逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
序章 帰還

無限に広がる大宇宙、その永劫に続く時間のなかではいかなる大戦争の歴史もつかのまの混乱にすぎない

かつて、偉大なる戦艦『ヤマト』の作り上げた平和がいっときのやすらぎでしか無かったように

侵略と支配、そして抵抗と独立、歴史の流れは地球人類が宇宙へ飛翔してもなんら変わることは無かった

『ヤマト』亡きあと、暗黒星団帝国、ボラー連邦、ディンギル帝国のもたらした歴史はそれまでの地球人類の歴史そのものでしか無かった

人類はいったいどこで足を踏み外してしまったのだろう

この物語は『ヤマト』が白色彗星帝国と刺し違えた、その203年後に始まる

時に、西暦2404年、漆黒の宇宙を地球へ向けて航行する一隻の船があった。
 

「あと30分で第11番惑星軌道を通過、冥王星基地まで、5時間20分到着は宇宙時間0810の予定です」
「うむ、ごくろう、後続の艦に入港用陣形に変更する準備をせよとつたえてくれ」
「了解」
太陽系外周第7艦隊旗艦、戦艦『武蔵』の艦橋で、艦隊指揮官兼『武蔵』艦長、藤堂氷少将が通信士、桜田和也中尉に命じた。
この『武蔵』は排水量12万5000t 乗員数500人のこの時代では標準的な宇宙戦艦である。
だが乗員は艦長を除いてほとんどがまだ20代の若者であった。
それは老練な宇宙戦士は10年前に起こった星間紛争で消耗され、残った者たちは地球防衛艦隊主力にまわされたために彼らのような辺境艦隊は人材が枯渇してからである。
しかし幸いにもそれ以来今までたいした戦いもなく平和が続いているので若者達の技量も向上しその問題も解決しようとしていた。
そして今彼らは長い任務を終え、冥王星経由で地球へ帰還する途中であった。
「ふう、ようやく太陽系のはじっこか……長かったな今回のパトロール任務は」
「年に一度の星間国境最外周パトロールですからね、疲れもしますよ」
戦闘班長の荒島勝悟中尉と防空班長の葉月裕樹中尉が緊張がゆるんだのか私語を始めた。
普通ならここで艦長の一喝があるがこのときだけはなにも言わない、なにせ何もない宇宙空間のなか、何ヶ月も緊張を強いる任務をこなしてきたのだ、ここで彼らの喜びに水をさすのは無粋であろう、これはこの『武蔵』だけでなく遠く旅をする船すべてに共通する暗黙の了解であった。
「おいおい、こんなのを年に一度もやられたらたまらんぞ、なんで二ヶ月の予定がその3倍にならなきゃならんのだ」
「しょうがないですよ、そんな平和な所でも相手でもないし」
「まったく、ボラーの馬鹿共が露骨に挑発してこなきゃもっと早く帰れたものを」
「いつものことだろう、そんなものいちいち気にしてたら身が持ちゃせん、まぁ早く忘れることだ」
彼らの任務とは西暦2205年以来対立を続いているボラー連邦との国境線の定期パトロールであった。
これは10年前の惑星バースの帰属問題をめぐる紛争以後冷戦化しているが、いつまた戦端が開かれるかもしれない状況を監視、現状を維持するために実に半年の長きにわたってボラーの監視艦隊と睨み合いを続けてきたのである。
「ま、おかげで特別手当と特別休暇をもらえたからよしということで、しばらく土の上で暮らせるし、その前に冥王星基地の歓楽街も悪くないと思うぜ、で荒島、お前は冥王星についたらなにをする?」
「そうだな、まずはいきつけのラーメン屋で激辛めんを腹いっぱいくいてえな、でそのあとは酒のんで夜の街にくりだすさ」
「おっ、いいねえ、じゃあおれもお前に付き合うとするか」
「ああこいよ、あそこのラーメンはせいがつくぜ」
「ほほう、せいがつくといったらお前さん?、腹がふくれたそのあとは?」
「きまっているだろお前さん、それが漢の生きる道!」
「そうこなくちゃ、じつは7番街にいい店があるんだが、いくか?」
「ふっ、おれは漢だぞ、いかいでかぁ」
「あんたも好きねぇ」
「楽しもうじゃないか」
このあと少々無神経というか低俗な会話が続いたがすっかり二人で悪巧みの相談に夢中になっている二人はついつい声が大きくなっているのに気がつかなかった。
そしてさすがにまわりが顔をしかめだしたとき。
「あなたたちいいかげんにしなさい」
二人がびっくりして後ろをふりむくとそこにはこの艦橋の紅一点でもあるレーダー手、神村美奈少尉が呆れ顔で立っていた。
彼女は好成績で訓練学校を卒業し実地訓練もかねてこの『武蔵』に配属されてきた新米士官である。
普通はもっと旧型艦で経験をつむのだが、出撃前の改装でレーダーを新式に交換したため現行のレーダー手では扱えず、ちょうどそのころ冥王星に来た新人のなかでレーダーの扱いが一番優秀だった彼女が急遽ひきぬかれたのである。
「なにをしようとあなたたちの自由だけどもそういう話を女の子のいる前ですることはないんじゃない」
「ははは……」
荒島と葉月もようやく自分の不慮に気づいて苦笑した。
彼女は容姿、才覚、人格ともにそろった才女ではあるが宇宙戦士訓練学校女学部の長期訓練コースでレーダー手の訓練から戦略戦術指揮訓練科、衛生兵科、情報管理分析科、さらには空間騎兵隊の基礎訓練を受けたこともあるという男顔負けのキャリアを持つエリートだった。
ただ常に人の上に立つ生き方をしてきたせいか少々固すぎるというか若者らしくない面があったが。
「まあそう目くじらたてるな、ようやく庭先まで帰ってきたんだ少しぐらいふざけてもよかろう、だいいちそんな顔じゃ美人がだいなしだぞ、ん」
声をかけてきたのは艦の技術部班長の黒田武雄大尉であった
「はぁ、大尉がそうおっしゃるのでしたらまあいいですけど、大尉こそ美人だなんてあまりからかわないでくださいね」
黒田大尉は艦長に続く艦内の古参メンバーで(といってもまだ35歳だが)防衛軍でも五本の指にはいる技術力と冷静な判断力を持ち、そして竹を割ったような性格の持ち主であることから艦内でも広く信頼と尊敬を集めている人物である、事実神村少尉もこの航海中いくども彼の世話になっていたのだ。
だが彼ほどの人物が何故たかが外周艦隊の技術者の地位で満足しているのか疑問に思われることもある。
実際彼のもとには軍中枢のいくつもの部署から引き抜きがきているが彼はそれらをすべてなにかと理由をつけてことわっている、なぜなのかと人に聞かれたとき彼は笑ってこう言ったという「ここで悪餓鬼どもの相手をしているほうが楽しい」と。
そういう人物である黒田大尉の言うことなので神村少尉もおとなしくひっこんだが、黒田大尉はあいかわらず神村少尉のかわいげのない態度に少々呆れていた。
なにせ美人とよばれても顔色ひとつ変えないのだ、あれでは嫁の貰い手がないぞと思いながら黒田大尉が苦笑しつつ席に帰ると、荒島中尉と葉月中尉の二人は気が抜けたのかなにもいわずに仕事にもどった。
そのとき、後続の艦隊からの報告を受け取った桜田中尉がそれを艦長に報告した。
「艦長、全艦所定位置への移動準備完了しました」
「よろしい、全艦隊形変更」
藤堂少将の命令が伝達されると、後続の巡洋艦、駆逐艦が一斉に移動を開始し、ものの数分で『武蔵』を先頭とする長い単縦陣を組んだ。
これは艦隊が安全に一隻ずつ入港するための陣形だが、船がきれいに一列になるので誰からともなく「軍艦鉄道」というあだ名がついた。
つまり『武蔵』は機関車の位置にいることになる。

「隊列変更、完了しました」
神村少尉が報告すると藤堂司令はうなづいて次の命令を下した。
「よろしい、全艦18宇宙ノットで冥王星基地へ向かえ」
「了解、進入コース GH334番で行きます」
藤堂司令の命の元、全艦一糸乱れぬ形で艦隊は進んだ。
やがて前方から基地からの誘導機がやってきた。
誘導機は何回かバンクを振った後『武蔵』の前面に出ると一定の距離をたもち先導し始めた。
その誘導にしたがいしばらく進んでいくと前方からすれちがう形で艦隊が現れた、二隻の戦艦を中心とする彼らと同じ太陽系外周艦隊のひとつである。
「友軍識別信号確認、第11外周艦隊、戦艦『サーグラスZ』と『プレアデス\』以下十隻です」
神村少尉が報告してしばらくすると第11艦隊の姿が艦橋の窓からもよく見えるようになってきた。
『サーグラスZ』は改グロデーズ級の拡大発展型、『プレアデス\』は同じく改プレアデス級の最終改良型の艦であり、両艦ともにわずかに200年前に作られた初代の面影を残していた。
やがて第11艦隊は『武蔵』の横をすりぬけ太陽系の外側へと去っていった。
両艦とも暗黒星団帝国製の旧式戦艦ではあるが地球防衛軍ではまだ現役で働いている老兵である。
おそらく彼らもパトロール任務につくのであろう、幸運を祈り『武蔵』のメインスタッフ全員の敬礼で見送った。

それから約十分ほど艦隊はなにごともなく進んだ、しかし異変は突然やってきた。
急に先導していた誘導機がフラフラと失速しそのあと何かに巻き込まれたように回転しながら吹き飛ばされそのまま爆発してしまったのである。
「なんだ、なにが起こったんだ!」
葉月中尉が突然のことに驚いて叫んだ、だがそれに誰かが答えるより早く通信席のコンソールがけたたましい音を立てて非常入電を知らせた。
「司令、冥王星基地より緊急打電、〔貴艦隊前方に異常空間あり、警戒せよ〕」
「なに? 神村、レーダーはどうだ」
「い、いえ別になにも」
だが『武蔵』のレーダーでは観測できなかったが異変はすでにはじまっていたのだ。
突然『武蔵』を激震が襲った。
「な、なんだ!?」
荒島中尉が取り乱したかのように叫ぶ。
「空間振動波です、そ、それもかなり大型の……」
とっさに黒田大尉が分析した。
空間振動波とは宇宙船がワープアウトするときなどに、三次元空間へ割り込んだ際に空間を押しのけて発生する衝撃波のことだ。
「振動波は0時の方角からです」
神村少尉が叫ぶ。
「ばかな、前方には何もないぞ!」
葉月中尉が窓の外を見渡して言った、確かに前方にはなにも見えず、漆黒の宇宙が広がっているだけだ。
「か、艦長、け、計器が!」
黒田大尉が慌てて叫ぶ、いや、荒島も、葉月も、神村も、艦橋要員全員が同じように狼狽している、藤堂艦長はすぐに彼らの異変の原因に気づいた、なんと艦長席のすべてのメーターがメチャクチャに暴走していたのだ。
「いかん!  全艦反転、この空域を離脱しろ」
だが、藤堂司令の命令はすでに遅かった、司令が命令した直後『武蔵』の正面に巨大な光球が出現したのだ。
「ぜ、全速退避、急げ!」
しかし艦隊の後方にいた巡洋艦や駆逐艦はなんとか回避に成功したが、先頭にいた『武蔵』は間に合わずに光球に飲み込まれてしまった。
「うわぁぁぁぁぁっ!!!??」
『武蔵』の全乗組員は全身が引き裂かれるような衝撃をうけ皆気を失った。
そして、その数秒後光球は雲のように掻き消えて、後には何も残らなかった。

序章 完

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