逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第13章 歴史を変える出会い

艦首の赤い閃光が臨界点を向かえる。
「ゼロ、発射ぁ!!」
『武蔵』の艦首から真赤なエネルギーの束が放たれた。
その絶大な粒子エネルギーは光速の数分の一のスピードで虚空を驀進。
いままさにワープスピードに達しようとしていたボラー駆逐艦を包み込んで分子のひとかけらにいたるまで完全に焼き尽くした。
「敵艦、撃沈!!」
『武蔵』の艦橋に歓声が響き渡った。
23世紀ではまだしも25世紀においてボラーは憎みても余りある仇敵である、こいつらのせいでどれだけ地球がひどい目にあってきたか。
「ざまあみやがれ!」
「思い知ったか!」
特に荒島中尉や葉月中尉ら若手連中の意気が高い。
なにしろパトロール任務中に何回ボラーに露骨な挑発をされていらいらさせられてきたか数えられないからだ。
だがそんな勝利ムードも一時するとおさまり皆は黙って任務に戻った。
「補機出力通常位置へ、リミッター接続」
赤熱化していた補助エンジンの回転がゆるやかになり『武蔵』をおおっていた赤い光も薄れていく。
「全兵装異常なし」
「損傷率30%、ただし航行に支障なし」
『武蔵』の受けた傷も幸いたいしたものではないようだ。
「よし、面舵30度転進『ヤマト』に接舷せよ」
「了解、面舵30度転進」
藤堂艦長の命令で山城中尉は『武蔵』の艦首を『ヤマト』へと向けた。
「前方空間に『ヤマト』を確認、地球方面へむけて速力20宇宙ノットで航行中」
神村少尉がレーダーに『ヤマト』を捉えて言った。
「ビデオ・パネルに映せ」
「はい」
『武蔵』のメインパネルに『ヤマト』の姿が映し出された。
「黒煙を噴いているが、なんとか大丈夫そうだな」
黒田大尉が『ヤマト』の姿を見てほっと言った。
「ああ、我々の時代の駆逐艦の砲はこの時代では大型戦艦の巨砲にも匹敵する。2発しか当たらなかったのは本当に幸いだった」
「そうだな、これもうちの航空戦隊のおかげか。たった4機とはいえ航空戦力というのはたいしたものだ」
権藤大尉も黒田大尉に同意する。
「だがまだ何がおきるかわからん、桑田と武部に打電して『ヤマト』を護衛させろ」
「了解しました」
藤堂艦長の命令は即座にまだ飛行を続けていた4機に伝えられ桑田少尉と武部少尉の機は『ヤマト』の護衛につくため先行した。
ただしまだ未熟な倉田と剣のふたりの機はいったん帰艦を命じられて『武蔵』に着艦した。
「『ヤマト』に接近します」
窓外に黒煙をあげながら航行する『ヤマト』の姿が見えてきた。もう『ヤマト』からも『武蔵』の姿ははっきりと捉えているはずだ。
桑田と武部の2機は『ヤマト』の両舷に同間隔で遷移しているが『ヤマト』からの対空砲火がないところから見るととりあえず敵とはみなされてはいないようである。
「『ヤマト』につなげ」
「了解」
桜田中尉は通信席のキィを叩き『ヤマト』へ通信を送った。
「応答ありました、メインパネルへつなぎます」
藤堂艦長以下『武蔵』の面々はいっせいにメインパネルを見上げた。

「わたしが宇宙戦艦ヤマト艦長、土方 竜です」
「地球防衛軍太陽系外周第7艦隊旗艦A-340式宇宙戦艦『武蔵』艦長藤堂 氷です。土方艦長以下ヤマトの皆さん、会えて光栄のいたりです」
ふたりの艦長はそれぞれ名乗りあった。
(これが━━伝説の『ヤマト』の戦士たちか……)
(彼らはいったい━━見たところ地球人類に見えるが……)
そしてお互いの艦のクルーたちも互いの乗組員たちを観察しあった。
短い沈黙のあと藤堂艦長は再び口を開いた。
「本艦はこれより、貴艦を護衛し、敵白色彗星帝国を撃滅せんとします!」
この発言にヤマトのクルーたちは卒倒しそうになった。
「なにっ、どうしてそんなことを知ってるんだ!」
確かに先日テレザートでテレサから白色彗星帝国のことを聞き、それを地球に送信してはいたが彼らはそれ以上のことを知っているとしか思えない口ぶりだった。
だが土方や古代たちが反論するより早く真田がはっとして言った。
「ちょっと待ってください、あなた方の艦は確か今A-340式と言いましたよね、今ある戦艦は最新鋭のアンドロメダ級でもA-160のはずなのに」
戦艦の形式番号、それはその戦艦が地球防衛軍が初めて建造してから何番目のタイプの戦艦かを指す。つまりアンドロメダのA-160というナンバーは地球防衛軍が規格した160番目の戦艦ということになる。ちなみに『ヤマト』はA-140だ。
「そんな馬鹿な、そんなことは……」
「この『武蔵』は『ヤマト』から見て200代年下の妹ということになりますね」
相原の言葉をさえぎって藤堂艦長の声が響いた。
「そんな馬鹿な! それじゃああんたらは……」
その問いに藤堂艦長は一呼吸おくと重々しく口を開いた。

「我々は200年未来の世界からやってきたのです」

長い沈黙が場を包んだ。
「ふざけるな!」
「なにを寝ぼけたことを!!」
相原や南部が怒鳴り声を上げる。しかし藤堂艦長は当然こういう事態を想定していたので冷静に言い返した。
「信じろというのが無理な話というのは重々承知です。ですが我々としてもあなた方にはどうしても信じてもらわなくてはならない理由があるのです。ですから我々はあなた方の質問、要求にすべて応じる用意があります」
要するに証拠が欲しいならなんなりと答えるということである。
皆は少し考え込むとまず真田が前へ出た。
「ではまずあなた方が最初に現れたとき、ワープでもないのに突然現れましたがあれは何ですか?」
やはり真田は技術関係のことがまず第一に気になるようである。
「ステルスフィールドを発生させたのです。フィールド展開、30秒だ」
藤堂艦長が命じると『ヤマト』のすぐ隣で『武蔵』の姿が掻き消えた。
「なに!?」
「消えた」
突然消滅した『武蔵』に皆の驚愕の声が上がった。
むろん肉眼からだけでなく『ヤマト』のタキオンレーダーをはじめとするあらゆるソナーから『武蔵』の姿は消滅していた。
やがて数十秒後ステルスを解除した『武蔵』がゆっくりと姿を現すと再び『ヤマト』のクルーたちの感嘆の声があがった。
「本当に消えた……真田さんこれは」
島が言葉にならないというふうに真田に聞いた。
「う、ううむ。信じられないがこれほど高度なステルスは初めて見た。少なくともこれは今の地球の科学では……いやガミラスでも無理だろう」
「では、本当に未来の艦だと」
「そこまでは言ってない。ほかにもいろいろ聞いてみよう」
藤堂艦長は黙って『ヤマト』の誰かが聞いてくるのを待っている。
するとそれまで黙っていた土方艦長が問いかけた。
「さきほどのあの艦隊ですが、戦闘力から見てあなた方の時代の艦船と思われますがどこのなんと言う国の艦隊なのですかな。そしてなぜあなた方はあの艦隊と敵対しているのですかな?」
その問いに藤堂艦長の眉がぴくりと動いた。
「あれは銀河系中央部から北部までを支配下に置くボラー連邦の艦隊です。この時代でもすでに銀河系の半分近くを手中に収めていますが西暦2202年以降200年にわたって地球はこれと対立しています。彼らは全銀河系の奴隷化をもくろんでいるのです。おそらくは我々と同じくこの時代へ流されてきたのでしょう」
『ヤマト』のクルーたちの顔が曇った。
現在のガミラスや白色彗星帝国だけでもやっかいなのに同じ銀河系にそんな危険な星間国家があるのでは由々しき問題だ。
だが土方は顔色を変えずにその返答に含まれていた意を読み取って藤堂に言った。
「200年にわたって、ということは、地球は……この彗星帝国との戦いに勝てるのですな?」
まさしくそのとおりだった。
もしこの戦いに地球が負けるようであるのならばこれまでの話も、そもそも『武蔵』もありえない存在ということになるのだ。
だが藤堂艦長の顔が一気に険しくなる、それは彼らにとってはもっとも語りたくない過去であるからだ。
「……勝てます」
藤堂艦長はただそれだけを短く言った。
「そうですか」
土方艦長もその言外の意味を汲み取って短く答えた。
つまり、ただで勝つことはできないということだ。
「あなた方はテレザートのテレサから『あの彗星のガス体はヤマトの波動砲を持ってしても破ることはできない』と聞かされていたはずです。残念ですがこの時代の最新鋭艦『アンドロメダ』の拡散波動砲でも彗星のガス体を吹き払うことはできません」
(テレサのメッセージのことはヤマトにいる者しか知らないはずだ。とするとやはり彼らは未来から来たというのか。が、しかし)
古代は藤堂艦長の言葉に納得しながらも。
「ならばお聞きしますが、『アンドロメダ』でさえ破れないという白色彗星のガス体を我々はどう破ったというのですか?」
と、疑問に思ったことを聞いた。
「それは、あなた方はおそらくデスラーから聞いたはずです。『白色彗星の渦の中心核を狙え』と」
「それは……」
それこそ今『ヤマト』にいる人間しか知らない情報であった。
もし他にそれを知りえるものがいるのならば、この『ヤマト』の誰かが後にそれを語り継いだか、ということぐらいしかない。
そして、そこから導き出される答えはひとつ。
地球防衛艦隊では白色彗星には勝てず『ヤマト』のみで戦うことになる。
それによって、仮に勝てたとしてもその犠牲は想像するだに恐ろしい数字になることは確実であった。
「……そうですか、ではあなた方はその歴史を変えてこの戦争の犠牲を減らすために200年後から来たということですか?」
古代はここで核心にせまった質問をした。
「いえ、我々は本来は星間国境をパトロールしていただけの普通の艦でした。しかし冥王星近海で突然不思議な光に飲み込まれ、気づいたらこの時代にいたのです」
「ようするに、この時代にやってきたのは意図しない事故だと」
「ええ、当初は困惑しましたが、現状を鑑みるに我々が……SF的な言い方をすれば時空の壁を越えてしまったことがわかったのです」
「ならば、あなた方の目的は?」
「第一に我々全員の生存、第二に元の時代への帰還、そのためにもあなた方とこの時代の地球にやられてもらっては困るのです」
つまりは自分たちのために手を貸すというわけである。
考えてみれば事故でこの時代に来てしまった『武蔵』からすれば補給もままならずこの時代の誰かに接触してくるのは当然といえた。
「なるほど、つまりあなた方は地球の勝利に手を貸すかわりに……」
「土方提督、あなたが物分りのいい人で助かります、我々はあなた方に戦力と情報を提供します。そのかわりに我々に食料をはじめとする物資の補給をお願いしたいのです」
藤堂艦長はそこまで言って言葉を切った。
「つまり、取引というわけか」
相原がそう言うとほかの皆もうなづいた。
「ま、正義の味方きどりで味方になってくれるというよりは信用できるか……」
「おいおい、200年未来の地球人といってもつまり利害が一致しているというだけで他人同然の連中だぜ、信用できるかよ」
太田は納得したようだが南部はまだ信用していないようだ。
「だいたい今まで思わせぶりなことばっかで具体的なことはろくに言ってないじゃないか、この戦いはどうなって地球はどうなるのかはっきり言ってみろよ!」
南部がそう言うと藤堂艦長は少し考え込むと。
「……わかりました。ではこれからそちらへ出向きます。そこですべてを明かしましょう」
藤堂艦長はそこで通信を切った。

「やはりこうなりましたね、覚悟していたとはいえ信用してもらうにはここが正念場となりますね」
黒田大尉が遂にこのときが来たかというふうにゆっくりと言った。
「ああ、そうだ。みんなよく聞け、前にも言ったがこのコンタクトがこの作戦上最重要の課題だ、決して失敗は許されん、各員緊張してかつ冷静にかかれ」
「はっ!」
藤堂艦長の訓示に全員緊張した面持ちで礼を返した。
「よし、黒田、荒島、神村、予定は変わったがここからは打ち合わせどおりにいくぞ、ただちに準備を整えて格納庫へ集合せよ」
「はっ」
「権藤大尉、留守のあいだは頼むぞ」
「わかってますよ」
そして権藤大尉に留守を任せ藤堂艦長以下4人のメンバーは格納庫へと集合した。
移動に使用されるのは『90式宇宙内火艇コスモテリア』
これは2205年に暗黒星団帝国の占領下のなか防衛軍を再編する際に作られた汎用機コスモハウンドの系譜からなる大型機である。
『武蔵』の艦底部の格納ハッチが開き30メートルほどもあるコスモテリアが発進していく。

コスモテリアは大型機とは思えないほど機敏な動きで『ヤマト』の舷側に停止した。
そのまま『ヤマト』のエアロックとコスモテリアのハッチがつながれ藤堂艦長たちは『ヤマト』へと乗り移った。
そして『ヤマト』へ乗り移った藤堂艦長たちを出迎えたのは真田とアナライザーだった。
「ようこそ『ヤマト』へ、技師長の真田です。いや、あなた方はすべてご存知でしたな」
「ええ、あなたのこともよく存じています。半重力感応機や空間磁力メッキの開発者、あなたの発明のいくつかはその後も改良されて今でも使われているものもありますよ」
真田の言葉に黒田大尉はそう返した。
真田は『武蔵』の面々を案内するために待っていたのだろうが、同時に彼らを観察するように命じられているだろうことを察したからだ。
「おっと、失礼しました。先ほども申しましたが私が戦艦『武蔵』艦長、藤堂氷少将です」
「私は工作班長を勤めております黒田です」
「同じく戦闘班長の荒島中尉です」
「策敵手の神村です。よろしくお願いします」
4人はそれぞれ敬礼のち名乗った。
「それではご案内します。こちらへどうぞ」
真田が先頭に立って歩き出すと4人とアナライザーもそれに続いた。

「へえ、半重力感応機や空間磁力メッキのことも知ってるのか。未来じゃあ真田さんって有名人なのかなぁ」
作戦会議室のパネルには先ほどの真田たちのやりとりがすべてモニターされていた。
もちろんアナライザーを通して藤堂艦長たちを監視するためである。
「まあ真田さんくらいの人なら無理もないか、だとしたら俺たちはどう言われているんだろうな?」
太田が何気なくそう言うと。
「航海補佐の役の名前なんて誰も覚えてやせんよ。後の歴史に名が残るとしたら艦長とあとせいぜい古代さんと島さんくらいじゃないか」
「けっ、そういう南部も砲術補佐じゃないか」
ふたりが言い争いになりそうなのを見て島が静止に入った。
「やめろお前ら、俺たちは名声なんかのために戦っているわけじゃないだろう」
「そうですね、けどこうして見る限りでは普通の人間にしか見えませんね」
太田がそう言うと今度は古代が厳しい顔でこう言った。
「いや、あいつらはさっきの戦いで逃げ去ろうとする敵艦を後ろから撃った。いくら敵だからとはいえ俺はまだ信用できん」
「……そうだな、逃げる相手を容赦なく背後から狙うって言うのはあまり気持ちのいいことではないな」
島も古代に賛同するがそこへ土方が割ってはいった。
「いや、指揮官として逃亡する敵へ追撃をかけるのは当然のことだ、それにあのときの敵が彼らの言うとおり25世紀からやってきたものだとすれば、もしこの時代のボラー連邦にでも逃げ込まれれでもすれば恐ろしい脅威になると考えたのだろう」
非情ではあるが災いの種は早いうちに摘めば後の犠牲を減らすことにつながる。
土方の言葉はまさに的を得ていた。
古代はまだ釈然としないようであったが、そのとき藤堂艦長たちが作戦会議室の前に到着した。

「どうぞ、艦長以下がお待ちです」
真田に進められて藤堂艦長たちは室内へと歩を進めた。
が、そのとき。
「おっと……」
荒島中尉がうっかり資料用に持ってきていたデータディスクをばらまいてしまった。
藤堂艦長と黒田大尉はかまわず入って行ったが神村少尉は仕方なしそうに拾うのを手伝い始めた。
「わ、悪いな……」
「ドジ、早く拾いなさい、いい赤っ恥じゃない」
小声で神村少尉がきびしく言う。
本来彼女のほうが荒島中尉よりも階級も年齢も下なのだが神村少尉には彼を上官として敬う気持ちは全然なかった。
(とほほ、んったく誰だよこの女を『武蔵』に呼んだのは……)
荒島中尉はそう思ったがキャリアでは完璧に神村少尉に負けている。
が、尊敬されない原因は彼らの日ごろの行いにもあったので文句も言えなかった(というより怖かった)
データディスクの数は少なかったが大きさはとても小さかったので拾うのは意外と難航した。
しかしそんなふたりの姿を見て、あの独特の電子音を鳴らしながらアナライザーがふたりに寄ってきた。
「オコマリノヨウデスネ、ヨカッタラオテツダイイタシマショウカ?」
「ありがたい、あとひとつ足りないんだ頼むよ」
荒島中尉は素直に喜んで頼んだが、そのときアナライザーのカメラアイのところがキラーンと光ったのには気づかなかった。

一方作戦会議室内では土方艦長と藤堂艦長がそれぞれ名乗りあっていた。
「よろしく、ヤマトの皆さん」
藤堂艦長とヤマトのクルーたちは敬礼しあった。
その後黒田大尉も名乗り、真田の手伝いで説明会が開かれた。
なんにせよ、今ヤマトのクルーたちが一番知りたいのはこの戦争の行く末なのだ。
しばらくはヤマトの観測映像や黒田大尉が持ってきた資料を使って彗星帝国の概略などを話していたが、いざこの後の戦史の説明に入ろうとしたとき、残りの資料を持ってきているはずの荒島中尉と神村少尉がまだ入ってきていないことに気づいた。
「荒島、神村、あれ? あいつらまだ入ってきてないのか?」
「どうしました?」
「いえ、もうふたり連れがいるはずなんですが、あいつらいつまでも何やってるんだ」
古代たちも、そういえばあと二人いたな、と思い出したがどこを見てもまだいない。
「そういえばアナライザーもいないな、あいつ何を……!!」
真田がそこまで言ったとき、突然外からとてつもない轟音が響いてきた。
例えるならば10tトラックが正面衝突したときのようなとでも言えばよいか。
「何だ!? 敵の攻撃か?」
古代たちは驚いて外へ駆け出した。
もちろん藤堂艦長や黒田大尉もであるが、彼らが見たのはおよそ信じられない悪夢のような光景であった。

青ざめた顔で呆然と立ち尽くしている荒島中尉。
そのとなりで逆に顔を怒りで真っ赤にしている神村少尉。
そして恐らくは凄まじい力で叩きつけられたのであろう、通路の内壁になかばめり込むくらいになってバラバラにされたアナライザーの姿があった。
「お、お前らいったい何を……!?」
黒田大尉が自分の目が信じられないというくらい驚いた表情でやっとしぼりだした声でふたりに聞いた。
真田はすでにアナライザーに駆け寄って応急修理を始めている。
ほかの古代ほかヤマトのクルーたちは腰のコスモガンに手をかけかけている。
藤堂艦長が毅然とした態度でい続けていたのが唯一の救いだったが雰囲気は最悪だった。
この後の二人の発言しだいでは射殺されてもやむなしであったが、神村少尉は振り返るときっぱりと言った。
「正当防衛であります!」
その一言で場の雰囲気はさらに緊張した。
「ふざけるな、アナライザーが人に危害を加えるようなことをするはずがないじゃないか!」
太田が叫ぶと相原や南部もそうだそうだと賛同した。
だが藤堂艦長はあくまで冷静に神村少尉の目を見つめて質問をした。
「ならば、なにを持って正当防衛の理由とする?」
決してうそは許さないというその眼光を前にして神村少尉は一呼吸おくと大きな声で一言。

「あいつはわたしのおしりを触りやがったんです!!」

「はぁ!?」
とたんに古代たちはおろか土方艦長や藤堂艦長までも腰のちからが抜けてしまった。

第13章 完

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