「やれやれ、これで一安心といったところですか。」

副長席のコンソールに足を投げ出しながらそうぼやくサブロウタ。

その隣の席では副長補佐のハーリーが真面目に損傷個所のピックアップ作業に取り組んでいる。

その中央の艦長席にいるルリは、後方からついてきている戦艦YAMATOに注意をはらっていた。

いくら相手が攻撃しないと言っても完全に信用したわけでもなかった。こちらは敵の攻撃を受けて大破に近い損害をこうむったのに対し、向こうは同じくらい攻撃を受けてもキズ一つすらついていない。それに加え、一撃で敵艦隊を壊滅に追い込んだ攻撃力がいっそう彼女に警戒心を煽る結果となったわけだ。

その一方、史上初の異星人とのファーストコンタクトを行うということと彼らがこの太陽系に来た目的自体にも興味があったりする。

「ほんとおき楽ですね、サブロウタさん。」

「そうなるしかないでしょ、こんな状況で暗くなっちゃ周りがみーんな暗くなっちまう。」

「だからって…ホントに気にならないんですか!?後ろからついてくる戦艦に!その気になれば僕達を撃沈することなんて簡単に出来てしまうんですよ!」

確かに彼の言うとおり、YAMATOなら完調状態の『ナデシコB』でも楽に撃沈できるだろう。だが…。

「うなことやって何の得があんの?そのつもりなら当の昔にやってるし第一わざわざコンタクトをとって自らを窮地に追い込むわけないでしょ。」

「しかし…!」

なお食い下がろうとするハーリー、そんな所へサクラ准尉コミュニケウインドウがルリの所に飛び込んだ。 

『前方2100キロの静止軌道上にドック艦『コスモス』を確認!』

すでに地球静止軌道上には第一世代型ナデシコ級戦艦二番艦『コスモス』が『ナデシコB』を受け入れるため艦首を両舷に展開していた。
そこに『ナデシコB』はゆっくりと突き進んでいく。それと同時にコスモス側に通信回線をつなぐためにIFSを操作するルリ。

「こちら地球連合宇宙軍第四艦隊所属、試験戦艦『ナデシコB』。『コスモス』への誘導を願います。」

『こちら『コスモス』了解。…ようこそ『コスモス』へ。』

管制官からの返事と共に『コスモス』側から誘導ビーコンが『ナデシコB』に発信される。それに導かれ、『ナデシコB』はその傷ついた艦体を『コスモス』の中へ入れていく。

「ハーリー君、YAMATOに『コスモス』右舷500の位置に停船するよう通達してください。」

「その必要はありません、向こうのほうから『貴艦の左舷500の位置に停船する。』とたった今言ってきました。それと『貴艦の収容が完了次第、そちらに出向きたいがよろしいか?』と言ってきているんですけど…。」

どうやら同じことを考えていたらしい、センサーにも『ナデシコB』が『コスモス』に入渠し始めた時点で針路を変え、『コスモス』右舷側へゆっくり進んでいく。

「YAMATOに『了解した』と返信しておいてください。あ、それとこれを付け加えてください。」

といって小型のウインドウを表示しそれを彼女は指でハーリーの方へポンと弾く。

ウインドウには青い地球が映り、その手前に白い文字でこう表示されている。

Welcome to the earth ~ようこそ地球へ〜

「了解!」

ニコリと笑いながら早速作業に入る。ルリは再び視線を左舷に移動しているYAMATOにむけた。

「さて、これからどうなることやら…。」



Time for parallel 2201

YAMATO2520and機動戦艦ナデシコ

Vol.3
ファーストコンタクト


Welcome to the earth ~ようこそ地球へ〜

返信と共に送られたこの画像入りメッセージに、YAMATOクルーは面食らうしかなかった。

「ちょっとこれって…。」
「絶対なにか勘違いしてるわよ、これ…。」

ミミとスーシャがそう呟く。そう、リョウコを除くナデシコクルーは確かにある意味で勘違いしている。ある意味で…。

「…異星人むけの挨拶みたいだな。」

「だな、じゃねえだろ!あいつら完全に俺達を異星人だと思ってるぞ。これじゃこっちの言い分をどれだけ信じてくれるか…。」

はあ、とため息をつくナブ。そんなナブとレオンの会話に操舵席に座るアガが割って入ってきた。

「しかたねえだろ、ナブ。やっこさん達から見れば俺達がつかう極当たり前のテクノロジーなど異文明の代物でしかないからな。」

「けど幾らなんでもこいつはなあ・・。」

「さすがにこれはマズイじゃないの、これ?」

コンマンとメガネが会話に入ってきた。確かに善意でやったこととはいえ、結果的にとんでもない誤解を生みそうになっている。

「ねえ、マキ。私達とこの時代の地球人との違いってなにかしら。」

「せいぜい背の高さと服装でしょ、それと髪型ぐらいかしら。」

「けど大丈夫かしら、ナブ達を見てるとなんか誤解生みそうじゃない!」

「まだましかもよ、マーシィ。私なんかセイレーン人とリンボス人とのハーフ、しかもセイレーン人の血の方が強いから結構誤解生みそう…。」

「あら、向こうの艦長だって肌の色はあなたと同じでしょ。」

「でも瞳の色は金色だわ。私は赤だし。」

「遺伝性のアルビノと言えば澄むことよ。」

すでにこのことは艦内ではもちきりだった。それでいて彼らは常に前向きに物事を対応しようとしている。

「…あいつら、ホントに気楽だな…。」

そんな彼らの様子を艦長席の左隣の席越しからみてリョウコがそう呟く。

すでに彼女には彼らがここまで来た経緯が説明され、そして信じてもらえたのだがそれ故にそんな疑問が浮かび上った。

「そんなに以外かね、君達から見れば。」

艦長席に座るシマがリョウコのその呟きを聞きつけ、笑みを浮かべながらそう問い掛けてくる。

「いや、べつに以外とかそう言う意味じゃなくて…ただ、こんな状況に陥った割にはずいぶんと明るいと思っただけさ。もしかすると二度と自分達の世界に戻れないかもしれないのに…。」

「そんな時だからこそだ。彼らの呼吸をするが如く自然な反骨精神に富んだやり方には私自身も幾ばくか教えられたことがあったよ。それにしても、あの艦の艦長が17歳の少女とは…彼女以外に適任者は居なかったのか?」

「…ええ。ルリルリ…いやホシノ艦長自身も自ら望んだことだし、ましてあの艦は彼女以外には動かせないからな…。」

その言葉を聞き、シマは表情を曇らせた。

「そうなのか…イヤな時代だな…。」

シマの言葉にリョウコも表情を曇らせ、顔を下にむける。その様子にシマが気づき、やんわりとした口調で話す。

「…すまん、気にせんでくれ。そういうワシらの世界もあまり人のことは言えんからな…さて、さっそく行くとしよう。レオン、マーシィ、一緒にきてくれ。」

「護衛はつけなくても大丈夫なのか、艦長?」

ナブが自席の方から顔を上げて聞いてきた。

「ナブ、我々は戦争しに行くわけではないぞ。」

「わかってるさ、けど『ナデシコB』にまた黒色艦隊が襲ってくる可能性は捨てきれないだろ。」

「その点については私も同意見です、艦長。威力偵察のために奇襲をかける可能性も考えると、護衛戦闘機をつけるべきだと思いますが…。」

レオンもナブの意見に同調する。

確かに『タガマガ』付近で回収したデーターディスクの内容と照らし合わせる限りでは、YAMATOが撃破した奇襲艦隊はホンの一部でしかない。あの会戦からみても敵が『ナデシコB』一隻だけに集中攻撃してきた点や、彼らからしてみれば正体不明の艦が出現した点から考えても、威力偵察の名目で奇襲をかけてくる可能性があることもうなずける。

「わかった、それではナブ、お前に頼もう。」

「え、俺だけでいいのか?艦長。」

「ああ、お前なら私も安心できる。ではいく…。」

「私は反対です!」

その声に意外そうな顔で全員が声の発生源に顔を向ける。

そこには顔を紅潮させたマーシィが眉間にしわを寄せて立っていた。

「どういうことだ、マーシィ。」

「だっておじい…じゃない、艦長!ナブがきたら逆に誤解を生むことになるじゃないですか!それにパイロットなら他にも居るでしょ、スピードとかエミリオとかが…。」

「何真っ赤になってんだよマーシィ。ひょっとして照れてるの!?」

最後の言葉のあたりで意地悪い表情を浮かべるナブ。それに対しマーシィは真っ赤になって反論する。

「バカ!誰がアンタなんかと…!」

「そう照れるなよマーシィ、俺達とは知らない仲というわけじゃないだろ。」

「ただの幼馴染ということだけじゃない!いい加減なこといわないでよ!」

その様子にシマはやれやれという表情でその様子を眺めている。他の者たちの同様で唯一、士官学校出身のクルーはただ呆然とその様子を眺めていた。

「その心配ならねーぜ。嬢ちゃん。」

そこへリョウコが助け舟を出してきた。

「心配ないって…。」
「どういうことだよ。」

二人が口々に聞いてくる。そんな二人にリョウコはうっすらと笑みを浮かべながら答えた。

「そいつは俺達の艦にくりゃ判るさ。少なくとも今いえるのはそれだけだ。」
『???』

その言葉に釈然としないものを、とりあえず二人の口論は収まった。それを見てシマの口が開く。

「ようし!では早速いくとしよう。アガ、戻るまでYAMATOの指揮を頼む。」

「ハ!」





YAMATOから右舷500で停船する『コスモス』ドック内で、『ナデシコB』の損傷チェックが行われている。すでにチェックを終えた個所は既に修復作業に入っていた。

そんな状況下の『ナデシコB』にYAMATOから一機の戦闘機と艦橋構造物のほぼ頂上付近にある艦長室の真後ろあたりから、艦長専用のランチが分離し、まっすぐ『ナデシコB』に向かった。




『…変なカタチだな…。』

ランチ内の側面スクリーンに映っているナブが沿う呟く。彼は一足先にランチの護衛のため戦闘機で飛び出し、『ナデシコB』に向かったが、その彼が実際自分の目で『ナデシコB』を最初に見た感想がこれだった。

その言葉にシマは含み笑いをし、マーシィは頭を抱えている。リョウコに至ってはやれやれと肩をすくめている始末だ。
唯一レオンだけが彼の発言に不味そうな表情をして彼をスクリーン越しににらみつける。それを見てナブは、自分なとんでもない発言をしてしまったことに気づいた。

『す、すまねえ!別に悪気があっていったわけじゃねえ。ホントすまねえ…。』

そのナブの慌て方につい吹き出しながらリョウコが答えた。

「別に気にしちゃいねえさ。俺も最初このタイプの艦を見たときも同じように思ったもんさ。けどそう言う意味じゃYAMATOも結構へんだぞ?」

『どこが変なんだよ、結構かっこいいと思うぜ。俺達からみりゃこの世界の艦船がいわゆる箱型なのか、そっちのほうが不思議でならねえ。』

「いい加減にしなさいよ、ナブ!艦船の考え方が私達の世界と同じだなんてありえるわけないでしょ。そう言うのを傲慢て言うのよ。」

マーシィの発言にナブは何か言い返そうとする。とその時…。

「全ては我々が抱いている宇宙を航行する艦船の考え方の違いだろうな…、いや、思想の違いといってもいい。」

そこにきてシマが唐突に口を開いた。

「といいますと?」

ナブを睨みつけたときを除けば、先ほどから操縦に専念してきたレオンが顔を上げて聞いてくる。

「勝手な憶測だが、中尉。君達の宇宙船とは宇宙という特殊が空間をそれ専用の艦が飛ぶための物だ。そうだろ?」

「そんなこと今まで考えたこともなかったけど…大筋はあってるな。」

首をかしげながらそう答えるリョウコ。その言葉を受けてシマの話は続く。

「それに対し、我々は宇宙をただ単に特殊な空間とではなく海と考えた。あらゆるこの世界の神秘…生、死、誕生、滅亡…あらゆる要素を凝縮した母なる海という考え方だ。」

「海、かあ…。」

「そうだ、その海で航行する艦は宇宙船ではない、船なんだ。特殊空間を飛ぶのではなく、あくまで宇宙と言う名の海を航行する船。その思想が、我々の世界における艦船設計の根底に今ではすっかり根ざしていると言う訳だよ。」

宇宙は海…その言葉がリョウコの心の中で反芻する。

自分達の世界では彼らと違い、まだ人類は外宇宙に飛び出していない。安全な太陽系内の宇宙は到底神秘の海を呼べるような物はない。もしかすると自分達が外宇宙にでれば彼らと同じではなくても、宇宙に抱くイメージが変わるのではないだろうか。

そんな中、レオンは浮かない顔のままシマに語りかける。

「しかし、正直な所気が進みません。事情が事情とはいえ、この先どうなるか…。」

「とはいえここまで踏み込んでしまった以上、我々とて無関係とはいえまい。」

『見えてきたぜ、艦長。』

そうこう考えているうちにランチは『ナデシコB』カタパルトデッキの目の前にきていた。

「通信チャンネルオン。」

「どうぞ。」

サブパイロットシートに座るレオンの報告を受け、シマは交信を開始した。

「こちら宇宙戦艦YAMATO艦長、トーゴー・シマ!『ナデシコB』着艦許可を求める。」

しばらくして返信が帰ってきた。

『こちら『ナデシコB』了解。2番カタパルトを開きます。誘導ビーコンに従いそのまま着艦してください。』

言葉が終わらないうちに機体のコンソール画面に『ナデシコB』からの誘導ビーコンを受信したことが表示された。

「誘導ビーコン確認。」
『こっちもだぜ、艦長。』

即レオンとナブが報告してきた。それを受け、シマはゆっくりうなずく。

一機の戦闘機とランチはそのまま『ナデシコB』のカタパルトデッキに入っていった…。




「無事着艦した見たいだよ。」

センサーを監視していたメガネがそう報告する。

それを聞きバトルブリッジ内は緊張に包まれる。

「アガ…大丈夫かしら。」

「心配いらねーさ、マキ。艦長たちの位置はこちらでモニターしているし、なにかあれば俺達が助けに行くだけさ。」

「そのことじゃないわよ。私が言っているのはさっきのスバル中尉の言葉よ。」

むしろマキはさっきのリョウコの悪戯めいたあの微笑が気になってしょうがなかったのだ。それ以前に、彼女は何処かしら軍人らしくないということもあるのだが。

「確かに俺も気になるな。…いったいあの艦に何があるって言うんだ、あの艦に…。」

「ようし、つながったぞ!」

その時うれしそーなコンマンの声がブリッジ内に響き渡った。

「やったか、コンマン!」

「おう、これで向こうの映像が見れるはずだぜ。」

嬉々した表情で答えるコンマン。実を結うと、彼らはリョウコの言葉が気になって仕方がなく、どうしてもあの艦の中を見てみたいということから中にカメラと亜空間送信装置を内蔵したリストウォッチをナブに渡してあるのだ。

もちろんそのことはナブも知っている。彼もまたグルだからだ。

「中、どうなってるんだろ?」

「基本的には同じじゃない。」

「いや〜俺達とは全く別物かもよ。結構がめつい感じだったりして。」

「それでもよう、俺達と共通している所もあったりしてさ…。」

すっかりそんな話題で盛り上がる。全員がこれから見る艦内の様子が気になって仕方がないのだ。

「ようし、でるぞ〜。」

メインスクリーンにわずかにノイズが走った後、鮮明に映し出される。そこで彼らが見たものは…・。

『おお〜なんだこれはーッ!こんなノーマル戦闘機見たことねえぞ!』


『・・・・・・・…。』

・…全員が硬直したのは言うまでもない…。




「スッゲー!まじですげえぞ、おい!」

「…なんなんだよこのおっさんは…。」

おもわず後ずさるナブ。その彼の目の前で茶色のジャケットの着込んだ怪しげなメガネオヤジが、彼の乗ってきたSR−1の周りをうろちょろしている。

「素材も全くの新物!コクピットもジェネレーターもコンパクトかつ機能的ときた!おまけに…。」

そういうと怪人はいきなり戦闘機の機首に抱きつき…。

「お肌もスベスベ〜。」

といいながらスリスリし始めた。

「・…!いい加減にしろよおっさん!とっとと離れやがれ!」

気持ち悪くなったナブは無理やりその男を引きずり落とそうとする。だがそうなる前にいきなり男のほうからナブのほうに寄ってきた。

「…俺の名はウリバタケ・セイヤ。この艦の整備班長だ。口の利き方にはきをつけるこったな。」

「うそ…だよな。」

「うそじゃねえ…それよりもテメエせっかくの至福の時を邪魔しやがって!謎テクだらけのものを見て…。」

「ほう、なかなかいい機体じゃないか。」

別の方から聞こえてきた声に、ほぼ同時に顔を向ける二人。

そこにはシマたちが乗ってきたランチがホバリングして停止しており。その先にはオレンジ色のエステバリスカスタムを見上げているシマがマーシィ達と一緒にたっていた。

「わかるのかよ、見た目だけで?」

怪訝そうな表情で尋ねてくるリョウコに対し、シマは平然と答える。

「メカニックとしての勘というやつだな。始めてみた物でも機体の形や動きでおのずとわかってくるものだ。それ以前に、人の手によって大切にチューンが成された物というのはそれ自体から発する光という物が違ってくる。」

「よくわかるな、軍人にしちゃあ…。」

感心したような表情のウリバタケが歩いて近づいてくる。先ほどと違い、真剣な表情だ。

「17年ほど軍を離れていたことがあっての、軍に復帰するまでサルベージ屋をやっとった。」

「なるほど…だからか。…こいつらのみならず、この艦も俺や整備班員達の手であちこちチューンしまくってるだ、ジイさん。なんせ人の命がかかっているからな、だからその分整備に全力をあげてるというわけさ。」

「わかるよ、その気持ちは…。そうそう、それと一つお前さんに言っておきたいことがある。」

「なんだよジイさん…ワ!」

先ほどの気楽な態度と一転して、憤慨した表情のシマがいきなりウリバタケのほうに寄って来た。

「私はジジィでもジイさんでもない!艦長だ!…私は宇宙戦艦YAMATO艦長トーゴー・シマ。口の利き方に気をつけるのは君のほうだぞ、ウリバタケ整備班長。」

「ヴ…おいまて、ということは、あんたらあの艦のクルーかよ!」

たちまちウリバタケの表情が変わる。それが伝播したのか周囲のナデシコクルーも彼らを見ながらざわめき始めた。

あたりの様子が一変したことにシマを除いたクルー達が思わず戸惑う。ナブも顔を引きつりながらシマに尋ねてくる。

「なあ、艦長。さすがに今のはヤバクない?」

「…そのようだな。」

表情を変えることもなく平坦に答えるシマ。そんな様子を、唯一事実を知るリョウコはため息をついた。

と、その時。

「すっごーい!本物の宇宙人なんだ!」
「フ、リョウコ、やるじゃない。」

紅い戦闘員用の制服を着込んだ二人の女性が彼らに近づいてきた。

「ヒカル、イズミ!」

近づいてくる二人を見て思わずそう叫ぶリョウコ。

「ねえねえ、それであの艦の中はどうだったの、やっぱし私達と違ったわけ?」
「・・…。」

矢継ぎ早に質問してくるヒカル、イズミはギャグを考えているのか先ほどから黙っている。

「いや、別に宇宙人とかそう言うのとかじゃなくてさ…。」

「うんうん、住む星こそ違えども同じ知的生命体なんだよね、あ、ねえそこの宇宙人さん!」

いきなり、ナブを見つけては彼に駆け寄っていくヒカル。その彼女に彼も戸惑うしかない。

「な、なんだよ…?」

「あなた達何処から来たの?あ、それ以前に何で日本語わかるのかなあ〜?」

「…それは…つまり、その…。」

「ケチらないで教えてよ〜。ここ最近スランプで困っていた所なんだ。あなた達の話を聞くと何かうかんでくるかも!ねえ、いいでしょ。」

といって目に星マークを浮かべながら近づいてくる。

「ハハハハ・…、レオン、後は頼んだ!」
「おい、ちょっと!」

レオンをヒカルに押し付け、その場から逃げるナブ。当のレオンもそれに続こうとしたが、誰かに肩をつかまれた。

「ど〜こ〜へ〜い〜く〜の〜か〜な〜。」

そこにはメガネを不気味に輝かせたヒカリがそこにいた。

「いや、自分は…。」

「何処の星系の出身なの、ケチらないでおしえてよ〜。」
「…宇宙人も駄洒落いうのかしら。」

いつのまにかイズミも加わってきた。こう二人がかりでこられてはさすがのレオンも…

「その…つまり…。」

…口篭もるしかなかった。

そんな様子をマーシィは少し顔を引きつりながら見るしかない。

「…艦長、ナブ、私達…間違っていないよね?来る場所…。」

「大丈夫なはずだ…たぶん。」

そう言うシマもさすがに自信を失いかけている。この軍艦らしからぬ光景を見れば当然なのだが…。

それはナブも同様でシマ同様不安になってきた。

「まあ、一様味方見たいだしな…今の所。」

「できればずっと味方であってほしいものですなあ。」

『!』

突如聞こえてきた声に周囲をあたりを見回す3人。だが、何処にもその姿を見つけることはできない。

「ハハハハ…、ここですよ、ここ。」

「後ろか?」

といって後ろを振り向くナブ。その先にはさっきシマが見ていた黄色のエステバリスカスタムの右足があり、その影から一人の男が現れた。

「足〜の中からこ〜んにちわ〜♪ハハハ・・失礼。」

「ハア?」
「…ほう。」
(…また、変なの…。)

エステの足の影から出てきた男はにこやかに微笑みながらシマに名詞を差し出した。

「どうも始めまして。私こういうものです。」

「ふむ…。」

名詞に書かれた文字を見るシマ。ナブとマーシィもその名詞を除くが彼らには何が書いてあるのかさっぱりわからない。

「…なんだこれ?」
「こんな文字始めてみたわ…何語かしら」
「日本語だ。」
『え?』

不思議そうな表情でシマの顔をのぞく二人。シマは二人の疑問に答えるかの如く、言葉を続ける。

「お前達が知らないのも無理もない。この言語は地球のアジア地域の1地方で使われている言語だからな。」

「艦長は読めるのか?」

「ああ、私はその地方の出身だからな。ちなみに言うとナブ、お前のオヤジさんもその地方出身だ。」

「オヤジも?」

「そうだ。なになに『ネルガル重工会長室秘書課、プロスペクター』?」

『プロスペクタ―?』

名前かどうかわからない名称に思わず声をあげるナブとマーシィ。

「これは本名ですかな?」

「いえいえ、ペンネームみたいな物でして…。」

笑いながらそう答えるプロス。シマもその名詞をしまいこみ自己紹介をし始めた。

「宇宙戦艦YAMATO艦長、トーゴー・シマです。こちらは乗組員のナブ・エンシェントにマーシィ・シマ、それとあそこに居るのがレオン・モサイバン。」

「よろしく!」
「どうも。」

「それにしても、なぜ民間企業の社員が戦闘艦に乗っているのですかな。私にはそれが不思議でならないのだが…。」

その疑問に対し、プロスペクタ―は笑みを浮かべながら話し始めた。

「ごもっともが疑問です。実はこの艦は私共ネルガル重工が建造したナデシコ級第2世代型宇宙戦艦でして…そのためこの艦には軍人のみならず民間から起用された人たちのよって運用されているのです。私はこの艦の経理を担当するためこの艦に派遣されてきたわけでして…。」

「なるほど…しかし太陽系内とはいえ、戦闘艦に民間人を乗せること自体如何なものかとおもうが…。」

「いやあ、これは手厳しい。ですがこの艦に乗り組んでる民間出身の乗組員…私も含めてですが、自ら志願した者ばかりなんですよ。ハイ。」

「自ら?」

いぶかしげな表情を浮かべるシマ。そこにリョウコが駄目押しをする。

「うそじゃねえさ、いったろ。自ら志願したって。ここの連中も同じさ、全員自らの意思で乗り組んでいる。」

「まあ、いろいろとありまして…。さて、早速ブリッチまでご案内しましょう。どうぞこちらへ。」

「たのみます、ではいくぞ。」

「おう。おいレオン、いくぞ…て、変なもんつれてくるんじゃねえって!」

引きつりながらそう叫ぶナブ。そう、レオンの後ろにはあの二人が追いかけてきた。

「それを言うならあの二人に言ってくれ!」

「お前達、なにをやっとる!おいてくぞ!」

シマの怒声が響いてくる。

「クソッ!一気に突っ走るぞレオン!」
「いたしかたない!」

二人は全力で格納庫から逃げ出していった。




「ハハハハなかなかやるじゃねえかおめーら!あの二人から逃れるなんてな。」

いまだ荒い息をつく二人に笑いながら言い放つリョウコ。

そんなリョウコをナブが恨めしそうな顔をむける。

「あんたら本当に戦艦のクルーかよ。あの怪しいメガネオヤジといい、あの二人といい、どう見ても普通じゃねえ…。」

「『人格は兎も角、腕は一流』てのが、『ナデシコ』のポリシーなんでね。そういうおめえらも俺から見れば普通じゃねえよ。」

その言葉に、ナブは顔色を変えて言い返した

「いっとくけどな、俺達はまともだぞ、ただ周りの状況がだなあ…。」

「へいへい、そういうことにしといてやるよ。」

「てめえ!人の話聞きやがれ!」

真っ赤になって反論するナブ。それをリョウコがからかっている。そんな様子をレオンが微妙な気持ちでその様子を眺めていた。



「なかなか元気のいい少年ですな。」

うしろの様子を見ながらプロスペクターはそう感想を漏らす。

「元気よすぎてこまっとるというのはありますがね。しかし正直あやつのひらめきは何度も驚かせることがある。さらに言わせてもらえば、あなた方『ナデシコ』クルーと我々YAMATOクルーとは何処となく似ている所があるようだ…。失礼を承知で言わせてもらえばミスター、あなたは私と似ているところがあるようだが…。」

「ハハハ…それはどうでしょうかな。」

そうこう歩いているうちに途中で『ナデシコ食堂』と看板が掲げられた区画に気づく。

「『ナデシコ食堂』?」

「ここ一様軍の戦艦なんでしょ?なのに、ここはどこかの食堂そのものね…。」

そういって中をのぞくマーシィ。すると中から一人のコック帽をかぶった中年女性が出てきた。

「おや、お客さんかい、新顔のようだねえ。」

厨房の中から出てきた女性は入り口の前にいる集団に顔を向けながら呟く。そしてその中にプロスペクターの姿が居ることに気づいた。

「おや、プロスさん、この人たちは…。」

「ああ、ホウメイさん。こちらは先の戦闘で助けてくださった戦艦のクルーの皆さんです。こちらは艦長のトーゴー・シマさん。そちらが乗組員のナブ・エンシェントさんとマーシィ・シマさん、それとレオン・モサイバンさんです。」

「よろしく。」
「よろしくな!」
「よろしく。」
「よろしく!」

四人はそれぞれホウメイと握手をしたあと、シマのほうから話を切り出した。

「それにしても…見事なものですな、戦艦内でこれだけ立派な食堂は我々のどの艦にもありません。」

「ありがとう、艦長さん。他の惑星からはるばる来た人からそういわれるとうれしいよ。」

「!他の惑星・…まあ似たようなものかもしれんな…。」

ホウメイにそう言われ微妙な気持ちになるシマ。しかし宇宙人呼ばわりされるよりはマシだろう。

「ところで、あんた達、出身は?」

いきなりそう尋ねられ、キョトンとする四人。それもつかの間、その問いが自分達に向けられていることに気づいた。

「地球出身だが…。」
「惑星リンボスのオサカシティだけど。」
「同じくオサカ出身です。」
「地球出身でありますが…。」

「地球?あんたら二人は地球出身かい?」

「生まれはな。ただ、その後外宇宙を転々としたがね。」

微笑を浮かべながら答えるシマに、ホウメイは納得したらしくはたまた尋ねてくる。

「アレルギーとかはあるのかい?」

「ない。」
「ないぜ。」
「ありません。」
「ありません!」

「じゃあ宗教とかはどうだい?」
(なんなんだこのオバチャン…?)

矢継ぎ早に質問するホウメイにナブも少し不安になってきた。

出会い頭に変な連中に会って辟易したところで、まともな人にあったと思ったのにこの人も…この艦にはまともな人など乗ってないのではないかと本気で思い始めた。

そんなナブの気持ちを知ってか知らずか、プロスペクタ―が説明し始める。

「ホウメイさんはかつての『ナデシコA』の料理長でしてね、『ナデシコA』を下りた後『日々平穏』という店を開店なさったのですが、クルーの皆さんの希望で『ナデシコB』の料理長として復帰なされましてね。『ナデシコ』ではクルー全員に出来る限り食べたい料理を用意する特典がありまして、中華に和食にイタリアン、国の数だけ料理があるわけで。」

「なるほど、それで我々の出身などをお尋ねになられた訳ですね。」

レオンが丁寧な口調でそう言うのに対し、ホウメイは軽くうなずいた。

「そう言う訳さ。よかったら料理とかも教えてあげるよ。そこのお嬢ちゃんとかもどうだい?好きな男ができて手料理作りたいと思ったら相談に乗るから、いつでも厨房においで。」

「え…そんな…。」

「そうしてもらえよ、マーシィ。俺のために手料理作りたいというならなおさらだぜ。」

「て…お前らそう言う仲なのか!」

思わず大声を出してしまうリョウコ。そんな様子にマーシィが真っ赤になって反論する。

「ちょっとちがうわよ、リョウコさん!だれがこんな奴なんか…。」

「そう照れるなよマーシィ。知らない仲っていうわけじゃないんだからさあ。俺とマーシィは…グエッ!!!」

途中でヒキガエルがつぶれた声を出し、硬直するナブ。腰にやった手がそのまま腹部へと移動してゆく。

見ると彼のみぞおちにマーシィの肘が見事に決まっていた。

「ただの幼馴染というだけでしょ!いいかげんなことを言わないでよ!」

そう言って腕を組み、プイッと顔をそむけるマーシィ。そしてその傍らで…

「だからって…これはねえだろ…。」

そのまま床に沈んでゆくナブ。そんな様子に周りから笑みが零れ落ちた…。




「それにしても、なんか疲れる艦だな、イテテテ…。」

さっきマーシィにど突かれた腹をさすりながらそう呟くナブ。

「まあ、確かにアクが強いことは認めるけどな、けどあれだけいい連中はそうめったには居ないぜ。なれりゃなんてこたあねえさ。」

リョウコはそうあっけらかんと言い切るリョウコにナブは疲れたような表情を浮かべる。

「慣れればねえ…。」

そう言ってるうちにリフトがとまり、リフトのドアが開く。

「ルリさん、YAMATO艦長とその乗組員の皆さんをお連れしました。」

開口一番プロスペクタ―が前方の艦長席に座る人物にそう伝える。

ブリッジはYAMATOの物と比べると申し訳程度に窓が前方と両舷側についておりその上方には全方向スクリーンで覆われている。もっともYAMATOの一体型スクリーンと違い、長方形型のスクリーンを並べた物だが、遠めで見る限りそれほど目立たない。

しかし、スクリーンのうち数枚が機能を停止し、一層下の両舷コンソールも数台ほど機能を停止している。

他の部分にも内装が吹っ飛んだ跡があったりと、先の戦闘のすさまじさを物語っていた。

この上層部は両舷各一席、中央に一席あり、うち左舷側と中央にボール型の立体ウインドウが展開されている。そのうち中央の席のウインドボールが消え、そこに座る人物がイスごとシマ達の方に向いた。

そこに座る人物は、先ほどの通信に出たあの少女…『ナデシコB』艦長、ホシノ・ルリその人だった。

(彼女が…。)

何処から見ても16、17歳の少女なのだが、それに不相応なほど大人びて見える。動揺らしき物は全く感じられない。少女は立ち上がるとシマ達に近づき、握手を求めながら自己紹介をした。

「ようこそ『ナデシコB』へ、私が艦長のホシノ・ルリです。」

「YAMATO艦長のトーゴー・シマです。」

といって、彼女と握手を交わすシマ。一通り艦長同士の自己紹介をおえると、ルリは後ろに居る、YAMATOクルーに目を向けた。

「あなた達は…。」

その途端、ナブが前に進み出てルリと握手してきた。

「俺はYAMATO戦闘担当兼建造総責任者のナブ、ナブ・エンシェントだ、よろしく!」

「建造…!?もしかしてあの艦のことを言っているのですか。」

少し驚きの表情を浮かべるルリに対して、ナブは胸を張って答える。

「そうさ、あのYAMATOは俺達YAMATOクルーの手で作ったのさ。な、マーシィ!」

「え、ええ。」

いきなり話を振られ、戸惑いながらも今度はマーシィが握手を交わしながら自己紹介をしてきた。

「マーシィ・シマです。私達は惑星リンボスの山中に沈んだ第17代ヤマトのデーターディスクを使って休業中のドックで…。」

「第17代ヤマトのデーターディスク?」

「それを使って今のヤマト…第18代YAMATOを作ったんです。」

話のすごさに表面は冷静さを装いながらも、内心驚いていた。これだけの戦艦を自分らの手で作り上げたという話自体に。

彼女に代わって今度は金髪の北米系の若者が歩み寄ってきた。

「YAMATOメインオペレーターのレオン・モサイバン候補生であります。YAMATOにはコロニー『タマガマ』で救助した生存者714名が乗艦しております。こちらで保護をお願いします。」

「…私達、その人たちを送り届けるためにここまできたんです。」

レオンの説明にマーシィがそう付け加える。

(そうですか・…この人たちが…。)

彼女達にも『タガマガ』が正体不明の艦隊に襲われたということは知っていたが、その艦隊の正体とは別にもう一つの謎があった。

すでに救援艦隊が到着した頃には『タガマガ』は破壊された後で、周囲に漂う敵艦の残骸も迎撃隊の攻撃による物と思われた。

だが、調査が進むにつれ、意外な事実が浮かんできた。

その一つが、敵艦の破壊に使われた武器がグラビティブラストではなく、数段進んだ技術で作られたプラズマ兵器によるものだったこと。

もう一つが、周囲の衛星のカメラが謎の艦隊を一隻の戦艦が割り込み、その艦隊を迎撃した映像を記録していたということだ。

しかし、この攻撃の最中、周囲の電波状態影響で衛星の動作も不安定だったことから機器の誤作動による物ということで結論づけられていたのだ。

しかしその艦があのYAMATOだというなら、納得がいく。

「わかりました。その人たちは責任をもってこちらで保護しましょう。」

ルリの返事を聞いて、ほっとするレオン。それも束の間今後はルリが尋ねてきた。

「けど、YAMATOということは…やはり地球の産物ですか?」

「いや、そうじゃねえよルリルリ。艦名は兎も角、あの艦自体地球の産物という訳でもねえ見たいなんだ。」

ルリの疑問にリョウコが彼らの変わりに答える。

「どういうことですか、それって?」

今度はシマが答えた。

「それを説明するために来たのです。ただここではちょっと・…どこか落ち着ける場所はありませんかな?」

「…わかりました、ついてきてもらいます?」

「よかろう。」

その答えを聞いて、ルリは後ろのほうに顔を向ける。

「サブロウタさん、ブリッジを頼みます。ハーリー君、一緒にきてもらえます?」

「了解!」
「ハイ!」




『ナデシコB』作戦室

ここでは先ほどのメンバーがそれぞれ自分の場所に立っている。

中央のにはルリが、彼女からみて左側にシマを初めとするYAMATOクルー、右側にはナデシコクルーといったところだ。

「率直に聞きます。あなた方は何者なんです?」

「その前に・…ホシノ艦長、あなたはパラレルワールドの存在を信じておりますかな?」

唐突にそのことを聞かれ、ルリは不思議に思いながらもその問いに答える。

「ええ、理論的には存在することが証明されてますし…。」

「なら話は早い。もし、我々が無限に存在するパラレルワールドの一つから来たとすれば…・。」

そのことに真っ先にハーリーが将棋板に手を叩きつける。

「いいかげんなことを言わないでください!第一それを証明するようなものなどあるのですか!?」

「ハーリー君!」

ルリに睨まれ、押し黙るハーリー。そのことを気にすることもなくシマの話は続く。

「それを説明するためにここに来たのだ。ナブ、マーシィ、準備はいいか?」

「OKだ、艦長!」

二人は将棋板のコンソールにYAMATOから持ってきたメディア機材を取り付けていたのだが、それも無事に終わったらしい。ナブから元気のいい返事が返ってきた。

それを見てシマはレオンのほうに顔を向けてうなずく。レオンはそれを受けて手元のパットを操作しながら説明し始めた。

「それではご説明いたします。 我々は銀河系で見つかった古代遺跡の調査のため、龍座銀河へ向けてワープを行おうとしていました。ところが途中で現在戦闘状態にあるセイレーン連邦軍の襲撃を受け、急遽古代宇宙人が残したジャンプシステムを使ってジャンプしたのです。ところが、その際に外部から強力な干渉にあった所為で計算が狂ってしまったために、この世界に飛び込んでしまったのです。」

「どのようにして自分達の世界とは違うとわかったのですか?」

「なに、一つは地球側やセイレーンのネットワーク反応が綺麗さっぱりなくなっていたことと、さらにかわって受信したネットワークの情報がまるっきり違っていたことさ。最初は2201年というから過去にすっ飛んだと思ったが…調べていくうちに歩んできた歴史が違うということでパラレルワールドに来ちまったことに気づいたってわけ。」

ルリの問いにナブがそう答える。

「過去にきた?」

ハーリーの疑問にレオンが話を続ける。

「われわれの時代は2520年なのです。これを見てください。」

といってレオンはパットを操作する。

先ほどのロココ星での戦闘模様から20世紀以降の地球圏の歴史が表示される。右がナブ達の、左がルリ達のという風にそれぞれ二つに分かれており、互いに対比できるように映し出されていた。

「双方とも20世紀末期までは同じなのですが、見てのとおりそれ以降の歴史が大きく食い違っています。その証拠に、この世界での22世紀末期、太陽圏内で内戦に明け暮れていますが、我々のほうは外宇宙からの侵略で壊滅寸前まで追い込まれていました。またこの世界ではまだ人類は惑星間航行に留まっていますが同じ時期に我々は恒星間航行技術を持つようになり、23世紀末期には民間による外宇宙の進出が盛んになっています。」

かわって映像はその当時の地球圏の映像に切り替わる。

『おお…。』

ナデシコクルーから思わず感嘆の声があがる。

地球自体はそれほどかわっていない。だがその周囲の軌道上には近代的なステーションが無数にあり、宇宙には三連装砲塔を装備した流線型の大型戦艦や飛び回る。その脇をそれより大型の民間船が太陽系外へ向けて飛んでゆく。

その背景にある月も、すっかり開発されており、赤道付近と北極から南極にかけて金属の帯を巻きつけたかのようにテラフォーミングが進んでいた。

「2270年代以降、これまで試験的でしかなかった外宇宙の進出が盛んになり、宇宙大航海時代と呼ばれるほど人々は盛んに太陽系を飛び出していきました…。それと同時にそれに伴う人類の未来について論争が巻き起こったのです。その中で一番過激だったのが2283年にブローネ博士が唱えた『優性覇権主義論』でした」

「『優性覇権主義論』ですか?」

「彼は技術的、精神的、文化的、肉体的など…あらゆる面で優れた者こそ全宇宙を支配する権利があり、そうでないものはそうである者に服従するという、過激な物でした。そのために彼とその賛同者は学会や連邦政府から散々非難され、その2年後の2285年に賛同者と共に宇宙移民として地球をとびだったのです。」




映像にはその当時のインタビュー映像らしい。最後に移民船に乗り込もうとする額に傷のある長髪の男性が記者達の質問攻めに会っている。

『ブローネ博士、地球を去る感想は…。』
『今回の決断に対し連邦政府からの追放命令が仮決定したことがあったということですが…。』
『外宇宙に出ても意見を変えることはありませんか?』

矢継ぎ早に質問する記者団に対し、ブローネはしかめっ面のまま記者団に対しこう答えた。

『私は自分の説を証明するため、賛同者と共に宇宙に旅立つのだ。人類は常に進化する存在だ。歩みを止めたら滅びるしかない。 今の地球が私の説を受け入れない限り、地球とそれに連なる者は滅びの道を歩むであろう!』

『滅びの道を…どういうことですか、博士!』

その言葉を受け、記者団はその真意を聞き出そうと詰め寄ろうとする。

そんな記者団を無視し、ブローネは移民船の中へと入っていった。




「…ほんと自分勝手ですよね…・。」

ルリがそう呟く。他のものも同様に複雑な表情を浮かべていた。

「確かに人は常に歩きつづけるものです。ですがそのために他人を無造作に切り捨てていくことを果たして進化と呼べるか…はたまた疑問ですな…。」

先ほどとは違い、厳しい表情で言い切るプロスペクター。そんな彼らに対しシマが話し始める。

「当時の知識人たちも今あなた方が言ったのと同じ事を言い、多くの者達がそれを支持した。…しかし彼は自分の説が必ず実現できると信じて疑わなかった。それがその後に起こる悲劇につながることになる。」

『悲劇!?』

その言葉に既に説明を受けているリョウコを除くナデシコクルー達に動揺が走る。

「それでは説明を続けます。地球を脱出したブローネ博士達は長い航海のすえ2293年に六文儀座C銀河に到達、そこでモノポール素粒子を発見し、その制御に成功しました。」

「モノポール?」とハーリー。

そのハーリーに対し、ルリが解説し始めた。

「知らないのも無理ありませんね。モノポールとは宇宙の誕生…ビックバン時に発生したエネルギー素粒子で安定後には激減したのですがそれでもわずかに残っているとされています。もっとも残っているといっても一つの星系に一個というぐらいでしかありませんが…。」

その説明を聞いて納得するハーリー。それを見てレオンは説明を再開した。

「確かに理論上はそう唱えられていました。しかしブローネ博士がたどり着いた六文儀座C銀河にはモノポールが大量に密集していたのです。
 ブローネ博士はそこにコロニーを建設し、それと平行してモノポール実験炉を建設、そして制御実験に成功したのです。彼はモノポールから得られる莫大がエネルギーを糧に、我々のタキオン粒子を基盤とする、波動文明とは違うモノポール文明なる物を作り上げ、さらには彼を皇帝とする一大軍事国家を作りあげたのです。」

それを聞いてハッとなるルリ。

「まさかそれって・…!」

そのルリに対し、シマはうなづきながら答えた。

「そう、今我々が戦っている相手…六文儀座C銀河・セイレーン連邦だ。」

「彼は地球連邦からの連邦加入をことごとく拒否し、さらには彼自身が唱えた優性覇権主義論を実証する意味から付近一帯の星間国家に戦争を仕掛けていったのです。」

映像は惑星を守ろうとする数隻の戦艦と黒光りするどことなく重厚感がある何十隻の戦艦との戦闘模様に切り替わった。

惑星を守備する戦艦郡から青い主砲ビームが発射されるが、相手艦に弾き返され、お返しとばかりに艦首から発射された紅いビームがその戦艦達を簡単に粉砕してしまった。

複数のウインドウにも双方の戦艦同士の打ち合いとなってるが殆どその黒光りする戦艦を主力とする艦隊の圧勝で終わっている。

「…救援に駆けつけた地球連邦の艦隊もセイレーンの圧倒的な軍事力や技術力の前には無力でした。事態を重く見た連邦政府は地球連邦軍の再編成を行うと共に、立ち遅れていたモノポール技術の研究に力を入れるようになります。」

複数のウインドウが消され、変わって映し出されたウインドウには銀河系の姿が…そこから映像が移動し、銀河系のそばにある複数の星々が寄り集まった星団が映し出される。

「調査の末2405年、地球連邦の勢力下にあるM27球状星団、グリフォン恒星系にある惑星リンボスにてマントルに大量のモノポールが発見され、連邦はそこにモノポール採掘を目的とした移民団を派遣、採掘に当たろうとしましたが当時の移民政策の不備から最初に入植した人々との衝突で採掘は進まず、同年セイレーン連邦のモノポール採集隊がM27球状星団に侵入。その結果採取権をめぐり両勢力の軍事衝突…後に銀河100年戦争と呼ばれる戦争が勃発したのです。」

それと同時に映像はリンボス付近での両軍の衝突が映し出された。

「圧倒的な軍事力でM27星団の地球側の星々に襲い掛かったのに対し、勢力を盛り返した地球連邦も負けておらず、戦闘はその名の通り100年間にも及んだのです。」

目の前の映像には両軍のミサイル一斉発射の後、互いに主砲を打ち合い、その上空では両軍の艦載機が互いにすばやい機動力で衝突しあうというすさまじい戦闘が繰り広げられていた。

(すさまじい…。)

システム化された戦闘を見慣れているルリにしても、このすさまじさにはただ呆然とするしかない。このような物を見せられては今まで自分たちの戦闘がじつにのんびりしている物だと思ってしまう。

両軍の戦艦はその艦体に何発もビームを喰らっても、ボクサーのようにビームを打ちあっている。その上で各軍の艦載機がハエのように襲い掛かり、ミサイルやレーザーを打ち込んではその艦の戦闘能力を削いでいく。

そして絶え間なく喰らい続ける攻撃に耐え切れず、一隻、また一隻と爆発を起こしながら近くの惑星に重力に引き込まれ、惑星上の都市に墜落、その都市もろとも消滅した。

互いにボロボロになりながらそれでもなお、勢いは衰えることもない。とうとう互いの艦首に装備された大容量のビームキャノンが発射される。

互いのビームはその中間点で衝突、そのまま自軍のほうに拡散され、それをまともに受けた双方の艦隊は風を受けて崩れ去る砂城のように消え去っていく…。

光りが収まり、静寂があたりを包み込む…。双方の艦隊が居た位置には戦闘艦や艦載機の残骸や破片があたりをさまようだけだった…。

「この戦争は。当初グリフォン恒星系を中心とした個所だけに限定されていました。しかし2413年、セイレーンの勢力化にあるベザ星系にて古代宇宙人の遺跡を発見、同年地球側もM27球状星団の中核付近にあるロココ星において同様の遺跡が発見され、両軍の戦闘はモノポール採取権争奪から遺跡のオーバーテクノロジーを巡る物へと発展し、2415年、両勢力は全面戦争へと突入、戦火は銀河全体へと広がっていきました。 しかし、両軍とも決着はつかず、戦争は手詰まり状態におちいったのです。」

スクリーンに映し出されている、双方の戦闘艦の残骸が、それを如実に物語っていた。

「2503年、双方で休戦協定が結ばれ、戦争はひとまず終結…。その結果、この戦争の発火点となったグリフォン恒星系のうち、惑星リンボスはセイレーンが、同じく惑星ワグアが地球側の手で管理されることとなったのです。

しかし、それから17年後の星暦2520年、セイレーン軍の突然の奇襲により銀河100年戦争が再開され、リンボスから脱出してきたYAMATOもそれに巻き込まれてしまったです。後は先ほど話したとおりです。」

そこでレオンの説明が終わった。ルリは少し考えると即シマの方に向き合った。

「話はわかりました。このことは宇宙軍司令部の方に伝えておきます。正式な命令があるまであなた方は本艦と行動を共にしていただきます。よろしいですね。」

「よかろう。それともう一つ。今回『タマガマ』やあなた方を襲った敵艦隊についてだが…・。」

「それがどうかしたのですか?」

「どうやらその艦隊も我々の世界と関係があるようなのだ。」

『え!?』

一同驚きの声をあげるナデシコクルー。スクリーンは先ほどの双方の世界の歴史が映され、その中から2200年から2203年までのものが拡大表示される。

「我々の世界での22世紀末期から23世紀初頭は絶えず外宇宙からの侵略を受け、2202年に至ってはテザリアムの侵略を受け地球全土を占拠されてしまった。で、これがその時の記録映像なのだが・…。」

映像は月軌道上での戦闘らしい。地球側の戦艦が敵艦隊の砲撃をうけ、次々と撃沈されていく。

「問題はそのテザリアム艦隊の方なのだが…どこか見覚えがないかね。」

その艦隊の戦艦のシルエットを見たとたん、ルリとハーリーに驚きの声があがる。

「こ、これは!」
「あの時僕達を襲った艦隊そのものじゃないですか!」

そう、そこに映っていた艦隊の戦艦は『ナデシコB』を大破寸前まで追い込んだあの戦艦そのものだったのだ。

「どういうことですかな、これは?」

プロスペクタ―の質問に今度はマーシィが答える。

「私達の歴史ではこの艦隊の一部が、行方不明になっているのです。当初はただ単に似ているだけと思ってましたが、『タガマガ』付近で漂流していた大破艦の中から回収したデーターディスクからその艦隊が私達の歴史上で行方不明となった艦隊そのものであるという事が判明したのです。よければその解析データーをそちらに渡しても構いませんが…。」

「ちょっとまってください!」

そこにきてハーリーが割って入ってきた。

「その艦隊があなた方の時間軸からきた物だとしても、それだったらなぜ『タガマガ』や僕達を襲ったんですか?あのときの行動パターンから見てただ偶然にやったものとは到底思えません!」

「そう、そこさ!『タガマガ』の場合は単なる偶然だった見たいだが今回の場合は俺達もどうしても腑に落ちねえ…。」

ハーリーの疑問にそう答えるナブ。そのときルリの正面でいきなりウインドウが開いた。

『艦長、大変です至急ブリッジへ!』

「どうかしましたサクラ准尉。」

つとめて冷静な表情で答えるルリ。ウインドウの中の女性士官は血相をかえて答える。

『つい先ほど例の艦隊に宇宙軍司令部やその関連施設。ネルガル本社が襲撃されたと言う連絡が…!』

「!…すぐに行きます。」

ウインドウが閉じられ、ルリはドアを潜り抜けブリッジへと駆け出す。他の者もルリの後を続いていった。




「状況は!?」

艦長席に駆け寄りながら報告を求めるルリ。即サブロウタが答えてきた。

「地球上の宇宙軍及びネルガル関連施設が例の艦隊の奇襲を受けたもよう。攻撃を仕掛けてきたのは30秒かそこらで即ジャンプしていったようですが…被害は甚大です。」

彼の報告を聞きながら、ルリは自席でウインドボールを展開させる。同時にオモイカネに各地の被害状況を表示するように支持する。

(…ひどい。)

そこに表示された内容は悲惨としか言いようが無かった。

攻撃を受けたのは地球上にある宇宙軍基地、ネルガルの主要施設だが大半がわずか30秒間の攻撃で壊滅的な打撃を受けている。

宇宙軍総司令部、ネルガル本社は地上施設が全壊し、死傷者、行方不明者が後を絶たない。現在の所死者の数はそれほどでもないにしろ、被害状況から見ても増加するのは目に見えてる。

ウインドボール内では死傷者リストに続いて行方不明者リストが映し出される。次々と内容がスクロールしていく中で一つだけルリが目に留めたものがあった。

(これは…?)

それを見たとたん、ルリは凍りつく。

(・…そんな!?)

体中に震えが走る。

そのウインドウには先の宇宙軍総司令部の奇襲においての行方不明者リストにあった一人の宇宙軍士官の顔と経歴、それに名前が映し出されている。

その士官の名は…『テンカワ・ユリカ』




後を追うように『ナデシコB』のブリッジに入ってきたYAMATOクルーも、地上の状況を聞き、動揺が走る。

ブリッジ内の表示は全て日本語表記だが、オモイカネが気を利かせて、YAMATOクルーたちの前に地上の被害について英語表記でウインドウに表示する。

「われわれもYAMATOに戻るぞ!直ちに警戒態勢に入るようYAMATOに連絡だ。」

「了解!」

直ちにレオンがYAMATOに連絡をとり始める。それと同時にシマはルリの方に振り向いた。

「ホシノ艦長、いったん我々は……少佐!?」

シマが言おうとしたとたん、ルリの異変に気づきナブと共に彼女のところに駆け寄る。

ハーリーもその様子に気づき艦長席に顔を向けた途端、おもわず大声を出してしまう。

「か、艦長!」

彼の視線の先で、両腕を抱え、おびえるかの如く小刻みに震えるルリがそこにいた。
先ほどまで展開してあったウインドボールは消え去り、唯一女性士官が映ったウインドウが展開されているだけだった。

「おい、どうしたんだよ、しっかりしろよ艦長!」
「・…イヤ・…ユリカさん…。」

ナブが必死に声をかけるが全く反応せず、その代わりに体を震わせながらうわごとのように女性の名を呟いている。

上層部にいる上級士官の動揺は下層部の両舷コンソールに配置しているクルー達にも広がり、彼女のところの駆け寄ろうとする。そのとき…。

「うろたえるなァ!!」

いきなり響いた怒声に全員がその声のした方向に顔を向ける。

そこにはトーゴー・シマが毅然とした態度でブリッジクルーを見渡していた。

「地球上の宇宙軍施設が奇襲を受けた以上、『ナデシコB』にも仕掛けてくる可能性が高い!うろたえるヒマがあったら各自自分のやるべきことを果たせ!」

ブリッジクルーの前でそういいきった後、今度はルリの方に向かって激を飛ばす。

「ホシノ艦長、何をしている!今この艦に必要なのは君の指示だぞ!」

その言葉に、ルリは我に返る。

「!・…すみません。エステバリス隊発進準備、ハーリー君、コスモスのメインシステムにアクセス。全火器をこちらでコントロールします。」

「了解!」

指示を出し終えたあと、まだ展開しているウインドウの中の女性に目を向ける。

…心の中からやりきれない想いがこみ上げてくる。だがその想いを無理やり奥に追いやると、ただひたすら、目の前の状況に集中する。

湧き出そうな悲しみを諦めきれない想いを振り切ろうとするかのように・…。




「すみません…あなた方にも迷惑をかけてしまって…・。」

歩きながら隣にいるナブとマーシィに謝るルリ。その傍らでハーリーが心配そうに彼女を見ていた。

「気にするな。俺達が勝手にやったことだからな、別にアンタのせいじゃねえ。」

笑みを浮かべ、あっけらかんと言うナブ、その後にマーシィが続いた。

「それに誰だって大切な人の身に何かがあれば、心配するのは当然のことよ。」

「え?」

あの時の自分がユリカのことを心配していたことを言い当てられ、驚いた表情でマーシィの方に向く。

「・…どうして、わかったんです。」

「あの時のあなたの様子を見てすぐにわかったわ、それに…警戒態勢中にその人の映ったウインドウを終始展開していたし…。」

その傍でナブがしてやったりといった表情を浮かべている。どうやら彼も彼女と同じように気づいていたみたいだ。

「…まったくあなた達には驚かせぱなっしですね、今のことといい、先ほどの戦闘においても…。」

「そう言うお前だってなかなかいい指揮してたぜ。この艦のクルー達には驚いてばかりだが、そんなクルーを纏め上げるアンタも見事がもんだ。これなら、外宇宙にでても通用するんじゃないの?」

べた誉めするナブにたいし、ルリは首をふりながら寂しげな笑みを浮かべる。

「まだまだですよ…、いい指揮をとれたと言ってもそれはあなた方がこの艦に留まってまで手伝ってくれたおかげです。私だけだったらあそこまで落ち着いてやれたかどうか…。」

彼女が言っていることも的外れな事とはいえなかった。

あの後、黒色艦隊の戦艦数隻が『コスモス』の近くにワープアウトし、艦載機を発進してきたのだ。

そのためシマたちYAMATO クルーも自分達の艦に戻るヒマも無く、ナデシコに留まって指揮をとる事態に陥った。ナブも単独で『ナデシコB』を飛び出し、『コスモス』に迫る敵艦載機の迎撃に向かった。

しかし、黒色艦隊はこれと言った戦闘行動をとることも無く、艦載機のほうもエステバリスに攻撃を仕掛けようとしたようだがナブの機体や跡から飛び出したYAMATO側の艦載機を見かけた途端、軽い空戦の真似事に留まり、艦載機を収容した後そそくさと退散している。

『ナデシコB』に留まったシマ達はYAMATOに一連の指示を与えた後、ルリ達のアシストにまわったりしている。結果的にまたYAMATOに助けられたカタチに収まったわけだ。

「それじゃハーリー君、お二人のことを頼みますね。」

自室の前でハーリーの方に振り返ってそう言うルリに対し、ハーリーは少し頬を紅潮させながら答えた。

「は、ハイ!」

そんなハーリーの態度に若干笑みを浮かべた後、ナブ達の方に顔を向けた。

「それでは、シマ艦長によろしくお伝えください。」

「ああ、おやすみ、艦長。」
「おやすみ、ルリちゃん。」

二人の返事に軽く会釈して返すと、自室の方に入っていった。

それを見届けてから、ハーリーは二人の方に振り返る。

「それでは、格納庫までご案内します…。」

そう言い掛けてナブに視線が言ったとき、ニヤニヤしながら自分を見ていることに気づいた。

「な、なんですか、そんな目で人をジロジロと…。」

「おめえ…彼女のこと、惚れてるだろ。」

いきなり核心をつかれ、真っ赤になって慌てふためくハーリー。

「な、何言っているんですか!僕と艦長はそんな不埒な仲じゃ・…とにかく僕は、その…・!」

半ば支離滅裂になる彼にナブはさらに言葉を続ける。

「そんなに照れるこたあねえだろ。好きなら好きとはっきりいえよ。俺のようにさ!」

「いいかげんなこと言ってるんじゃないわよ!ハーリー君、絶対こんな奴のことなんか真似したらダメよ。ろくな大人にならないから。」

「つれねえなマーシィ、おめえもそういう所直さないと誰も近よんねえぞ。」

「あんたが露骨すぎるからこういう態度をとらなきゃいけないのよ!誰のせいだと思ってるの!?」

二人の様子にハーリーは初め呆然と眺めていたが、しばらくして吹き出してしまう。

その様子に当の二人が気づきハーリーに顔を向ける。

ようやく笑いが収まった所でハーリーが顔を上げて話し始める。

「すみません、笑ったりしてホント、お二人は仲がいいんですね。」

その言葉に対しナブは胸をはって答える。

「当然だろ!俺とマーシィは…。」
「ただの幼馴染よ!」

そこへマーシィが割って入った。無理にでも言葉を続けようとするナブにかわまず言葉を続けるマーシィ。

「いつも無茶ばっかするからほんと気が気でならないのよね!だから一緒についてきてるだけよ!」

そう言ってくるマーシィに対し、ハーリーも苦笑するしかない。

「ハハハ…と、とにかく格納庫までご案内しますので…。」

といって逃げに走るハーリー。その会話の後沈黙が続いたが、ふとナブが口を開いた。

「なあハーリー、ちょっと聞いてもいいか?」

「ええ、構いませんけど…なにか?」

「あの時彼女の席のウインドウに映っていた士官は、だれなんだ。」

「え!?」

いきなりそのことを聞かれ、思わず足を止め振り返るハーリー。

そこには先ほどとは違い、真剣な表情のナブが彼と向き合っている。

「…なんでそんなことを聞くんです。」

「あの時のことがきになってしょうがねえんだ…。別に無理ならそれでもかまわねえけど…。」

そんなナブに対し、躊躇するハーリー。

あの時の…火星極冠遺跡での戦闘などはいまだに最高機密になってるものが多く、2度にわたって助けられたと言っても、全てを彼らに言うわけにもいかない。
…だが、ナブの只ならぬ様子に、ハーリーは少し話すことにした。

「艦長…ルリさんの親代わりの人ですよ…。」

「親代わり?」

ナブの言葉に軽くうなずくと話を続ける。

「たぶんうすうす気づいていると思いますが・…ルリさんも僕もこのナデシコ級戦艦のオペレートをやるために作られた…マシンチャイルドなんです。その人たちはルリさんがオペレーターとして着任した『ナデシコA』のクルーだった人たちで、『ナデシコA』を下りた後、その人たちの養女として迎えられたんです。

一緒に過ごし始めて2年後にお二人は正式に結婚することになって、式をあげ、新婚旅行に行くためシャトルに乗ったまではいいのですが…・。」

「そのシャトルが表向きには爆発し、乗員乗客は全員死亡した…そうよね。」

マーシィの言葉に驚きの表情を浮かべるハーリー、だがすぐに納得したかのような顔で話を続ける。

「そうですね、僕たちの世界をネットワークで調べたのなら知って当然ですよね。
 その様子に、誰もがお二人が死んだと思っていた。けど実際には火星の後継者がお二人を拉致され、偽装のためシャトルを爆破されたんです。

テンカワ大佐は連中の実験のため仮死状態にされ、僕たちナデシコクルーもそのことを知り、独立ナデシコ部隊を結成して本拠地を襲撃し、テンカワ大佐を救出することができたんです。

死んだと思った人が生きてるとわかり、無事救出できたのに今回の攻撃で・…。」

「…そうだよな、動揺するのも仕方ないな…。」

ナブも大きく息を吐きながら呟く

「それはそうと、その人の夫はどうなったんだ?途中から全く触れなくなったけど…。」

「そ、それは…ごめんなさい、そのことはまだ軍事機密に指定されていますので、言うことは出来ません。」

一瞬動揺を見せたが、即真面目な軍人と言った態度でそう言い切るハーリー。

「そうか…。」

その返事に対し、ナブは深く問うつもりは無かった。無感情を装うハーリーの言葉の裏に、迷いと苦悩が混じっていることに気づいていたから…。

「それはそうと、なんでそんなに心配するんですか?」

「他人事とはいえないからな…大切なモノを失うことがどんなにつらいか、希望を奪われた痛みがどれほどつらい物か、俺達にもその気持ちがわかるからな…。」

「そう…ですか。」

その言葉に、ハーリーは黙って頷くしかなかった……。




遠ざかっていくハーリーとナブ達のやり取りに笑みを浮かべながらルリは自室の隅にある机の方に向かっていく。

そこには一台のサブノートタイプのパソコン、それに一枚のフォトフレームがおいてある。

その中には12歳ほどのツインテールの少女を中心に、笑顔を浮かべたコック姿の青年と、ロングヘアの大人とは思えないほどの無邪気な笑みを浮かべた女性が並んでいる。

彼女はイスに腰掛け、そのフォトフレームを手にとった。

「…ユリカさん…・。」

フォトフレームの中の女性に視線を向け、彼女の名を呟く。

ふと彼女はコミュニケを操作し、先の宇宙軍総司令部襲撃の映像を再生させる。

ウインドウの中で、白い建物が突如出現した黒い戦艦のビームを受け、跡形も無く粉砕される。

その艦は黒煙を上げる建物の残骸を悠々と通過し、光をまとって消え去っていく。

「やっぱり…。」

ため息をつきながらイスの背もたれにもたれかかる。ウインドウは閉じられ、再度さめた視線でフォトフレームに目をやるルリ。

(死傷者よりも行方不明者が多いけど・…あの映像を見ればそれも頷ける…・。たぶんその大半は髪の毛すら発見できない…。)

彼女が抱いていたわずかな希望を打ち砕くほど、黒色艦隊の攻撃は非情極まりないものだった。

おそらく被害を受けた地上施設にいた人たちの殆どがビームの直撃を受けその体を原子に還元されたはずだ…苦しむ間も、自分の身に何が起こったのかもわからずに…。

現在の捜索もその殆どが家族からの要請でやっている、いわばカタチだけのものだ。これ以上の発見はもう望めない…。

「あの状況から見て…これ以上行方不明者が見つかることは、もう無い…。」

その言葉が、彼女の中で確信に変わり、さめた表情が次第に悲しみに満ちていく。

「・…ユリカさん…。」

手にもっていたフォトフレームをそのまま抱きしめ、顔をふせる。

「…こんなのって…生きてるとわかって…助け出せたのに・…こんなのって…。」

その声が、泣き声に変わる。

「ユリカさん・…ユリカさん・・・・・…ユリカさん!!」

ルリは硬くつぶった両眼から涙を流し、嗚咽混じりの声で、何度も何度も、彼女の名を呼びつづけた…・。




To be continued





あとがき


…絶対最後のくだりはユリカファンには我慢できない代物かもしれない…。


「ユリカに何をする!」などのお叱りは甘んじて受けますが…言い訳しようにもネタ ばれする可能性があって使用にも出来ないというのが悲しい所…。

少なくともあくまで『行方不明』ですので変な方向に考えないようにしていただければ …なんて無理ですね、たぶん。

とは言え、現状ではいかにしてナデシコ世界の技術で黒色艦隊を撃破するかというのを 考えているのですが…技術格差がありすぎてまともにいけそうにもないし…暗黒星雲内 での戦闘では初代ヤマトは改良がなされたため撃破出来ても、「新たなる旅立ち」での戦闘 じゃヤマト主砲ではビクともしなかったしなあ〜。

まあ、いろいろとやってみるつもりですが、と言った所で今日はこれで…。


By YAMATO





機動戦艦ナデシコはジーベックの作品です。

YAMATO2520はニシザキ・ボイジャーエンターテインメント、及び松本零士の作品です


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