逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第14章 回想、ひとつの歴史の終焉

様々な経緯の末、ようやく『ヤマト』との交渉にこぎつけた『武蔵』の面々
だが緊張を持って始まるはずであった両者の対談は意外な形で裏切られる
なんとアナライザーのセクハラで神村少尉が激怒してアナライザーをぶっ壊してしまったのだ
はてさて地球の未来をになうはずのこの会談の行く末はどうなることやらである

「さて、では説明を再開したいと思いますが……よろしいですか?」
黒田大尉は作戦会議室のなかに並んだ面々を見渡して様子をうかがうように聞いた。
あのあと頭部だけになってしまったアナライザーを問い詰めたところ神村少尉に対するセクハラを認めたので土方艦長と藤堂艦長がそれぞれ頭をさげてことなきを得たが、やはり雰囲気はまだ悪いままだった。
「ああ、気にしないで始めてください」
「そうですか、ではまず我々の敵に当たる白色彗星帝国についてご説明します。スクリーンをごらんください」
黒田大尉は荒島少尉の持ってきたデータファイルを開いて説明を始めた。
とにかくこの嫌な雰囲気をなんとかしたかったのだ。
「では……この戦争の戦史、今から見れば未来の話になりますが、まずこれを見てください」
黒田大尉がパネルを操作するとスクリーンにアンドロメダを始めとした地球艦隊の姿が映し出された。
どうやら地球で放送されていたニュース映像らしい。

『現在我が地球防衛艦隊は土星圏へと集結してきております。そして先頭をきるのは我らが新造戦艦アンドロメダであります。この新型の拡散波動砲を備えた最新鋭艦は先日、地球連邦大統領自ら式典に参加し、その進宙を祝われたほどの地球と人類にとっての希望の星であります』
実況を行っているアナウンサーの声もいささか興奮しているようだ、このアナウンサーは公共放送では人気のあるほうで古代たちもよく知っている。
放送はしばらく地球艦隊の性能に関する説明が続いたが、その後急にあわただしくなると画面が切り替わった。
『ここで緊急情報がはいりましたのでご報告いたします。現在敵主力艦隊は天王星軌道を越え、土星圏へと接近中とのことです。どうやら敵艦隊も我ら地球艦隊との艦隊決戦に臨んでくるもようです。あっ、ここで監視衛星から敵艦隊の画像が入りました。どうぞ』
そこにはゆうゆうと土星圏をめざして突き進んでくる敵大艦隊の姿が映し出されていた。
大型戦艦、大型空母を基幹とし、巡洋艦、駆逐艦多数を引きつれ総数では地球艦隊の数倍に匹敵するであろう恐るべき布陣であった。
「彗星帝国の艦隊戦力の根幹となるバルゼー提督率いる機動艦隊です」
黒田大尉が説明するとヤマトの誰もが息を呑んだ。
「これが敵主力艦隊……」
「なんて数だ……」
古代や南部も敵のあまりの戦力にただただ驚くだけだ。
「会戦はこの翌日に開始されました。そこまで飛ばします」
黒田大尉が操作すると画面は両艦隊の接触直前にまで早送りされた。
『ただいま敵艦隊が木星圏へ接近してきております。あっ、今地球防衛艦隊が迎撃のため進撃を開始しました。先頭をきるのは我らがアンドロメダであります。今こそ歴史に残る一大決戦が始まろうとしているのです。我らはその歴史の目撃者となるのです』
アンドロメダを先頭に地球艦隊は堂々と進撃していく。
まずは敵は空母艦隊から戦闘爆撃機デスバテーターを中心にした艦載機による攻撃をかけてきたが地球艦隊は濃密な弾幕を張りあっさりとこれを一蹴してしまった。
しかし艦載機による攻撃をしのぎきったと思った瞬間、突然艦隊外周の巡洋艦や駆逐艦が大爆発を起こした。
「!? なんだ?」
「突然爆発したぞ?」
「潜宙艦です。大丈夫です、地球艦隊もすぐに気づきます」
黒田大尉の言うとおり、アンドロメダはすぐさまソナー弾を打ち上げ、潜宙艦の姿を浮き上がらせると主砲斉射であっという間に蹴散らしてしまった。
ここまでは少なからぬ損害を被ったものの地球艦隊に有利にことが進んでいた。
しかし敵にはまだ100隻近い数の戦艦をはじめとする大戦力が控えている。
まともにぶつかれば包囲されて地球艦隊の全滅は必至と思われた。
しかし。
『あっ、防衛艦隊が陣形を変え始めました。これはまさか……』
地球防衛艦隊は敵艦隊目前で隊形を変え始めた。
戦艦を前面に上下2列の横陣陣形、この隊形は。
「マルチ隊形だ、やるのかあれを」
古代がそう言ったとき、地球艦隊の全戦艦の波動砲口が光った。
『拡散波動砲です。拡散波動砲が発射されましたぁ!!』
そのとき、地球艦隊から発射された拡散波動砲の束はバルゼー艦隊へ向けて突き進みながら1本にまとまり、バルゼー艦隊の眼前で一気に拡散した。
戦艦も空母もなすすべもなく爆発四散していく、後方にいた何隻かはかろうじて逃亡に成功したようだが数からいってももはや地球艦隊の敵ではないことは明らかであった。
『勝利です。地球防衛軍の大勝利であります!!』
アナウンサーも大喜びで勝利を伝えている。
この様子に太田や相原も喜色を浮かべていたが、藤堂艦長の目は鋭かった。
壊滅したバルゼー艦隊の後方から白色彗星がその不気味な姿を現したのだ。
「白色彗星が……」
「来る……」
島と太田がぐっと息を呑んだ。
地球艦隊は再びアンドロメダを中心にマルチ隊形を組みなおし、真正面からぶつかるかまえを見せている。
そして、ついにその時がやってきた。

『全艦拡散波動砲発射!!』
画面から地球艦隊の司令官の声が響き、さきほどバルゼー艦隊を撃滅したのと同様に拡散波動砲の束が白色彗星へと向かった。

それは一瞬のことであった。
白色彗星の目前で波動砲のエネルギーは拡散し、そのまま彗星全体を飲み込むかに見えた。
しかし白色彗星は一瞬プラズマのように火花を飛ばすと、まったく勢いを衰えさせずに地球艦隊へ襲い掛かった。

『反転180度、全艦離脱!!』
それが司令の最後の言葉になった。
波動砲発射のために全エネルギーを使いきってしまっていた地球艦隊は迫り来る白色彗星の超重力に耐えられずに次々と飲み込まれていった。

「っ……全滅だっ!!」
「あれだけの波動砲が……役に立たないとは……」
古代も真田もあまりの光景に圧倒される。
南部や相原は声も出せない。
放送はその後、パニックにおちいる市民たちの様子を映し出すところまで行くと一旦止められた。

「信じがたいでしょうが、これが事実です。いえ、本来我々がいなければこれから起こるであろう未来の姿です」
「…………」
誰一人言葉も出ない。
「まあ、これはあくまで我々がいなかった場合です。それにもうあなた方がこのことを知った以上こうはならなくなるんじゃないですか?」
荒島中尉がそう皮肉めいたように言うと島が同じように。
「それはそうだ、悲惨な結果になろうとしているというのに傍観していていいわけがないし……第一あんたがたはそうさせるために来たんでしょう?」
「ごもっとも……」
まさにそのとおり、グウの音もでない。
「それで、この後はどうなるんだ? あんた方の言うとおりならばヤマトは彗星を撃破することに成功するんだろう」
「それについては先に申し上げたとおりですよ、あなた方がデスラーから聞き及んだとおりの方法です。それについての資料は……あれ? しまったさっきの騒ぎでディスクにひびが入ってしまっている」
黒田大尉は弱ってしまった、幸い中の記憶媒体はまだ無事のようだがこのままでは再生できない。
「使えないんですか?」
「うむ、ヤマトの再生装置用に作った変換用のプラグにひびがはいってしまっている……まいったな、これでは話を続けられない」
そのとき相原がぽんと手を叩いて言った。
「あっそうだ、アナライザーならなんとかできるんじゃないか、おーいアナライザー……てっまだ壊れたままか」
さっき神村少尉渾身のキックでぶっ壊されたアナライザーは真田が説明を聞きながらコツコツ修理していたがまだ胴体の電源が飛んだままで頭部だけがふわふわと宙に浮いていた。
「悪いな、修理は急いでいるんだが思ったよりも破損がひどくててこずってるんだ、あと1時間はかかるよ」
素手でアナライザーをここまで破壊するとは女性の怒りは恐るべしである。

「おい、お前荒島とか言ったな、あの女いったいどういう奴なんだ?」
これまで静観していた加藤が小声で荒島中尉にそう話しかけた。
「はあ、それが実はああ見えて訓練学校時代に空間騎兵隊の基礎訓練コースを受けていたことがあるんだそうな、結局自分に合わないからってそれ以上は行かなかったそうだけどかなり教官連中からはひきとめがあったそうだ」
「へー、かわいい顔してあれでねえ」
「見かけにだまされてたら死にますよ、あくまでうわさですけどうちに来る前にからんできた空間騎兵隊の荒くれ男10人相手にしてすべて病院送りにしたって話もありますからね」
「雪に斉藤を合わせたような女だな、しかしそれじゃ男も寄り付かんだろ」
「もちろん、彼女に手を出すような無謀な奴はみんな医務室送りになったよ。もう『武蔵』のなかでも彼女に近寄ろうとする男は俺と親友の葉月の奴2人だけしかいないぜ」
「お前が死ぬぞ、命がいらんのかよ……」
「なんの、男はそのために生きているんでしょうが、100ぺんぶっとばされようと101ぺんには……ぐばっ!?」
どうやら知らず知らずのうちに力説してしまってたらしい、荒島中尉の頭に神村少尉の投げたディスクのケースが見事にクリーンヒットした。
(南無阿弥陀仏)
それを見ていたほかの男たちは心の中で手を合わせて念仏を唱えた。

「さて、阿呆はほっとくとしてこのままではしばらく中断せざるをえんな」
黒田大尉がそう困って言った。
が、そのとき頭部だけで浮遊していたアナライザーが黒田大尉のところに飛んできて言った。
「アノー、頭ダケシカナクテモ解析クライナラデキマスヨ。でぃすくヲ分析器ニせっとシテクダサイ」
「できるのか、それならすぐ頼む」
すぐさま黒田大尉からディスクを受け取った真田が分析器にディスクをセットするとアナライザーがヤマトのコンピューターと連動して内容をパネルに映し出された。

映像は彗星帝国が地球に対して降伏を勧告しているところから始まった。
『我が全能なる大帝国ガトランティス、大帝ズォーダーの命により汝ら地球人類に告ぐ、生存か破滅か選択するときが来た。地球時間1時間以内に降伏せぬ場合我々は実力を行使する』
地球上の都市は大パニックに陥っていた。
人々は右往左往し逃げ場を求めて宇宙港などに殺到した。
そしてそれをあざ笑うかのように彗星帝国の戦艦は地球の上空を我が物顔で遊弋していた。
地球防衛軍本部にも大勢の市民が殺到していたが宇宙戦力のすべてを失っていた防衛軍はなにもすることができなかった。
「ひどい……」
「みんなどうかしちまってるんだ」
古代も島も正気を失っているとしか思えない市民たちを見て嘆いた。
けれどもそのとき。
『世界各地で暴動が起こっております。各地の警察も手がつけられない状態です。この放送もいつまでできるかわかりません……えっ? 臨時ニュースを申し上げます。ただいまメガロポリス中央市街で起こっておりました騒動が急速に鎮静化に向かっているそうです。これは、あっ、ただいま現場とつながりました、どうぞ』
『こちら現場です。みなさん聞こえるでしょうかこの歓声が、この口々に『ヤマト』を求める歓声を!』

「こ、これは」
『ヤマト』の誰もが驚いた声をあげる。
『皆さん、この声が聞こえるでしょうか? 我々はなにをおびえていたのでしょうか、我々にまだ『ヤマト』が残っていたのです。いまやこの歓声は町中に伝染しようとしています』
そう、地球の人々はようやく思い出したのだ、あのガミラスと戦った苦悩の歴史といままで忘れていた救世主の名前を。
もはや地球市民の顔におびえはない、ガミラスと戦っていたころのあの未来を信じて苦難と戦っていたころの決意のこもった表情が蘇っていた。
あとの映像は徹底抗戦を選んだ防衛軍によって降伏を選んだ議会が抑留される場面や各地のミサイル基地が迎撃態勢を整えていくシーンが映っていた。

そしてそれらの映像記録がすべて終わったとき、藤堂艦長は静かに土方艦長に向き合った。
「お分かりになりましたか、我々がなぜ高いリスクを犯してでも『ヤマト』と接触を持とうとしたのかを」
「……地球人類の目を覚まさせるため、ということですか。確かに貴艦の戦闘力をもってすれば1隻でこの戦争の流れを変えることもたやすいでしょう。けれどこの戦争の戦後の流れをかつてと同じにしないためにはどうしてもこの『ヤマト』の力が必要だったと」
「そういうことです」
そして映像記録はそのもっとも重要な『ヤマト』が白色彗星に立ち向かうところへと入っていった。

白色彗星の前面に立ちふさがり波動砲を放つ『ヤマト』
爆炎の中から姿を現す都市帝国
圧倒的な破壊力を行使する都市帝国の攻撃の前に傷ついていく『ヤマト』
『ヤマト』はかろうじて都市帝国の下部に逃げ込むものの、なおも続く砲撃と迎撃戦闘機の攻撃にさらされ続ける
画面は拡大画像に切り替わり、コスモタイガーが都市帝国の艦載機発進口へ飛び込んでいくシーンになった
「生存者の証言によると、都市帝国の動力炉を破壊するために古代進、真田志郎、斉藤始以下20数名の突入作戦を行ったそうです」
「だろうな、あの要塞を破壊するにはほかに手はあるまい。私ならそうさせる」
土方艦長はそうつぶやいた。
「へえ、俺たちがねえ」
「まあ、俺が行かなきゃメカのことはどうにもならなかっただろうしな」
斉藤、真田も自分ならこの作戦に参加するだろうなというふうにうなづいた。
戦闘はその後もしばらく膠着状態が続いた。
しかし時間がたつにつれ、ヤマトを護衛していたコスモタイガーはほとんどが撃墜され、ヤマトも全身から黒煙を吹き上げて廃船のような姿へと変えられていった。
が、そのとき都市帝国の発進口から一機のコスモタイガーが飛び出してきたと思った瞬間、発進口から炎が吹き上がり、ついでこれまで明々と光をたたえて稼動していた兵器や施設群が動きを止めた。
「爆破が成功したのか、しかし生還機はたった一機だけか……」
「記録によれば生還に成功したのは古代艦長代理ひとりだけです。ほかの突入部隊と護衛のコスモタイガー隊は全滅、生存者はありません」
「生存者、なしか…」
さしもの豪胆な加藤や斉藤たちも絶句している。
宇宙戦士の道を選んだときからいつ戦死してもいいように覚悟は決めていたが、いざこうして自分の死亡通告を受けるのはショックであった。
「続けてください……」
古代は沈痛な面持ちをしたまま、黒田大尉にそう言った。
「はい」
記録映像は続いた。

機能を失った都市帝国へヤマトの残った全ての砲門が開く。
主砲、副砲はもちろんミサイル、パルスレーザーまでもが砲身も焼け落ちるとばかりに砲弾を吐き出し続けた。
直撃を受けたビルが根元から倒壊し別のビルを押しつぶす。
都市帝国のリングに命中した弾丸は回転ミサイルの誘爆をまねきリングをいびつな形へ捻じ曲げていく。
上部の都市の爆発はやがてさらなる誘爆をまねき、下部の惑星部分からも爆炎が吹き上げ始めていた。
地球の市民たちは喜びにわき、地下都市に避難していた人たちも地上へと戻ってきていた。
地球はヤマトをたたえる歓声で包まれていた。
しかし、崩壊する都市帝国の中からゆっくりと黒い影が現れ、やがてその全容を明らかにすると地球上は再び虚無の静寂に包まれた。
超巨大戦艦『ガトランティス』
それは大帝ズォーダーの最後の切り札にして帝国の名を冠す全長8000メートルもの規模を誇る究極の超兵器であった。
その底部に収納された砲身長だけで2000メートルはあろうかという巨大砲が『ヤマト』に向けられたとき、誰もが『ヤマト』は一撃で砕かれてしまうだろうと思った。
しかし超巨大戦艦はその砲口を月に向けるとまるで波動砲のように巨大なエネルギー弾を撃ち込んだ。
それは一撃で月の表面をえぐり、数万トンもの岩石を宇宙まで吹き飛ばした。
驟雨のような岩石の雨に襲われる『ヤマト』しかももはや回避のためのエネルギーさえも満足に残されてはいない。

満身創痍の『ヤマト』をもはや害のない存在と見たか、あるいはその目に地球が滅びる姿を見せつけようと思っているのか。
巨大戦艦は『ヤマト』を無視して地球へその巨大砲による攻撃を開始した。
アフリカの砂漠が真っ赤に燃え滾るマグマの原野に変わり、大西洋をえぐった弾丸はアメリカ東部、ヨーロッパ、アフリカ西海岸に大津波を見まった。
当然世界の各都市も例外ではない。
攻撃の爆風だけでもビルが倒壊し、熱波が家を焼いた。
人々は我先に地下都市へと逃げこんでいったが直撃を受けた都市は遊星爆弾をもはるかに超えるその威力に地下都市ごと粉砕されていった。

しかし『ヤマト』はまだ死んではいなかった。
もはや撃ち込むべき砲弾も残っていない絶望的な状況ながらまだ生きていた。
そんななか、ヤマトから1隻の救命艇が飛び立った。
そしてヤマトはその救命艇に背を向けてゆっくりと巨大戦艦へと向かっていく。
さながら巨象に向かっていく羽蟻のようでありながら、その姿はまさに威風堂々とし、地球人類の誇りを表すかのようであった。
やがて突き進む『ヤマト』の姿をまばゆいばかりの光が包み始めた。
「あれは、テレサ……」
古代たちはその光に見覚えがあった。
この宇宙の物質と接触すると対消滅を起こして大爆発を起こす反物質でできたからだを持つため唯一彗星帝国に恐れられ幽閉されていた彼女を古代たちは先日惑星テレザートで開放していたのだった。
そして、光は輝きを増すとヤマトを包み込み、さらに巨大戦艦をも覆い尽くすと一瞬強烈な閃光に変わった。
古代たちは巨大戦艦が爆発したことを悟った。
その閃光がおさまったとき、そこには巨大戦艦もテレサの姿もヤマトもあとかたもなく消え去っていた。

記録映像がおわり、作戦会議室内は沈黙に包まれた。
「…………」
誰も一言も声を発さない。あまりな結末に皆がショックを受けていた。
「地球防衛軍は全滅『ヤマト』も沈没、か」
ようやく土方艦長がしぼりだすように言った。
「生存者は島、相原、南部、太田以下17名でした」
実質地球防衛軍唯一の生き残りといえる。
「ただし」
空気を和らげるために藤堂艦長は付けたしを加えた。
「これはあくまでなにも干渉が加えらなかった史実です。実際にはもう我々は彗星帝国の数個艦隊を撃破していますし、先日彗星帝国本体にも攻撃を加えておきました、少なくともこれと同じ結果にはならないと思いますよ」
「あの白色彗星の突然の減速はやはりあなたがたの仕業でしたか」
「ええ、それにもうひとつの結果が出ています。私たちの史実ではあなた方がデスラーと戦うのは数日前のはずで率いていた艦隊の構成もまったく違いました。恐らく我々の攻撃で彗星がダメージを受けたために数日出撃が遅れたためでしょう。第一我々の歴史ではデスラーはここで死んでいますがこの歴史では生き残ってしまいました」
それを聞いてヤマトクルーの皆に生気がもどった。
死ぬはずの人間が生き残った、それは歴史を変えたことに他ならない。
「では、ありますがただ単に勝たれてもそれはそれで問題なのです」
「? どういう意味ですか」
黒田大尉の言った言葉に南部は怪訝な表情をした。
「我々の『武蔵』の戦力を持ってすればこの戦争を圧勝に持ち込むことも可能です。ただそうしたあと地球がどうなるか、少し考えてみてください」
「…………」

しばらくのあいだ喧騒と議論の声が会議室に流れた。
「それでは、あなたがたは極力戦闘に参加はしない、と」
「はい、重ねて言いますが人間は自らの身を削って苦難を乗り越えなければ成長しません。ましてやこの時代の地球人はアンドロメダを始めとする艦隊の戦力を過信しすぎています。この戦争においての敗因の最大原因とも言える要素をそのままにしたままでは破滅を先延ばしにしただけに終わってしまいます」
「つまり、この先影となるということか」
「はい」
これが藤堂艦長の出した結論であった。
陰軍として動き、地球軍にとって致命的な要素のみを除去し調子に乗っている地球人に水をかける。
「わかりました、どのみちこれは我々の戦いです。ですが……」
「……ですが?」
「あなたがたはまだ、一番重要なことをおっしゃっていないのではないのですか?」
藤堂艦長は土方艦長の言おうとしたことを理解した。
だがそれは藤堂艦長たちにとって『ヤマト』が沈没すること以上に語りたくないことだった。
「やはり、語らねばなりませんか。わかりました、この戦争のあと、今の我々につながる。そしてこのままではこの世界がたどるであろう歴史をお教えしましょう」

人にとって未来を知ることはすべての希望が失われることに等しいという
しかし未来が変わるとなればそれはどうだろう
この戦いのなかで『ヤマト』は『武蔵』はどう動くのか
物語は中盤へと入っていく

第14章 完

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