逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第12章 「ヤマトを守れ! 対決、ボラー連邦艦隊」

ガミラスとの決戦をくぐりぬけデスラーと和解した『ヤマト』
史実とは逆に生き残ったデスラーは配下の艦隊とともにどこかへ去り、一時の静寂がおとずれる
だがあの旅立ちの日に『武蔵』を飲み込んだ次元の穴が再び出現
そこから現れたのは数百年にわたって地球と対立を続けてきたボラー連邦の艦隊だった
即座に戦闘配備をとる『武蔵』
はたして『ヤマト』を守り、歴史を変えることはできるのか

「未確認艦隊接近、距離38万宇宙キロ」
『ヤマト』の艦橋に緊張が走る。ようやくとデスラー艦隊との戦いの修理が一息ついた矢先にまた未確認艦隊の出現である。
「雪、識別はまだか?」
古代が雪に確認をもとめた。とはいえこんなところに地球の艦隊がいるはずはない、敵だということだけははっきりしていた。
「データベースにありません、速度20宇宙ノットでまっすぐこちらへ向かってきます」
「主砲発射準備、急げ」
『ヤマト』の主砲が動き出す。まだ修理は完全ではないが真田の懸命の努力によって主要部分の機能は復活していた。
「コスモタイガー発進準備」
さらに艦載機発進口から加藤 三郎隊長率いるコスモタイガー隊が出撃していく。先のデスラー艦との戦いでは活躍できなかったのでうっぷんを晴らすかのように凄い勢いで発進していった。
「雪、敵艦隊の編成は?」
「はい、巡洋艦級2、駆逐艦級7の中規模艦隊です」
『ヤマト』の艦橋を安堵の空気が流れた。恐らくはガミラス艦隊との戦いで疲弊したところを襲撃しようという腹だろうがこの程度の艦隊ならば返り討ちにできる。
しかし、事態は『ヤマト』の面々が考えているような甘いものではなかったのである。

そして楽観ムードのただよう『ヤマト』とは正反対に『武蔵』ではなかば恐慌状態におちいっていた。
「砲撃準備、いそげぇ」
「機関最大、出力あげろぉ」
矢継ぎ早に命令が飛び『武蔵』は臨戦態勢にはいる。25世紀に生きた彼らはボラーがどういう連中なのかよくわかっている、はなから平和的な考えなどはない。
「ボラー艦隊、『ヤマト』まであと37万宇宙キロ」
「全速であいだにはいりこめ、このままでは確実に『ヤマト』は沈められる!」
藤堂艦長をはじめとする『武蔵』の面々にこれまでのような余裕はない、200年の格差があったこれまでの敵とは違う同年代の敵である。いかな『武蔵』が戦艦とはいえ勝てる確信はない。
「ボラー艦隊、『ヤマト』をロックオンしています。ミサイル発射態勢に入ったもよう」
この時代の艦船が2404年のミサイルに耐えられはしない、むろん『ヤマト』も例外ではない。
「やむをえん、ステルス体勢解除、攻撃を開始する」
藤堂艦長は正面からぶつかる決意をした。けっして有利な状況ではないが『ヤマト』がやられればそこですべては無に帰すのだ。
「了解、ステルス解除」
「正面からぶつかる、いくぞ!!」
ステルスの隠れみのを脱ぎ捨てついに『武蔵』がその姿をあらわした。そのまま速度をゆるめず一直線にボラー艦隊へと突っ込んでいく。
「撃て!!」
『武蔵』の主砲がボラー艦隊へ向かって火を吐く、同時にボラー艦隊もミサイル攻撃を開始した。

「な、なんだあの戦艦は?」
突然現れた『武蔵』の姿に『ヤマト』の艦橋は驚愕に包まれた。
何もない空間から突如出現したその戦艦はいきなり現れたかと思うと前方の艦隊へ向かって攻撃を開始したのだ。
「雪、なんであの戦艦の接近を探知できなかったんだ?」
古代が怒鳴りつけるように雪に叫んだ。
「それが、いきなり現れたのよ、レーダーにはそれまでなにも映っていなかったのに」
「まさか、ワープか?」
古代がとっさに思いついたことを言った。
つい先日にデスラーの瞬間物質移送機を使った戦法に苦しめられた経験からのものだったがすぐに真田がそれを否定した。
「いや、ワープの痕跡は一切ない。もちろん瞬間物質移送機を使ったものでもない、本当に突然出現したんだ」
「ならいったいどうやったというんだ!?」
「詳しくは分からんが、高度なステルス機構の一種だと思う」
この時代の技術力ですぐに『武蔵』がステルスを使っているのだと気づいた真田はさすがであるがその方法まで理解するのはやはり無理であった。
「未確認艦隊と未確認戦艦、近距離砲戦に突入します」
現実に引き戻す雪の声に『ヤマト』のクルーたちの目は前方へと集中した。

《撃てっ!》
『武蔵』の藤堂艦長とボラーの艦隊司令官の声が虚空をはさんで同時にこだました。
とはいえボラーの艦隊司令にとってはなにやらわけのわからない事態が起こり目の前に現れた見慣れない地球の艦の仕業だと勘ぐって攻撃を仕掛けたが、今度は地球の主力級戦艦が現れたからそちらへ攻撃を移しただけだった。
これは当然ここが過去の世界だと知らないからだったからなのだがあいにく『武蔵』のほうにはそんなことを知らせるつもりは毛頭なかった。
「ミサイル迎撃開始」
『武蔵』のパルスビーム砲と艦対空ミサイルが発射されボラーのミサイルとぶつかり合う、だがそれらの防空網をくぐりぬけた何発かのミサイルが『武蔵』に命中し爆発する。
「左舷中央部に被弾」
「左舷艦尾発射管に損傷」
被弾の衝撃でゆらぐ『武蔵』の各所から損害報告が届く、これまでの一方的な戦いとは違い目の前の相手は確実に『武蔵』を傷つけ沈める能力を持っているのだ。
「ダメージコントロール、訓練通りにかかれ。撃ち方ゆるめるな!!」
『武蔵』からも反撃の砲火が放たれる。だが敵もさるもので小型艦ゆえの敏捷性を生かして微妙に砲撃の軸線をずらしてダメージをそらしていた。
「零式空間魚雷、発射!!」
それならばと『武蔵』の魚雷発射管から8発の零式空間魚雷が放たれる。
だが23世紀ではまだだが25世紀の常識では艦船に亜空間ソナーが装備されているのは常識である。
亜空間の揺らぎを観測してなにかが向かってくるのは感知していた。
「命中、2隻撃沈です」
ボラー駆逐艦2隻が爆発して沈んでいく、だが発射した魚雷の本数からすると半分以下の戦果でしかなかった。
「くそ、あいつらよけやがった」
荒島中尉が悔しげに言う。ボラー艦隊は零式空間魚雷の接近を見切り、寸前で回避行動をおこなったために半数以上によけられてしまった。
恐らく次発を撃ったとしても当たる確立は極めて低い。
「やむをえん、主砲連続斉射、なんとしてでもここで全滅させるんだ」
藤堂艦長の激がとび『武蔵』は『ヤマト』とボラー艦隊とのあいだに立ちふさがって全力砲撃戦に移った。
「撃てぃ!!」
『武蔵』の12門の主砲から絶え間なく巨弾が撃ちだされる。
だが同時に艦腹をさらけだしている『武蔵』にもボラー艦隊の集中攻撃が加えられ損傷が広がっていく。
「艦首被弾」
「中央区パルスビーム砲2基喪失」
「右舷魚雷発射管室に火災発生」
被弾によって『武蔵』が悲鳴を上げているのがわかる、しかし『武蔵』も戦艦の意地を見せ、巡洋艦や駆逐艦の砲では簡単に致命傷を許さない。
「敵駆逐艦1隻撃沈、巡洋艦1隻に命中弾1」
もちろん『武蔵』の砲撃も着実にボラー艦隊を捉えていた。『武蔵』がボラー艦隊の砲を受けきれるのに対して巡洋艦と駆逐艦だけのボラー艦隊は『武蔵』の主砲砲撃に耐えられず直撃弾を出せばそのままそれが致命傷へとなっていた。
「よし、このままなら勝てる」
葉月中尉が思わずつぶやいたように戦況は『武蔵』にとって有利に見えた、しかし。
「敵艦隊から駆逐艦3隻が分離、『ヤマト』へ向かっています」
「なんだと!!」
まさかこの状況で敵が戦力を分散するような真似をするとは思わなかった藤堂艦長は驚愕した。
「まずい、『ヤマト』の戦力ではあのボラー艦には歯が立たん、早く撃沈するんだ!」
「だめです、今動けば敵巡洋艦と『ヤマト』が正面から相対することになります」
いかに『武蔵』が強力な戦艦といえどその砲塔は4基しかなく最大4隻としか同時に戦うことはできない。
「まずい、どうする……」
本当はこうして考えてる時間すら惜しい、しかし『武蔵』は敵巡洋艦と渡り合うだけで手一杯ですぐに敵駆逐艦隊まで攻撃することができない。
だがそのとき。
〔艦長、我々が行きます!!〕
「桑田、武部、お前たちか!」
それは『武蔵』にたった4機だけ搭載されている艦上戦闘爆撃機『シューティングスター』のパイロット桑田虎雄少尉と武部高雄少尉の声であった。
〔我々が出撃して敵駆逐艦を食い止めます〕
「馬鹿な『シューティングスター』は偵察機だぞ、無茶を言うな」
『シューティングスター』は戦闘爆撃機ではあるもののその就役したのは西暦2390年と古くとても一線で戦わせられるような機体ではない。
ただ量産性、汎用性が高く速度だけは改良により次世代機に匹敵するようにされているため偵察機、連絡機として残されているのである。
〔我々を惜しんで残したとしても『ヤマト』がやられてしまっては無意味です、旧式機でも時間くらいはかせいでみせます。大丈夫、ボラーごときにやすやすとやられはしません〕
「わかった、だがけっして無茶はするなよ!」
〔了解!!〕
『武蔵』の艦尾艦載機発進口が開き、4機の『シューティングスター』が勇躍出撃した。

「倉田、剣、着いてきてるか?」
無線に武部少尉の声が響いた。
「大丈夫です」
「問題ありません」
ふたりの若者の元気な声がそれに答えた。
武部少尉と桑田少尉は飛行歴5年のベテランだがこの倉田健一一等飛行士と剣岳人一等飛行士は今回『武蔵』に初めて乗り込んだ新米である。
けれどこのパトロール任務中に武部と桑田によって徹底的に飛行技術を叩き込まれもはやその技量はかなりの粋までたっしていた。
「よし、倉田は俺に、剣は桑田について2機編隊でやれ、はぐれるなよ、行くぞ!」
かくして2機一組に分かれた編隊はそれぞれ別の駆逐艦に襲い掛かった。

だが当然接近してくるシューティングスターの姿はボラー艦のほうでも捉えていた。
「敵航空機編隊4機接近」
「なんだあれは、あんな前世紀の遺物を持ち出してくるとは片腹痛い、蹴散らしてしまえ!!」
たちまちボラー艦2隻から猛烈な対空砲火が始まり4機を襲った。

「隊長!」
「うろたえるな、ついて来い!」
火線におじけずく倉田を怒鳴り武部少尉は愛機を一気に加速させた。
「なめるなよボラー、くらえ!!」
火線をかわしつつ武部少尉は翼下につるされた2発のミサイルを投下した。そして倉田飛行士も武部機に続いてミサイルを放った。

「敵機、ミサイル発射!!」
「こしゃくな、撃ち落せ」
ボラー艦の艦長は身の程知らずにも撃ちかかってくる旧式機の攻撃をわずらわしく思いつつも迎撃の命令を下した。
これで敵のわずかばかりのミサイルも撃ち落され再び眼前の敵戦艦に集中できるはずであったが。
「敵ミサイル失探」
「なに!?」
「亜空間ソナーに反応あり、空間潜行魚雷です!」
「しまった!」
艦長はおのれのうかつさを呪った、敵戦艦が使えるなら同じ兵器をその艦載機が積んでいるかもしれないことはわかって当然だったのだ。
「迎撃だぁ!」
「だめです、間に合いません、近すぎます」
爆発とともに4発のミサイルは駆逐艦の薄い装甲を食い破って炸裂した。
だがそれは武装のいくつかを削り取ったものの致命傷をを負わせるにはいたらせられなかった。

「ほう、武部と倉田もなかなかやるな。剣、こっちも負けちゃおれんぞ」
「了解であります」
だが第2陣として桑田少尉と剣のふたりも突撃を開始した。

「駆逐艦クリヴァク被弾」
「おのれ……旧式機の分際で」
僚艦の被弾を見てもう一隻の駆逐艦の艦長はいきりたった。
「敵2機、突っ込んできます!!」
「同じ手が何度も通用すると思うな、敵魚雷に注意して迎撃せよ!」

しかし桑田少尉も同じ手が何回も通用すると思うほど馬鹿ではなかった。
「いいか、あの被弾した敵駆逐艦の方向から近づく」
「盾にするわけですか」
「そういうことだ」
「さすが悪知恵の働く」
桑田と剣のふたりの機は被弾した駆逐艦クリヴァクが敵艦との軸線上に入るように機を持っていきながら接近を開始した。

「敵機2機接近」
「迎撃ミサイル撃てい」
「し、しかしこの角度で撃てばクリヴァクも巻き込んでしまいます」
「なんだと!」
結局ミサイルを撃てずにわずかばかりの対空銃座で対抗するしかなかった。

「喰らえ」
そのひとこととともに4発のミサイルが放たれる。
ふたりのシューティングスターにも弾丸が何発か命中するものの邪魔な荷物を捨て去った2機はさっさと逃げの態勢に移った。
しかし発射されたミサイルは一度見られていたためもあり次々と撃墜され結局たどりついたのは一発だけだった。
だが一発で十分だった、それはブリッジに直撃し艦長以下メインクルーのほとんどを戦死させたからである。

「敵駆逐艦2隻大破」
「やってくれたかあの連中!!」
『武蔵』のブリッジからも敵駆逐艦にミサイルの命中する閃光がはっきりと見えた。旧式機でここまでやってくれるとはたいした連中である。
「よし、前方の敵艦隊をはやく片付けるんだ」
「だったらさっさと撃て!」
「やかましい、お前は黙って迎撃してろ!」
例によって荒島と葉月の掛け合いもあって騒々しいが『武蔵』はその巨砲をうならせボラー艦隊を仕留めていく。
もちろん『武蔵』も被弾しあちこちを燃やしていたがダメージコントロールで持ちこたえ戦闘力を維持させていた。
だが敵には『武蔵』の砲撃を喰らってもしのぎきれるだけの余裕はない、しだいに戦況は『武蔵』に有利に回り始めていた。
そして。
「『ヤマト』砲撃を開始しました」
後方から接近してきた『ヤマト』も砲撃を開始した。相手はもちろんさきほど武部と桑田たちが仕留めた2隻の敵駆逐艦である。

「主砲発射用意、目標敵駆逐艦」
土方艦長の命令一過『ヤマト』のショックカノンが重々しく旋回する。
「射撃準備完了」
「撃て!!」
『ヤマト』の前部6門の主砲と3門の副砲が火を吹く。
それらのほとんどは被弾した敵駆逐艦に命中した。
だがさきほどシューティングスターが攻撃を命中させた箇所に当たったものはさらにダメージを拡大させたものの無傷の場所に当たったものはむなしくはじかれてしまった。
「くそっ、はじかれたぞ」
南部がたかが駆逐艦に攻撃を跳ね返されたことに驚いて言った。
「恐ろしい装甲版だ、我々には未知の超合金でできているのだろう」
真田も目を見開いて驚愕している。
「しかしまさか主砲をはじくとは……」
「艦影、エネルギーデータともこれまでの敵艦とはまったく共通点がありません」
「完全な新型にしても共通点ゼロとは思えない、ひょっとしたらガミラスとも白色彗星とも違う新しい敵ということになるかもしれんな」
まさか未来から来た艦隊だと知る由もない南部や真田はただボラー艦の性能に驚くだけだった。
「じゃああの戦艦はいったいなんでしょう、地球防衛軍の戦艦に特徴がよく似ていますがあんな艦を建造しているなんて聞いたことありませんよ」
太田が窓外の『武蔵』を指差して言った。
「うむ、相原あの戦艦と交信をとってみろ、ただしまだ味方だと決まったわけではない、警戒を続けるのを忘れるな」
土方艦長の命令によって相原は『武蔵』と交信をとるべく送信を開始した。
そして古代と南部も気を取り直して主砲操作を再開する。ただし今度は敵艦の損傷箇所に狙いを集中させている。
「撃てっ!」
再び『ヤマト』の主砲が咆哮し駆逐艦『クリヴァク』を葬り去る、しかしもう一隻の艦は指揮権の交代が済んだのかもたつきながらも『ヤマト』へ砲撃を返してきた。
「うわぁ!!」
「左舷ミサイル発射管大破、第三砲塔旋回不能」
「ばかな、なんて威力だ!」
その駆逐艦の砲は一発しか命中しなかったがそれでも『ヤマト』の左舷後方をえぐり深い傷を刻み込んでいた。
「あんなものを何発も喰らったらおしまいだ、体勢を整える前に撃沈するんだ」
激しく振動する床を踏みしめながら真田が叫んだ。
「はい!」
『ヤマト』は残った主砲を敵駆逐艦へ撃ち込むが艦橋以外ほとんど無傷の敵艦はそれらをなんなくはじき返してしまった。
「なに!」
「敵艦発砲!!」
今度の砲撃は『ヤマト』の左舷艦首を襲った。大爆発が起こり艦内は激震で立ってはいられない。
「左舷魚雷発射管室大破、ロケットアンカー損失」
「くそっ、このままでは」
残念ながら敵艦の性能はこの『ヤマト』をはるかに上回るようだ、本当にこのままでは『ヤマト』はやられてしまうだろう。
だがそのとき相原の席に通信受信を示すランプが点った。

〔ワレ、地球防衛軍所属太陽系外周第7艦隊旗艦『武蔵』コレヨリ貴艦ヲ救援スル、イマシバラクノ奮闘アレ〕

見ると前方の戦艦が転進してこちらへ向かってきている、それと戦っていた巡洋艦や駆逐艦などはまだ生きてはいるがもはや壊滅状態だ。
「助けてくれるというのか……」
「し、しかし『武蔵』なんて艦は聞いたことないぞ、本当に地球防衛軍の艦なのか?」
太田や南部がそう言ったとき『武蔵』の主砲が火を噴いた。
「なに、一撃で!!」
『武蔵』の砲撃はその駆逐艦を直撃し、貫通すると駆逐艦は大爆発を起こし轟沈した。
「違う、こんな力が地球にあるはずがない……」
『武蔵』の圧倒的な火力に真田は呆然としてつぶやいた。
「艦長……」
「警戒をゆるめるな、正体が判明するまで敵と同様に扱う」
土方艦長はあくまで冷静に言うと動揺していたクルーたちも落ち着きを取り戻した。
だがそのとき『武蔵』にやられていた駆逐艦の一隻が蘇り逃走を始めた。

「敵駆逐艦一隻逃走を開始しました」
『武蔵』の艦橋に神村少尉の声が響く。
「艦長、ここで逃がしたら!」
「ああ、もしこの時代のボラーにでも逃げ込まれたら大変なことになる、とどめを刺すぞ」
「了解、取り舵30度、追撃に移ります」
『武蔵』は再び反転して敵駆逐艦へと進路をとった、しかし本気で走れば戦艦は駆逐艦の速力にはかなわない。
「敵艦速力を上げました、引き離されます」
「艦長、このままワープスピードに達せられたらもう追いつけません」
黒田大尉もあせり始めて藤堂艦長に叫んだ。
「仕方ない、補助エンジン出力転換、無限β砲発射用意」
「了解、補機出力上昇開始、リミッター解除」
権藤大尉が機関のリミッターを解除すると凄まじいエネルギーが補助エンジンに集中し始め機関室が洩れ出たエネルギーによって赤く染め上げられる。
無限β砲とは25世紀の地球の宗主国である暗黒星団帝国が23世紀から標準使用している粒子砲の一種で波動砲と比べると威力は劣るが射程と速射性に優れ追撃や奇襲に効果を発揮する兵器である。
そして『武蔵』は主機に波動エンジン、補機に暗黒星団帝国式 β90型エンジンを装備しているため両者を使い分けられるのだ。
「ターゲット・スコープ・オープン、電影クロスゲージ明度20」
荒島中尉の席に波動砲のものと同じトリガーがせり上がってくる。
「補助機関出力90%、主機波動エンジン出力100%を維持、無限β砲発射用意に問題なし」
『武蔵』の艦首に真赤な閃光が集中し咆哮の時を待つ。
「敵駆逐艦、まもなくワープスピードに達します」
神村少尉が叫ぶ。
「補機出力110%」
「荒島、確実にしとめろよ」
「まかせろ」
荒島中尉が自信たっぷりに葉月中尉に答える、波動砲を撃った経験が荒島中尉に自信を与えたようだ。
「くれぐれもはずさないでくださいね、なんなら代わりますよ」
が、以前のことが楽しかったのか神村少尉が茶々を入れる。
「やかましい! 黙って見とれい!」
荒島中尉もむきになって返す、周りの者はまたかというふうに肩をすくめるがそんなことしているあいだにもエネルギーチャージは進んでいた。
「補機出力120%、無限β砲発射準備完了」
「発射10秒前、よく見てろよコラ!」
「はいはい」
神村少尉の寒い視線を背に荒島中尉はトリガーに力を込めた。
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「ゼロ、発射ぁ!!」
荒島中尉の指が静かにトリガーを引き絞り、次の瞬間真紅の光が宇宙を染め上げた。

第12章 完

次へ