逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第34章 地球防衛艦隊勝利のとき……しかし

 『ヤマト』の正面に、宇宙に浮かんだ巨大な黒い蟹のような異形の金属の塊が浮いている。しかしそれはその身の内に、多数のビーム砲とミサイルを持ち、地球艦隊をひねりつぶそうとしてくる悪意を持った超巨大戦艦の分身たち。先に『武蔵』によって一蹴されたとはいえ、超テクノロジーの差で敗れたのであって、一隻一隻が地球防衛軍の主力級戦艦と互角以上の力を持っていることに疑う余地は無い。
  だが、これらを退けなくては地球の未来はない。『ヤマト』はかつてただ一隻でガミラス星を陥落させたときのように、後ろを振り向くことなく発進した。
 
「古代、この『ヤマト』が矢じりとなって敵艦隊に楔を打ち込む。『蝦夷』と『メリーランド』は後方で『アンドロメダ』を護衛せよ。古代、全方向に主砲を向けろ」
「了解、主砲発射用意、各砲塔は射線軸をずらして全方位を同時射撃」
  数では同等でも、満身創痍の『ヤマト』と地球艦隊では正面きっての砲戦では勝ち目がないとして、土方艦長は一八世紀の帆船同士の砲戦のように、敵艦隊の巨砲の懐のうちに飛び込んでのゼロ距離射撃を決断した。
「どのみち、一撃必殺を期すには肉薄するしかないのだ。南部、それで問題はないな?」
「はい、あの敵艦は超巨大戦艦の砲撃ユニットを分離したものですので、側面の攻撃力や防御力は通常の戦艦以下と思われます」
  つまりは、接近することさえできれば『武蔵』のような化け物じみた火力のない『ヤマト』の主砲でも、あの大砲のお化けをぶち抜くことができるということになる。ただし、正面きって突撃してくる『ヤマト』は当然集中砲火に遭うだろうから、それを潜り抜けることができたらの話ではあるが。
「空間磁力メッキ、効果時間後四〇秒!」
  あらゆる攻撃をはじき返すことのできる『ヤマト』必殺のバリヤー、空間磁力メッキに敵の砲撃やミサイルがはじき返されていくが、これは持続時間が短い上に一度使うと再度使うためには準備に膨大な時間がかかるために二度とは使えない。しかし、敵に肉薄するためにはあと二分は必要だった。
「コスモタイガー隊、攻撃を開始せよ!」
〔了解、全機強化ミサイルポッド開放、ありったけを叩き込め!〕
  道を切り開くために加藤と山本のコスモタイガー隊も、連戦の疲れなどまるで見せない闘志で敵艦隊へ突っ込んでいく。すでに乗機を損傷して失った者も多く、予備の副座機や三座機に一人で乗り込んで出撃した者もいるくらいだ。
「山本、これが最後だ、行くぞ!」
「ああ、お互いに……生き残ろうぜ」
  対都市帝国戦で、史実では加藤、山本を含むコスモタイガー隊も全員が戦死している。この戦いでも何人かが戦死者の列に加わるのだろうが、誰も時の女神の生贄になってやるつもりはひとかけらも持っていなかった。
「効果時間、あと二十秒。閃光弾および、緊急修理用液体金属ユニット用意、工作班は被弾に備えて待機」
  真田もまた、自分も含めてほとんどの者が戦死するヤマトクルーの犠牲を少しでも少なくするために、温存していたすべての秘密兵器と補助兵器を残らず倉庫から引っ張り出させ、徳川機関長や佐渡先生方も、機関室や医務室が機能停止することのないように、手すきの斉藤たち空間騎兵隊をこき使って危険物をどかさせたり医療道具や消火器を用意させたりした。
「ほらほらあ、普段大メシを食らっちょるんじゃから、こんなときはてきぱき働かんか!」
「先生、いくらなんでも人使い荒いぜ、俺たち空間騎兵隊は馬車馬じゃねえんだ」
「ばっかもん! これからもっと忙しくなるんじゃ、いやじゃったら厨房行って飯運びでも手伝って来い」
「うぇ、わ、わかったよ先生」
  斉藤はげんなりしながらも、あれこれを持ってこいと忙しく怒鳴る佐渡先生の言うとおりに、あっちに行ったりこっちに行ったりと駆けずり回った。なぜなら、厨房に行った彼の部下が、一度に握り飯を二百個持たされて広い『ヤマト』の艦内中をめぐらされているのを見て、とてもじゃないがかんべんしてくれと思っていたからである。
  光のヴェールに覆われた『ヤマト』は敵弾をはじき返しながら驀進し、艦首ミサイルなどでけん制しつつ、後方の地球防衛艦隊を守って進む。
「効果時間、あと十秒、カウント開始、七、六」
  だが、無敵の防御もその効果時間のリミットが迫り、真田のカウントが無情に時を刻む。空間磁力メッキが切れたとき、敵の砲弾は容赦なく『ヤマト』の艦体を切り裂いてくるだろう。
  それなのに、恐れを抱く者は誰一人いない。なぜなら、本当の戦いはこれからだと誰もが知っているからだ。
「全砲門、発射!」
  磁力メッキが切れた瞬間、『ヤマト』の主砲が火を吐いて二隻の殲滅戦艦を揺らがせ、同時に無数の弾丸が『ヤマト』に当たって炎を吹き上げる。しかし、いかに傷つこうとも『ヤマト』の足を止めることはできない。前への道を切り開くために、真田は「こんなこともあろうかと」と用意していた切り札を惜しまずに切る。
「閃光弾、発射!」
  『ヤマト』から放たれたまばゆい光と強烈な電磁波を放つ閃光弾が、殲滅戦艦の射手の目をつぶし、センサーを狂わせて砲撃の密度が薄まる。また、損傷を負った箇所には瞬時に硬化する液体金属でできた緊急修理ユニットが働いて破口を塞ぐ。
「『ヤマト』を援護しろ、全艦撃って撃って撃ちまくれ!」
  一手に攻撃を引き受ける『ヤマト』の姿を見て、『アンドロメダ』をはじめとする地球防衛艦隊の残存艦も、残った砲とミサイルを撃ちまくって弾幕を張る。もはや拡散波動砲を撃つ余力も無く、最新鋭新造艦として地球市民の歓呼を一身に浴びた勇姿は見る影も無く焼け爛れているが、それでもなお前進を続けようとする闘志には、タイタン基地から中継されるモニターごしに見る市民も、喉も枯れよとばかりに歓声を送る。
「頑張れ! 『ヤマト』」
「負けるな! 『アンドロメダ』」
  この戦いに勝たねば、地球人類に未来はない。いまやそのことを自覚していない地球人類はただの一人とていなかった。
  しかし、祖国の未来を背負っているということでは彗星帝国の人間も変わりない。国家としての目的はどうあれ、生まれ育った国を愛し、守り抜きたいという思いの元に、殲滅戦艦軍の兵士たちも鉄壁の防御網をもって地球艦隊の前に立ちふさがる。
「彗星帝国ガトランティスの名にかけて、ここは通さぬ」
  体当たりさえ辞さない気迫をもって、接近してくる『ヤマト』へと弾幕を張ってくるが、閃光弾で照準を狂わされ、島の操舵で機敏に回避する『ヤマト』を簡単には捉えられない。だがそれでも被弾をゼロに抑えることはできずに各所に損傷を受け、爆発に巻き込まれた負傷者が医務室に担ぎこまれてくる。それでも負傷の軽い者は応急手当を受けたら現場に戻っていき、『ヤマト』の力を少しでも持ちこたえさせようと奮闘する。
「敵艦隊、側方有効射程、目標ポイントまであと一〇宇宙秒」
「地球防衛艦隊、縦列陣形で追尾中」
  『アンドロメダ』以下もできるだけの援護をしながら『ヤマト』を追ってくる。『ヤマト』が殲滅戦艦軍に楔を打ち込めれば地球艦隊にも勝ち目はあるが、それ以前に『ヤマト』が倒されれば満身創痍の地球艦隊には勝ち目はない。どちらの陣営もキーパーソンが『ヤマト』であることを知っていた。
 
  一方、超巨大戦艦のあまりの巨体に超火力を持て余し気味で攻めきれていなかった『武蔵』も、コツを掴んできて効率を上げれてきていた。
「各砲塔、個別に砲撃せよ!」
  今『武蔵』は艦橋から統一射撃をするのではなく、四基ある砲塔がそれぞれの判断で好きに撃っていた。普通なら艦橋が破壊されたときなどの非常のときしかやらないのだが、なにせ相手は間違っても外しはしないし、当たれば効くのだから統一して正確に撃つより個別に乱打させたほうが面を攻撃できた。それでもサイズの圧倒的な差からまだまだ致命傷には至っておらずに、こちらへ釘付けにしておくのにもかなり時間を食ってしまっていた。
「しかし、頑丈な奴だ」
「都市帝国に比べて装甲は厚いし、簡単には誘爆しないので当然だ。スズメバチの一刺しも、相手が象やクジラではな」
  ぼやいた山城中尉に黒田大尉も、よくもまあ二十五世紀の戦艦の攻撃を受け続けて持ちこたえられるものだと感心していた。相変わらず『武蔵』にはダメージはないが、相手もこれではきりがない。藤堂艦長は二百年のテクノロジーの差に、いつの間にかあぐらをかいていたことを反省したが、ここまできたらもうその場その場で判断して戦うよりほかに手はない。
  だが、なおも超巨大戦艦を砲撃して、その砲塔のいくつかを粉砕したときに、神村少尉のレーダーに突然高出力エネルギーの接近を示す警告が鳴り響いた。
「艦長! 十時の方向、仰角二十度より高エネルギー接近中、波動砲クラスです!」
「なに? 荒島、砲撃を中止してシューティングスター隊を散開させろ! 山城、緊急回避と同時にステルス展開、急げ!」
  見ると、『武蔵』の窓からもこちらをめがけて一直線に飛んでくる赤い光線が確認できたが、『武蔵』の高い機動性はすんでのところで上昇してこれをかわすことに成功し、そのままステルスフィールドを展開して再び姿をくらませた。
「危なかったな、いくら『武蔵』の装甲でもあれを受けたらただではすまなかった。だが、いまさらどこのどいつだ?」
  胸をなでおろした荒島中尉が吐き捨てると、砲撃の来た方向を策敵していた神村少尉がコスモレーダーの捉えた目標をビデオパネルに映し出した。
「こいつらは!?」
  そこに映し出されていた艦隊を見て、全員がまったく想定していなかった事態に驚愕し、ありえないことと思いながらも肯定せざるを得なかった。
「ガミラス艦隊……」
  そう、そこには濃緑色のデストロイヤー艦をはじめとする、大型戦艦や三段空母の入り混じった間違えようもない大ガミラス帝国の艦隊が軒を連ねており、その中央にはひときわ目を引く戦闘空母の艦体側面に、大破放棄されていたはずのデスラー艦の艦首から機関部までを無理矢理接続したものが鎮座していたのだ。
「そうか、さっきの砲撃はデスラー砲だったのか。しかし、なぜ今更デスラーがここにやってくるのだ?」
  藤堂艦長にも『武蔵』の誰にも、なぜガミラスにとってなんの益にもならない戦いにわざわざデスラーが介入してくるのかわからなかった。あの『ヤマト』との最終決戦の後に、彼は新天地を求めて旅立ったはずなのに、どうして戻ってきたのだ。
「艦長、攻撃しますか?」
  好戦的な荒島はすでにガミラス艦隊を敵と認識して攻撃許可を求めてきているが、藤堂艦長はデスラーの真意を知りたいと思った。
「いや、しばらく様子を見よう。デスラーが、地球と彗星帝国の争いの漁夫の利を得ようなどと姑息なことを考えるとも思えん。なにか考えがあるのだろう」
  デスラー総統は不意打ちもすれば策略も用いるが、常に王者のように堂々として、欲しいものは自分の手で奪い取っても、横からかすめとろうなどと盗賊のような真似はしない。だからこそ、有能で優秀な将兵が命を懸けて忠誠を尽くすのだ。
「すでに彼は『ヤマト』との因縁には決着をつけたはずだ、なのにどういう意味があるというのだ……?」
  大破寸前で、炎上を続けている超巨大戦艦のかたわらで、『武蔵』は最後の激闘を続ける地球艦隊と、ゆっくりと近づいてくるガミラス艦隊を見守っていた。
 
  そして、ガミラス艦隊の出現にとまどっているのは『ヤマト』を含む地球艦隊も同じで、デスラーの意思を量りかねてビデオパネルに映るガミラス艦隊を見ていた。
「デスラー、いったいどういうつもりだ!?」
  古代にも、あのデスラーがなぜここにやってきたのかはまったくわからなかったが、そこにある戦力が持つ意味だけはわかった。もしもここでデスラー砲を地球艦隊に向けられたら、この場を維持するだけで精一杯の地球艦隊は『ヤマト』を含めてひとたまりもない。だが、ガミラス艦隊は地球艦隊など眼中にないように、ゆっくりと超巨大戦艦のほうへと進んでいった。
「艦長、ガミラス艦隊から、デスラー総統の名で入電しました」
「読め」
  全員の神経がその瞬間、戦闘から離れて相原の読み上げる通信文に集中した。
〔ヤマトの諸君、諸君らの戦いを心より評しよう。だが、私にも大ガミラス帝国総統としての義理を果たす義務がある。そして、諸君らと、彗星帝国のどちらが勝つかも見届けさせてもらおう。では、健闘を祈る〕
  以上です。と、相原が締めると、古代はデスラーが彗星帝国に身を寄せていたことを思い出した。
「そうか、彼はガミラスと同じく、母星を失った彗星帝国の人々に借りを返すつもりなのか」
  たとえ、生き方が相容れなかったとしても、命を救われて帝国の再建に助力してもらった恩があることには変わりはない。もはや、地球と彗星帝国の戦いに干渉などはするつもりはないが、デスラーは武人としての仁義を貫こうとしていることを古代は察して、その誇り高い生き様に尊敬の念さえ覚えた。
  その後、デスラー艦が超巨大戦艦に接舷したという報告が来る頃には、『ヤマト』は各所に損傷を受けながらも立ちふさがる殲滅戦艦の、前部主砲の旋回上の死角にもぐりこんでいた。
「ようし、南部、全砲門一斉砲撃、砲身が破裂するまで撃ちまくれ!」
「了解、全砲塔、存分にやれ!」
  満を持して、『ヤマト』の生き残っていたすべての砲門からエネルギーがほとばしり、殲滅戦艦に突き刺さった。すでに砲塔内には煙がたちこめ、第二主砲の砲身の一本は折れ曲がって使い物にならないが、クルーたちは自らが『ヤマト』の部品の一つと化したかのように正確に指を卓越したピアニストさながらに動かして火線を閃かせていった。
「敵艦隊、転進してきます」
「いまだ! 取り舵いっぱい、敵艦隊の後背に回りこめ」
  『ヤマト』によって艦列を突破されて、超巨大戦艦を直接攻撃されることを恐れた殲滅戦艦の数隻は、『ヤマト』の攻撃で損傷を負った船体を回転させて追撃に移ろうとしたが、『ヤマト』はそのまま抜き去っていくどころか、逆に反転して彼らの死角について砲撃を免れ、その『ヤマト』に突破された一点を狙って地球艦隊は総攻撃を開始した。
「撃て!」
  満身創痍の地球艦隊から、大小さまざまな砲撃がとりまぜられて殲滅戦艦軍の放った砲撃とクロスし、エネルギーの放電によって宇宙に雷を轟かせる。
「敵戦艦一隻撃沈、一隻大破」
「巡洋艦『コペントリー』、駆逐艦『霜月』『桔梗』撃沈! 本艦以下残存艦も被害甚大です」
  戦果以上に被害を出し、すでに姉妹艦『カシオペア』『ネメシス』を失った『アンドロメダ』も、廃艦同然に焼けただらせた船体に鞭打って砲火を放つ。目標は一点、我らはそこを貫く槍となる。今、敵艦隊は『ヤマト』に後方に回り込まれてうろたえている。チャンスは今しかない。
「側面ミサイル、煙突ミサイル、全弾発射!」
  『ヤマト』から火炎と煙を吹いて、ありったけのミサイルが弾薬庫を空にする勢いで連続発射される。むろん、一発一発ではたいした効果はないが、土方艦長はもう弾切れになることも覚悟で、ミサイルの爆発で敵艦が覆い尽くされるほどに発射させて、反撃をも押さえ込んで主砲を連射していく。
「一隻に攻撃を集中させるな、全体を攻撃して敵に後背から狙われているという圧迫感を与えるんだ」
「了解! コスモタイガー隊、『ヤマト』の攻撃に巻き込まれるな。だが徹底的に攻撃しろ」
〔矛盾したことを軽く言ってくれるな古代。もうミサイルの数が少ないのはわかってるだろうに〕
「加藤、こっちに残った人員だって少ないんだ。行けるなら俺がコスモ・ゼロで出たいが、なんとかこちらの攻撃が届かない分をカバーしてくれ」
  実際、このとき『ヤマト』の医務室は負傷者であふれ、史実のように医務室が圧壊して全滅という事態は起きていなかったが、操作を手動に頼るところの大きい『ヤマト』の機能はほとんど奇跡的に、残ったクルーたちの超人的な努力で維持されているような状態だったのだ。
〔わかった。その代わり地球に帰ったら、コスモタイガー隊全員におごってもらうぜ!〕
「なに!? 空戦隊全員って、俺を破産させるつもりか!」
〔あー、雪さんとの挙式費用は残しておいてやるよ。俺たちもそこまで鬼じゃない。なあ、山本?〕
〔ええ、戦闘班長の給料三か月分くらいでなんとかなるんじゃないですか? じゃあ交渉成立ということで〕
  止める間もなく、二人の空中戦の鬼に率いられたコスモタイガー隊全機は、戦後の古代のおごりを期待して敵艦隊へ肉薄攻撃をかけていく。すでにほとんどの機がミサイルを撃ちつくしているので、ギリギリまで接近して敵のレーダーやブリッジに直接パルスレーザーを撃ち込んでいく。いくら相手が対艦攻撃に特化して対空迎撃火器のない殲滅戦艦とはいえ、極めて危険な戦法だが、史実のように彼らは死のうとはせずに、生き残って次世代に希望をたくすために飛ぶ。
「左舷、第九装甲板剥離、気密が漏れています」
「技術班、緊急修理ユニットを使え。出し惜しみするな、倉庫を空にしろ」
  正面からは来なくても、これだけの艦隊を敵にして被弾ゼロとはいきがたく、破られた装甲には緊急修理ユニットが、技術班の迅速な判断で取り付けられていく。戦闘では裏方だが、彼らの努力がなければ『ヤマト』はとっくの昔に宇宙の藻屑となっているだろう。
  努力と執念、生への欲求と勝利への渇望が敵味方問わずに人間たちを動かして、両陣営は激しい砲火を散らし、ついに地球艦隊は敵艦隊を突破することに成功した。
「司令! 敵艦隊突破しました!」
「ようし、全艦可能な限りの速度で敵巨大戦艦に肉薄しろ。目標は、敵艦の左舷の破口だ。一隻でいい、あそこに撃ち抜けば機関部を直接狙えるぞ」
  敵巨大戦艦は推進機関が側面に張り出した翼のような部分にあり、そこはまだ健在だが、これだけの巨体を動かすエネルギー発生機関はその体内に納められているのはエネルギーサーチでも判明している。そこさえつぶしてしまえば、いくら敵が巨大であろうと行動力は奪える。突破した地球艦隊は敵に生まれた唯一のアキレス腱を断ち切らんと、体当たりしてでも超巨大戦艦を仕留めると全速前進する。しかし、敵を突破しても今度は背後から追いすがってくる敵艦隊を振り切らなくてはならない。充分に加速できる艦船は、『アンドロメダ』を含めて『メリーランド』と主力級戦艦一隻、巡洋艦三隻、駆逐艦五隻と、もう小規模な艦隊一つ分しか残っていない。しかも、突破時の交戦で機関部損傷を負った『蝦夷』と二隻の巡洋艦、そして一隻の駆逐艦にはさらに過酷な任務が待っていた。
「ここから先は、命に代えても通さん」
  『ヤマト』をはじめ、彼らは残って殿を務め、追撃を食い止めるという決死の任務に立った。だが、敵も傷ついているとはいえ、こちらはさらに瀕死であることには変わりない。ほんのわずかな足止めと引き換えに、彼らは確実に全滅してしまうだろう。それでも、自分たちにできることはこれだけで、死地に正面から立ち向かうことで万が一の活路を見出そうと、回頭中の敵艦隊へと向かって攻撃を開始しようと、残余の砲を回転させる。しかし、そのときレーダーに新たな光点が突然またたいてきた。
「か、艦長! 敵艦隊後方にワープアウト反応、数、およそ三〇」
「なに!? 新手か」
  土方艦長は慄然とした。まさか、敵艦隊の予備兵力か? いかん、ここでたとえ駆逐艦でも敵に加われば、地球艦隊になすすべはなくなる。だが、最悪の予感は次の雪の悲鳴にも似た叫びで破られた。
「い、いえ違います。この反応は地球艦隊です。あれは味方です!」
  一転して、歓呼の叫びが艦橋に轟いた。回頭中の敵艦隊の背後に現れた艦隊は、五隻の戦艦と巡洋艦、駆逐艦、パトロール艦や警備艇までも加わった混成艦隊で、特に駆逐艦以上の船はみなどこかしら損傷している。彼らは、戦闘開始から今までに損傷して戦列を離れ、やっと応急修理を果たして戻ってきた者たちに、戦力未満とされて退避を命じられたが、矢も盾もたまらずに参戦してきた小型艦を含めた、『ヤマト』たち同様にあきらめない心を持った勇者たちであった。
「接近中の艦隊から入電、我らこれより戦闘に参戦す」
「ようし、これで挟み撃ちだ!」
  援軍を得て士気の上がった『ヤマト』は、これで壊れてもかまわないといわんばかりに残存火器をありったけ叩き込み、援軍も回頭を中断してそちらに方向転換しかけている殲滅戦艦軍へと大小とりまぜた砲撃を届くか届かないか、効くか効かないかなどおかまいなしに乱射しながら突撃した。
「刺し違えてでも貴様らは倒す。皆、ここで死んでも我らの後に続くものは残る。無駄死ににはならんぞ、突撃だあ!」
  援軍艦隊の先頭に立つ戦艦『霧島』の艦橋から、指揮官に選ばれた黒ひげの艦長が援軍艦隊全体に飛び、彼らも『ヤマト』らに負けない闘志で砲を撃つ。もとより、彼の言うとおり全滅も覚悟の上、しかし各惑星や衛星の基地には損傷してドックに駆け込んだ艦がまだ相当数残っており、彼らがいれば戦後の復興と軍の再編は速やかに進むだろう。白色彗星に正面から挑んで全滅した史実とは違って、まだ地球防衛艦隊は滅んでいない。
「彼らの意思を無駄にしてはいかん。ここが正念場だ、古代、回頭中の艦へ集中攻撃、彼らを援護しろ」
「了解、全砲門一斉砲撃」
  『ヤマト』の全砲門が、まだこれだけの力を残していたのかと疑うほどの勢いで、敵艦隊へと照準を合わせていく。すでに長引いた戦いでかなりの砲が破壊されているが、真田たち技術班の必死の努力で復旧したものも合わせて、不死鳥のごときしぶとさで『ヤマト』はなおも戦い、その闘志はほかの艦にも波及していく。
「『ヤマト』に負けるな、あとで『メリーランド』の連中に『蝦夷』は『ヤマト』の金魚のフンだったなんて言わせるなよ!」
  子龍艦長も部下を叱咤し、『蝦夷』ももう普通なら数ヶ月はドック入りしなければならない損傷をものともせずに砲撃を続ける。
 
  そして、残った艦隊の奮闘の成果で、ついに『アンドロメダ』以下の地球艦隊はその射程圏内に超巨大戦艦を捉えていた。
「撃沈、せよ!」
  長時間戦い抜いてきた疲労を、戦闘の高揚感が生み出す脳内麻薬と、使命感と責任感で押し殺し、艦隊司令は眼前のただ一隻の戦艦を、明確に沈めろと命令した。
「残存砲塔、エネルギー充填」
  砲術オペレーターの、武装操作パネルに記された武装の大半には、使用不能を示す赤ランプが点灯していたが、残っていたあるだけの武器と呼べる代物が最後の咆哮をするために、廃棄寸前の体をひきずって照準を超巨大戦艦の左舷に開いた破口に定める。その中には赤ランプがついていて、あと一発撃てれば壊れてもいいというものもあるが、撃たずに艦を沈められたり地球が滅ぼされるより千倍マシだ。
「照準固定、一斉射撃用意」
  装甲を破られているとはいえ、あの巨体を撃ち抜くには砲撃を分散させてはだめだ。残存艦の砲撃を一撃で全部叩き込み、その威力を最大まで引き出すよりほかはない。だが、全艦の射撃管制を統一しきる前に、『武蔵』によって大半を破壊されながらも生き残っていた砲台からの攻撃が艦隊を襲った。
「敵艦発砲、攻撃来ます!」
「耐えろ、今は耐えるしかない」
  数は減っているが、桁外れに大きい砲撃が地球艦隊の残り少ない艦艇と武装を削り取っていく。しかし、その攻撃をも耐え切った地球艦隊はついにすべての射撃管制を同調させることに成功した。
「砲撃準備完了」
「よし、カウント開始! 総員、反動に備えろ」
  コンピュータによって、コンマ一秒の誤差もないように調整されて、全艦の艦内に十から始まって、一つずつ減っていく数字が緊張するオペレーターの声で流される。彼らにとって、おそらくは人生でもっとも長い十秒であろう、艦隊司令をはじめ、それぞれの艦の艦長から一兵卒まで、それこそ唯一の女性艦長である『メリーランド』のニナ艦長も、艦橋への被弾のために左腕を脱臼して包帯で吊るし、美しかった金髪を手入れもできないままに戦塵と煙にまみれさせながらも艦長席からは離れずに、肘掛に爪を食い込ませて苦痛に耐えながらそのときを待っている。
「七、六……」
  カウントダウンの声が、艦のあちこちから響いてくる被弾の轟音の中でもいやにはっきりと聞こえてくる。だが、カウントがゼロに届く前に『メリーランド』のレーダーは、新たな反応をキャッチした。
「あっ! 艦長、敵巨大戦艦の反対側から多数の艦隊反応を確認! 数は……ひ、百以上です!」
「なんですって! 敵の増援部隊!?」
  ニナ艦長は自身の血の気が引いていく音を聞いたような気がした。味方が必死の思いで敵艦隊を抑えているというのに、その数の増援は反則すぎる。敵超巨大戦艦のサイズならば考えられない数ではなかったが、それでもどうあがいても全滅は必至だ。しかし、最悪の事態を覚悟したとき、レーダー手はさらに驚くべき報告を続けた。
「あ、いえ! 先頭のこの反応は先のガミラス艦隊です。追従する艦隊はどれも小型で、ジェネレーター反応は小、こちらへ向かわずに遠ざかっていきます」
「デスラー……いったい?」
「艦長、どうしましょうか?」
「どうって、もう遅いわよ!」
  そう、話しているあいだにもカウントは進み、ニナが怒鳴ったのと時を同じくして、カウントはゼロを唱えていた。
 
「全艦、一斉砲撃開始!」
 
  大小問わずにショックカノン、レーザー、ミサイルが放たれて超巨大戦艦の唯一のウィークポイントへと向かう。むろん、無理に無理を重ねた代償は大きく、いくつもの砲塔が反動に耐え切れずに自壊し、駆逐艦の中にはこれだけで戦闘不能に陥って戦線離脱していくものまであったが、執念を込めた砲撃は一本の矢となって超巨大戦艦に吸い込まれて、次の瞬間火山の噴火をも思わせるほどの勢いで、破口から大量の火炎が吹き出した。
「やった!」
  巨大戦艦の船体が激しく揺れ、吹き上がったエネルギーの量から考えて、敵の機関部のどこかに損傷を与えたことは確かだ。敵の砲撃も同時にやみ、全滅寸前だった地球艦隊はかろうじて行動力を残している『アンドロメダ』や『メリーランド』を除いて、よろよろとよろめきながら戦線を離脱していく。しかし、地球艦隊の、ろうそくの炎が燃え尽きる前の最後のきらめきをもってしても、超巨大戦艦の息の根を止めるにはいたらなかった。
「艦長! 敵巨大戦艦が転進を開始しています!」
「! あの損傷で、まだ動けるというの」
  ニナは、もう半分以上電源の切れた指揮デスクを叩きつけて愕然とした。主機関には確実にダメージを与えたはずだが、まだ補助機関がどこかに残っていたのか、それともエネルギーコンデンサーか、どちらにしても、あれだけの戦艦に予備システムがないと思っていたのは甘かった。超巨大戦艦はスラスターを点火して、そのあまりの巨体ゆえに一見すると山が鳴動しているのではと思うくらいにゆっくりと、しかしまだ健在であることを示すように確実に艦首をめぐらせている。
「艦長、どうしましょう!」
「……」
  ニナは、パネルに両手をついたままで、じっと歯を食いしばっていた。残念ながら、地球艦隊の全火力をもってしても『武蔵』の破壊力には及ばなかった。もはや、『メリーランド』と『アンドロメダ』の全火力を振り絞ってもどうすることもできまい。かくなる上は、波動エンジンそのものを爆弾と化して体当たりを……
「いや……」
  だがニナは、その考えを頭を振って振り払った。いまさら自暴自棄で特攻を仕掛けたとしても、成功するとは思えないし、出力が著しく下がった波動エンジンを爆発させたところで高が知れている。第一、子龍とした誰一人欠けずに勝利するという約束をこちらから破ることになる。
  なお、このとき地球艦隊の最後の攻撃が失敗したことを見て取った『武蔵』が、援護射撃を準備していたのだが、もちろんそんなことを知るよしもない彼女たちは、まだ何かできることはないかと必死で考えて、超巨大戦艦の動きがこちらを狙っての転進ではないことに気がついた。
「遠ざかっていってる? どういうこと!?」
「わ、わかりませんよ! ともかく離れていってるんです、訳がわかりませんよ!」
  ニナより少し年若い、森雪と比べてもあどけなさが残る女性オペレーターが悲鳴のように叫ぶが、超巨大戦艦は瀕死の『メリーランド』や『アンドロメダ』にとどめを刺そうとせず、まして『ヤマト』らに撃滅されかかっている殲滅戦艦軍を救助に向かうでもなく、残りの推力を使って離れていき、その意味不明な行動にはとどめを刺そうとしていた『武蔵』も手を止めて、ズォーダーの真意がどこにあるのかと、とまどいながら見つめていた。
「まさか、逃げる気でしょうか?」
  一人のオペレーターの発言を、ニナは即座に首を振って否定した。なぜならば、宇宙をその軍靴の下にひざまずかせようと幾世代にもわたって大宇宙を蹂躙し続けてきた大帝国が、いくら致命的な損害をこうむったとはいっても、彼らから見たら辺境の野蛮人の、しかも自分たちにも増して息も絶え絶えの少数艦隊に背を向けるなどということは、何よりも彼らのプライドからして考えられない。
  そのとき、まだかろうじて生き残っていた通信機のランプがつき、通信士が慌てて受信した内容をニナに報告した。
「艦長、『アンドロメダ』から入電、敵巨大戦艦の進路を至急調査して報告せよとのことです」
  それは、すでにレーダーも破壊されてしまっていた『アンドロメダ』の艦隊司令も、同じとまどいを抱いているということであり、むろん異存のないニナはその命令に従った。ただ、その結果報告された方向は、ニナや地球艦隊司令はおろか、全地球艦隊将兵の顔色を失わせるのに充分なものであった。
「進路……太陽系内周第三惑星軌道、これは、奴は地球を目指しています!」
「艦長、敵艦周辺に空間歪曲反応をキャッチ! ワープしようとしているもようです」
「なんですって!?」
  その報告を受けて冷静でいられるほどニナは精神を磨耗させてはおらず、『メリーランド』から報告を受けた地球艦隊の各艦も同様に顔色をなくした。あの船体で、まだワープするだけの余力があったということにも驚きだが、今地球防衛軍の戦力は根こそぎ全てこの土星空域に集中しており、地球宙域には戦闘衛星のほかには本当に戦力にならないパトロール艇しかおらず、食い止められる戦力は皆無に等しい。
「いけない! このままじゃ、地球が危ない!」
「しかし艦長、いくら超巨大戦艦といえども、あの大破した状態では地球を直接攻撃されたとしても損害は微々たるものでは?」
「違う、あれだけの質量とエネルギーを持つ物体が衛星軌道から地表に落下したら……」
  恐竜大絶滅を引き起こしたと言われているジャイアントインパクトの隕石の大きさが、およそ一〇キロメートルだったと推測されているのに対して、超巨大戦艦は十二キロメートル超、おまけに全身が超金属の塊であるために大気圏で燃えることはなく、ワープで幾分か消耗するとしても機関部の膨大なエネルギーが激突の瞬間に解放されるとしたら……その破壊力は遊星爆弾など比較にもならず、少なく見積もっても波動砲が直撃したに等しい被害を地球は受けることになるだろう。
「ズォーダーは、地球を道連れにしようと!」
「恐らくね。そうか、さっき離脱した小艦隊はこのために」
  ニナは、あの数百にも及ぶ小艦艇の意味をここに来てはっきりと理解した。あの超巨大戦艦は、単に彗星帝国の切り札というだけではなく、都市要塞に万一のことがあったときの保障システムとしての役割もあったに違いない。なぜなら、あの都市帝国に居住している人口を考えたら、あの巨体と過剰すぎるほどの強武装はむしろ彼らの恐怖心、生存本能の裏返しと見ることもできるのだ。
  けれど、そんなことがわかったとしても、地球艦隊に残った力はほとんどなく、再度砲撃をおこなうだけのエネルギー充填にも時間がかかる。だがそのとき、転進を完了しようとしていた超巨大戦艦の各部で突然爆発が起こった。
「なに?」
  それは、彼女たちと同じく敵の意図を見抜いて止めようとした『武蔵』の主砲射撃であったが、いくら『武蔵』の火力がこの時代では強大であろうと、ほんの数秒では超巨大戦艦の巨体を削りきることはできなかった。
「艦長、超巨大戦艦がワープに入ります!」
「全砲門斉射、止めなさい!」
「間に合いません! 時空震が来ます!」
  地球艦隊が動く暇もなく、超巨大戦艦の姿が揺らいだかと思うと、その巨体が掻き消えて、それほどの質量が宇宙空間から消えて、元に戻ろうとする反発が真空の宇宙をも伝わって、後に残された地球艦隊と、残余の殲滅戦艦軍を叩きのめした。
「あああぁぁっ!」
「か、艦長! 友軍艦のほとんどが通信途絶! 我が艦隊は、壊滅状態ですぅ!」
  言われるまでもなく、比較的ダメージの浅かった『メリーランド』でさえこうなのだから、大破状態の味方はこれだけでバラバラになったとしてもおかしくはない。ニナは、つとめて冷静に損害を報告せよと命令すると、あとどれだけの味方が残っているものかと絶望的な気持ちになった。
「報告します。第二、第三主砲塔は全壊、復旧の見込みはありません。各部ミサイル発射管とパルスレーザー砲塔も同様、唯一第一主砲のみ使用可能です。機関部は全力発揮が可能、奇跡といえるでしょう」
  そのほかの損害は聞くまでもなかった。軽く両側のオペレーターの席を見渡しても、レッドランプで覆われていて、よくもまあこの状態で動くものだと感心してしまう。
  けれども、生き残ってしまった以上、『メリーランド』にはまだ使命が残されていた。
「『アンドロメダ』より入電しました。『ヤマト』の指揮の元に残存艦隊とともに敵巨大戦艦を追撃せよとのことです」
  ニナの顔に喜色が浮かんだ。自分たち以外にも、まだ生き残っている味方がいたのだ。しかも、何よりも頼もしい『ヤマト』がまだ健在でいる。だが、その残された戦力の概要は彼女を落胆させた。
「同行艦は、『蝦夷』、一隻だけだそうです」
  つまり、この『メリーランド』を含めてもたったの三隻、それだけの戦力であの超巨大戦艦を止めろというのか。無茶だ、そう思った彼女の思考はごく普通のものだったであろう。それでも、『アンドロメダ』を含むほかの艦隊は、無事であってもワープができるだけの出力を引き出せず追撃に加わることができないのだ。
「私たちで、地球を救うしかないということですか?」
「そうなるわね、けど……ふふふ」
「艦長?」
「おかしなものね、またこの三隻で無茶なミッションをこなさなければならないなんて、奇縁というものかしらねえ……」
  不可思議な形で笑みを浮かべたニナに、ブリッジクルーたちは怪訝な表情を見せたが、すぐに艦長が軽く髪を掻き揚げて目を引き締めると、押し黙ってその命令を待った。
「『アンドロメダ』に返信、我了解セリ、それから『ヤマト』と至急連絡をとって、ワープ計算を合わせるのよ」
  考えてみれば、ここで何もできないまま地球の最期を見届けるよりかはよほどいい。数が少ないのも、短いあいだとはいえ行動を共にしてきた『ヤマト』と『蝦夷』ならば、チームワークがとれて逆に悪くない。
「さあて、じゃあみんな、あと一仕事頑張るわよ!」
「はいっ!」
  最後の覚悟を決めたクルーたちによって、『メリーランド』は残ったわずか数パーセントの力を、一パーセントでもニパーセントでも高められるように努力しながら、ワープ準備を整えていく。そして、同行する『蝦夷』も、序盤で機関損傷を負って『ヤマト』と同行していたために唯一機関修復を間に合わせて、すでにワープ準備を終えて待機し、その二隻を率いる『ヤマト』もまた、大きく傷ついた姿ながらも真田の努力で戦力を回復し、全コスモタイガーを収容してワープ準備を整えていた。
「土方艦長、全艦ワープ準備完了いたしました」
「ようし、目標地球圏、これが最後の戦いだ。全艦ワープ!」
  島がレバーを引くのと同時に『ヤマト』の姿が掻き消えて、続いて『蝦夷』と『メリーランド』も同調して消えていく。
 
「また、最後は『ヤマト』に頼るしかなくなるか……さて、こちらも最後のおつとめを果たすとするか」
  『アンドロメダ』に残った地球艦隊司令は、大破した乗艦の中で艦長帽のほこりを払って、残存艦隊の全てへと打電を打たせた。
「全地球艦隊、我に続け!」
  眼前には、自分たちと同じように時空震をしのぎきった敵殲滅戦艦の残存艦隊、これに『ヤマト』らを追わせないようにここで足止めすることが、残存艦隊に残された最後の使命だと、艦隊司令は『アンドロメダ』を駆って挑む。
 
  そして、とうとう史実とはまったく違った幕引きを迎えようとしているこの戦争の、その流れを変えた張本人である『武蔵』も、舞台俳優兼黒子として動こうとしていた。
「艦長、地球艦隊を援護しますか? それとも」
「いや、この戦争の引き金を引いた以上、結末は見届けるべきだろう。小ワープ、地球圏へ向かう」
  『武蔵』の影も土星圏から消滅して、舞台は地球軌道上にて、この戦争は終幕を迎える。
 
 
  第34章 完

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