「ワープ」
というデスラーと島の声は同時に発せられていたのである。
デスラー砲の真紅の光が『ヤマト』を貫いたと思った次の瞬間、デスラーは我が目を疑った。
なんと一瞬掻き消えるようにゆらめいた『ヤマト』が、いきなり自分の艦にのしかかるようにして姿を現したからである。
「おお! 反転回避! 回避しろぉ!!」
だがタランの叫びも間に合わず『ヤマト』はデスラー艦の右舷にその船体をめり込ませた。
二隻の船体が激しくぶつかりあい砲塔や艦上の構造物をなぎはらう。
幾度も爆発が起き『ヤマト』の船体がさらに痛めつけられていくが『ヤマト』の戦士たちはひるむことを知らない。
「成功だ!」
「突っ込めえ!!」
古代、斉藤を先頭に勇躍して戦士たちが突入を始める。
だが、対するデスラーの闘志もいささかたりとも衰えてはいなかった。
「さすが『ヤマト』だがひとりも生かしては帰さん」
そして、デスラー艦を舞台にヤマトの戦士たちとガミラス兵との凄まじい戦いが始まった。
突入の勢いに乗って一気に甲板の半分を制圧したヤマト側であったが、デスラー艦の乗員も総統の護衛のために艦隊のなかからよりすぐられた精鋭たちであり、さらにアンドロイド兵の支援もあって各所で互角の戦いを繰り広げていた。
その状況を『武蔵』は少し離れた場所から静かに見守っていた。
「『ヤマト』がデスラー艦に突入したか、少し違うがここは史実どおりにいきそうだな」
「しかし、あのガミラス艦隊はいったいどこから現れたんでしょう」
「わからんが、恐らく我々が暴れて史実よりデスラー艦隊の出撃が遅れたのが原因だろう。こっちには影響がないと思って安心していたのがまずかったな、あと一足遅かったら取り返しがつかなくなるところだった」
桜田中尉や葉月中尉の言に黒田大尉がこたえているあいだにも藤堂艦長はじっと戦況を見守っていた。
(さて、史実にない艦隊が出現している以上、白兵戦も史実どうりにいくとは限るまい、だがもはや我々が手を出せる状況ではなくなった。勝ってくれよ『ヤマト』の諸君、君たちには地球の未来がかかっているんだ)
『ヤマト』の勝利を願いながら藤堂艦長は無言で戦いを見守り続けた。
戦いの流れは史実どおりに『ヤマト』側にかたむきつつあったが、それでも藤堂艦長はわきあがる不吉な予感を抑えることができなかった。
第10章 完