逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第6章 『武蔵』 咆哮!!

「敵巡洋艦二隻および駆逐艦二隻の撃沈を確認」
艦橋の窓からも4つの閃光が走ったのが確かに見えた。
「よし、零式定置機雷は期待どおりに働いているようだな」
藤堂艦長が満足そうにつぶやいた。
零式定置機雷とは、名前どおり零式空間魚雷を改造したもので、発射管から投射されると次元断層に身を隠すところまではいっしょだが、その後次元断層を張ったままその場にとどまり敵が接近すると内蔵されたセンサーが感知し姿無く忍び寄りこれを撃沈する。
ただでさえ見つけにくい空間魚雷を機雷化したのだから、事前に対応することは極めて困難な強力な奇襲兵器であった。
「よし、ステルス態勢完全解除、どてっぱらを見せて誘ってやれ」
敵艦隊を『武蔵』と機雷ではさみうちにするためわざと偏向フィールドの一部を空けて誘ってやっていたがもうその必要も無くなった。
「艦長、やりますか?」
「よかろう、ただしやりすぎてはならんぞ」
荒島中尉がうずうずして言うのに藤堂艦長はしっかり釘を刺して許可をあたえた。
「わかってますって、目標敵艦隊右翼の4隻、主砲一斉射」
「お前はいいよな、こちとら暇でしょうがねえよ」
まってましたとばかりに張り切る荒島中尉に葉月中尉がけだるそうに言った。さきほどから一方的に『武蔵』ばかりが攻めているので迎撃専門の葉月中尉は出番がなかったのだ。
「まあそう腐るな、お前の獲物も残しといてやるよ。主砲用意、撃っー!!」
『武蔵』の全砲門が火を噴き目標の敵艦を粉々に打ち砕く。
だがそれでなお30隻以上の数を誇る大艦隊である。隊列を乱しながらも旗艦とおぼしき艦を中心に『武蔵』へ進撃してくる。
「敵艦隊魚雷発射、雷数150」
「ほらほら、出番だぞ」
「はいはい、わかってますよ」
荒島中尉にちょっかいを出されながらも葉月中尉の指示で『武蔵』の対空火器、パルスビーム砲が逆落としの炎の川を作りだす。
『武蔵』に向かっていたミサイルはひとつ残らず叩き落され太陽が出現したかのような火の海が『武蔵』をも巻き込み凄まじい光芒が周囲の全てを白く染め上げる。
「損害を報告せよ」
藤堂艦長は形式どおりの報告を求めた。どのみちこんなものでは『武蔵』の装甲をつらぬくことはできない。
案の定「被害らしき被害なし」との報告が入る。強いていえば少々皆の目がくらんだくらいか。
「第二斉射、目標敵左翼の駆逐艦4隻、撃っー」
ふたたび4隻の駆逐艦があとかたもなく粉砕される。さらに敵艦隊後方でもいくつか閃光がひらめいた、零式定置機雷の命中である。
「敵艦隊、陣形が乱れています。進撃スピードも落ち始めました」
「そろそろ潮時か、ステルスモード展開および零式定置機雷投射用意、投射後ワープを行う、準備急げ。ただし空間歪曲の足跡を消すのを忘れるな」
敵の目をひきつける以上全滅させるわけにはいかない。藤堂艦長は撤収することを決めた。
「敵艦隊発砲、来ます!」
「ほう、なかなか根性があるな、勇敢な連中だ」
『武蔵』に多数の砲撃が集中する。機雷と砲撃で数を減じているとはいえ20隻以上の一斉射撃である。いかに強固な防御をほどこした戦艦でも無事ではすまない。だが敵にとっては不幸なことに『武蔵』の防御力は彼らが考えているものより2ケタほど高かった。
「敵弾全て装甲がはじきました」
ダメコンチームの班長の余裕綽々といった声がスピーカーから聞こえると皆一様に安堵の表情を浮かべた。頭では大丈夫だとわかっていてもやはり撃たれるということは人にとってかなりのプレッシャーになるようである。
「さっさと逃げるぞ。準備はまだか?」
「機雷投射準備完了。敷設開始します」
荒島中尉の合図とともに『武蔵』の発射管から零式定置機雷が投射される。それらは周辺の宙域にばらまかれ、獲物を待つ眠りの状態についた。
「ステルス態勢発動します」
「ワープ10秒前、9,8,7……」

一方、彗星帝国艦隊では、いくら攻撃をくわえても被害の兆候すら見せぬ敵戦艦へむかってラーゼラー司令が修羅のごとく吠え立てていた。
「撃てっ撃てっ、攻撃の手をゆるめるな、どんな強固な装甲とて被弾させ続ければ必ず破れる。敵に反撃の暇を与えるな。このまま押し切るのだ!!」
ラーゼラーは勝利を確信していた。これまでは敵艦の強力なアウトレンジ攻撃に好き放題やられてきたが、いったん射程に捕らえてしまえば数の優勢で絶対に勝てるはずであった。しかし。
「司令、敵艦の反応が消失しました」
「ぬう、またもぐったか、探せ! 奴も無傷ではないはずだ、遠くへいく前に探し出してとどめをさすのだ」
ラーゼラーの命令により駆逐艦が敵戦艦の失探位置へ突出して近距離から探知を行おうとした。しかしそれらの船はことごとく謎の爆発を起こして轟沈した。
「司令……」
「全艦最微速、全周囲警戒、奴は必ずまだ近くにいる。探せ! 彗星帝国の兵として敵を倒さずに引き返すことは許されん」
かくして、ラーゼラー艦隊は再び索敵行動を開始した。いつどこからか襲ってくるかもしれない敵におびえながら。

それから約5分後、太陽系遠方、白色彗星前面宙域
ラーゼラー艦隊をまんまと煙に巻いた『武蔵』は作戦目標である白色彗星の前面宙域にワープアウトしていた。
「白色彗星を確認、お・大きいですね」
神村少尉が、がらでもなく気圧されたような声を出したが無理も無い。艦橋の窓の外にはすでに至近距離にまで迫った白色彗星の圧倒的な威容が視界狭しと迫ってきている。
彼らも25世紀の世界で巨大な宇宙要塞や惑星基地などを見ていたことがあったので想像はしていたが、今眼前に迫りくる白色彗星にはそれらとは違った圧倒的な威圧感があった。
「ヤマトは……こんなものを相手に戦ったのか」
荒島、葉月、桜田たち若者連中は皆顔をひきつらせていた。頭では歴史を学んで知ったつもりでいた。しかしこうやって実物と対面してみると活字の上だけの知識がいかに無意味なものか思い知らされることとなった。
「総員聞け、今作戦の最初の目的は白色彗星の足止めにある。そして今後の作戦を遂行するうえにおいての時間的余裕をえるためにもこの作戦は必ず成功させねばならん。目標、白色彗星、波動砲、発射用意!」
「はいっ」
藤堂艦長の力強い命令のもと、波動砲の発射準備が始まり。全員さきほどまでの余裕などかけらもないほど真剣な表情で自らの仕事に打ち込んでいる。
「補助エンジン出力100%、逆噴射全開」
「偏向フィールドへのエネルギー伝達正常」
「レーダーに障害物反応無し」
「波動砲へエネルギー充填開始、バイパス解放」
それぞれが波動砲発射にむけ準備を整えるなかで『武蔵』の艦首の巨大な砲口にタキオン粒子の青白い光が集まり強大な力となってゆく。
「エネルギー充填50%、美奈さん、彗星の中心核の位置はまだわかりませんか?」
「位置判明、『武蔵』の正面プラス1.1゜、右2.0゜の位置です。それと荒島さん、いつものことですけど下の名で呼ぶのはやめてください」
気まずい顔をなっている荒島中尉の横で桜田少尉や葉月中尉がざまーみろといった表情で含み笑いをしている。
第一艦橋の悪餓鬼コンビの荒島と葉月のことであるから当然神村少尉にも手を出していた。
が、クールを絵に描いたような神村少尉のことであるから毎回空振りとなって近くにいる者に笑われていた。まったくさっきまでの緊迫感はどこへやらである。
「波動エンジン出力120%、補助エンジン出力100%、ともに正常」
権藤大尉の真面目な声で全員が気を取り直して作業を再開する。いいかげんにしないと今度は艦長の雷が落ちるからだ。
「波動砲エネルギー充填80%、セーフティロック解除」
「補助エンジン出力そのまま、逆噴射による彗星との距離維持よし」
「白色彗星、進路および速度変わらず」
「エネルギー充填100%。波動砲手動発射モード、ターゲット・スコープ・オープン」
荒島中尉の席のパネルが割れ、銃身を模したトリガーとターゲット・スコープがせり上がってくる。
「荒島、よく狙って撃て、間違っても中心核には当ててはならんぞ」
「わかっています」
荒島中尉は精一杯力強く答えた気でいたが、語尾は緊張のせいでわずかに震えていた。
さきほどは神村少尉に軽口をいうほどの余裕があったが、彼にとって初めての実戦の波動砲発射である。いざそのときがせまると油汗が流れ、のどが枯れた。
「落ち着け。訓練と違って的に当てなくていいんだから楽なものだ、お前は訓練の成績はよかったんだから大丈夫だよ」
葉月中尉が心配して声をかけるがそう簡単に緊張が解ければ誰も苦労しない。
「目標、彗星中心核左2゜」
「発射30秒前」
荒島中尉はトリガーを握って発射のかまえにはいった。しかしその手は明らかに震えていた。
(まずいな……)
藤堂艦長は予想外の荒島中尉のあせりに危険なものを感じた。このまま彼の手元が狂って中心核に命中でもしたら作戦が全てご破算になる。自動発射ができればそれでいいのだが、艦船や惑星ならまだしもこのような特殊な標的を狙えるようにはできていない。
ここは荒島中尉の腕にまかせるしかないが下手に叱咤激励したところで逆効果になりかねない。
(どうしたものか……まてよ……このバカのことだから)
少し悪いことを思いついた藤堂艦長はタイピンを抜くと気づかれないように前に投げた。
「痛っ?」
後ろで藤堂艦長がなにやら自分を指差して目配せしているのも知らず荒島中尉は手を震わせたままカウントダウンにはいろうとしていた。
「発射……15秒前」
本人は平静をたもとうと努力しているようだが、となりにいる葉月中尉には傍目ではっきりと体が凍り付いているのがわかった。
だが下手に声をかけても駄目なことはさっきわかっているのでどうしようもなくただ見守っていると。
「荒島くん! このくらいのことでなにビクついてるの! あなたが駄目ならあたしが撃つわよ!!」
と、神村少尉が突然きびしい声で荒島中尉を叱りつけた。
「な、なにおぅ誰がびびってるって?」
「あなたよ、さっさとどいたらどう?」
「ふざけるなよ、誰がどくか!」
「どうせはずしちゃうんでしょう」
「誰がはずすか、馬鹿にするなよ」
「だったらやってみなさいよ、本当にできるんでしたらね」
「ああ見せてやる、よく見てやがれよ」
もはや緊張など完全に吹っ飛んでいた。神村少尉との口げんかが意外と効をそうしたようだ。しかしここまでむきになるとは荒島中尉もまだまだ子供である。
「発射3秒前、2,1、ゼロ、艦首波動砲発射!!」
トリガーがひきしぼられ一気に開放された超エネルギーが巨大な槍のごとく、集約された光線となり彗星へむけて吸い込まれてゆく。
一挙に許容量を超える莫大なエネルギーを叩き込まれたガス体は流れを乱され、さらに生じた何万度という高熱によって燃え上がり太陽と化したかのような真っ赤な炎に包まれた。
「反転180゜急速離脱」
『武蔵』は爆発の影響に巻き込まれないように彗星から距離をとってゆく。
「黒田、彗星の状態はどうなっている」
「スキャンしています。速度急速に低下、ガス体もこの様子では6割が燃え尽きると思われます。なお中心の都市部にはダメージは認められません」
「中心核を外したとはいえ波動砲の直撃に耐えるとは大した頑丈さだ」
「ええ、これではこの時代の波動砲が通じなかったのもなっとくいきます。ですがこの『武蔵』の波動砲に耐えられるほどの強度はないようです。速度をさらに下げてコースもずれていっています」
「これなら半月は時間がかせげるな。皆ごくろう、第一次作戦成功だ。それから荒島、見事な射撃だった」
「はっ、ありがとうございます」
荒島中尉は自信たっぷりに答えた。
「せいぜい60点よ」
神村少尉のその一言を荒島中尉は聞き逃さなかった。そして、よせばいいのに。
「なんだと、どういう意味だ」
と、食って掛かった。
「言ったとうりよ。あんな目標目をつぶってても当てられるわ。そんなので喜んでるから60点なのよ」
「うるさい、だいたいあれは当てるんじゃなくて当てちゃ駄目だったんだろうが」
「あんな小さなもの、狙わなきゃ当たりはしないわよ、そんなことでビクついている人に高得点なんかあげられるわけないでしょう。やっぱりわたしが撃てばよかったわ」
口論の末、けっきょく軍配は神村少尉に上がった。やりこめられた荒島中尉は完全にすねてしまっている。
そんな二人を葉月中尉たちは相変わらずの目で眺めていたが、藤堂艦長はやれやれといった表情で見ていた。
さっき緊張をほぐしてやろうと思って神村少尉をけしかけてみたがここまで二人ともむきになるとは思わなかった。もっとも神村少尉のほうは最初は演技だったのだろうが荒島中尉の態度が気に障ったのだろう。
とはいえ、神村少尉の珍しい一面をかいま見た『武蔵』の面々はさらに意気をあげ次の目標へと向かってのワープ準備にはいった。

第6章 完

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