逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第11章 好敵手との決着、そして最悪の邂逅

『ヤマト』がデスラー艦に突入してもう30分ほどがすぎた。
ガミラス側も善戦したものの、戦力の半分をしめるアンドロイド兵のコントロール装置が破壊されるにいたって各所で戦線を維持できなくなり次々に撤退を余儀なくされていた。
対する『ヤマト』勢はその勢いに乗り、兵器庫、コンピュータ室、機関室などの重要施設を次々に破壊していった。
各部で爆発が続くデスラー艦、もはや『ヤマト』側の優勢は揺るぎようが無かった。

そして、その様子を『武蔵』はその身を隠しながらじっと見守っていた。
「デスラー艦各所のエネルギー反応消失、どうやら白兵戦は『ヤマト』の勝ちのようです」
レーダーパネルに映るエネルギー反応を見ながら神村少尉はそう言った。
「ふう、一時はどうなることかと思ったけどこれで史実どおりにデスラーから白色彗星の弱点を彼らが聞きだしてくれたらあとは大丈夫だな」
桜田中尉もそんなことをつぶやいた。だが。
「おや……?」
「どうした? 神村」
「いえ、いま一瞬レーダーに・・・気のせいかもしれません」
確かに今レーダーに一瞬、妙な波紋が浮かんだような気がした、すぐに消えてしまったので神村少尉は気のせいかもと思ったが、一抹の不安が脳裏をよぎった。そして悪いことに、それは最悪の形で的中することになるのである。

そのころ、デスラー艦のブリッジでは古代進とデスラーの最後の戦いが終わろうとしていた。
「構えろ、デスラー」
古代はゆっくりとコスモガンの銃口をデスラーに向けた、デスラーも無言でホルスターからコスモガンを取り出し古代へと向ける。
「総統……」
廃墟と化したブリッジのかたすみからタランがデスラーの身を案じてつぶやいた。
だが、彼自身も左腕にひどい怪我を負っている、ブリッジが崩壊したときに崩れ落ちてきた瓦礫にやられたのだ、本来なら死んで当然の状況だったが、タランが瓦礫に押しつぶされる直前、ひとりの若い兵士が身を挺してタランを救ったのだ。
「総統……」
タランの周りには同じく生き残った兵士数人が立っていた。ともに総統の御身を守るために各艦からよりすぐられた精鋭たちである。
彼らもタランと同じように目の前の決闘をじっと見守っていた。本来なら総統に近づく敵はすべて排除するのが彼らの任務であるが、いかなる場合であろうと一対一の決闘に水をさすような無粋なまねはガミラスの軍人として絶対にするわけにはいかなかった。
「……」
時が流れた。ふたりの戦士はそれぞれの銃口を相手にさだめたまま微動だにすることはなかった。
それは時間にしてほんの1分たらずのことだったかもしれないが、その場でふたりを見守る者たちにとっては永遠とも思える長さに感じられた。
「撃て、デスラー」
最初に口火を切ったのはやはり若い古代のほうだった。
「古代、撃て」
デスラーは古代のせりふをそのまま返した。
そして、それがコインの落ちる音だったかのようにふたりは同時に引き金に力をこめた。
そのとき。
「総統、危ない!!」
誘爆がブリッジを襲い、ふたりが立っている付近の天井が轟音をたてて崩れ落ちた。
「うわぁ!!」
巻き上げられた粉塵が周囲を包み、何も見えなくなった。
「総統、総統!!」
タランは必死にデスラーを呼んだ、本当は今すぐにでも総統のもとへ駆けつけたかったがこの粉塵のなかでは何もできない。
そしてもうひとり粉塵のなかへと消えたいとしい人の姿を探して声をからして叫んでいる者の姿がそこにあった。
「古代くん、古代くーん!!」
森雪はこの戦いのさなか衛生兵としてデスラー艦へ来ていた。だが戦いのなかで古代を探しているうちにここにたどりつき物陰から様子をうかがっていたのである。
やがて噴煙もおさまり二人の姿がぼんやりと浮かび上がってきた。
「ぐうぅぅ……」
「ぬぬぬぬ……」
二人はさきほどと同じ場所に立っていた、しかし破片の雨を全身に浴びたらしくからだのあちこちに血がにじんでいる、だがそれでもなお、ふたりとも銃を取り落とすことなくかまえていた。
「総統……」
「古代くん……」
タラン、そして雪が見守るなか、ついにふたりは引き金を引き絞った。
だがそのとき。
「死ねぇぇデスラーぁぁ!!」
瓦礫のかげからミルが飛び出してデスラーに銃口を向けた。
しかしお互いに全神経を集中していた古代とデスラーはとっさに反応できず、タランや兵士たちがデスラーをかばおうとしたが間に合わなかった。
「ぐわっ!!」
ミルの銃弾はデスラーの左肩を打ち抜いた。
だが古代の撃った弾は古代がとっさに銃口をそらしたためわずかにそれてはずれていた。
「ミル、きさまぁ!!」
タランたちはとっさに銃を取り出してミルを狙おうとした。しかしそれよりはやくミルの銃口はデスラーの心臓へと向けられていた。
「デスラー、お前のおかげでわたしはぁ!!」
狂気に目をそめたミルはとどめの一発を撃ち込もうとした。古代はミルに狙いを定めようとするが激痛で体がうまく動かない。
「死ねぇ!!」
ミルの指が引き金にかかり、引かれようとしたその一瞬。ひとすじの閃光が走りミルの手からコスモガンを吹き飛ばした。
「なにぃ、だ、誰だ!?」
だがミルの叫びに答える者はいなかった。次の瞬間、ミルはタランや兵たちの一斉射撃をあび、そのまま爆炎のなかへ吹き飛ばされて消えた。
「総統、大丈夫ですか!?」
タランたちはくずおれたデスラーにあわてて駆け寄った。弾丸はデスラーの左肩を射抜き骨にまで傷を与えているようだった。
傷口を押さえる手の内側から真紅の血がとめどもなくあふれ出している。
「わたしは……大丈夫だ……」
デスラーは苦悶の表情を浮かべながらも気高く言い放った。だが傷はかなり深い、このままでは命すら危ういだろう。
「総統……くそっ、軍医がいればっ!」
もはやこの船の軍医は戦いのなかでどうなったのかわからない、かといってほかの艦から呼ぶにしても行くにしても到底間に合いはすまい。
「ぅぅぅぅっ……っ?」
失血で意識すら薄れゆくなか、デスラーの眼になにかが映った、彼は途切れそうになる意識をなんとか振り起こして眼を開けた。
「うごかないで、今傷の手当てをします」
デスラーの瞳に映ったのは、こんな戦場には似つかわしくない美しい女性の姿だった。
宇宙服からして『ヤマト』の乗組員だろう、デスラーは一瞬その姿に見とれてしまった。
「雪……」
古代がそうつぶやいた。
「き、きさま、総統になにを」
われに返ったタランたちは雪に銃口を向けた。だがデスラーは静かにそれをせいした。
「タラン……よい」
タランたちは銃を下ろした、そうしているうちにも雪はてきぱきと傷口を止血し包帯をまいていく。
「…………」
デスラーは黙々と手当てを続ける雪の顔をじっと眺めていた。
(似ている・・・)
収まっていく痛みとしだいにはっきりしていく意識のなかでデスラーはそんなことを考えていた。
雪は彼がひそかにおもいを寄せていたイスカンダル星の女王スターシャとうりふたつだったからである。
そして、そんな様をタランたちもじっと見守っていた。古代も銃を下ろし、自らの恋人の姿を黙って見つめていた。
「なせだ……わたしはガミラスの総統、きさまたちにとって憎みてもあまりある仇敵のはず、ここでわたしが死ねばきさまたちの勝ちだ、なぜ助ける?」
デスラーはまるで独り言のように雪に問いかけた。
「目の前に傷ついている人がいる、人が人を助けるのにほかに理由がいりますか」
雪は傷の手当てをつづけながら静かに答えた。
「わたしを助けたところでどうなるというのだ、わたしが一言命じればおまえたちを殺すこともできるのだぞ」
「たとえ自分の命がなくなったとしても、かわりに誰かの命を残すことができるのなら本望です、それにあなたの身を案じる人たちの前であなたが死ねば多くの悲しみが残ります、わたしはこの命にかえてもそれだけは見たくないんです」
雪の言葉はひとことひとことがデスラーの心に染み入った、優しく語り掛けるような声、まるで母が子をさとしているような温かさがそこにはあった。
「…………」
「それに、わたしたちはもうあなた方を憎んではいません、憎しみはあの最後の戦いの日に捨てました、もうわたしたちは憎しみで戦うことはありません」
雪は包帯を巻き終わるとゆっくりとデスラーから離れた。
そして、しばらくのあいだ沈黙が続いた。
「古代……一年前、私もガミラスのために、その興亡を賭けて地球と戦った。そして今、私は見た……地球のために命を賭けているお前たちの姿を、な」
静かに、ゆっくりと語るデスラーの言葉をふたりは立ち尽くしたまま聞いていた。
「しかし、今私が見たものは何だ……ガミラスのためとはいえ、これまで私は破壊と暴力にのみ、ひたすら美しさを求めて生きて来た……私は、孤独だった……私の目には、愛するもの、慈しむものの姿が映らなかった……」
天を仰ぎ慨嘆するデスラーの言葉を、雪は息をつめ、タランはうなだれて聞いていた。
「確かに私は『ヤマト』に勝った。しかし、今……私は、この身を彗星帝国に寄せていたことが恥ずかしい。侵略と略奪に明け暮れる彼らに比べれば、わたしの心は……わたしの心ははるかに地球人類に近い……」
デスラーは古代たちに背を向けるとゆっくりとコスモガンをホルスターに納めた。同時に古代も同じようにコスモガンを腰のホルスターへと下ろした。
「もう『ヤマト』への恨みは消えた……タラン、行くぞ」
デスラーは呆然としているタランを振り返る。
「は、はっ!」
マントを翻し、タランを従えたデスラーは、そのままゆっくりと出口へ向かって歩みだし、数歩進んで背を向けたまま止まった。
「古代……白色彗星の渦の中心核を狙え……『ヤマト』なら戦う手段はいくらでもあるはずだ……成功を祈る、ふふふふ……」
謎めいた笑いを残し、デスラーは再び大股に歩を進め始めた。
「さらばだ。いつの日かまた会おう」
その言葉を最後にデスラーは通路へと姿を消した。
「デスラー……」
一隻の救命艇がデスラー艦から離れ、空母へと向かっている。古代と雪はそれを眺めやりながら武人としての誇りを失わないデスラーに深い敬意を抱いた。

「ガミラス艦隊、『ヤマト』から離れていきます」
戦艦『武蔵』の艦橋で神村少尉の報告を聞きながら藤堂艦長は静かに瞑目していた。
「そうか、これでデスラーは生き残り、ガミラスは滅びないことになるな、我々の知る歴史とは大きく異なってきてしまったか」
「そうですね、しかしどうあれこれが我々がしようとしていることの結果です。受け入れるしかないでしょう」
藤堂艦長の言葉に黒田大尉が静かに答えた。
「ですが艦長、予定ではこれから『ヤマト』とコンタクトするはずでしたけど、どうしますか?」
「今すぐには無理だろう、計画を変更して決行は明朝にする。それまでには『ヤマト』のほうも落ち着くだろう。皆今のうちに休んで英気を養っておけ、明日はおそらくこれまでで一番長い日になるだろうからな」
『武蔵』はそれから『ヤマト』の周囲をつかず離れずついていきながら乗組員たちは一時のやすらぎに身をゆだねていた。

だが半日後、そんな平穏も突然のサイレンによって打ち破られた。
「どうした、何事だ!」
緊急配備の警報によって艦橋に駆けつけてきた藤堂艦長が神村少尉に尋ねた。すでに全員が緊急配備についている。
「『ヤマト』前面50万宇宙キロに空間のゆがみを確認、特大サイズです」
「なにっ! 『ヤマト』は気づいていないのか?」
「そのようです、この時代のレーダーでは探知できないのかも、このままでは正面衝突します、そうなったら『ヤマト』はどうなるかわかりません」
事態は予想以上に深刻だった。せっかくガミラスから救った『ヤマト』をこのまま黙って見捨てるわけにはいかない、藤堂艦長は決断をせまられた。
「『ヤマト』の前面に回りこめ、このまま黙って見ているわけにはいかん」
「了解」
山城中尉が舵を操作し、船を動かそうとしたそのとき、突然神村少尉がはじかれたように言った。
「かっ艦長、異常空間の解析終了、あ、あれは我々が飲み込まれた次元の穴と同じものです!!」
「なにぃ!!」
艦長以下すべてのものが驚きのあまり声をあげた、まさかこんなところであれと出会うとは思わなかった、これで元の世界へ帰るための手がかりができると誰しもが思った。
だが、その期待は即座に打ち砕かれた。
「艦長、異常空間に重力波反応、何かが出てきます」
「ビデオパネル最大投影!!」
『武蔵』のメインスクリーンに最大倍率で前方の異常空間が映し出された。見た目には異常があるようには見えないがフィルターをかけることによって空間が捻じ曲がっているのがはっきりわかった。
「なんだ……船!?」
次元の歪みから戦艦の艦首らしきものが現れた。そしてその次の瞬間次元の裂け目はまばゆい光芒とともに破裂した。
「ぬわぁっ!!」
真っ白い光がパネルをおおい皆はあまりの明るさに目をおおった。

「く、くそぉなんだというんだ……か、艦長! あれは!!」
目の痛みをこらえながら眼を開けた荒島中尉は愕然とした。同時に葉月中尉や山城中尉も驚愕に顔を固まらせている。
「神村! 確認しろ!!」
藤堂艦長も動揺を隠せない、それは彼らにとって忘れられない忌まわしい影、数百年におよぶ地球の敵。
「巡洋艦2、駆逐艦7、識別信号パープル、エネルギー反応……ボラーチュウム100……間違いありません、ボラー連邦艦隊です!!」
「総員、戦闘配備!!」

警報が艦内を包み『武蔵』の主砲が動き出す。
なぜこの場所はボラー艦隊が、そして『ヤマト』の運命は。
運命の歯車は車軸をはずれ、いまや地を転がり始めた。

第11章 完

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