逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第8章  集いし同胞

「大帝」
スクリーンに現れたズォーダー大帝にデスラーは短く話しかけた。
「デスラー、しばらくだね」
ズォーダー大帝はいつもと変わらない様子でデスラーに答えた。
「どういうおつもりです? この場はこれより戦場となるのです、あいさつはすでにすませたはずです」
さしものデスラーも怒気を含んだ声となる。
「デスラー、突然だが状況が変わった。ただちに作戦を中止し全艦を引き揚げさせたまえ」
これにはさすがのデスラーも驚いた。そして声を荒げて言った。
「いかに大帝の命といえど、それには従えません。大帝に命を救われて以来のこの1年、そのすべてはこの日のためにあったのです。どうあろうと『ヤマト』と決着をつけないかぎり私とガミラスが前に進むことはできないのです」
さらにデスラーに続いてタランも。
「そのとおりです大帝、我等は片時たりとも大帝よりたまわったご恩を忘れたことはありません。しかし『ヤマト』との決戦はガミラスの宿命、もはや神であろうと止めることはできません」
と、決然と言った。
だが、ズォーダー大帝は涼しい顔をして言った。
「デスラーよ、その言葉を聞いて安心したよ、やはりあなたは最高の戦士でありガミラスの総統にふさわしい男だ。すまなかった、悪気はなかったのだが、私は作戦を中止せよとは言ったが『ヤマト』との決戦をやめよとは言ってはいってはおらんぞ」
「それはどういうことです、大帝?」
ズォーダーの言っていることの意味がわからずデスラーが問い返すと。
「言ったろう、状況が変わったと、実はどうしてもあなたに戻ってきてもらわねばならなくなったのだ、あなたにしかできないことなのでね」
デスラーはその言葉を黙って聞いていた。大帝がわけも無く戦いに水を差すような男ではないことはよくわかっていた。ということはかなり重要な事態がおきたということになる。だがそれにしては大帝の涼しげな表情のわけがわからなかったが。
「いったいなにが起きたというのですか?」
タランがたまりかねて尋ねた。
「実は客人が来ていてね、その出迎えを頼みたいのだ」
「なんと、大帝あなたはなにをお考えなのですか、この戦いの意義は申し上げたはずです、我々は……」
「待て、タラン」
激昂して抗議するタランを制してデスラーは大帝に語りかけた。
「大帝、まだなにか隠しておられますね、ですがもう明かされてもよいのではありませんか」
「ふふ、見抜かれたか、ならばもったいつけるのはここまでにしておこう。紹介するよデスラー、あなたの古い友人たちを」
ズォーダーがそう言うとパネルから大帝の姿が消え、かわりに大帝の言う客人たちの船が映し出された。
「そ、総統、あれは……」
「お、おお……」
デスラーとタランはともに言葉を失い、その場に立ち尽くした。
濃緑色の塗装に身を包んだスマートな巡洋艦、3つの原色を身にまとった巨大な空母、そして巨砲と航空甲板をあわせ持つ美しき戦闘空母。
二人が見たもの、それは懐かしき大ガミラス帝国の戦士たちの駆る宇宙艦隊の勇姿だったのだ。
「我がガミラスの同胞たち、生きて、生き延びていてくれたのか」
「総統」
そのとき、通信機から入電を示すサイン音が鳴り、タランは通信機に駆け寄った。
「……ああ、わたしだ、タランだ……総統もここにおられる……よし、わかった。総統、艦隊の司令官より入電です、パネルにまわします」
タランがそう言うと、パネルに屈強な男の姿が現れた。そしてデスラーも鋭い視線でまなざしを返す。
「総統、ご無事でしたか、自分は旧オメガ戦線副指令をまかされておりましたクリューゲルです。ハイデルン司令亡き後は司令代行を務め、ガミラス崩壊後は各戦線よりの生き残りをまとめ、小マゼラン雲にて艦隊の再起を図っておりました」
「小マゼラン雲……そんなところで」
小マゼラン雲はガミラスの勢力圏内ではあるが、たいした資源も進化した惑星も少ないため銀河系侵攻を始めて以来なおざりにされていた場所なのである。それゆえデスラーも重点的に探そうとはせず早々と捜索を打ち切った地域であった。
「ガミラス星崩壊以後、補給の費えた各戦線は状況を維持できなくなり、制圧した惑星の反乱や過酷な自然環境のため次々と撤退を余儀なくされていましたが、小マゼラン雲のゲルニューム星の工場基地が健在であったことが判明し、私の判断で集結した各戦隊の再建を行っておりました」
「ゲルニューム星、そうか小マゼラン雲にはあの基地が残っていたんだ」
タランが思い出して言った。ゲルニューム星はたいして開発のされていなかった小マゼラン雲でほぼ唯一の大規模な基地であり、このゲルニューム星の基地には艦船の建造施設や修理施設があって艦隊の再建にはうってつけであった。
また新兵器の開発工場もあって、かつて『ヤマト』を苦しめたドリルミサイルや瞬間物質移送機はここで開発されたものであった。
ただ、ドメル将軍の敗北以後、本土決戦のためゲルニューム星の兵器や資材はすべてガミラス本星へと移すように命じられ、その後閉鎖されたはずであるからデスラーもタランもいままでその存在を忘れていたのである。
「実はゲルニューム星基地よりガミラス本星へと向かっていたタンカーロケットの一部が難破し、基地へ引き上げていたのです。そのため基地施設の搬送が遅れガミラス崩壊後も一部の施設が稼動しつづけていたのです。我々は残った施設で基地を再建し、その施設を利用して艦隊の修理、補給を行っておりました。しかしそんな辺境の基地に駐留してしまったせいで、これまで総統のご存命に1年間も気づかずに大変な苦労をおかけしてしまいました。不肖このクリューゲル、その全責任をこの命をもってあがないいたしますので、どうかこの者達を再び総統の部下としてお受け取りください」
クリューゲルはそう言ってコスモガンを取り出し自らの心臓に押し当てた。
「デスラー総統、ばんざ……」
「待て! クリューゲル」
引き金を引こうとしたクリューゲルをデスラーの鋭い声が押しとどめた。
「クリューゲル、私はガミラス帝星を失ってこれまで苦渋に満ちた日々を送ってきた、しかし無意味に時をすごしてきたわけではない。彗星帝国の客将として戦うことは、私に新たな戦いの術を学ばせ、彼らの旅の知識は私にさらに広大な宇宙の姿を見せた。確かに私は『ヤマト』に敗れてこの一年、屈辱に甘んじた、しかし私はそれと引き換えに新たな力を得た、そして一年の時は私の前に真のガミラスの魂を持つ者を呼び寄せてくれた、だから今こそ言える「我々は『ヤマト』に勝てる」、そして大ガミラスの新たなる栄光の日々はそのときにこそ始まり再び大宇宙に君臨する盟主となるのだ!」
「総統……」
タランもクリューゲルも感に堪えず涙を流していた、デスラー総統のいる限りガミラスは不滅であり、総統のために命をささげることこそ大ガミラスの戦士たる本望、デスラーの言葉には彼らがそう感じずにはおられない力強さがあった。
「クリューゲル、この一年間我らが同胞たちをよくぞ守り抜いてきた、その功績を称えることこそあれ私には君を責める理由など何も無い、よってそのまま君は引き続き艦隊の指揮をとり対『ヤマト』殲滅作戦の陣頭に立ってもらうことになる、よいな」
「はっ」
クリューゲルは精一杯の敬礼をもってこれに答える。
「私はいまからそちらへおもむく、しばしの間待って居れ」
「はっ、我ら一同総統閣下の来艦を喜んでお待ちしております」
クリューゲルはそう言ってパネルから消えた。そして再びズォーダー大帝の姿がスクリーンに映し出された。
「デスラー総統、これからどうするのかね?」
「このデスラーの、いえガミラスの望みはひとつ、ヤマト打倒以外にありません。わたしはこれより全ガミラスの誇りを束ね、最後の決戦に臨みます」
「そうか、存分に戦うがいい。それから君に預けた二隻はそのまま持ってゆくがいい、それでは幸運を祈る」
「大帝、お心遣い感謝します」
ズォーダー大帝は静かに笑って姿を消した。
「タラン、進路反転180゜勇士たちを出迎えにいくぞ」
「ははっ、進路反転180゜目標大ガミラス帝国艦隊」
デスラー艦は進路を変えワープの態勢に入った。
「しかし総統、もし彗星帝国で『アスタロス』と『ケール』を預からず予定通りに出撃していたとしたら到底彼らとの合流は不可能でしたな」
「うむ、大帝にはいくら感謝してもし足りぬ思いだ、しかしどうやら運命は私に、いや我らガミラスに味方しているらしい、タランよ、大ガミラスの誇り高き魂は運命をも引き寄せるのだ」
「はい、我らが大ガミラスに永遠に日の没するときはなし、それを再び『ヤマト』に思い知らせてやりましょう」
タランは希望に満ちた声で力強く言った。
〈ワープ開始10秒前、全システム異常なし〉
(『ヤマト』よ、本当に悪運の強い奴だ、しかし今回ばかりはその悪運も凶運に変わることになる、デスラー総統の英知に加え大ガミラスの勇士達が結集すればもはや恐れるものは何もない。せいぜいもうけたわずかな命を大事に使うがいい)
コンピュータの無機質な声がワープ開始を告げるなか、タランは静かに思った。
その数秒後、デスラー艦、アスタロス、ケールはワープによりその姿を消した。

そして、そのわずか十数秒後『ヤマト』がその姿を現した。
「ワープ終了」
「艦の損傷を認めず」
「周囲の空間に異常なし」
いつものようにワープを終え古代はほっと一息をついた。
(ふう、成功か、これならなんとか白色彗星の到達以前に防衛軍と合流できそうだな)
だが、古代の思惑とは裏腹にデスラーは史実を圧倒的に上回る戦力を持って『ヤマト』に挑もうとしている。歴史は確実に変わりつつあった。

そして、そのころ『武蔵』は太陽系内へひそかに侵入し、後の歴史を大きく変えるであろう作戦を展開しつつあった。
「主砲射撃戦用意」
『武蔵』の主砲が重々しく旋回し新たに歴史を変える一弾が放たれる。そしてその爆炎の先にある未来の姿を知る者はまだいない。

第8章 完

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