逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第7章 決闘の舞台へ

時系列は『武蔵』が彗星帝国へ波動砲を撃ち込んだ半日後から始まる。

白色彗星帝国 大型艦船用ドック内 デスラー艦

「総統、出撃準備全て整いました。大帝より賜った戦艦『アスタロス』『ケール』ともに帝国外周部で待機しております。総統、ご命令を」
タランの意気込みにデスラーも力強く宣言する。
「全艦出撃、目標『ヤマト』!!」
波動エンジンの爆音をドックに響かせ雄雄しく飛び立ったデスラー艦は、外で待っていた二隻の殲滅戦艦をひきつれると、薄くなった彗星のガス体を抜け一路宿敵『ヤマト』を求めて旅立った。

「総統、全艦異常なし。このままでいけば遅くても明後日には『ヤマト』と接触できます」
「うむ、ごくろう。タラン、私はこれから対ヤマトの作戦の草案を作る。ヤマトの現在の戦力から戦闘開始予定空域のデータとあの二隻のスペックの情報を作戦室のほうへまわしておけ。それから『アスタロス』と『ケール』の艦長に12時間後に作戦会議を開くので出向いてくるよう伝えておいてくれ」
デスラーはタランにそう命じると艦橋を去っていった。
「いよいよ、というわけですなタラン将軍」
「ミル司令。総統は大帝のご期待にそえぬような戦いはいたしませんよ」
「ええ、私もデスラー総統の勇名はよくごぞんじですよ。それにわが軍最強の殲滅戦艦が二隻もあるのですから、よもや負けるなどとは考えてはいませんよ」
ミルのやや棘のある言葉にタランは不快になった。まるで二隻の殲滅戦艦さえあれば作戦などどうでも良い様な言い様であったがタランは顔には出さずに適当に言葉を濁して会話を終わらせた。
「それでは私は自室で休ませてもらいます。ああもちろん作戦会議には出席いたしますので、ではこれで」
ミルが立ち去った後もタランは艦橋でじっと立ち尽くしていた。
(嫌な奴だ)
彗星帝国の軍人の常とはいえ見下すような態度をとってくるのは決して気分のいいものではなかったが、総統の影として不要の災いが降りかからないように気を使ってきた立場として、そういう奴へは適当に話をあわせることにして波風立てないようにすることにしていた。
とはいえ、実際二隻の戦艦の存在はありがたかった。当初は単艦で『ヤマト』と戦うとしたら、デスラー艦自体の戦闘能力は微々たるものなので、かつてイスカンダルから地球へ帰還する途中を襲ったようにデスラー砲をもちいた奇襲攻撃を考えていたのだが、二隻の戦力投入によってどうにか正面きっての決戦にうってでるだけの手駒がそろったことになる。
とはいえ、不安材料が無いわけではない。
第一『ヤマト』の怖さは波動砲に代表されるような兵器の性能ではない。それならば常に『ヤマト』は圧倒的に劣る戦いを続けてきている。
『ヤマト』の本当の強さは、かつてドメル将軍との決戦の時の様に、どれほど危機的な状況に陥ったとしても決してあきらめず、最後の逆転に賭けて戦い続けるしぶとさと、ガミラス星の戦いで見せた様な、どんな常識はずれな戦法をとるか分からない先読みのできない意外性、そして地球へ帰還する際偶然にもデスラー砲をワープでかわした様な、絶妙のタイミングをものにする恐るべき悪運の強さであることをタランは身にしみて分かっていた。
(『ヤマト』を倒せるとしたら『ヤマト』のことを誰よりも知っている総統以外にはおるまい。だがいかに強力とはいえあの二隻を含めたこの三隻ではたして『ヤマト』に勝てるか?)
タランは心の中で自問自答していた。
(それに出撃前に起きた事故も気になる。発表ではガス調整装置のコンピュータミスだというが、本当にそうだろうか? あの巨大な彗星のガス体がコンピュータのミス程度であそこまで崩れ去るものなのか。何者かの攻撃によるものという意見もあったそうだが)
半日前、突如彗星のガス体が崩れ、コースを大きく外れるという事故が起こった。一時的に都市帝国の機能が麻痺し、サーベラーやゲーニッツなどはおろおろとうろたえるばかりであったらしいが、大帝は悠然とかまえて復旧を指示していたという、そのおかげで幸い都市帝国本体へのダメージはさしたるものではなかったが、もとの軌道に戻るためには後半月は必要ということであった。
(いまごろ彗星帝国では攻略スケジュールの調整でおおわらわだろうな、しかしそのおかげで出発ができなくなるかと思ったが予定通りにいってよかった。ズォーダー大帝には感謝せねば)
事実騒ぎが沈静化した後、2戦艦の出撃準備も取りやめになりかけた。しかしズォーダー大帝の勅令によって、なかば強引に出撃してきたのである。
(まあ、サーベラーなどから恨まれるネタがまた増えたが今となってはどうでもよい。
今戦って倒すべき相手は『ヤマト』のみ。待っておれ『ヤマト』よ、デスラー総統の君臨する大ガミラスの力、今一度味わわせてくれようぞ)
きたるべき戦いのときを思い、タランは虚空を睨み静かに闘志を燃やした。

そのころ、白色彗星に起きた異変を気にしながらも、宇宙戦艦ヤマトはただひたすら地球を目指していた。
そして、その作戦会議室内では、突如減速し停止した白色彗星の動きをいぶかしんで、真田の分析をまじえた会議が行われていた。
「真田さん、それで彗星の分析結果はでたんですか?」
ヤマト戦闘班長古代進が全員を代表して質問した、言うまでもなく、それがこの会議を開いた最大目的だからだ。
「ああ、時限レーダーのデータを過去に戻って調べなおしてみたんだが、約12時間前に突如彗星の熱反応が恒星並みに上昇し、その後停止している。だがその1時間後にガス体の修復が始まっていることからすると彗星内部へは影響が無かったらしい。それでその原因だが、どうも外因的なものである可能性が強い」
「どういうことですか、私はてっきり彗星が自分で停止したものと思っていましたが」
「これを見ろ、彗星が赤熱化する直前3秒間の観測データだが、彗星の前面に一瞬強力なタキオン粒子反応が観測できる」
島の質問に真田が答えると。
「タキオン粒子? ということは真田さん」
「うむ、波動砲だ」
その場がどよめいた
「波動砲!? そんな馬鹿な、地球防衛軍の戦艦はすべて土星圏へ集結しているし、波動エンジンを積んだ艦はもう地球にしかないはずでしょう」
「相原落ち着け、説明はまだ続きがある。確かにこの反応は波動砲に極めて酷似しているが、そのエネルギーレベルは『ヤマト』の波動砲の少なく見積もっても1千倍はある。それに不可解なことに、この波動砲を撃ったと思われる艦はどこにも見当たらん。つまりこの波動砲は何もないところからいきなり現れたんだ」
「それはつまり……どういうことなんですか?」
太田が理解できないというふうに真田に尋ねた。
「結論からいうと、この波動砲を撃ったのはおそらくステルス艦だ。それも『ヤマト』のものなどとは比較にならないほど強力な波動エンジンと波動砲を備えたな」
「そんな! 白色彗星だけでも頭が痛いのにまたそんな化け物みたいな奴が現れたというんですか!」
未知のステルス艦の存在に皆が動揺しかけたとき。
「落ち着け、そんな化け物みたいなステルス艦がいるとしても、そいつが攻撃したのは白色彗星だ。それにもしその連中に我々にも敵対する意思があるとしたら、白色彗星だけでなく我々や地球にもとっくに攻撃をかけてきているはずだ。正体はわからないが、敵の敵は味方とも言う、今それにおびえることはないだろう」
『ヤマト』艦長、土方竜提督が、どっしりと貫禄のある声で言うと、皆の動揺もおさまり再び落ち着いた空気が流れた。
「しかし仮に味方だとしてもなんでこっそりと隠れて戦っているんでしょうね。あの彗星のガス体を吹き飛ばしたほどの波動砲をもう一発撃ち込めば簡単に白色彗星を倒せるでしょうに」
太田が疑問に思って言った。
「それは、当の本人達に聞かねば分かるまい。だが艦長の言うとおり、今考えても仕方がないだろう」
真田の一言で話に一応のくぎりがついた。
「それで島、今後の航路計画はどうなっている」
「はい、明日0900にワープを行い、その後一日おきにワープを行います。本当ならもっと早くしたいのですが波動エンジンの調整と乗組員の疲労度を考えたら、これがギリギリの線です。ですが彗星が止まってくれたおかげでこれでも十分に間に合うことができるでしょう」
土方の問いに島は余裕を持って答えた。
「よし、それでは各員持ち場に帰って準備を整えろ。だがこの先なにが起きるかは分からん、常に警戒することを忘れるな」
土方の一言で会議は終了し、『ヤマト』はワープに備えて準備を開始する。

時は瞬く間に流れ、ついに運命の朝がきた。
そして、デスラーも『ヤマト』の航路を先読みして、奇襲をかけるべく『ヤマト』のワープアウト予想空域で待ち伏せを始めていた。
「総統、いよいよですな」
「うむ、今日のこのときをどれほど待ったか。いまこそガミラスの恨みを晴らすときがきた。全艦戦闘体勢、所定の空域に展開し指示を待て」
デスラーの命令により『アスタロス』『ケール』の二隻がゆっくりと動き出す。その巨大さゆえ俊敏性はないが重厚な威容には頼もしさを感じられた。
「微速前進、本艦も作戦開始だ」
デスラー艦もゆっくりと動きだす。さながら決闘場へおもむく剣豪のごとく。
「タラン、『ヤマト』のワープアウト時刻の計算をおこたるなよ」
「もちろんです。すでに『ヤマト』の進路上に設置しておいた監視衛星を使って『ヤマト』の航路は手に取るようにわかります。『ヤマト』は必ず我々の罠の中に正確に飛び込んでくることでしょう」
デスラーにタランは自信たっぷりに答えた。
「ああ、だが最後まで決して気を緩めるな、あの『ヤマト』のことだ、どんな偶然が味方するかもしれん」
「はっ」
タランも気を引き締めなおして返事を返す。
「現在、宇宙時間0845、『ヤマト』ワープアウト予定時間まであと15分です、総統」
タランが、そのときが近づいていることを報告する。そしてデスラーは沈黙でそれに答える。艦橋を張り詰めた糸のような緊張がおおった、だがそのとき。
「デスラー総統、彗星帝国より直接通信が入っております」
と、通信室で状況報告を行っていたはずのミルが入ってきて言った。
「ふ、作戦室のお歴々がいまさら何の用だというのかね?」
デスラーは不快げに答えた。
「そうとも、おおかたサーベラー総参謀長あたりが横槍を入れようというのだろうがもはや止まりはしない」
タランもこれまでの不満の反動を吐き出して講義する。
「いいえ、これは大帝ご自身からの直接通信です」
「なに、どういうことだ?」
ミルの思いもよらぬ答えにさしものデスラーも表情を変える。
「わたしはなにも……ですが通信はすでにつながっております、詳しいことは大帝より直接お聞きください」
ミルは自分に聞かれても困るというふうな表情をして、艦橋の通信機を指差した。
「いかがいたしますか、総統?」
「出よう」
デスラーが短く答えると、タランは通信機を操作し、やがてパネルにズォーダー大帝の姿が浮かび上がった。

第7章 完

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