神秘に満ちた宇宙と言う名の海、

そしてその中で燦然と輝く星星のうつくしさ…・。

その輝きの中で、様様な生命や星々が生まれ、そして滅び行く…。ほんの僅かな間
の、輝きを残して…。

宇宙誕生以来繰り返されたその営みは天地がひっくり返るほどの一つの星系の情勢
が変わっても、決して変わることはなかった。

そして数々あるうち一つの星系の中で、一隻の木馬型の戦艦がそら宇宙を天かける。

その光景もその艦が竣工してから一度も変わっていない。ついこの前までは。

その後方に一際存在感のある一隻の水上艦艇型の戦艦が宇宙と言う名の海を突き
進んでいる。

木馬型の戦艦を護るかのごとく付き添いながら驀進するその姿はさながら虎の如き
存在感を周囲に示している。

そう…本来なら、あってはならぬ光景…。いるはずの無い存在…。

その姿は、あるかどうかわからない目的をもとめて、ただがむしゃらに行動してい
るかのようにも見える。

そして、その艦の未来を指し示す者は…おそらく居ないかのようにも見えるし…そうでな

ようにも見える。

彼らは何処へ行くのか…果たして何が待ち受けているのか…その答えを指し示す者は、

まだ、いない…。
…そう、今は、まだ…・。


 
 
Time for parallel 2201

YAMATO2520 and 機動戦艦ナデシコ

Vol.6

交錯

 
(いったいあの艦は…。)

木馬型の戦艦のブリッジで少年はふとそういう考えが心の中で浮かび上がる。
彼の席のウインドウには後方からついてきている一隻の巨大宇宙戦艦が驀進する。
初めてその艦を見たとき、少年は恐怖の念にからねた。
これまで自分達の艦が最新鋭かつ最強と思っていた。しかし、ふと現れた異世界から
の訪問者の襲撃でヒビをいれられ、さらにこの艦を助けたもう一つの訪問者の艦によ
って跡形もなく爆砕されてしまった。
その後に残ったのは、襲撃してきた訪問者に対する・…言葉に表すことができないほ
どの恐怖…。
自分達には手も足も出なかった連中を、それはいとも簡単にねじ伏せ、消滅させてし
まったのだ。その姿はさながら鬼神を思わせた。

しかし、そこのクルーと出会ったとき、その思いは一蹴する。
住む星も、文化も、状況も、まったく違う環境でそだった彼ら…パラレルワールドから
きたといっても彼らは自分達から見れば立派なエイリアン異邦人…しかしなぜかなんら違和感を感じ
ない。

それどころか、極自然に近寄ってしまう。

しかしなぜ違和感をおぼえず、それどころか親近感すら感じる。彼らと会って日は浅
い。こんなに早く親近感を覚えるはずが無い。なのになぜか…。

少年はこの艦が次の目的地に向けて動き始めたときから、ずっとそれを考えている。
しかし、 答えは出てこない…。

「ねえ、オモイカネ。」
『ハイ、ハーリー』

少年はふとこの艦に乗艦してから付き合ってきた相棒に、IFS経由で尋ねる。

「彼らは、いったいなんなんだろう。」

その問いに対し、彼の答えは簡潔だった。

『その質問はYAMATO出現以降から『コスモス』合流まで56回、『コスモス』離脱以降
か らは121回です。  回答、これまでのデーターを比較した上で、現段階において
YAMATO一隻だけでは黒色 艦隊に対抗するには不利な状況にあり、彼らが元の世
界へ帰艦するにもこの世界とコンタク トする必要があった。またYAMATOクルーの行
動から照らし合わせて、現段階で『ナデシ コ』に敵対することは大いに矛盾する。結
論としては現段階においてYAMATOとそのクルーは『ナデシコ』及びクルーを裏切る
可能性はきわめて低い。』

どこぞとなく半ばうんざりしたかのような口調でそう答えるオモイカネ。その回答に少年
はため息をつきながら呟く。

「わかってるよ…でも何かがどこかで突っかかっているんだ。なんでなんだろうなあ。」

困ったかのような表情を浮かべながら別のウインドウに顔を向ける。その時、そのウ
インドウから人の顔が突き出してきた。

「よおっ、少尉殿!」
「ギエェェェェェェェェーッ」

…大宇宙に少年の悲鳴が木霊する…・。
 
 


 
「ハア、ハア、ハア、ハア…。」

先ほどの驚愕の様子が冷め切れず、荒い息をつくハーリー。そんな彼をナブが面白
そうに眺 めている。

「…い、いきなりウインドボールの中に入らないでください!」
「そう照れるなよ。ま、付き合いが浅いとはいえ、知らない仲じゃないんだからさあ。」
「な、なにいっているんですか、エッチーッ!!」

擦り寄るような口調でからかってきたナブに、ハーリーは大声で怒鳴りつける。思わず
ナブものけぞった。

それに比例して、彼の周りに展開していたウインドウも一気にブリッジ内に飛び散る。

「興奮すんなよ。とって食うわけじゃねえんだからさ。」

「…だったら用件を言ってください。まだ僕は任務中ですから。」

余裕の笑みを浮かべながらそう言うナブに、ハーリーはふてくされながら言ってきた。
それを知ってかしらずか、ナブは顔をウインドボールに突っ込ませたまま話し掛けて
きた。

「ここのブリッチに忘れ物しちまってな、慌てて引き返してきたのさ。」
「忘れ物?それと僕と何の関係があるんですか?」

あいかわらずふてくされた表情で言うハーリーに、ナブはニンマリとした笑みを浮かべ
答えてきた。

「関係大有りさ、なんせ忘れ物は…」

と言いながらハーリーの方に指を指してきた。
「俺の目の前にあるものだからな。」
「?」

わからないといった表情を浮かべ、ハーリーはナブがさしている方向に振り返る。
しかしそこには何もない。
ふとナブが言っている忘れ物が自分のことであることに思いつき、自分の方に指を指
す。
それを見て、ナブは頷きながら答えてきた。

「ちょっとばっか付き合ってくれねえか。1、2時間ぐらい。いますぐな。」
「今すぐは無理です。今は任務中ですからね。軍人じゃないナブさんと違っていろいろ
といそがしいんです。」

「けどそれも任務に就いてる間の話だろ?そこのクロノメーター、見てみろよ。」

と言って彼の指が指した先にはウインドウに映っているクロノメーターが時を刻みつけ
ている。

「?」


訳のわからない顔でクロノメーターをのぞくハーリー。そこには艦内時間で17時59
分30 秒と表記されている。
クロノメーターは時を確実に刻々と刻み込む。そしてそれが50秒になったとき、ナブ
がカウントし始めた。

「10、9、8、7…。」

意味ありげにカウントするナブのその様子に、ハーリーはなんとなくいやな予感を感じ
たかのような気がした。

「4、3、2、1、0!!」

そして、その表記が18時00分00秒と表記されたとき、ナブは胸を張って宣言する。

「ぽーん! 任務ご苦労様でした、マキビ少尉どの!と言った所でいこうぜ、ハーリー。
そらよっと!」

その様子に、先ほどのナブの態度が何のためだったかのをハーリーはようやく気づく。
そこでこっそり逃げ出そうとするが、そうなる前にナブに体を持ち上げられ、脇に抱え
られてしまう。

「ちょっと離してくださいよ!まだやることが・…!」
「別に急ぎと言うわけじゃないんだろ、そうあわてなさんな…オトトット…。」

腕の中でジタバタするハーリーに思わずよろけそうになりながらもドアのほうに歩いた
いくナブ。彼がドアの前まで来る前に、いきなりドアが開いた。

「よう、ルリルリ!」
「か、艦長〜。」

そんな二人の姿に少し驚きながらもルリは尋ねてきた。

「…なにやってるんですか?二人とも。」
「か、艦長たすけ…。」
「な、ルリルリ、こいつ今非番なんだけどこれといった用事とか
ないよな。」

ハーリーの声を無理やりさえぎってルリに尋ねてくるナブ。それに対し、未だに調子を
取り戻せないルリは少し呆然となりながらも答える。


「…別にありませんけど。」
「だ、そうだ。よかったなハーリー。と言うわけでちょっとこいつを借りていくぜ。大丈
夫! 2時間ぐらいで返すからよ。」
「そ、そんな、ヒドイ!何とか言ってくださいよ艦
長!」
「借りてくって…まさかYAMATOに連れて行く気ですか?」
「ああ、おっとそろそろいかねえと。あんまし待たしていくとちょっとやばいんで、それ
じゃな!」
「うわああん…ひどいです艦長〜。」

ハーリーの泣き声と共に遠ざかっていくナブ。
その彼の後姿をルリは呆然と見送っていた…。
 



 
『おい、ナブまだかよ、いつまでもたもたしてるんだ!?』

突如ナブ達の前に展開されたウインドウの中からコンマンがにらみつけてきた。

「わりいやっとつれだしたところだ。いま全速でむかってるからよ!」
『だったら早くしてくれよ〜。全員まちくたびれてるんだからさあ。』

そこで通信が途切れる。その脇でその様子を見ていたハーリーが、ナブの右腕につ
けている物をみて目を丸くした。

「な、ナブさんそれって…!」
「ん?こいつがどうかしたか?」
「どうかした…じゃありません!それって、『ナデシコ』のコニュミケじゃないですか!」

そう、ナブが右腕につけていたもの…それは『ナデシコ』で使用されているコニュニケ
ーターそのものだったのだ。よくよく見ると若干形が違うが、それを除けば全く同一の
物だ。

「まさかナブさん、盗んだんですか!?」
「俺がそんなことするわけねえだろ!この地球の情報を集めた時に見つけたコニュミ
ケの データーをYAMATOのメインコンピューターに打ち込んで作ったんだ。しかもた
だそのままという訳じゃねえ、本来の機能の改良にくわえ、簡単なスキャナー機能や
光学フィールド発生装置なんかも組み込むなど、機能的高性能かつハイセンスな物に
したんだぜ。すげぇだろ。」
「どのみち基本データーは盗んだことには変わりないじゃないですか!そんなこと自慢
にもなりませんよ。罪の意識とかないんですか!?」
「それはさておき」
「さておかないでください!」

そう言いながらもナブは彼を抱えたまま格納庫めがけて突っ走る。
そのナブの腕の中でハーリーは思った。
確かに彼らはいい人たちなのかもしれないが・…どことなく奇妙奇天烈だ。
 
 
 
 
シュッという空気が抜くような音と共に、ドアがひらく。
「おや、レオンは?」
「まだ遣り残した仕事があるからこれないんだそうだ。」
「そうか。」

そしてそこから憮然とした表情の少年士官と一人の若者がYAMATO士官食堂には
いってきた。

憮然とした表情のままあたりを見渡す少年。周りを眺めているうちに彼の表情が驚愕
の表情へと変わる。

そこにはYAMATOクルーだけでなく、ナデシコクルーも混じっている。そしてその中に
はなんとウリバタケまでいるではないか!

「ウリバタケさん!どうしてここに!?」
「お、ハーリー、ようやく来たか。これで全員そろったというわけだ。」
「ま、そういうこと。」

といってナブがハーリーの前に出てくる。そのナブの背中をハーリーの抗議に視線が
つきささる。

「…それで、僕を誘拐してきて、いったい何をたくらんでるんですか。」
ふとナブの動きがとまる。そして何か笑いをこらえるかのように背中が小刻みに震え、
いきなり両手を広げながら振り向いた。
「未知の技術への、ご招待〜!」
「へ?」

その言葉の意味を理解できず、思わず間の抜けた答えを返してしまうハーリー。その
彼を察したのかウリバタケが説明し始めた。

「実は俺達で『ナデシコ』とYAMATOのパワーアップをやってしまおうと考えてな。今日
はそのための最初の集まりと言うわけだ。」
「え、でも『ナデシコ』ならともかくなんでYAMATOもなんですか。未来の艦であるこの
艦ならそんな必要なんてないし、第一そんな事をしたら歴史が…。」
「おい、ハーリー、なんか勘違いしてねえか。」

唐突にでてきたアガの言葉に、ハーリーは目を白黒させる。

「勘違いって…。」
「未来と言っても俺達もこのYAMATOも別の時間軸に居るべき存在だぜ。この時間
軸じゃない。まったく世界が違うんだ。だからこっちにはこの世界より優れた技術があ
ってもこの世 界にあってこっちの世界には無い技術だってあるからな。」
「だからこのさい、双方の技術をうまく使って2艦のパワーアップも行おうと思ったわけ
だ。」とフリック。
「第一いつまでもYAMATOに対黒色艦隊戦を依存させるにもリスクが大きいしね。」

最後にマーシィがそう締めくくった。

「でもいいんですか、艦長やシマ大佐の許可を得ないまま…。」
「それからだと双方の技術・戦術ギャップを埋めるのに余計時間を食っちまう。それな
ら事前にそっちの問題をクリアしようとおもって今日ここに集まったと言うわけさ。とに
かく可能性だけでも…。」

「ワン!」
「うわっ!」

思わずしりもちをつくナブ。声のした方向には、なぜかイヌが士官食堂に入ってきてい
た。
「い、イヌ?」
「ああ、それ艦長が飼っているイヌよ。…おいで、やまと。」
マーシィの姿を見かけるとそのイヌは尻尾を振りながらそっちのほうによっていく。

「『やまと』?イヌの名前も『やまと』ていうんですか?」
「YAMATOに乗るから、やまとなんだって。」

そういいながらマーシィはやまとの背をやさしくなで始める。その一方、ナブは頬を引
きつらせ、体を震わせていた。

「…なにやってるんですか?」

あきれたかのような表情のハーリーに、ナブはやっとのことで立ち上がりながら答える。

「…俺、イヌ苦手なんだよ…。おいまて、ここにやまとが居るとすれば…。」
「すれば…てなにがですか?」

その時士官食堂のドアが開いた。

「いて悪かったな、ナブ。」
「げげ、艦長!」

そこから入ってきた人物…それはYAMATO艦長、トーゴー・シマその人だった。

「なるほど、どうもお前達の動きがおかしいと思ったらそう言う訳か…。」

周りを眺めながらゆっくりと言うシマ。それに対しナブが、真顔でシマに向き合う。

「まさか…艦長は反対なのか?このことに…。」

それに対し、シマは表情を変えることなく言い切る。

「……認めるわけにはいかんな…。」

その言葉にガク、と肩を落とすナブ。しかしその後の言葉はその沈んだ空気を一変さ
せる。

「この私をさておいてやろうとするかぎりな。」
「へ?」

その言葉にナブは思わず間の抜けた返事をしてしまう。その様子を見てきた他の者
達も唖然とした表情を浮かべている。

「…それって…艦長も仲間に入りたいってことか?」
「この会合自体は私も賛成だが…艦船技術の面で言えば私の知識が必要になる・…
私にも一 枚かませろ。」

その言葉に、一瞬思考が停止してしまうものを、たちまちナブの顔に満面の笑みが、
ハーリーには驚愕の表情が顔に浮き出る。

「よっしゃー!!そうと決まればさっそく始めようぜ!」
「え〜〜!!」

ナブの少し大げさに見える喜び方に、思わず笑みを浮かべるシマ。その時、彼の隣に
居る少年士官が、信じられないような表情を浮かべ、こちらを見ていることに気づく。

「私があっさりと承認したことが、未だに信じられんようだな、マキビ少尉。」
「…だって信じられませんよ、れっきとした軍人の中の軍人と思っていたのに…それな
のにこうもあっさりと認めてしまうなんて…。」

おそらくこのシマの行動事態、納得のいかないものだったかもしれない。気が付かな
いうち に、この少年は自分を理想の軍人としてみていたのだろう。
たしかに、今のシマの判断は軍人らしくない判断かもしれない…。だが…。

「マキビ少尉。君が言おうとしていることはわかる。自分達の技術などがもれだす…軍
人としては抑えるべきことを平然と認めることに理解できんのだろう。」

「…そうです。失礼承知で言わせてもらえば…。」
「軍人らしくない、といいたいのだろう。」

その言葉にハーリーは黙って頷く。

「確かに、この判断は軍人らしからぬ判断かもしれん。規則から反したものかもしれん。
だが、時としてはあえてその規則に反する行動をとることになる事もある。」

「…規則に反する行動…それって時には反逆を起こせと…?」
「そうは言っとらん。だが、そこに書いてある規則だけが全てではない。状況に応じて
臨機応変に対応しなければならん。」

そこまで言うと視線をその場にいる全員に向ける。

「今回の行動はいわばこの2戦艦を護るための措置だ。このYAMATOと我々
YAMATOクルーが『時の旅人』である以上、突然別の宇宙に飛ばされるということも
ありうる。YAMATO のサポートが周らないこともあるかもしれない。そのために単艦『ナデ
シコ』
でも、十二分に黒色艦隊に対抗できるよう強化する必要がある。」
「そのために規則をも…わかりません…僕には全然…。」

迷いをその顔にめいいっぱいうかばせる。そんなハーリーに、シマは優しく語り掛ける。

「今はな…だが、いずれ君にもわかる時がくる、いずれな…。さあ、早速始めるとしよ
う!」

その声が合い図かのようにミーティングが開始される。
ハーリーはナブたちのグループの方に連れて行かれた。気を取り直し、笑顔を浮かべ
てテーブルにつく。しかしあいかわらずさっきの迷いを抱えているかのような、かすか
な表情をシマは見過ごさなかった。
士官である前に、11歳の少年である彼にはいまだ理解できないのだろう。
だがこれから経験をつめばいずれそのことがわかるはずだ。そう、今回の事を乗り切
れば…。
 
 
 
 
今回は最初のすり合わせと言うことで3つのグループ…戦術、航行システム運用、通
信、船体及び機関関係に分かれ、双方の世界の共通点、相違点、について話し合わ
れる。
とにかく戦術や艦隊運用、そしてシステム構成に至るまで、あまりにも違いすぎるため
それらを互いに確認しておかなくては話が先に進まないのだ。
それらの確認が終わって初めて艦の改良へともっていけれるわけだ。
そちらのほうは最初のときと違い、あちこちで熱論が交わされる。特にシマとウリバタ
ケでは、激論がかわされる。もっとも…。

「たしかに設計事態はたいしたものだと思う。しかしだが、そのわりにはムダが多すぎ
る ぞ!なんだこのアームとドリルは?戦艦同士で格闘しろとでもいうのか?」

「わかんねえのか艦長!ドリルこそ男のロマンじゃねえか。なんでそんなことがわから
ねえ んだ!?」

「…話がズレてやがるぞ…。」 (フリック)

何時の間にか男同士のロマンの相違による言い争いに発展してたりするのだが…こ
れはまた、別の話…。
そんな中、別のテーブルでは、目の前のスクリーンに映されたプログラムに一人の少
年が目を輝かせていた。

「どうだ、シビれただろ?」
自慢げに言うナブにハーリーは賞賛の視線を返しながら答える。

「シビれるどころか、ぶっとびましたよ。すごいですね…こんな短期間でこんなプログラ
ムを組んでしまうなんて。」

「別にすごかねえさ。元々は地球型とセイレーン型システム間との互換プログラムに
手を加えただけだからよ。」

あくまでそう言うコンマンだがそれでも自分たちが製作したソフトを誉められ、ついつい
笑 みを浮かべてしまう。

「それでも、発想はすごいですよ。これなら一時的とはいえオモイカネの処理能力は大
幅に上がりますよ。」
「そこでさ、出来れば今日中にテストやっておきたいんだ。YAMATOのほうには既にイ
ンストール済みだから『ナデシコ』の方にインストールすれば今すぐにでもテストは始
められる。」

「わかりました…けどいいんですか?このまだ通信システムの増設が双方ともまだで
すし、 第一無断にYAMATOの…。」

「YAMATOのメインコンピューターを使っていいのかといいたいんだろ?心配いらねー
て。 既に艦長の許可はもらっているし、光速に近いスピードで飛び回りながらやるとい
うわけじゃないんだからな。動作確認だけなら通常通信だけで充分だろ?。」
「…なるほど、なにもかもお膳立てが整っているというわけですね。わかりました。早速
やってみましょう。」




一方、別の席ではマーシィやマキ・スーシャ・ミミ、それにサクラ准尉らナデシコオペレ
ーター達が通信などのハードおよびソフト上のギャップとその対応方法について話し
合われていた。

「どちらにせよシステムそのものをいじくるよりはそれぞれ専用の通信機器を増設した
ほうがはやいわね。それなら簡単な調整だけですむし・・・。」

手元にあるホロビューの表示を見ながらつぶやくマーシィにサクラとマキは同調する
かのごとく頷く。

「そうですね、時間的にもそれだけの時間はありませんしデーター量を幾分か抑えれ
ばオモイカネにも十分対応できます。・・・けど驚きましたね・・・。」
「なにが?」
「だって通信方式とデーター転送能力を除けば基本的にはナデシコと同じなんですも
の。別の世界の産物だということだからてっきり別物だと思って・・・いくつか互換用の
プログラム組んできちゃったんですけど・・・。」
「別世界といってもパラレルワールドだからね。共通していることもあってもおかしくな
いわ。それに通信システムの基本的なことなんて200年間変わっていない。変わらな
いもの もあるってことよね。」

少し残念そうな顔をしているサクラにマキが笑みを浮かべてそう答える。
「ねえ、そのプログラム見せてくれない?」
「え?」

マーシィの突然の提案に驚くサクラ。

「もしかすると何かにつかえるかもしれない・・・いいでしょ?」
「は、ハイ!」

笑顔で頷くと、彼女は自作したソフトを披露し始めた。




「・・・エンジンは幾分かパワーアップができたとしても・・・問題は船体だが・・・。」
ドリル論争がようやく収まったこの席でも、本格的にYAMATOと『ナデシコ』の改良の
話に移っていた。
『ナデシコB』の船体断面図とにらめっこしながらそうつぶやくシマに、ウリバタケが口
を開く。

「確かに今のまんまじゃ船体が耐え切れねえからなあ。かといって本格的な改造をや
ってる時間もねえし・・・。」

そもそもことの始まりはフリック達YAMATO機関要員が出した『ナデシコB』のエンジ
ン改良案がことの発端だった。
その案によると相転移エンジンの動力伝達系の換装、補機の核パルスエンジンを23
世紀の戦艦で使われていた通常エンジンを参考に改良を施すことで最大光速の20
パーセントまで速力を上げることが可能だという。

だがそこで大きな壁にぶつかった。

船体の強度の問題である。

YAMATOなどの恒星間航行用の艦船はパワフルなエンジンに合わせ、船体もこの世
界の戦艦と比べれば相当な強度を誇っている。それ以前におおよそ300年にわたる
宇宙艦艇造船 技術の進歩も入るのだが。

しかし『ナデシコB』は惑星間航行用として設計がなされており、恒星間航行など考慮
外・・・、 ましてや光速の99パーセントで航行することなど元から考えられてもないし、
それだけの出力を出せる推進装置など、この世界には存在しない。

あえて比較するとなると、『ナデシコ』クラスは地球から火星まで通常航行で一ヶ月か
かるのに対し、YAMATOは巡航速度で1日もかからない。

ぶっちゃけた話、ジェット機とレシプロ機ほどの差があるのだ。

つまり、現状での『ナデシコB』のエンジン改良は太平洋戦争時の零戦に現代のジェッ
ト機 のエンジンを積むのと同じくらい無茶なことになる。

確認のためにシュミレーションもやっては見たが・・・光速10パーセントにたどり着かな
い うちに船体亀裂を起こしているありさまだった。

「やっぱりだめか・・・。」

この結果にフリックは落胆するが・・・。

「なあに、そうでもねえさ。時間をかけるわけにもいかないなら別の方法で船体の強度
を上げる方法を見つけるまでさ、な、ジイさん。」

「ジイさんはよけいだ。とにかくエンジン改良の案はこれでいいとして・・・船体の強度を
上げることを優先すべきだな・・・。」

次第に優先順位が決められていき、次々と意見が出されていく。
とりあえずソフト的な面は今日明日中にやることが決まり、2戦艦のハード的な面は月
ドッ クに入居してからと簡単が改良を行うということで今日の初会合はお開きとなった。




「あ、ハーリー君、それにナブさん。」
「よッ!ルリルリ。」

ちょうどナデシコ食堂の前にいるナブとハーリーに声をかけるルリ。すぐさま元気な返
事が 返ってきた。

「何だよルリルリ、おまえも今夕飯くいにきたのかよ。」
「ハイ。」
「ついでだ。夕飯おごってやるよ。この坊主を借りた例にな。」
「ボ、坊主て・・・あんまりですよナブさん!」

ムキになって言い返すハーリーに対し、ナブは笑いながらポンと彼の肩を叩く。

「ハハハ、わりい。な、いいだろルリルリ。」
「別にかまいませんけど・・・けどいいんですかお金のほうは?」

既にナブたちYAMATOクルーたちは表向きには軍属として額としては少なめだが給
料が 支給され、それと同時にIDカードも渡されている。給料のほうはプロスがわざわ
ざ気を利 かせてあらかじめ手を回していたらしい。

「かまわねえよ。いくら金をもらってもこの宇宙じゃ『ナデシコ』内でしか通用しないし、
ましてやほとんど使うこともねえからな。」
「・・・それもそうですね・・・。」

あっけらかんと答えるナブにルリはついつい笑みを浮かべる。それを見てハーリーは
少し不 満げな表情を浮かべる。
それをしってか知らずか、ナブは二人と共に食堂の中へと入っていく。
既に食堂はナデシコクルーのみならず、YAMATOに行っていたナデシコクルーを送り
返す ため、プローブに同情していたYAMATOクルーでごった返していた。
幸いカウンター側の席が空いていたので3人ともそちらのほうに向かう。

「おや、いらっしゃい。あら、あんたはこの前の・・・。」

カウンターの中からホウメイが顔を出す。

「へへ、噂は広まるのが早いってね、ついついきちまったぜ。」
「そうかい、で、3人とも何にする?」
「それでは私はラーメンを。」
「僕は火星丼で。」

二人は席につきながら答える。

「よーし、俺はラーメンとチャーハンをするか。」

そう言ってナブは職券売り場へと走っていく。




「・・・よく食べますね、ナブさん。それでチャーハン2杯目・・・しかも大盛りですよ。」
ガっついてるナブをみてあきれ返りながら呟くハーリー。
「しゃーねえだろ。こんなにうまいメシにありつけたのは初めてなんだからさ。ついつい
おかわりしたくもなる。」

2杯目のチャーハンをたい上げると、皿をカウンターに返した。

「考えてみりゃ、リンボスをでて以来だよな。メシがこんなにうまいて思ったのも。」
「…リンボスて、たしかナブさんたちが住んでいた惑星のことですよね。」

ルリはこの前初めて双方のクルーが顔を合わせた時のことを思い出しながら尋ねてく
る。
すでに太陽系内の惑星への移住が進んでいるとはいえ、移住がすでに銀河系外まで
及んでい ることには衝撃を受けた。
ボソンジャンプ技術で太陽系外にターミナルコロニーを建設し、外宇宙へ移住する計
画はルリ達の世界にもある。しかしそのベースプロジェクトであったヒサゴプランはさ
きの火星の 後継者の乱以降、事実上ストップしており、仮に順調に進んだとしても外
宇宙の進出は早く て1世紀以降になると言われている。
しかしナブ達の世界は1世紀もたたないうちに外宇宙に進出どころか銀河系内の惑
星への 移住が行われているのだ。外的な要因があったとはいえ、このスピードは脅
威そのものであ る。

そしてその移住した惑星出身者が、彼女達の目の前にいる。

「リンボスで生産された食い物がまずいというわけじゃねえけど…死んだ親父やジジィ
… じゃねえ、艦長の言葉を借りれば…『どんなに真似させようと、それの故郷たる地
球の産物 にはまだまだ程遠い。』てね。最初は何の意味だかわからなかったが…今
になってわかった ような気がするぜ。」

感慨深そうな表情で答えるナブに、ハーリーが尋ねてきた。

「ナブさん達の故郷か…もしも行けれるなら行って見たいですね…もしもそう言うことに
なったら…そのときはいいでしょ、ナブさん。」
「え、それは…。」

一瞬と惑うナブ、先ほどまで明るかった表情までもが一気に暗くなる。
その様子に尋ねてきたハーリーも戸惑う。
なにか、聞いてはいけないことをきいてしまったのでは…。
そう思った矢先、いきなり艦内で警報が鳴り始めた。
 
 
 
 
 
「どうした!」
「月軌道上に敵艦隊出現、まっすぐこちらに向かってきます!」

必死の形相でメガネが報告してくる。表示をみると、既に彼我の距離は3000を切っ
ていた。

「こんなに接近させやがって!メガネ!いままで何処見てたんだよ!」「そんなことい
ったって!この艦隊、いきなり衛星の傍から出現したんだ。」

アガとメガネがそう言い合ってる間にレオンは冷静にコンソールを操作する、そこから
の表示を見て、何らかの結論に達したのか、後ろの艦長席に座るシマの方に振り向
いた。

「艦長、どうやら敵艦隊は我々の位置からちょうど裏側の地点から、衛生地表面スレ
スレの高度のまま接近して来た模様です。しかもこの艦隊からは低レベルの妨害バ
リアが展開され ています。これではセンサーの探査レンジを中距離以下に設定しない
限り、探知することは 不可能です。」

確かに今メガネはセンサーの探査範囲を遠距離モードで探査を行っていた。しかしこ
れだと ステルス性のある物体などは近距離にならない限り探知できない。

「直ちにナデシコにいるクルー達を呼び戻せ!全艦戦闘配置、戦闘機隊発進準備、
砲雷撃戦 用意!」
 
 
 
 
 
YAMATOと『ナデシコB』の2隻が突如と現れた艦隊の迎撃準備に追われてる頃、
ひっそりと、その様子を静観する目があった。

「しかし本当にこれだけの戦力でよいのか、戦力的に若干少ないと思うが…。」

『ガリアデス』艦橋でそう洩らす南雲。
それを聞いたカザンはふっと笑みを浮かべながらその疑問に答える。

「いや、これでよいのだ。逆に艦を増やしたところで、作戦の障害にしかならん。もっと
も・ …。」

そこまで言うと正面スクリーンの脇に小さく映し出されている映像に目を向ける。そこ
にはスキンヘッドにヘッドセットを取り付けた火星の後継者の制服を着た士官が、イス
に座り、目を閉じている。

「君達の持つ、あのシステムがうまく働いてくれねばの話だがな。この前の戦闘のよう
な結果は出したくないのでね。」

「その件についてはすまないと思っている。…正直な所、宇宙軍があのような超近代
兵器を開発していたとは…予想もしなかった。」

といって頭を下げる南雲。それに対し、カザンはうっすらとした笑みを絶やさぬまま話
し始 める。

「ほう、君はあの艦がこの世界の産物とでも言いたいのかね。」
「…なにが言いたいのだ。長官。」

そのまま二人の間に沈黙がつづく。周辺にいる者たちもその気配に察したのた、誰一

人としてしゃべろうとしない。 その状態がしばらく続いた後、ふとカザンが口を開いた。

「実を言うと、今回の次元移動の原因は、ある異次元空間を通じて、我々のビームの
波長と 別次元から来たと思われるなんらかのエネルギーの波長とが共鳴したのが原
因にあると、 我々の科学班が結論を出したのだ。しかもそのエネルギーが波動エネ
ルギーによるものだという。だとしたら、我々のほかにも『次元の旅人』が来てもおか
しくなかろう。」

「あの艦がそうだというのか。」

「そう考えるのが妥当だろう。同調したエネルギーは波動エネルギーによるものなのだ
そう だが、あの艦のエンジンも波動エンジンに近い形式の物を搭載されているらしい。
当然波動 エンジンは無論のこと、タキオン粒子すらこの世界では精製出来ないし、そ
の技術すらない。 どうやら貴官は、目的達成を急ぐあまり、盲目になる傾向にあるよ
うだが…それは時に命取りになるぞ。」

そう言うと再びスクリーンに目をやるカザン。
スクリーンの中で、『ナデシコB』の左舷側を航行する大型戦艦の砲塔が、敵艦隊の
方向に向け始める。 それと同時に、2艦から艦載機が次々と飛び出していった。
 
 


「艦長、艦載機、全機発進完了!」
「…ウム。」

レオンの報告にシマは軽く頷き返す。
すでに2艦から艦載機が発艦し終え、うちエステバリス隊全機とYAMATOより発艦し
た SR-1戦闘機20機中10機は敵艦隊より発進したバッタに向けて、残りの10機は
敵艦隊に 向けて突撃する。

陣容としてはエステバリス隊はバッタの迎撃、SR-1はその支援といった所だ。

現在の敵艦隊の勢力は木蓮型駆逐艦1、カトンボクラスの無人戦艦5、ヤンマクラス2。

さ らにその周囲をバッタ80機ほどが艦隊防空の任についている。

「全主砲、前方敵艦隊にロックせよ。ホシノ艦長、そちらのグラビティブラストの充填が
終 わり次第、一斉射撃、敵の中央を突破しよう。」

『それが一番妥当ですね、規模としてはそれほどではないとはいえ、今の私達にそれ
に構う ほどの余裕はありませんから。』

艦長席のコンソールの脇に映し出されているホロビューの中でルリがそう答える。

「艦長、ホシノ少佐。」

その時、レオンがシマの方に振り向いてきた。

「このさい、本艦を前方に進出させ、敵の攻撃を吸収させつつ、敵艦隊に主砲による
一斉射 撃を行っては如何でしょうか?」
『大丈夫なのですか、幾らYAMATOの装甲が頑丈とはいえ、グラビティブラストを受け
て はひとたまりもありませんよ。』

ルリの疑問に対し、レオンは若干笑みを浮かべながら答える。

「心配には及びません、少佐。本艦のバリアーに相当する空間磁力フィールドでなら、
無人戦艦クラスのグラビティブラストに充分対応できます。エステバリス隊を覗けばグ
ラビティ ブラスト1門のみというナデシコの状況を考慮に入れるとすると、このさい一
気に決着をつけるべきではないでしょうか?」

ちなみに空間磁力フィールドは、かつての初代ヤマト技師長であった真田四郎がガミラ
スの反射衛星砲をヒントに開発した、空間磁力メッキの発展版というべきものである。
初の実戦でデスラー艦のデスラー砲を弾き飛ばすほどの性能を発揮した空間磁力メッキは
その後の改良により性能は格段と向上し、2220年度の地球連邦の主要艦船に装備され

ようになっていた。
現在YAMATOに搭載されている空間磁力フィールドは光学系に加え、若干磁性を持った攻撃
兵器も弾き飛ばせることができる。だが、効果があるのは光学系、及び重力系の兵器に限
定さ
れ、質量弾を防御できるようにはなっていない。その点の防御は昔同様、艦の装甲に依存
する。

『ちょっとまってください。』

そこへハーリーがわりこんできた。

『もしそれを実行するとなると、ナデシコBの防御は一時的に手薄になってしまいます。
そんな所へまた黒色艦隊がジャンプアウトしたら…。』

「それはまずありえないでしょう、少尉」

それに対し、レオンは表情を変えることなくさらりと言い返す。

「火星の後継者に戦力についての宇宙軍のファイルも考慮に入れて検討しましたが…
度が 過ぎているとはいえ、戦力的には極小規模なものに過ぎません。仮に黒色艦隊
が動いたとしても高い精度で近距離にワープアウトする技術は彼らにはありませんし、
やろうともしないでしょう。それで失敗したら4次元と5次元の間に艦がはさまれ、宇
宙そのものが消滅してしまうからです。なら中距離でワープアウトするしかないのです
がそれなら距離的には離れているとはいえ十二分に対処できるでしょう。」

確かに相手艦から近距離でワープアウトする技術はさしもの黒色艦隊にはなかった。
仮に無謀にもやろうとすれば相手艦とも次元にはさまれてしまいかねない。

唯一、ボソンジャンプで相手艦の近距離にジャンプアウトするという手はあるのだが、
それ だとディストーションフィールドジェネレーターを装備する必要が生じ、それだけの
時間的 余裕はないと、レオンはみていた。

『しかし…!』
「私の計算が正しければ、問題ありませんね…少尉」

なお言おうとするハーリーにレオンは殆ど表情を変えることなく言い返す。

『どうします、シマ艦長。』
「…とりあえず本艦を前衛にだす。敵の攻撃はこちらで引き
寄せる間にグラビティブラスト の充填を済ましてくれ。それが済み次第同時攻撃を仕
掛ける!」
『わかりました。』

それと同時に通信が途切れる。ハーリーも未だに納得がいかないものをしぶしぶ通信
を切った。

(きょうのレオンの奴、いつもとなんか違うよな…。)

先ほどのやり取りをみてナブはそう思う。
そう、彼の目にはなんとなくレオンの行動が何時もと違うことに薄々感づいていた。な
にげ なく感情的なのだ。

「主砲はどうした!」
「お、おう!」

だがその考えもシマの怒声で中断させられる。即さまコンソールを操作し、主砲攻撃
を開始した。
 
 
 
 
「やはりあの艦を前面に出してきたか…予想通りだな…。」

予想していたかのような展開にカザンはほくそえむ。その様子に南雲が話し掛けてき
た。

「予想通りだと?最悪の状況ともいえるが。わが艦隊にあの艦に対抗できる力は無い。
この ままでは…。」

「心配無用、私はこの状況を待っていたのだ。確かに普通この状況なら戦力的にたか
いあの艦の火力を盾にすれば強行突破できると考える…。しかし、そこには自らを破
滅に追い込む状況を生み出す、奢りが生まれる…。」

手を組みながらそう答えるカザンに南雲は怪訝そうな表情を向ける。

「奢り、だと?」

「そうだ…まあゆっくり見ているがいい…。そして証明して見せよう…。どんなに強力な
艦 でもこの状況では所詮役立たずの木偶に過ぎんことをな…。」

左舷側で停止している、かなり酷使したと思われる老朽艦をみながら、カザンは笑み
を浮かべながら呟いた。
 
 
 
 
戦況はYAMATOと『ナデシコ』側の有利な状況で進められていた。

バッタはYAMATO戦闘機隊の援護もあり、すでに3分の2がナデシコエステバリス
隊によって撃破され、その先の本体にも被害が出始めていた。
ディストーションフィールドを展開していたこともあり、艦載のレーザーではフィール
ドを弱める程度でしかないものを対艦ミサイルでは何とか貫通し、それによりカトンボ
クラス3隻が撃破され、更にYAMATOの支援砲撃によりヤンマクラス2隻、カトンボクラ
スが1隻撃破されている。 普通なら有利としかいえない状況なのだが、当のシマは
なぜか釈然としなかった。

(…おかしい。)

何らかの新たな攻勢があるのではないのか?長年の艦長として、宇宙戦士としての
勘が本能的にそう悟っていた。

敵は攻め込んでくるどころか、防衛一辺倒なのだ。散発的な攻撃を仕掛けるだけで、
後は殆どフィールド維持にまわっているかのように見える。
戦果も思うようにあがらないところからしても、一部を残し殆どのエネルギーをフィール
ド に回してるのではないか、そう思えるほどだ。

別方向から攻撃を仕掛けられる…シマはそれに警戒するよう指示を出そうとしたとき、
…予想は的中した、最悪の形で。

「!…艦上空2宇宙キロにボソン粒子反応…!顕在化まであと5秒!」 「なんだと!」

メガネの報告にシマは表情をゆがませる。
メインスクリーンにはYAMATO上空での映像が映し出される。タキオンの黄色い光と
も違 う、白い光の粒子が渦巻いたかと思いきや、一隻の古びたリアトリスクラスの戦
艦が出現し た。
しかもそのままYAMATOに突っ込んでくる。

「いかん!全速回避。」
「了解!クソッ、間に合え!」

右舷側のスラスターをフルに噴射し、回避行動をとるYAMATO。しかし敵艦が至近距
離に 出現したこともあり、回避しきれるかどうかもわからない。
必死の形相でコンソールを操作するアガ、しかし敵艦は間近にせまり、もう間に合い
そうにも無い。

「回避不能!向こうのほうが早い!」
「総員、対ショック防御!」

ブリッジにいる全員が身構える。同じような光景がここ以外の部署にも繰り広げられて
いるはずだ。
敵艦は、艦橋スレスレを通過し、そして、右舷側の2番副砲に接触した。




「YAMATO、敵艦と接触、負傷者が出ているようです!」

その様子はスクリーンで見なくても『ナデシコ』のほうからもよく見えた。
その艦はYAMATOの2番副砲付近に接触、2番副砲を抉り取った後、そのまま月の
引力に ひかれ、墜落していった。 それと同時にYAMATOからの攻撃が止む。

「本艦の周囲にボソン反応確認!」
「艦種の確認を、ハーリー君!」
「ハイ…こ、これは黒色艦隊です!小型戦闘艦4隻がジャンプアウトしてきます!」
「なんですって…!」

驚愕の表情を浮かべるルリ。そうこうしているうちに『ナデシコ』周囲に顕在化した100
メートルクラスの護衛艦は、『ナデシコ』への攻撃を開始した。




『リョウコさん、早く戻ってきてください!『ナデシコ』は突如出現した敵戦艦の攻撃
を受けているんです。早く!』

(俺達やYAMATOをひきよせて、その隙に『ナデシコ』を攻撃する。…まんまと載せら
れ たというのか、俺達は!)

「了解!聞いてのとおりだ、ナデシコに戻るぞ!な…!」

エステバリス隊やYAMATO戦闘機隊にそう伝え、『ナデシコ』に戻ろうとしたその時、
突 如としてジャンプアウトしてきたダイマジンに行く手を阻まれる。そのまま、ダイ
マジンの腕に掴ってしまった。

「しまった!」
『リョウコ!』
『リョウコちゃん!』

イズミとサブロウタが助けにいこうとするが、バッタに阻まれる。他の機体はYAMATO
や 『ナデシコ』のほうに戻ろうとするが、バッタや黒色艦隊の戦艦から飛び出した戦闘
機隊の 妨害にあい、一機たりとも脱出できずにいた。

ハイスピード、高機動が売りの戦闘機も、バッタの大群に包囲されては機動性も発揮
できず、 攻撃をよけるのに精一杯という泥沼にはまっていく。

この状況に、愛機と共に戦場に飛び出していたスピードも歯軋りするしかなかった。

「ダメだ…戻れねぇ!!」
 
 
 
 
「これほどうまくいくとは…。」

カザンの手並みに、南雲は舌を巻くしかなかった。 それに対し、カザンはあいかわら
ず余裕をもって答える。

「こうなって当然なのだ。そもそも光速近くのスピードを出す艦にとって、カメのように
低速で動き回るということは艦の戦闘能力を半減させることに等しい。しかし連中はその
絶大 なる火力に、そのことを見落としていた。その時点で、あの艦の敗北はきまった
も同然なのだよ。」

そのような会話が続けられている一方で、『ナデシコ』の前方を行く、大型戦艦に向けての
第二次攻撃隊の転送準備が行われていた。

『5番艦、7番艦、転送位置につきました!』
『イメージ!目標、敵一番艦右舷、ポイント、4−0−1!』

スクリーン上に移る2隻の護衛戦闘艦は前方にある…一見すると巨大なチューリップのよ
うな
ジャンプゲートらしきものに進んでゆく。そして、その2隻は奥に行きつかないうちに、
光に
つつまれ…消えてゆく…。

『転送完了、続いて6番、8番艦、転送位置に移動します!』

動きに殆ど無駄が無い。即、後方に控えていた2隻が転送位置に移動してきた。

その様子を眺めていた南雲が、ふと思い出したかのように話し掛けてきた。

「しかし、あの艦とて衝撃から立ち直れば…」

「それとて数秒かかる。その数秒で充分なのだ。連中が立ち直った時には、もう『ナデ
シコ』 は宇宙の藻屑とかしてるだろう。さすれば、地球連合の信頼もがた落ちになる。
もっとも…そうなる前に我々の全戦力であの艦を撃破するがな…。」

もはや勝利は確信したかのような表情でスクリーンと向き合うカザン。それでもカザン
は口調とは裏腹に、殆ど表情を変えることは無かった
 
 
 
 
一方YAMATOバトルブリッジでも問題が起こっていた。

「手のやけどが酷いわ…すぐに医務室に運ばないと…」
「自分は、大丈夫だ…任務に…」
「けが人は寝てろ!」

なお任務につこうとするレオンにナブの制止が入り、ローズに抱えられてブリッジより
退出する。
先ほどの敵艦の衝突のよるYAMATOの被害は2番副砲の脱落のみ。しかしそのと
きのフィ ードバックでレオンのメインオペレーターシートが爆発をおこしたのだ。

それにより一時的にYAMATOの戦闘行動が一時的にだが止まった。その隙を突い
て護衛戦闘艦を主力とした黒色艦 隊がジャンプアウトしてきたのだ。

護衛艦といっても、プレアデス級などの大型戦艦を除けば艦隊内では最有力艦であり、
武装も3連装砲塔1基に対空レーザー複数、全長が100メートルと小型だが、両舷
に固定型のビーム砲が設置されており、しかも持ち前の高機動性能を生かし、すばやく
動きながら攻撃を仕掛けてきたため以前のように砲塔一基だけでの撃破は難しくなってい
た。

エステバリス隊とYAMATOの艦載機は完全にバッタたちの足止めをくらい、さらに
YAMATOも先ほどの衝撃で姿勢制御系に支障をきたしたことで艦のバランスを崩し、
未だに立ち直れないでいる。

艦のバランスが安定しなければ、当然標準が甘くなる。さらにYAMATOの周囲にも1
00メートルクラスの護衛戦闘艦2隻がジャンプアウトし、攻撃を仕掛けてくる。

何とか応戦しようとするが、艦が安定しない今のYAMATOには殆ど命中しなかった。
逆に 敵護衛艦の両舷に設置されている固定砲塔から発射されるビームがYAMATO
の艦体に命中し、あちこちで爆発をおこす。

「だめだ、艦が安定しない!」 「くそう!これじゃなぶり殺しだ!」

なにも出来ないことに歯軋りするしかなかった。光学兵器に有効な亜空間磁力カバー
も立て 続けに受ける攻撃によりそろそろ限界に近い。このままでは『ナデシコ』ともど
も沈んでしまう。

「左舷D-2、7区画、外板破られました!」
『右舷波動エンジン、出力85パーセント低下!』

連続して喰らい続ける敵の攻撃に、とうとう被害が出始める。『ナデシコ』のほうもディ
ス トーションフィールドがあるため、当初は艦本体に被害は出ていないものを、その
後ミサイ ルなどの質量弾攻撃に切り替えたため、ぼちぼち被害が出始めている。

「こんなときに限って…!」

操舵席で何とか艦を安定させようと、アガはひっきりなしにコンソールを操作するが、
完全 に安定させることができないでいた。 なおかつ、メインオペレーターの不在によ
る艦の統一オペレーションができないこともその 混乱に輪をかける。

「いそげ!フィールドもこれ以上は持たない!」
「『ナデシコ』フィールド出力20パーセント低下、まもなくフィールドが崩壊します!」

(いかん・・・このままでは・・・!)

全員が浮き足立っている。シマもこの状況に危機感を感じながらも冷静に打開策を見
出そうとする。そのとき、ナブがマーシィのほうに振り向いた。

「マーシィ!『ナデシコ』に通信をつないでくれ。」

そのことにマーシィとシマは驚きの声をあげる。

「え!?」
「どうするつもりだ、ナブ!」

「・・・対さっきまで俺たちがテストしていた、例のシステムを使う。」

シマの問いに、ナブは真剣なまなざしで答えた。
 
 

 
「YAMATOから?ハーリー君当てに?」

この戦況でのYAMATOからの、それも個人当てのコ−ルに一瞬だが呆然となるルリ。
ハーリーもわけがわからないという表情を浮かべ、困惑しているようだ。

「わかりました、つないでください。」

すぐさま正面にホロビューが立ち上がる。

『いきなしすまねえ、ルリルリ。ハーリー、急でわりいが例のシステム、作動させる
ぞ!』

そのナブの言葉に、当のハーリーは困惑した表情をうかべ、反論してきた。

「!・・・本気ですかナブさん。いまそのシステムを作動させたとしても何が起こるかわ
かりませんよ、危険です!」

ハーリーがひっきりなしに反対するのも無理もない、なにせそのシステムはつい先ほ
ど行った基本動作テスト以外、何のテストも行ってない試作品というべき代物なのだ。

『今はそんなことをいってる場合じゃねえぜ、こっちはさっきの衝突のショックでレオン
が やられ、統一オペレーションができない、そっちは黒色艦隊の連続砲撃でフィール
ドは崩壊寸前、座してやられるくらいならわずかな可能性にかけるしかねえんじゃね
えか。』

「しかし・・・!」

なお食い下がるハーリーに突然ルリの方から声がかかってきた。

「大丈夫ですよ、ハーリー君。」
「艦長・・・。」

「ソフトの方は見させてもらいましたが・・・大丈夫ですよ、ハーリー君。自信を持ってく
だ さい。」
『そうだぜ、もっと自分に自信持てよ、ハーリー。』

ルリにつづき、コンマンもハーリーにそう語り返る。
一同を見渡し、大きく息を吐くと、しっかりとうなずく。

「わかりました!」
 
 
 
 
「艦長!」

了解を求めるためシマのほうに振り向く。シマはしっかりとうなづきながら答えた。

「よかろう!あわてず、あせらず、正確にな!」
 
 
 
 
『敵戦艦、安定しはじめました!』

先ほどまでバランスを崩し、半ば漂流していたYAMATOの挙動が安定し始めたこと
に、南 雲が怪訝そうな表情を浮かべカザンに振り返る。

「長官!」
「あわてるな、いまさら艦を安定させたところでもう手遅れだ。」

そうすでに作戦は峠を過ぎたといってもいい。2戦艦の機動兵器は完全に足止めして
ある上 に、『ナデシコ』のフィールドもまもなく崩壊する。『ナデシコ』を始末したら全力
であの戦 艦を始末すればいい。 どれだけ強力な艦でも、所詮1艦だけでは限度があ
る。総合火力的に上である以上気にする こともない・・・。

そう思った矢先、YAMATOの方から『ナデシコ』を包囲する戦艦に対し、主砲が発射さ
れ る。だが、至近距離にまで迫っている敵艦に対し、味方艦を巻き込まないで射撃を
おこない、 なおかつ命中させるのは至難技・・・最後の悪あがきにすぎない・・・。

だれもがそう思った・・・。

ところが、その主砲ビームはものみごとに『ナデシコ』を包囲する4隻の護衛艦に命中
したのだ。

「なんだと!」

その光景に誰もが呆然となった。カザンでさえ驚愕の表情を浮かべたまま固まってい
る。

敵艦1隻につきYAMATO主砲2基分のビームを受け、『ナデシコ』周囲を包囲してい
た4 艦は自分たちに何が起こったのかもわからぬままこの世から消滅した。

4艦をこの世から葬りさると、艦首上甲板の2基の主砲塔はYAMATOを包囲する2
艦にそ の砲口むける。

自艦がYAMATO主砲ビームの軸線上につかまったことに気づいたその2艦は反転、
離脱し ようとするがときすでに遅し。

反転直後にYAMATOからのプラズマビームを喰らい、真っ二つに折れ爆沈した。
その異常ともいえる状況に、カザンも混乱せざる得ない。
なにが起こった・・・!)




「やった・・・。」

自分でも信じられないという表情のまま呆然とするハーリー。

『なにボケっとしてるんだ、とっとと中尉を助けるぞ!』
「ハ、ハイ!」

ナブに叱咤され、われを取り戻すハーリー。双方の艦でそれぞれの艦長がテキパキと
指示を 出していく。

「エステバリス隊全機は敵機動兵器の動きを可能な限り抑えてください、リョウコさんを
救 出後、戦闘宙域を離脱、その後にグラビティブラストを発射します!」
 
 
 
 
「全戦闘機はエステバリス隊の援護の回れ!ナブ、目標との弾道計算をいそげ、状況
はまってくれん!」
「あせるな!いまやってるところだ!」

口ではそう言ってるものを傍目から見ればどう見てもナブの方があせっている。むしろ
この 艦内の中で艦長のシマのほうが一番落ち着いている。

(どうあがいても通常通信じゃデーター転送処理能力は推測データーの30パーセン
ト・・・ 2艦とも通信システムの調整が完璧ならもうすでに終わってるんだけどな・・・。)

『終わりましたナブさん!いまデーターを転送します!』

ハーリーの声にナブの思考が中断される。

「おう、サンキュー相棒!アガ、操舵をこっちにまわしてくれ!」
「おう、頼むぜ、ナブ!」

操舵システムがナブの席に転送されたことを確認すると、即トリガーを起動させる。
本来このトリガーは波動砲発射用のものなのだが、主砲の一斉発射など、全主砲を
用いた、 もしくは手動での射撃管制に用いられることが多い。

トリガーが起動されるのと同時にYAMATOの1番から4番、艦底部の7番から10番
砲塔 が指定された目標に向けて標準をロックする。

その先にあるのはリョウコの機体を掴んでいるダイマジン、その周囲にでリョウコ機を
救出 しようとしているエステバリス隊とそれを執拗に妨害する機動兵器・・・そう、彼ら
は YAMATOの主砲を用いてそれらの機動兵器郡を撃破しようとしているのだ。

『オモイカネ』とYAMATOメインコンピューターの有機的なリンクによる演算処理により、
2戦艦の演算スピードは飛躍的に向上している。全てはつい先ほどまでナブ達が実験
を行っていたデュアル・リンクシステムが起因していた。

これは以後2艦と共同行動をとるにあたり、双方のシステムの向上を目的に開発した
システムである。むしろ『オモイカネ』の処理能力向上を狙った意味合いが強い。

『オモイカネ』の一番の特徴は他のシステムと違い、自我と似たようなものを持ってい
ることにある。これにより、他の無機質的な判断しかできないシステムと比べ、臨機
応変な対応 がとれるのが一番の強みでもあった。
このソフト的な面ではむしろ地球連合(ネルガル)側が優れていると言ってもいいだろ
う。 もちろんナブたちの世界でもコンピューターに自我らしきものを形成させる技術は
一様あるのだが、ここまでのものはいまだに作れないでいたのだ。
だが、ソフト面で上を行く『オモイカネ』もハード面の処理スピードの点でいえば、超光
速演算が可能な、量子コンピューターを搭載するYAMATOのものと比較にもならない。その
ため何とか量子コンピューターと比べハード面での処理スピードは劣る珪素コンピュータ

形式の『オモイカネ』の処理スピードを上げる方法がないか、『オモイカネ』の性能を知っ
たナブとコンマンはひっきりなしに考えていたのだ。

とはいえ、ハードそのものをいじるにはあまりにも時間がないし、自我が徐々に形成し、
より複雑になった『オモイカネ』をハードからYAMATOのメインコンピューターに一時的に
転送することも考えられたが、平時なら兎も角戦闘中にそれをやったら、プログラムその

を損傷する可能性が考えられ、ましてやYAMATOの場合メインコアはまだしも、ハード本隊
はセイレーンの規格であるメインコンピューターであるため、それにあわせた調整を行お

にも時間はなさすぎた。

そこで考えついたのが、無機的な計算は全てYAMATO側のメインコンピューターで処
理させ、『オモイカネ』本体には有機的な判断だけを専念させるという方法だ。
これなら『オモイカネ』のプログラム自体をいじくる必要はないし、通信系の改良だけで
済む。

同時に2艦のシステム管制も行えることから副次的な効果としてセンサー系のスキャ
ニングが高効率化することができた。このためYAMATO艦載の時空間センサーを用い
た行動予測などが効率化し、そのために先ほどのような芸当ができたわけだ。
そして今再び、その性能の一端が再び現れようとしている。

「主砲発射!」

トリガーを引くのと同時に、艦首側の全砲塔からプラズマビームが迸る。ビームは敵
ダイマ ジンの周囲にいた敵機動兵器を一掃し、たまたまビームの軸線上にいたカトン
ボ級一隻が巻き添えを食らった。

同じころ、先ほど『ナデシコ』から射出されたフィールドランサーを手にしたサブロウタ
の スーパーエステバリスがダイマジンの右腕を切り落とした。

ダイマジンの束縛から開放され、崩れ落ちるように離れていくリョウコの機体をヒカル
とイズミの機体が支え、スピード達の援護のもと、サブロウタの機体とともに戦場を離
脱していく。





リョウコの救出が成功したころ、ナデシコのグラビティブラストの充填が完了していた。
「グラビティブラスト、充填完了!」
「軸線上の友軍クリア。」
「目標、敵残存艦隊!」

同時にYAMATOも『ナデシコ』直援のため左舷付近まで後退してくる。それを横目に
みながら、ルリは凛とした声で命じた。

「グラビティブラスト、発射。」

発射口から集束したソリトン重力子が一気に飛び出す。その重力波は追撃してきたバ
ッタを粉砕し、ダイマジンと後方の残存艦隊に襲い掛かった。 先ほどのYAMATO主
砲の影響を少なからず受けた所へ、グラビティブラストを喰らったのではひとたまりも
ない。たちまちフィールドが崩壊し、重力波に押しつぶされた。

唯一、ダイマジンはかろうじて原型をとどめているものを、見る間にパワーを失い、月
の引力にひかれ、墜落していった。
 
 
 
 
「なかなかやるじゃない、ねえ。」
「え?ええ…。」

医務室内のモニターに表示された戦況状況を見ながら、ローズの言葉に答えるレオン。
しかし、その後、痛いほど歯を食いしばっていたことに彼女は気づくことは無かった…。
 
 
 
 
「いったいこれは…。」

最後の最後でのどんでん返しに唖然とする南雲。勝利を目の前にして、逆転させられ
てしまっただけに、彼のショックは大きい。
唯一、カザンは黙ってスクリーンを注視するが、しばらくして口元が釣りあがる。

「…人格はどうあれ、腕は一流…まさかとは思ったが・…。」

そう言うとゆっくりと艦長席から立ち上がり、ブリッジクルーに指示をだす。

「全艦反転180度!当宙域より離脱する。…きたまえ、中佐。」

と言って南雲と共にブリッジから退出する。歩きながら、南雲が口を開く。

「…貴官には申し訳ないと思っている、我々の情報収集が不完全ゆえに…。」
「そのようなことを聞いてはいないが…。」
「しかし…!」

「…中佐、責任ならこの私にもある。どうやら私はあの艦を甘く見ていたらしい。それ
に今 は戦時だ。過去の失敗を悔やむのなら今のことを考えたまえ。」

その言葉にハッとなる南雲…。
歴戦の勇士と太陽系内だけの戦いしか知らぬ軍人との差…今の今まで生粋の軍人だと
思っていたのは世間知らずの学生がアルバイトで世間をしったかのように自慢するの
と同レベルだと言うことを悟ったのだ。
カザンの言葉をかみ締めながら、答える。

「…我々は…『ナデシコ』クルーの性質を考えるばかりに、あの艦のクルーの性質のこ
とを見落としていた…それが今回の敗因だろとおもうのだが…。」

「それは正しいだろうな…なら、今後の作戦もそのことを視野に入れた上で組み直す
必要がある。今夜はおちおち寝てもいられんな…。」
 
 
 
 
 
戦闘を潜り抜け、無事ネルガル月ドックにたどり着いたYAMATOと『ナデシコ』。
現在2艦は物資補給を受ける一方で、先の戦闘で傷ついた艦体の補修に当たってい
た。

損傷の度合いから言えば、2番副砲を失ったYAMATOの方が大きいのだが、修理に
当たっているドック要員が比較的損傷の軽い『ナデシコ』のほうが多いという、珍事態
が発生していた。

これと言うのも、ひとえに設計コンセプトの違いから来ていた。

そもそもYAMATOは何の支援のない外宇宙に出る以上、何もかも自前でやらなけれ
ばならない。そのための修理施設など、艦内に設けられているため、修理などは
YAMATOクルーが中心になって進められ、ドック作業員はその作業をサポートするだ
けだった。

損傷した外板や姿勢制御系の修理も8割がた終了し、それが終われば艦内工場施
設内で新たに製造された副砲塔をすえつければ修理は完了するため、手の余った
乗員は『ナデシコ』側のサポートに周っている。

なにせ比較的軽いと言っても、『ナデシコ』のこうむった被害も馬鹿にならないため、
YAMATOクルーを入れてまで総動員でやる必要があった。

そんな中、初日から波乱に満ちた一日が終わろうとしていた…。




「…結果的には皆さんに迷惑をかけてしまいました。申し訳なく思ってます。」

隣を歩くシマに対し、ルリは申し訳なさそうに言う。 それに対し、シマは首を振りながら
答えた。

「君に責任があるわけではない。…私自身、YAMATOの性能を過信しすぎていた。本
来なら、このような編成である以上、双方が連携した上で事に当たるべきだった…だ
が私はそのことをすっかり忘れていた。…誰かのせいというわけでもない…。」

少女の横顔を見ながらそう答えるシマ。

(…やはり少女だと言うことだろうな…。)

彼女は確かに優秀な軍人だ。それはれっきとした事実であり、現にシマもそのことを
認めている。だが…それ以前に彼女は17歳の極普通の少女だ…。
彼女の身の回りで起きている現実は、到底楽観し出来ない。しかしそれでもなお、力
強く前を向こうとしている。

何がそこまで彼女を強くするのだろう…、いったい彼女の過去に何が会ったのだろうか?

強さと脆さを併せ持つ彼女に、シマは気になって仕方が無かった。だからといって彼
女の過去を問いただすことも、詮索する気もなかった。

その時、先の戦闘で負傷したレオンが彼らの真横を一礼しながら通過していった。

「それでは私はこれで。」
「うん?ウム…お休み、少佐。」

通路の角で、ルリと別れ、シマもリフトのほうに向かおうとするが…ふと何を思ったの
か、 元来た通路を引き返し始めた。
 
 
 
 
「けどぶっつけ本番でいくことになるなんて、思いもし無かったよなあ。」

先の戦闘の経過映像をみながら感慨深そうに呟くコンマン。
ここ『ナデシコ』のメインブリッジではナブとコンマン、それにハーリーが今後のシステ
ム 改良について話し合うためここにあつまっていた…というよりはむしろ自分達が作っ

ソフト が無事動作したことによる、ささやかなお祝いの感があったのだが。

「それにしても…ナブさん、確証はあったのですか?」
「なにが?」
「無事プログラムが動くかどうかですよ。下手をすればプログラムどころかオモイカネ
自体 がフリーズしてしまう恐れもあったのですからね。どうなんです、そこらへんの所
は・…?」

その言葉に、ナブはすまなそうな顔をしながら答えた。

「…正直な所、無かったな。技術的なことではな。」

驚いたのはハーリーとオモイカネ本人である。彼らはナブがれっきとした確証があって
プログラムを走らせることをすすめたと思っていたからだ。

「なんですって!それじゃ何の考えもなく言い出したんですか!?」
『そんなあぶなっかしい代物を私が扱わせたんですか!?』

ハーリーとオモイカネが血相を変えていってくるのに対し、ナブは真正面から二人(?)
を見据えて答えた。

「技術的なこと以外なら…確証はあったぜ、お前ら二人なら必ずやれるってな。」
「これでも信じていたんだぜ、お前らのテクをよ。」

ナブとコンマンが二人してそう言うのに対し、ハーリーは何もいえなかった。

「ナブさん…コンマンさん…。」
「それよりもそろそろ返したほうがいいんじゃないか、そのコマンダー機能。」
「あ、そうですね。」

あの時にYAMATOから転送されたYAMATO側のオペレート・コマンダー機能をコン
マン に指摘され、ハーリーはYAMATOに転送しようした、その時。

「まちたまえ。」

その声に、ハーリーの手が止まる。声が聞こえてきた先を向くと、そこにポーカーフェ
イスのレオンが立っていた。

「レオン、もう怪我はいいのか?」
「すみません、レオンさん、今コマンド機能を転送しますので…。」
「そうではない。」

声をかけてきたナブとハーリーに対し、首をふるレオン。そしてその次に彼の口から出
てきた言葉は、彼らを少なからず驚かせた。

「…そのコマンド機能は、少尉、あなたが管理すべき物だ。」
「え?」

その発言に、ナブはレオンの方に詰め寄った。

「おい、なに言ってるんだよ。さっきの爆発で頭でも打ったのか?」
「別に…何ともない。」
「何ともなくもないぜ!…どうしちまったんだレオン、今日のお前、なんか変だぞ!?」

ナブの真剣な表情に一瞬躊躇するレオン。しかし、意を決すると艦長席の方に歩き出
しながらゆっくりと話し始めた。

「私の父は地球連邦宇宙軍第5艦隊司令長官、母は地球連邦大学の教授を務めて
いる…多忙なために家を空けることが多くても…それでも優しく接してくれた両親を私
は尊敬している。私はそんな両親に恩返しするため両親のような立派が人間になろう
とこれまで努力して きた…。 常に率先して行動し、第9士官学校でも首席をとった。
なにもかも完璧にやりこなしていると、これまでそう思ってきていた…ところが…。」

と言った所でナブ達のほうに振り返る。その表情は…苦渋に満ちていた。彼の独白
はなお続く。

「この世界に来て、自分が完璧でないと思うようになってきた…この世界には、私
より 完璧に任務を遂行する士官が二人もいる…それだけならまだよかった。それなら
その二人に見習い、私もそれ以上に完璧にやり遂げればいい。だが…。」

そこで彼は近くのパネルに右手を叩きつけ、一気にまくし立てた。

「何だあの醜態は!迂闊にも負傷し、2艦を危険にさらしてしまうとは…いったい今ま
で私がやってきたことは…いったいなんだったというのだ!!」
「レオンさん…。」

「私は完璧な人間になりたい!誰から信頼される人間に…この世界であの二人が出
来たのだから私にできないこともない…なのに私は…。」

やるせない口調でそこまで言い切ると、顔をうつむく。しばらくの間、だれも口を開こう
とせず、沈黙だけが支配した…。

「…僕は…僕は完璧な人間じゃありませんよ…。」
「ハーリー…。」
「少尉!」

沈黙を打ち破ったハーリーの声に、ナブとレオンは彼のほうに顔を向けた。
当の本人は自席から立ち上がり、まっすぐレオンの方に向き合う。

「レオンさんは僕や艦長のことを誤解してますよ…。確かに周りから見れば完璧かの
ように 見えますけど…ただ単にシステム関係について長じているだけで、それを除け
ば普通の人達 と同じですよ…。あの時にしても、ホントはとてもこわかった…けど皆が
…『ナデシコ』と ナブさん達YAMATOの皆の支えがあったからこそできたようなもんな
んです。」

「少尉…、しかし!」

「僕はナブさんやレオンさんみたいな勇気はあるとは思いません。これまでのことにし
たって艦長やサブロウタさん…この『ナデシコ』クルーの支えがあったからこそいまま
でやってこれたんです。」

その言葉にはっとなるレオン。

「別にいいじゃねえかよ、俺達はお前を信頼してるさ、それに一つぐらい不得意なもん
があったっていいじゃねえか。」
「そうだぜ、おれは地球型のシステムは得意分野だけどセイレーンのほうはまったくダ
メと来た。けど、おれはそれでもいいと思ってる。俺は俺の中の一番を目指している。
全部得意になるなんて、神様じゃあるまいし、そっちのほうがむしろ気持ちわりいや。」
「ナブ…コンマン…。」

何を迷っていたのだろうか…三人の話しを聞いてるうちに、何かと全て完璧を求めよ
うとすることが馬鹿らしくなってきた。

(そうだ…私は私の中の一番を目指せばいい…何を迷うことがあろうか…。)

「少尉。」

レオンはゆっくりと彼の前にくる。

「さきの戦闘での非礼はお詫びいたします。この艦では無論のこと、YAMATOにもあ
なたのお力は必要です。私はこれから戦闘中ではあなたのバックアップを勤めます。
メインオペレートはあなたが行ってください。」

「レオンさん…わかりました。けど…こちらも条件があります。」
「条件?ですか?」

「ハイ…非番の時は名前で呼んでください。さすがに僕のほうが年下なのにそこまで
敬語を使われると…」

「なに言ってるんだよ。ホントはうれしいくせに。」

といってハーリーをからかうナブ。

「な、なにいってるんですか!僕は別に…。」

ムキになって言い返すハーリー。その様子をコンマンはひっきりなしにこらえていた。

「ん?どうした?」

レオンが変な表情をしているのにコンマンがきづいた。 その様子にナブとハーリーが
気づき、一同の注目を浴びるレオン。

「いや…こういう時笑うべきなんだろうが…うまく笑えなくて…。」

その生真面目な顔を見つめているうちに、ナブはたまらず吹き出してしまう。他の二人
もつられて…ハーリーは最後まで我慢していたがとうとうこらえきれず笑い出す始末だ。
レオンは怪訝そうな顔を浮かべるものを、笑いは止まることを知らない。しまいにはレ
オンも馬鹿らしくなり、笑い始める。

笑い声が渦巻くブリッジの中で、何者かが退出していくことを、気づかぬまま…。
 
 
 
 
 
「ごめんなさい、今日は…おや艦長さん。」

閉店直後のナデシコ食堂に入ってきたのは、当のシマ本人だった。

「すまん。まだやっとるかと思ったのだが…。」
「いや、かまわないよ。あまりものしかないけど…。」

その言葉に、シマは軽く頷きながら答えた。

「いや、それでかまわんよ。」
 
 
 
 
「ハイ、お待ちどうさま。」

カウンターに座るシマの前に火星丼が出される。
「ありがとさん。」
「いったいどうしたんだい。そんなにニヤニヤして。」

その言葉に、キョトンとするシマ。やがてその顔がなにかを含むかのような笑みに変
わる。

「…やはり…わかるかね。」

といって、シマは先ほどの『ナデシコ』メインブリッジでの出来事を話し始めた。




「そうかい…そういうことがねえ…。」

「今回の戦闘は反省する点が数多い。だが…あいつらにとってもプラスの面が多かっ
たとおもっとるよ。」

といって火星丼を一口ほうばる。

「この『ナデシコ』はどうだい、あんたからみて?」

「…なかなかいい艦だよ。だが一番いいのはこの艦に乗り組むクルーだ。クルーの力
があって初めて、その艦の真価が発揮できる。そう言う意味では、ほんと幸せもんだ
よ…この艦は。」

「それはYAMATOも同じことがいえるさ。…彼らを見ていると…どうしても『ナデシコ
A』 に乗ってた頃を思い出してしまうんだよね…。」

しみじみと語るホウメイ。それをシマは黙って聞いていたが、ふと顔を上げて聞いてき
た。

「そんな似にとるのかね、あんたが知る『ナデシコ』クルーとうちの連中は?」

「なんとなくね…奇妙に聞こえるかもしれないけどなぜか違和感がないのさ。気風がど
ことなく似ている…あんたやあの子たちを見ているとなぜかその時の皆とダブらせてし
まうのさ。」

不思議そうな表情を浮かべ、そう答えるホウメイ。ふとシマ手にしたどんぶりをテーブ
ルに置くと、ゆっくりと話し始めた。

「わしはな…あやつらと共にYAMATOを再建し、航海に参加して、ほんとよかったと思っ
とるよ。そしてこの世界でこの艦のクルーに会えたこともな…。ナブ達も…ホシノ少佐た

も…ほんとよくやっとるよ。
あやつらを見ていると…こう、若さと言う物を感じてくる。」

ふたたび火星丼をほおばるシマ。口の中の物を飲み込むと顔を上げた。

「あいつらを見て若さを感じる…てことは、年をとったということだろうな…。」
「そう、たがいにね。」

といって微笑むホウメイ。二人は互いの顔を向け合うと、にこやかに微笑んだ…。
 
 



 To be continued




あとがき

みなさん、お久しぶりです。

さんざんお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

久々の投稿となりますが…如何だったでしょうか?

ここ一年ほど、私事でいろいろと忙しかったのですが、ようやく一段落し、ようやく投稿
するに至りました。

投稿のペースが落ち気味になっているのは否めませんが、気長にお待ち頂ければ幸いです。

『いい構図とは何をどう描くかハッキリしていることであり、だからこそ書きたい意欲と
そのイメージを表現する方法が手に入る…。』

これはとある漫画家が某雑誌で書いた言葉の一節ですが…確かにその通りだと実感させら
れます。
結局一番重要なのは書きたいという意欲、そして己の内に秘めている情熱であると…。

掲載された時期もかなり前のことになりますが、今もこの言葉を思い返すたびにそのこと
を常に
思い出します。

といったところで、この辺で失礼いたします。

2003年5月 自宅にて

By YAMATO





機動戦艦ナデシコはジーベックの作品です。

YAMATO2520はニシザキ・ボイジャーエンターテインメント、及び松本零士の作品です


戻る/次へ