逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第32章 地球防衛艦隊vs白色彗星要塞都市
宇宙戦艦ヤマトの長いようで短い戦歴の中で、『ヤマト』はおよそ遊軍の位置から動いたことはほとんどない。それは、『ヤマト』がそもそも艦隊行動をとるようには設計されていなかったからだが、その数少ない例外となったのが、この彗星都市帝国との決戦時であった。このとき『ヤマト』は立場上艦隊と呼ぶには最低限の、わずか三隻で行動していたわけだが、大局的に見れば地球防衛艦隊全体の歯車の一つとして行動していたといえよう。むろん、だからといってその功績が貶められることには決してならないが、『ヤマト』の行動が地球防衛艦隊の行動を助け、また『ヤマト』も地球防衛艦隊の戦力をあてにしなければならなかったという時点で、この二者はつながっていたといえるだろう。
その『ヤマト』の元へ、必死の努力によってなしえた彗星帝国の足止めと、彗星帝国主力艦隊の動揺をさそうという任務の成功を伝える一文が届いたとき、『ヤマト』の乗組員たちは山を一つ乗り越えたことを悟った。
「防衛艦隊旗艦『アンドロメダ』より入電、【我、彗星帝国主力艦隊を追撃中、旗艦『アンドロメダ』は健在なり】、以上です! やりましたね」
相原の報告とともに、『ヤマト』の艦橋の中に歓声が沸きあがった。史実では壊滅した地球防衛艦隊が健在で、今まさにこちらへ向かってきているという。
「よし、敵要塞から離脱、僚艦と合流後に地球艦隊の援護にまわる」
「了解、右三十度、コースターン」
島の復唱と同時に、『ヤマト』は大きく舵を切って都市要塞のガトリング砲台の射程から離れていき、同時に古代から帰艦命令が出されたコスモタイガー隊も、補給のために『ヤマト』へ着艦していった。そして、『ヤマト』がガトリング砲台の射程から離れたわずか五秒後に、都市帝国のコントロール機構が回復してガトリング砲台が生き返ったが、砲手たちはもはや手の届かなくなった標的を遠く見て歯軋りするほかなかった。
一方、すでに亡きサーベラーとゲーニッツ艦隊を援護するために来援しつつあるラーゼラー艦隊を迎え撃つために残った『蝦夷』と『メリーランド』の二隻にも朗報は届き、若い二人の艦長は少なからぬ高揚を覚えていた。
「接近中の敵艦隊とやらは、まだレーダーで補足できないか?」
興奮を理性で押し殺しながらも、子龍は自らも早く戦いたいという気持ちを言葉にして表す欲求を抑え切れなかった。なお、もう一方の『メリーランド』のほうでは同じようにニナ艦長が薄い笑いを、細い唇に浮かべていたが、彼女がその後出した命令は、万一に備えていつでもチャージ中の拡散波動砲のエネルギーを通常動力に転用できるように準備をしておくようにと、低い声で念を押したことだった。もっとも、これをもって二人の能力の差と断定するのは早計である。戦闘が攻勢にあるのなら、子龍の積極性は戦果拡大に必要だろうし、逆に守勢以下にあるのならばニナの慎重さが有用とされるだろう。強いて例えれば、子龍は先陣を切って強大な敵軍に突撃する勇猛な騎士、ニナは大軍勢を難攻不落の城をもって迎え撃つ姫といったところだろうか。
「『ヤマト』が、敵要塞の射程からの離脱に成功、まもなくこちらに合流するとのことです」
よい知らせは連続してやってきた。ヤマトは見事に敵要塞にダメージを与えて、しかも健在な姿を堂々と見せている。まだ都市要塞は沈黙したわけではなく、構造上の弱点である上部の都市部は回転ベルトでがっちりと守られているが、一歩前進したのは確かだ。
「ならば、接近中の敵艦隊は、もう戦略上ほとんど価値を持ちませんね」
ニナは、『ヤマト』からは監視衛星が捉えたと連絡を受けたラーゼラー艦隊をそう評した。それなりの艦数はいるだろうが、地球防衛艦隊本隊や、『ヤマト』に対抗できる戦力でないのであれば、盤の隅に孤立した歩兵も同じ、全体になんの影響も与えはしない。そう思うと、彼女もあとは目障りなだけであるこれを、さっさと排除してしまおうという気になっていた。
「拡散波動砲の拡散範囲を、『蝦夷』よりやや広めに取りなさい」
淡々と放たれたニナの命令を、砲手は疑問に思うことなく復唱して実行した。
拡散波動砲の存在意義は、敵の手の届かない場所から一撃で敵艦隊を壊滅させることにある。ニナはまさにその設計思想を体現させようとしていた。
「敵艦隊捕捉、十二時の方向、拡散波動砲の射程ギリギリです」
それこそ、急行してきたラーゼラー艦隊であることを彼らが確認しようもなかったが、ニナは通信回線を子龍につなげると彼に常と変わらぬ様子で問いかけた。
「どうする? 引き付けて一気に叩くの?」
「それもいいけれど、あまり時間をかけたくはないな……というよりも、君が俺に通信を送ってきたのは、確認のためであって相談ではないだろう」
子龍から望んでいた答えを得れたニナは、長い金髪をかきあげると波動砲発射の秒読み開始を命じた。子龍は、『メリーランド』にあわせて『蝦夷』の発射タイミングを合わさせて、あとは結果が来るのを艦長席に深く座り込んで、果報を待つことにした。彼は、戦局全般を客観的に見渡す能力にかけては、自分よりニナのほうが上回ると自覚しており、いまさら張り合おうなどと無駄な努力をする気はさらさらなく、レーダー圏内に入った敵艦隊に向けて二隻の拡散波動砲が放たれ、数秒後にこれが壊乱状態に陥ったときも、それを自分の戦果だとは思わずに、すでに合流をはたそうとしている『ヤマト』と、壊走中の敵主力艦隊と、追撃中の地球防衛艦隊にのみ興味が向いていた。
「取り舵転進、敵要塞はしばらくは動けない。地球防衛艦隊と共同で敵残存艦隊を撃滅し、敵要塞都市へ決戦を挑むぞ」
『蝦夷』は艦首をめぐらせ、『ヤマト』に合流して要塞都市から距離をとっていった。今度は、攻勢に長けた子龍の能力が生きるだろう。三隻の戦艦の乗組員たちは、すでに過去のものとなった少数の敵艦隊には目もくれずに、いやがらせのように撃ちかけられてくる要塞都市の回転ミサイルを余裕でかわしながら、一時の別れをこれに告げた。
けれど一方で、無価値ゆえに手加減されて無視されたラーゼラー艦隊は、拡散波動砲が最大射程で撃たれたゆえに全滅だけは免れた状態で、無慈悲な加害者が立ち去っていくのを見つめていなくてはならなかった。
「おのれ、次々に姑息な手ばかりを打ちおって」
減衰しきった拡散波動砲のエネルギーのおかげで、航行不能でかろうじて助かった旗艦『ラフィット』の艦橋で、ラーゼラーはもはや身動きすらできなくなった艦隊の様相に、歯軋りをしたが、自分がもはや舞台から下ろされた歴史劇の脇役であることを認識せざるを得なかった。生き残っているのは、彼の乗艦以外には、奇跡的に拡散波動砲のエネルギー弾が当たらなかった一隻の駆逐艦のみで、戦力としてはもはや数える価値はなかった。けれども、無様に生き残って帰還しようとしても、敗残兵に対して開く門戸を彗星帝国は持っていない。せめて、船が動けば体当たりしてでも彗星帝国の軍人としての名誉を守れるのにと、彼は歯噛みしたが、憎むべき敵はとうにかなたに立ち去ってしまっていた。
その、ラーゼラーにこの上ない屈辱を与えた相手側のほうはといえば、当然のように罪悪感など水素原子一粒ぶんほども持ち合わせずに、損傷大ながらも、役割を果たして戻ってきてくれた『ヤマト』の勇姿を歓迎していた。
「ご苦労様です。遠くからですが、拝見させていただきましたが、大変勉強になりました」
『ヤマト』のメインパネルに、敬礼をした顔を浮かべながらニナが謙虚に自分の未熟さを語るのを、土方艦長以下は満足げに聞いていた。また、その半方で子龍も自己主張したが、こちらのほうもニナとは別個の若者らしさを感じさせるものだった。
「『ヤマト』の修理が完了するまでの間は、我々が盾となります。どうぞ、ご安心して修理に専念なさってください!」
大きな声で、盾ではなく剣ではないのかと、幾人かが思ったように、彼には前進と後退のどちらかを選択しろといわれたら迷わず前進を選ぶような、いわば猛将の気質があるようである。一方ニナはといえば、状況を冷静に見て、どちらかを選択する守勢の智将型に近いようだが、まだ二人とも自分なりの戦い方を身に着けてはおらず、これからの経験が彼らの将来を決定していくだろう。
ちなみに、猛将と智将、両方の才能を併せ持つ者が名将と呼ばれるというが、ヤマト初代艦長沖田十三などはまさにそれに値し、艦長代理古代進は猛将の部類に傾き、現艦長土方竜提督は、猛将にやや近い名将といえるだろう。どのみち、人間というものは変わるものであり、若い頃に猛将だった者が年を経るにして守勢型に変わることもあるし、士官学校での劣等生が歴史に名を残す名将と名を残すこともあれば、その逆も珍しくない。
ただ、今相手にしているのは、アンドロメダ大星雲をはじめとする星星を征服し続けてきた、宇宙の歴史上まれに見る猛将たるズォーダー大帝である。うかつにこちらが守りに転じれば、圧倒的な破壊力を持って地球軍すべてが蹂躙されてしまうだろう。これに対するには、攻撃をもって最大の防御とするほかはない。土方艦長は、都市要塞が完全に回復して動き出す前に、後顧の憂いを除いてしまおうと考えた。
「全艦全速前進、先に地球防衛艦隊と呼応して、敵主力の残存艦隊の抵抗力を排除する」
現在のバルゼー艦隊はほぼ壊走中と呼んでもよかったが、まだ火炎直撃砲を有する旗艦メダルーサは健在であるし、戦艦や高速駆逐艦なども三〇隻以上は残っている。艦隊総数では、まだ七〇隻以上の戦闘可能な艦を残している地球艦隊の敵ではないが、都市要塞と合流されて、その強大な火力支援を受けながら反撃に転じられれば、地球艦隊が逆に壊滅させられる可能性もまだ充分ありうる。否、それを狙っているからこそ、地球艦隊も無様なまでに逃走する敵艦隊になかなか追いついて決定打を与えられずにいる。
「『ヤマト』、全速前進!」
島は、『ヤマト』を転進させると、一気に最大戦速にまで加速させていった。当然、二隻の僚艦も左右に並んで『ヤマト』に付き従う。ある意味、彼らはこの戦争でもっとも恵まれた場所にいるのかもしれない。戦力としてあぶれたために、地球最優秀の教師の直接指導を受けられるのだから。
そして、バルゼー艦隊を追撃中の地球防衛艦隊は、『ヤマト』からの通信を受けて、敵を挟み撃ちにできることを知ると、歓喜に沸いたが、『アンドロメダ』に座上する艦隊司令は、いかに『ヤマト』とはいえ、戦艦二隻が護衛についているだけでは戦力としては心もとないと思い、この友軍をどう活かすのがもっとも有効かを考えて、すぐに返信を『ヤマト』に打たせた。
「『アンドロメダ』から返信です。遠距離砲撃と艦載機攻撃を持って、可能な限り敵の足を止められたし」
「了解した、と返信せよ。コスモタイガー、発進用意」
凡庸な指揮官であれば、『ヤマト』らに裏方をやらせ、獲物は全部地球艦隊が独占しようとしていると妬んだであろうが、土方艦長にそういった功名心は存在しなかったし、実は最初からそれがたった三隻で役に立つ最良の方法と思っていたから、『アンドロメダ』からの指令を受け取ると、即座に行動を開始した。
「砲撃用意、機関部を狙って速度を落とさせれば撃沈する必要はない。コスモタイガー隊も敵艦の艦尾に攻撃を集中するように厳命、あとのことは地球艦隊が始末をつけてくれる」
古代が、南部が、加藤、山本が命令を受け取って闘志を燃やしていく。
しかし、土方艦長には、気がかりなことはまだ残っていた。
「『蝦夷』と『メリーランド』は、遠距離砲撃に着いてこられるか?」
そう、神業級の職人がそろった『ヤマト』とは違い、まだまだ未熟なこの二隻が最大射程に近い距離での砲撃についてこられるだろうか。けれど子龍とニナは、意外にも自信を持っていた。
〔充分可能だと思います。最大射程とはいえ、直線運動をする敵ですから、落ち着いて狙えば問題はありません〕
〔同感です。我々の砲手も、それだけの技量に達していると自負しています。信頼してください〕
土方艦長は、『ヤマト』の勇猛な戦いぶりが彼らの対抗意識を燃え上がらせ、士気を大幅に引き上げているということに気づくべくもなかったが、人間はその精神状態によって引き出される実力に大きく差があり、精神が高揚している状態なら、非力な人間が米俵を持ち上げることもあるし、逆に落ち込んでいるときはなんでもない階段で足を踏み外すこともある。
「よかろう、大言を吐いたからには成果をあげてみせよ」
敬礼して、二人がスクリーンから姿を消すと、土方艦長は敵艦隊の左前方からの接近を命じた。
バルゼーの残存艦隊は、反転したり速度を緩めたりすれば、即座に猛追してくる地球艦隊によって蜂の巣にされてしまうので、後部砲塔で散発的に反撃しながら全速で避退を続けている。これに、真正面から立ちふさがるのは、むしろ敵の退路を奪って必死の抵抗を誘ってしまうので愚策である。それに、敵は今は必死で逃げているとはいえ、まだあの旗艦は健在である。
「真田、敵旗艦のワープ兵器で『ヤマト』が狙われる危険はないか?」
そう、『ヤマト』の主砲射程に敵を捉えるということは、敵の超遠距離砲にとっても有効射程ということにほかならない。あれを食らったら、いかに『ヤマト』とはいえひとたまりもないし、瞬間的に命中するために島でも回避は不可能だ。
「逃げながら、後方の地球艦隊を撃っていないところを見ますと、ワープ範囲にもある程度制限があるものと思われます。その角度はわかりませんが、敵旗艦の左右正面四十五度の範囲には入らないほうがよろしいと思われます」
「しかし、それでは敵艦隊を効率良く妨害することはできん。先行してコスモタイガーで敵旗艦を叩けないか?」
「難しいですね。敵は半減しているとはいえ、まだ旗艦は多数の護衛艦で固められています、強襲をかければコスモタイガーにもかなりの被害を出すものと覚悟しなければなりませんでしょう」
土方艦長は座席に座りなおして思案にくれた。あの敵の旗艦を生かしておいては危険極まりないが、コスモタイガー隊を軽々と犠牲にするわけにはいかない。なにか、ほかに見落としている戦法はないかと、脳内で戦況を組み立てて、いくつかの案を考え出した。
まず、最初に思いついたのは、必ず近辺で待機しているはずの『武蔵』に援護を要請するということだ。『武蔵』本体だけでも、その気になれば簡単に敵艦隊も都市帝国も破壊できるし、艦載機も敵にまったく気づかれずに攻撃を成功させられる。確実性や簡単さを考慮すれば、これが最良であることは明らかであったが、いわば神様の手にすがることは、人間独自の行動性や積極性を犠牲にし、他者依存という退廃の温床となる。いや、それ以前にも、彼らにも地球の防人としてのプライドがある。むろん、地球を守ることが最優先されるのは当然であるが、精神の独立という、地球人類として存在するための大黒柱に傷を入れるわけにはいかないのだ。
「まてよ、コスモタイガー隊で無理にしとめようとしなくても、複数機のコスモタイガーで同時にレーダー照射をおこなえば、通常よりも遠距離で砲撃ができるのではないか?」
「それは……理論上は可能だと思いますが、前例がないのでいきなりやったとしてもできるかどうか。それ以前に、レーダーと艦砲のプログラムを新しく作らなければなりません、とてもではありませんが、時間が足りません」
「そうか……」
残念だとは思うが、技術の専門家の真田が言うのだから無理なのだろう。ただ、理論上は可能だというのが惜しいと思った。あらかじめコスモタイガーとの連携による砲撃をプログラミングしてあれば、『蝦夷』や『メリーランド』も、安全確実に砲撃できたはずなのだ。なにせ、有効射程距離に比べて、主砲の最大射程は長く、敵が停止していてくれるのならば、まったく見えないほどに遠くにいる相手でも砲撃でき、実際都市要塞への砲撃は、有効射程より遠くからおこなっている。これまで、それほどに遠距離砲撃をおこなう必要がなく、可能性を放置していたのが痛かった。
だが、その案を没にしようとしたところで、土方艦長に天啓のようにひらめきが生まれた。
「真田、その艦載機とのレーダー同調のプログラミングというのは、そんなに時間がかかるのか?」
「はい、技術班の人材でも、作成には半日は必要だと思います。特に、昔の弾着観測のように、外れた分だけ位置を修正すればいいというわけではなく、コスモタイガーとはレーダーの規格そのものが違うので、データを書き換える必要がありますので」
それに、普通の航海用レーダーと、射撃用レーダーはまったく違う。航海用レーダーで、確かに有効射程距離外の敵を捉えることはできるが、いくら戦艦が大きいとはいえ宇宙空間ではゴマ粒のようなもので、それに正確に照準を合わせるには進路、速度などを正確に判定するための膨大な情報処理が必要となり、そのためのレーダー距離は短いものにならざるを得ない。
「ふむ、ならば別の戦艦のレーダーによるデータなら、そのまま使えるということだな」
「それは、そうですが……なるほど!」
真田は、一気に合点がいって、思わず席を立った。どういうことかと、古代が聞くと、彼は嬉々として答える。
「『ヤマト』より、はるかにレーダー策敵に優れた友軍が、すぐそばにいるじゃないか」
「そうか、『武蔵』ですか!」
「ああ、あの船のレーダー測距と連動を依頼すれば、『ヤマト』のレーダー範囲は大幅に拡大する。なにせ、二百年後のものとはいっても、向こうも地球防衛軍の戦艦だ。それに、データ転送も、こちらと合わせられるように打ち合わせてあるから、すぐにでも可能だ」
「それで、味方には、コスモタイガーでレーダー測距をおこなったように見せかけるというわけですか」
「ああ、本当に必要なプログラミングは、あとで作っておけばいい」
かなり迂遠な方法だが、それならば『蝦夷』と『メリーランド』も自力で戦える上に、将来有効な戦術を示すことができる。元々、地球防衛軍の戦艦の艦砲の射程は、ガミラスや彗星帝国艦に比べて格段に長いのだ。これまでは波動砲だのみの一辺倒で、火炎直撃砲に苦戦する結果を招いてしまったが、たとえば観測専用のステルス機の製造に成功すれば、圧倒的なアウトレンジ攻撃も可能になるだろう。
その依頼を受けた『武蔵』では、即座に神村少尉や黒田大尉が『ヤマト』用にレーダーデータを調節する作業に入ったが、葉月中尉は憮然としてつぶやいた。
「この『武蔵』を観測衛星代わりに使うのか、めちゃくちゃな宝の持ち腐れだな」
彼としては、『武蔵』も姿を現して、全砲門で彗星帝国艦隊を撃滅してやりたいと願っていたから、欲求不満が溜まっていた。特に、さっきの潜宙艦攻撃では荒島中尉だけが活躍したし、『武蔵』はこの後も隠れて行動し続けるであろうので、防空班長である彼は、このまま出番が来ないまま戦いが終わってしまうのではと、気が気ではなかった。
「まあ、敵は近づいてくる前に俺が根こそぎ吹っ飛ばしておいてやるから、のーんびりしてろや」
特に、隣の席から荒島中尉にそんなことを言われると、今すぐ席を立って殴りに行ってやりたい衝動にかられたが、理性を総動員して、握った右手の拳を左手で押さえるのにとどめた。
もっとも、葉月中尉の不満は案外簡単に解消した。二人の後ろのレーダー席からぽつりと。
「自分の実力をひけらかす男って、いやね」
そう神村少尉のつぶやきが聞こえてきたとき、荒島中尉がしまったと顔をしかめるのを、彼はにやりと笑いながら横目で眺めていたのである。
ただし、暇をもてあましている『武蔵』の不良コンビとは違って、その他の者たちは充分に忙しくすごしていた。黒田大尉は当然『武蔵』のレーダーデータを『ヤマト』らで使えるようにプログラミングしなおして、桜田中尉はそのデータを円滑に『ヤマト』へ送れるように通信を調整し、舵を預かっている山城中尉や機関長の権藤大尉、レーダー手の神村少尉などは常時仕事中といえる立場であったが、彼らが呆れと羨望を半々で込めた視線を仕事の合間を縫って荒島と葉月に向けたのは、この二人が周りの人間が忙しくしている中でも、平然とケンカをしていられるような無神経さの持ち主であったからである。
しかし、その場のノリだけで適当に生きているような不良コンビはよいとして、優秀な『武蔵』のスタッフは『ヤマト』からの要望に、時間にして十分程度で応え、葉月中尉いわくめちゃくちゃな宝の持ち腐れの、レーダー衛星としての機能を発揮しはじめた。
「『武蔵』からデータが来ました……うわっ、なんだこりゃ! 容量が膨大すぎる。すいません、もっと小さくして送ってくれませんか!」
相原が悲鳴をあげて、黒田大尉が慌ててデータをさらに簡略化して送ったあとも、送られた『ヤマト』のほうでは相原や雪がてんてこ舞いで、その広大で精密すぎるデータをさばききれずに四苦八苦するのがしばらく続いた。なんといっても、『ヤマト』のレーダーを双眼鏡としたら『武蔵』のそれは電波望遠鏡に相当するくらいに性能の開きがある。これでも『武蔵』の基準からすれば少なすぎるくらいなのだが、黒田大尉や神村少尉も、どのくらいあればこの時代の艦船がこの距離で精密射撃ができるのかとわからなかったので、少し多めに入れたつもりだったのが、『ヤマト』のコンピュータではさばききれなかったわけだ。
けれども、相原たちと、『武蔵』の勤勉なスタッフの努力もあって、ついに『ヤマト』は『蝦夷』と『メリーランド』もあわせて満足しえるだけの射撃データをそろえることができた。
「南部、砲撃用意だ」
「了解です。しかし、これほどの超長射程砲撃は生まれて初めてですよ。なにせ、レーダーにさえ映っていない敵を撃つんですからね」
まるで闇夜のカラスを撃つようなものだと、南部は初めて宇宙艦のビーム砲を撃ったときの緊張感をよみがえらせていた。
しかし、これで敵艦隊に近づく必要がなくなったので、敵もこちらをレーダーで精密に捉えられず、あの恐るべきワープ砲の砲撃も受けないことになる。
『蝦夷』と『メリーランド』では、コスモタイガーを利用しての長距離砲撃という策に驚きはしたが、『ヤマト』に対する信頼感のほうが大きく。
「こんな距離で、当てる自信があるとは、神業としかいいようがないな」
「その神業を、目の前で見せてくれるというのですから、ありがたくお手並みを見せていただきましょう。いずれ模倣できれば、それは得がたい財産となるでしょうから」
子龍とニナは、それぞれ『ヤマト』に対する信頼を、誤解なのだが信仰に近いところにまで昇華させつつあった。ただし、この戦争が終われば、超長距離射撃は実績となって残り、『武蔵』抜きでも可能なように技術開発がおこなわれるであろうから、多少フライングではあるものの、それを思いついた土方艦長の功績は否定されることはないだろう。
そして、『ヤマト』『蝦夷』『メリーランド』の三隻は、コスモタイガーからという名目で得た射撃データを主砲にインプットすると、ついにその火力を敵艦隊に向けて開いた。
「撃て!」
総計二七線のエネルギーの砲火が放たれて、それらは一砲塔ごとのものにねじりあって、最終的に九本の青い螺旋となって見えない彗星帝国艦隊へと突き進んだ。かつて地球防衛軍の誰一人として経験したことのない遠距離砲撃、緊張しないものはいなかった。
が、皮肉なことにその成果をはじめに確認したものは、彼らではなかった。
撤退を続ける彗星帝国艦隊旗艦『メダルーサ』の艦橋で、まもなく都市要塞の回転ミサイルによる援護可能距離にはいるという報告を受けて、バルゼーが形勢逆転の可能性に顔の筋肉を緩めた瞬間、艦隊の先頭を走っていた四隻の駆逐艦が、左前方から飛んできたエネルギー弾によって瞬時に撃沈されるのを彼は見たのである。
「な、なんだ!? どこからの砲撃だ」
彼のその叫びに、オペレーターたちが満足のいく報告を持ってくるまでにたっぷりと一分はかかったが、彼はその「近距離レーダーに反応なし、長距離用レーダーに戦艦らしき反応、恐らくは『ヤマト』と思われるものによる砲撃」という答えに納得しはしなかった。
「『ヤマト』だと! おのれまたしてもか! 火炎直撃砲!」
「無理です。遠すぎて照準が合わせられません」
「馬鹿な、奴らこそそんな距離からこの精度での攻撃などできるものか、いったいどんなトリックを使ったんだ」
「わかりません。ああっ、艦載機の接近を確認、ミサイル攻撃が! それに『ヤマト』よりエネルギー弾高速で接近です」
「撃ち落せ! 回避しろ」
ただでさえ、追われる獣の心理に陥れられていたバルゼーの判断力は、ここで一気に冷静さの船底に多量の浸水を見て、狂乱の海へと沈没を早めた。
実害としては、『ヤマト』らの砲撃は『蝦夷』と『メリーランド』の二隻はやはり命中率がはなはだ悪く、最初の砲撃も当たったのは『メリーランド』の一発だけであり、それもまぐれに近いようなもので、二回目のときは『ヤマト』の砲撃が二隻の敵艦を沈めたものの、この二隻はすべて外し、またコスモタイガー隊の攻撃も数の少なさと、戦闘機ゆえの火力の低さで一度の被害はさしたるものではなかった。それでも、自分の手の届かないところからの一方的な攻撃は、彗星帝国将兵の肝を寒たらしめ、先頭艦から順に撃って損傷艦が障害物となって行く手をさえぎったために、とうとう彗星帝国艦隊は地球防衛艦隊に完全に追いつかれてしまったのだ。
「全力攻撃、敵に届くありったけの武器を叩き込んで、一気にとどめを刺せ!」
『アンドロメダ』から指令が飛び、地球艦隊はその言葉どおりに、ショックカノン、ミサイル、はてはパルスレーザーまでも動員して彗星帝国艦隊に肉薄し、その隊列を飢えた肉食獣のように食いちぎっていった。
「突撃!」
聞き間違えようもない簡潔な命令に従って、『アンドロメダ』を先頭に、同型艦『ネメシス』と『カシオペア』も遼艦を率いて、彗星帝国艦隊に開いた穴に飛び込んで、その穴をさらに拡大させていく。どの艦も接近戦によって多かれ少なかれ損傷しているが、あと一歩の詰め手であるここでひるむものはいない。
『ヤマト』でも、『武蔵』より自分たちの砲撃が絶大な戦果をあげていることが伝えられ、歓声があがっていた。
「正直、あのときは本当に当たるとは思わなかった」
南部が後に古代にだけもらした感想がそれであったように、未知の領域への挑戦への成功は、まさに大博打の勝利であった。
また、その歓声が響くなかで、彼らの苦労に報いる電文が相原の席に飛び込んできた。
「『アンドロメダ』より入電、【貴艦隊の見事なる砲撃に、心よりの敬意を表す。貴艦隊はそのまま独自行動をとり、もっともよいと思われる方法で会戦に参加されたし、全責任は本官が負う】以上です」
地球艦隊旗艦が、この少数艦隊に敬意を持って祝電を送ってきたことを一番喜んだのは、子龍とニナをはじめとする二隻のクルーたちであったことはいうまでもない。また、後半の独自行動をとるようにという文は土方艦長もすぐに納得した。『ヤマト』は元々艦隊の一員として戦うようにはできておらずに、無理に艦隊に組み込めばその真価をわざわざ減殺することになりかねない。そのくらいならば、遊軍として味方にとっては切り札、敵にとっては目の上のこぶとして好きに動かしたほうが得策だと地球艦隊司令は判断したのだ。
そうしているうちにも、地球防衛艦隊は至近距離から火力の優勢と、後ろから攻撃するという絶対的有利な位置関係を存分に利用して、戦闘開始時には三〇〇隻近くいた彗星帝国艦隊を、わずか数十隻にまで撃ち減らし、とうとう彗星帝国艦隊の旗艦をも、その有効射程に捉えていた。
「前方、敵旗艦、反転してきます」
『アンドロメダ』のメインスクリーンに、反転してこちらに艦首を向けてくる敵旗艦、メダルーサの姿が映し出された。すでに前方は『ヤマト』の攻撃によって閉ざされ、これ以上逃げることはできない今となっては、敵将の気持ちは、同様の思いでガミラスの艦隊に立ち向かい、散っていた多くの同僚を持つ地球艦隊司令には理解できた。
「尻を撃たれて死ぬよりは、その胸をさらして逝くのを選ぶか……敵ながら、その心意気やよし。全艦、砲撃目標敵旗艦、撃てぇー!」
五〇近くになるショックカノンの光芒が、メダルーサを貫いたとき、この艦隊戦の実質は終了した。バルゼー提督を失い、代理指揮官も次々と船が沈められる中では決まることができずに、最終的に一隻の戦艦が最後の花とばかりに特攻を仕掛けてきたものの、それも回頭中が絶好の的となるという事態を誘発するだけで、数的に圧倒的な優勢な地球艦隊の前では悪あがきにすらならず、わずかばかりの艦艇が混乱の隙に戦場を離脱することができただけにとどまった。
「司令、追撃なさいますか」
「ほうっておけ、逃げたければどこへなりとて逃げさせろ。それよりも、艦隊を集結させて乱れた隊列を整えろ」
参謀の問いかけを、艦隊司令は一考することもなく退けた。別に敗軍となった彗星帝国の人間に同情したわけではなく、敵艦隊撃破というのに、誰一人歓声をあげないのと理由は同じであった。そんなことを考えていられない、本当の敵が目の前に立ちはだかっていたからである。
「前方、敵都市帝国を確認、距離二〇〇宇宙キロ」
「司令、拡散波動砲で一気に勝負をかけましょう」
敵艦隊を撃破するのに通常動力を使ったために、地球艦隊にはまだエネルギーに余力があり、司令は決断した。
「ようし、戦艦部隊はマルチ隊形をとれ、拡散波動砲発射用意! 護衛艦隊はエネルギーチャージ終了まで本隊を死守せよ!」
「前方、敵要塞より発進したと思われる艦載機多数接近、推定およそ五〇〇以上」
「全力で迎撃せよ、『ヤマト』の艦隊にも支援を要請」
艦隊決戦で空母艦隊を失った地球艦隊にとって、空の守りはもはや対空砲火だけしかなく、わずかなりとて航空戦力を有する『ヤマト』を頼ろうとするのは当然の流れであった。だが、五〇〇機もの大群に、二十機前後のコスモタイガー隊では焼け石に水であり、土方艦長は先の独自の行動をとるべしという指令に従うとして、その命令を拒絶してきた。
「艦隊司令の命令に従わないとは!」
『アンドロメダ』の副官は、思わず席を立って激昂したが、艦隊司令はあらためて考え直し、『ヤマト』に先の命令は撤回するのでそのまま独自の意志で行動するようにと命令しなおし、自らも作戦を切り替えた。
「指令を変更する。『アンドロメダ』、『ネメシス』、『カシオペア』の三艦はそのまま拡散波動砲のチャージを続行し、他の全艦は対空砲火にて三隻を死守すべし」
その命令が飛ぶと、地球艦隊は横列のマルチ隊形から、拡散波動砲発射準備を整えている三隻を中心におき、他の艦隊が恒星を取り囲む惑星のように、対空砲火の死角のないような防空防御陣形へと移っていった。艦隊司令は、最初は要塞都市の威容に圧倒されたが、相手がいかに巨大な要塞とはいえ、白色彗星のときほどの防御力はなく、収束率の低い拡散波動砲でも充分に効果があると考え、波動砲搭載の戦艦や巡洋艦もすべて防御に回したのだった。
「敵機接近、爆撃機です!」
やってくる敵機は、イーターU戦闘機に護衛されたデスバテーター戦闘爆撃機の大軍であり、こいつに装備されたミサイルを集中して食らえば戦艦でも危うい。
さらに、要塞都市自体も当然無抵抗ではありえなかった。
「大型ミサイル接近! 数は……数え切れません! 推定五〇以上!」
「全艦対空戦闘開始! なんとしてでも拡散波動砲発射までの時間を稼げ」
回転ミサイルの雨あられが、身動きできない地球艦隊に襲い掛かる。地球艦隊は主砲を開き、迫ってくるミサイルを撃ち落そうとするが、なにせ数が多い上に、艦載機の相手もしなければならないので取りこぼしが出始めた。
だがそこへ、反則そのもののジョーカーがまたでしゃばってきた。
「シューティングスター隊へ連絡して、当たりそうな回転ミサイルを撃ち落させろ」
藤堂艦長の命令が下りるやいなや、退屈な偵察飛行から開放された四機のシューティングスターは、引き絞られた矢のように突撃を開始した。
「ああっはっはっ! ようっし! やっとまともな出番だぜ!」
「機銃ロック解除、倉田、剣、続け!」
「了解です。やっと楽しくなってきましたね」
「こちら剣機、了解」
ステルスモードでレーダーはごまかしたままだが、やっと表舞台で暴れられることになった若鷲たちは、『武蔵』からの管制によって、地球艦隊への直撃コースにあるミサイルへ向けて機銃の引き金を最高の興奮とともに引き絞った。
「撃墜!」
ほぼ四人同時に四基の回転ミサイルが花火へと変わった。
「反転! 再攻撃」
「獲物はいくらでもあるぞ、気を抜くな」
急速反転して、ミサイルの群れへと再度攻撃をかけ、さらに反転してミサイルを撃ち落していく。地球艦隊は、眼前でミサイルが次々と自爆していくのには気づいているが、シューティングスターはレーダーに映らないのでビデオパネルに投影することもできず、肉眼でその正体を確認することはできなかった。
もっとも、そのころ彼らはデスバテーターの大軍団を迎撃するので忙しく、見えないUFOを追いかけている暇などはなかった。
「戦艦『シルヴレッヒ・ホルシュタイン』火器損傷、巡洋艦『ロンドン』に火災発生、戦艦『レオナルド・ダ・ヴィンチ』機関損傷で戦線離脱」
『武蔵』の傍受した通信には、地球艦隊の世界各国の艦が必死で戦っている様が、ありありと反映されていた。
けれど、地球艦隊は少なからぬ数の主力戦艦や護衛艦艇を失いながらも、強力な防御陣形を崩すことなく、中心の三隻の『アンドロメダ』級を敵機の攻撃から守りぬいた。
「艦隊正面、道を開け!」
司令の待ちに待ったその命令が飛ぶと、『アンドロメダ』の正面に詰めていた戦艦や巡洋艦が、慌てふためいて三隻の延長線上から退避していく。ただその中で、主力級戦艦『扶桑』だけが機関の損傷によって退避できなかったが、艦長は機関部以外はほぼ健在なこの艦に早々に「総員退艦!」を命じていた。
「急げ、巻き込まれるぞ!」
護衛艦や『扶桑』の救命艇が、後ろを振り返ることもなく全速で退避していく。彼らの操縦コンピューターには、『アンドロメダ』から送られたカウントダウンが表示されており、それがゼロになったときにまだ射線上にいたとしても、容赦なく攻撃は始められると警告されていたのだ。
「前方、敵戦闘機!」
「かまうな、突っ切れ!」
『扶桑』の救命艇は、回避運動すらとる気はなく、機銃を撃ちまくりながら立ちふさがってくるデスバテーターに突っ込んだ。その弾丸が姿勢制御翼やロボットアームに命中して、救命艇は火花に包まれるが、敵機のパイロットは体当たりをしてくるかのように突進してくる救命艇にひるんで、機首を引き起こしてはるかに脆弱な獲物に道を譲った。
そして、護衛艦隊がどいて空白となった空間には、当然のごとく敵機の大編隊が押し寄せてきた。
『アンドロメダ』のレーダーに数え切れないほどのミサイルの乱舞が飛び込んで、スクリーンが飽和状態に陥る。しかし、艦隊司令は表情を微動だにすることなく右手を上げて、勢いよく振り下ろした。
「拡散波動砲発射!!」
その瞬間、天の川を縮小したかのような光の奔流が三隻の波動砲口からほとばしり、眼前にあった全てのものを飲み込みながら分子、さらに原子や中性子の塵へと分解して驀進していった。
「全機、緊急離脱!」
シューティングスター隊も、まさか拡散波動砲に耐えられるはずはないので、くわばらくわばらと道を譲っていく。また、『扶桑』の救命艇はかろうじて巡洋艦『オーストラリア』にたどりついた。
ミサイルも、デスバテーターも、放棄された『扶桑』も平等に波動エネルギーが作り出した銀河の奔流は押しつぶしながら、一路都市帝国を目指し、その寸前で拡散して流星群となって襲い掛かっていく。
結果として、都市要塞の気流防御帯や超金属でできた回転リングは拡散波動砲の散弾にかろうじて耐えた。しかし、元となった小惑星のなごりを残す要塞下部は別であった。そこは分厚い岩盤の質量によって強固な防御力をかねそなえてはいたが、とても拡散波動砲のエネルギー弾の乱舞に耐えられるようなキャパシティは持ち合わせてはいなかったのだ。少なくとも十発の拡散波動砲の散弾に打ち抜かれた岩盤は、内部に飛び込んで弾薬庫や動力室を好き放題に破壊して、外部に出口を求めるエネルギーの内圧に耐えられずに、内側から膨大な火炎を吹き上げながら、卵がはじけるように砕け散った。
「要塞都市炎上!」
そのニュースは地球の全世界に報道されて、地球連邦全市民の大歓声を呼んだ。
だが、『武蔵』、『ヤマト』のクルーたちは、これがまだ中盤戦を終えただけでしかないことを知っていた。
崩壊していく要塞都市の、崩れ行くビル街を押しのけて、黒々としたあまりにも巨大な金属の塊が浮上してくる。全長だけでも十二キロメートルを超過するそれは、『アンドロメダ』さえタグボートのようにしか見えない巨体に、巡洋艦の船体ほどの太さのある砲身を三連装にした砲塔を、積み上げるようにしてびっしりと配置した人知を超えた怪物であった。
「来たな、超巨大戦艦……」
『武蔵』の艦橋で、唖然とするクルーたちを見下ろしながら藤堂艦長が憮然とつぶやいた。今頃は、地球市民や地球艦隊の乗組員たちも、その威容に言葉を失っていることだろう。白色彗星帝国の最後の切り札、超巨大戦艦『ガトランティス』、二五世紀の彼らの世界においても、これほどの巨大戦艦を建造した国家はない。かつて全宇宙制覇をもくろんだ大帝国の、その底力をまざまざと見せ付けられる思いがした。
「砲撃戦用意、あれを沈めて終幕を引くぞ!」
藤堂艦長の激が飛び、『武蔵』は最後の戦いに参加するべく動き始める。
そして、『ヤマト』も『蝦夷』と『メリーランド』を引き連れて超巨大戦艦へと進撃を始めた。
地球防衛軍と白色彗星帝国の戦いは、完全に史実を離れて新たな方向へと走り始めた。
しかし、残酷なほどに気まぐれな運命の女神は、なおも不確定要素をこの戦いに潜ませていた。
最後の戦いへと突入しようとしている地球と彗星帝国の姿を、じっと見つめるどちらのものでもない艦隊が一つ。
「さすが『ヤマト』……さて古代よ、地球人たちよ、次はどう戦う?」
第32章 完