逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第22章 そして25世紀へ

「以上が23世紀初頭、暗黒星団帝国とボラー連邦の最大の激戦となったライナ星域会戦の顛末です」
記録ディスクの内容が一段落したところで黒田大尉は説明の手を休めてヤマトの面々を見やった。
どの顔もあまりに壮烈な戦闘内容に憔悴している。
「帰還率わずかに12%か、これではどちらが勝者かわかりはしないな」
敵の一拠点をつぶすためにはらった犠牲としてはあまりに大きすぎる、無謀な遠征の代償は常に将兵の血であがなわれるのだ。
「しかも敵はまだ主力艦隊を温存している。事実上これは両軍の戦力比を広げるだけの結果になったというわけですか?」
真田がそう黒田大尉に向かって尋ねると意外にも黒田大尉は首を横に振った。
「当初は敵味方をこえて誰もがそう思いました。もっともこれほどの損害をだすとは計算に入れていなかった帝国高級軍人の一部にはあくまで現実を直視しようとしない者もいましたがそれはこの際どうでもいいでしょう。けれど現実というものは往々にして大多数の予測とは違う方向に向かうように行くように仕組まれているように思えます」
「というと?」
「西暦2205年12月28日、地球の隠密偵察艇がボラーの領域深くで集結しつつある大艦隊を発見しました。ボラー連邦は予想通り大艦隊を集結させてこの戦争を一気に終結させようと狙っていたようです。しかしその思惑は誰一人予想していなかった事態によって打ち砕かれました」
黒田大尉がディスクを先に進めるとその場の全員が息を呑んだ。
そこには血のように赤い赤色の銀河がまるで押しつぶすかのように我々の銀河系と重なり合う姿があった。
「こ、これは!?」
「銀河系交差と後の歴史では呼ばれています。原因は今でも謎ですが突如異次元断層から出現した赤色銀河と銀河系が接触して銀河系中心部で未曾有の天変地異が発生しました」
説明している黒田大尉の声もなかば震えている。これ以上の大宇宙規模の災害は人類史上ほかにない。
「ち、地球はどうなったんですか!?」
「ご安心を、地球の含まれる銀河系オリオン腕は銀河系の外周部に位置していたために直接的な災害からはまぬがれました」
うろたえていた相原にそう説明して落ち着かせると黒田大尉はもう一度皆を見回した。
「ですがこれでは銀河系中心部に位置しているというボラー連邦はただではすまなかったでしょう?」
「そのとおりです、当時のボラー連邦領のほぼ68パーセントがこの天変地異で壊滅したとされています」
「なんと……」
「当然このとき集結していたボラーの主力艦隊も大打撃を受けて大半が壊滅、ボラー連邦本星も爆発消滅したとされています。ただしボラー連邦首相ベムラーゼ本人は当時完成したばかりの新型機動要塞から全軍を鼓舞するために出かけており、その後殖民星に逃れてしまいましたが」
「このとき死んでてくれればさっさと戦争が終わってくれてたのにな」
「荒島中尉、少し黙ってなさいよ」
神村少尉にピシャッと叱られてしぶしぶ黙る荒島中尉を横目で見ながら黒田大尉は続けた。
「コホン、幸か不幸かこの未曾有の災害によりボラー連邦は国力の大半を失い戦争遂行は不可能になりました。けれど地球や暗黒星団にも当然逆侵攻をかけるような戦力は残されていませんでした」
だろうなと誰しもがうなづいていた。
事実クラック・アウト作戦に全勢力を裂いていた暗黒星団帝国軍はボラーの侵攻に対して地球だけでなく銀河系からの撤退も一時期本気で考えていたのである。
「しかし事態はこちらにとって有利にばかりは進みませんでした。このころの地球は口の悪い者にはインベーダー頻発期とさえ言われるほど対外戦争にみまわれていたのです」
そこから先はやや疲れてきた黒田大尉に代わって神村少尉が引き継いだ。
ちなみに完全な余談になるが神村美奈少尉は目が大きくよく整った顔立ちとすらりと伸びた体躯を持ち、やや癖の強い濃緑色のショートヘアを欠点としても充分に美少女と呼べるだけの魅力を備えていたのでヤマトのクルーのうち何名かは意味無く顔色をよくなったことをつけくわえておく。
予断閉題、彼女がそれから語った2203年の終わりからの歴史はこうであった。

西暦2203年12月31日、太陽系外周アルファケンタウリ星域にて外惑星軌道をパトロールしていた艦隊が突然通信を途絶、翌年1月2日にこれを警備艦が残骸で発見。
西暦2204年1月7日、アルファケンタウリ殖民地を放棄撤退開始。
同年1月9日、撤収中の船団よりSOSを受諾、その後交信途絶。
1月11日、護衛艦2隻のみが太陽系を帰還、ボラーではない未知の敵に攻撃を受けたと報告。
翌12日、太陽系全域に緊急警報発令、太陽系に残っていた全戦闘艦が月基地へ集結、総数80隻、主席指揮官ミヨーズ少将、次席指揮官大久保少将。

「また、新たな侵略者ですか?」
「そうです」
うんざりした様子で聴く相原の質問に神村少尉はこともなげに答えた。
「言ったとおり、この時代は銀河系周辺にあった星間国家がその拡大のためにいっせいに会合していった時期なのです。そしてこれはその最後にあたり、歴史上では【ディンギル紛争】と呼ばれています」
「ディンギル?」
「文字通り、このとき侵攻してきた星間国家の名前です。太陽系からおよそ3000光年の位置に存在していました。ただし星間国家とはいってもその領域は暗黒星団やボラーにくらべたら微々たるものでこれまで発見されていませんでした」
「それがまたなぜ地球に?」
「この銀河系交差の影響です。これを」
そこにはサファイアのように一転の曇りも無く青く輝く一個の惑星の姿があった。
「水惑星アクエリアス」
それは見ていたヤマトのクルーたちから思わずため息がもれたほど美しい、まさに宇宙に浮かぶ宝石のような星であった。
しかしこの美しい惑星がなぜ侵略の引き金となったのかヤマトの誰にも見当がつかなかった。
「ここからは後にディンギルの捕獲艦のコンピュータから得た記録情報になりますが、このアクエリアスは宇宙を数万年周期の楕円軌道で周回する回遊惑星です。そしてその組成のほとんどは水です。もしこれが軌道に乗ってほかの惑星の近辺に接近したらどうなると思いますか?」
「それは……巨大な慣性力によって軌道をずれて衝突したりはしないだろうが表面の水は……ってまさか!?」
「そのとおりです。他の惑星に接近した場合、その重力の引き合いによってアクエリアスからはその惑星に大量の水を吐き出します。その量はおよそ数百兆トン、地球程度の惑星を完全に水没させてなお余りあるほどの規模です」
「地球程度って、おい!」
「記録ではこの宇宙規模の大災害によってアクエリアスの軌道も狂い、ディンギルの本星はこれによって完全に水没したうえに星の組成とアクエリアスの水が反応して爆発四散してしまったそうです」
「それで連中は地球に?」
島の質問に神村少尉は短くうなづいて答えた。
「彼らは唯一生き残った大型要塞都市を基点に地球へ攻撃をかけてきました。しかし母星を失った彼らは軍事力こそ健在でしたが補給がありませんでした。そこで彼らは短期決戦で地球人類を地球に封じ込め、アクエリアスそのものを地球へ向けてワープさせて地球を水没させて地球人類を抹殺しようとしてきました」
これはディンギルという侵略者がかつて最悪の相手であったことを意味する。
ガミラスにせよ白色彗星にせよ暗黒星団にせよ最終的には地球の占領を目的としていたためにそこにつけいる隙もあったがディンギルは初めから皆殺しを前提としているだけに攻撃もただ破壊を目的とすればよく戦い方に妥協をする必要がないということである。
しかもいかにディンギルが数ではあとがないとはいえ地球はライナ星域会戦で戦力の大半を使い果たして疲弊しきっていた。
唯一の救いは地球を失えば銀河系への足がかりを完全に失う暗黒星団帝国が再び地球の生産設備を使用する代償になけなしの艦隊を派遣してくれたことくらいであった。
「地球防衛軍はライナ戦役を生き残った戦艦ネメシスを中心にした22隻、暗黒星団帝国の援軍はミヨーズ准将が率いる20隻の機動艦隊とサーグラス少将の3隻のグロデーズ級戦艦、ほか補助艦艇あわせて計80隻の連合艦隊となりました」
対してディンギルの太陽系制圧艦隊は巨大要塞母艦を中心にした総勢200隻ほどの混成艦隊だった。
地球にとっては勝利か滅亡か、あえてつかみかけた独立をかなぐり捨ててまで呼んだ援軍のためにも戦って勝つ以外に残されてはいなかった。
まず数において圧倒的に劣る地球暗黒星団連合軍は正面決戦を放棄、アクエリアスのワープを阻止することを最優先目標としネメシス以下の主力艦隊を囮として残りの部隊のほとんどをアクエリアスに差し向けるという一か八かの賭けに出た。

アクエリアス地球接近まであと5日前。
出撃した地球艦隊は別働隊から敵の目をそらすために敵本体が展開している冥王星軌道に正面から突っ込んだ。
旗艦ネメシスを先頭に進撃する地球艦隊へ迫ってくるディンギルの水雷艇、これを空母艦隊の艦載機が迎え撃つ。
しかしこのときディンギル軍が使用していた対艦兵器ハイパー放射ミサイルはこれまで地球艦隊が対峙したいかなる兵器とも違う圧倒的な威力を持っており艦隊の外側からじわじわと数を減らされていった。
だが本体がディンギルの本体を攻撃するまで冥王星に敵艦隊の目を向けさせておく必要がある以上、地球艦隊はここで玉砕するわけにはいかない。
艦隊司令官大久保隼人少将は全艦隊に冥王星への降下を命じた。
当然のごとく大気圏まで敵は追ってくる、しかし艦隊は傷つきつつも冥王星の海へ着水、潜行した。
水中への攻撃手段を持たないディンギル軍はそこで追撃をあきらめた。
けれどもいつか浮上して上昇してくるときを狙えば一方的に地球艦隊を粉砕できるためディンギル軍は冥王星衛星軌道に陣を張った。
しかし実はこれも地球軍の作戦のうちであった。
海底を進む地球艦隊の眼前に現れた海底ゲート、これこそかつてガミラス冥王星前線基地の残した施設を地球軍が非常のための避難場所として修復しておいたものであった。
非難した地球艦隊は修理補給を進めつつ持久戦のかまえに入った。
これにより地球軍は時間をかせぐという戦略目標を達成することができたのである。

そのころ、地球艦隊の陽動により完全にノーマークとなっていた暗黒星団の本体はアクエリアスへ到達していた。
「全艦突撃隊形!」
艦隊司令サーグラス少将は当然ハイパー放射ミサイルの情報を得ている。
分析の結果、現在の地球、暗黒星団両方の技術を持ってしてもこれに対抗する手段はないとされ検討した結果作戦は奇襲以外にはないとされた。
そのために地球艦隊が全滅覚悟で囮役を買って出ているわけだが暗黒星団帝国もいかに地球が軍事上の要所とはいえそのために艦隊をすりつぶすわけにはいかない。
サーグラス、ミヨーズ両提督の出した結論は奇襲による短期決戦一本にしぼりこまれた。
まずは機動部隊から偵察機が放たれ必ずアクエリアスの周辺にいるであろう敵艦隊を索敵する。
そしてアクエリアスの反対側の空間に鎮座する巨大な要塞が発見された。
これこそディンギルの誇る都市衛星ウルク、大きさにして20.8kmと白色彗星の都市帝国をもしのぐ巨大要塞だ。
さすがにここまでくるとディンギルも黙っていない、都市要塞から迎撃のための艦隊が次々出撃してくる。
しかし暗黒星団帝国の艦隊にこれを相手にする気はなかった。
「無限β砲発射用意、目標敵都市要塞」
ディンギル軍は地球軍の交戦の結果地球艦隊にある波動砲の威力を知っているために一定距離まで近づくと警戒態勢をとることが知られている。
しかし地球軍の波動砲の倍以上の射程を持つ無限β砲ならば別でしかもディンギルはまだこの存在を知らなかった。
作戦の骨子はこの長射程兵器を持って敵艦隊ごと敵本体を破壊であり艦隊は最初から眼中になく恐るべきハイパー放射ミサイルも撃たせるつもりはない。
前列に躍り出たサーグラス少将のグロデーズ級の無限β砲がうなったときディンギル艦隊は跡形も無く消し飛んでいた。
そしてエネルギーの奔流はその勢いを衰えさせることなく敵要塞ウルクへと襲い掛かった。
だが次の瞬間暗黒星団帝国軍の将兵たちの目は驚愕に見開いていた。
「なに!? 無限β砲を跳ね返した」
なんと敵要塞は命中直前紫色のエネルギー幕を広げるとたちまち要塞全体を覆いつくしたそれで無限β砲のエネルギーを弾き飛ばしてしまった。
それは後の調査によるとニュートリノを利用したエネルギー熱線兵器であることがわかった。
本来ニュートリノは他の物質と相互不干渉の粒子だがそれを収束凝縮できたときあらゆる物体を焼き尽くす炎の壁となる。
だがここまでは彼らの作戦の想定内であった。
「全艦作戦第二フェイズへ移行、急げ!! ちっ、やはり敵本体ともなると一筋縄ではいかんか」
戦艦ガリアデスの艦橋でミヨーズ司令がそう舌打ちしたと後に兵士の一人が述懐している。
その後艦隊から数隻の巡洋艦が前へ出た。
「空間歪曲ミサイル発射!」
円盤状の巡洋艦の船体の下に搭載されていたミサイルが敵要塞に向けて放たれる。
敵はたかがミサイルごときにニュートリノビーム防御幕が破れるものかと撃ち落しにかかる様子もないがそのかわりに艦隊に向けて攻撃を仕掛けてきた。
ニュートリノビームの壁をすり抜けてきたニュートリノビームが艦隊を襲い逃げ遅れた艦が数隻飲み込まれた。
しかしそのかわりに命中したミサイルはまわりの空間を歪めてニュートリノビームの壁に風穴をこじ開けた。
「いまだ、あの穴に向かってありったけの砲撃を叩き込め!」
暗黒星団帝国艦の砲撃は空間歪曲に影響されないよう調節されている。
ミヨーズの命とともに全艦から大小問わず砲撃とミサイルが防御幕の穴に向かって撃ち込まれた。
しかしウルクもさすが要塞の格を見せて艦艇の砲撃程度ではなかなか傷つかない。
しかもグロデーズは狙い撃ちにされる危険があって無限β砲を使えなかったのでまだ暗黒星団帝国側が不利であった。
「司令、空間歪曲はあと3分しかもちません」
ミヨーズはちっと舌打ちした。空間歪曲の防御幕の穴が埋まってしまっては艦隊にはもう敵要塞を攻略する手段がない。
だがそのときサーグラス少将の旗艦グロデーズ1号機が動いた。
「サーグラス少将、なにをなさいます!?」
「ミヨーズ少将、これより我が艦は敵要塞に零距離攻撃を試みる、援護を頼む」
「なんと!? そんなことをすれば」
「わかっておるよ、だがもはやこれしか方法がない。艦隊をできるだけ傷つけるなという聖総統閣下とサーダさまのご命令には背いてしまうことになるがやむを得まい」
「しかし、少将ご自身が」
「いや、わしでなくてはだめなのだ。ミヨーズ少将、君ももうわかっているはずだがこのディンギルという敵は非常に強い、ここで滅ぼしておかねば必ずや帝国にとって大きな災厄になることは間違いない、そして今敵中に突貫して砲撃を成功させるだけの練成を積んだ艦は本艦しかおらん。ミヨーズ少将、あとはまかせたぞ」
「サーグラス少将!」
グロデーズ1号機は艦隊から突出して敵要塞に突進していく。
しかもこれみよがしな接近ではなく不自然にならないよう損傷でもしているかのようなふらつき具合を見せた見事な躁艦であった。
「くっ、全艦散開敵の目を引き付けろ!」
さらにミヨーズ少将もこの場で自分がなにをすべきかをわかっていた。
隊列を組んでいた艦隊がバラバラになって敵要塞を包囲するように布陣していく。
そのうち駆逐艦何隻かが空間歪曲の穴から内部に突入するような動きを見せたので敵要塞はニュートリノビームの目標を分散せざるをえなくなっていた。
そしてその敵の虚をついてサーグラス少将のグロデーズ1号艦は可能な限りの接近に成功した。
「無限β砲発射!!」
全艦へ向けて放たれたその無電の一言がサーグラス少将の最後の言葉になった。
無限β砲が放たれた瞬間、ようやく危機に気がついた敵要塞の放ったニュートリノビームの近距離砲撃がグロデーズ1号機を直撃、壮絶な相打ちとなったのである。
しかし無限β砲の直撃を受けてはいかに巨大要塞といえどもひとたまりもなく中央から裂けて粉々に砕けやがてアクエリアスの引力に引かれて落ちていった。
ただしその直前要塞から無数の小型宇宙船の脱出が確認され、ミヨーズ少将はただちにこれの追撃に移った。

しかし追撃は難解を極めた。
敵の脱出船は武装こそ貧弱で帝国艦隊の敵ではなかったもののそれなりにすばやく戦艦や巡洋艦では苦戦を強いられた。
さらに要塞攻略戦のあとで将兵達に疲労がたまっていたのも無視できない。
暗黒星団帝国の人間は半機械化人であるがその精度は地球人同様痛みから疲労まで感じられるほど精密に作られていたのだった。
グロデーズから護衛艦まで残りの戦力は12隻にまで減退しており快速艦艇のみでの追撃も危険すぎてできない。
追撃が長引くにつれミヨーズ司令は焦りを隠せなくなっていた、このままでは地球圏に引き付けてある敵の主力艦隊と合流される危険があったからだ。
結局強行軍で脱出船団の中枢を撃破しそのほとんどを討ち果たしたときには艦隊はさらに駆逐艦と護衛艦を2隻ずつ失いわずか28隻にまで数を減じていた。

だが実は危惧されていた地球圏で足止めされていたディンギル主力艦隊はウルクが襲撃されたとの報をうけたと同時に地球艦隊を無視して反転を開始していた。
冥王星に待機していた地球艦隊は罠の可能性を考慮して動こうとはしなかったがディンギル艦隊はそのままわき目も降らずにどこへともなく消えていった。
ここで彼らが本気になれば地球艦隊、暗黒星団艦隊ともに壊滅させられた可能性が大であっただけに彼らの逃亡はまさに暁光であった。
(実際にはディンギル軍は陸上戦力を持たず、移動要塞母艦に残った物資もあとせいぜい3会戦分が限界で無理ができなかった)
地球はかろうじて滅亡をまぬがれたのである。

その後の歴史は細かくかたるよりもざっと年表のように述べたほうが早い。
西暦2207年、地球にボラー連邦のワープミサイルが来襲、軍民合わせて死傷者30万、しかし帝国製の空間歪曲装置で妨害が可能と判明して以後の被害なし
西暦2208年、地球の委任統治領決定、ただし他の太陽系惑星の使用権は暗黒星団帝国に残った
西暦2210年、再建したボラー、暗黒星団帝国艦隊が白鳥座星系で交戦、帝国艦隊の圧勝
同年、バース星系に帝国艦隊が侵攻するもののボラー艦隊の待ち伏せにあい包囲壊滅にあう
西暦2211年、ボラー連邦艦隊地球圏に侵入、木星軌道にて地球艦隊が撃滅
西暦2212年、いて座を最前線防衛ラインとして要塞化開始、ボラーもこれに対して機動要塞の敷設を開始
西暦2213年、各前線星系にて要塞化が進行、国境ラインの明確化が進む
なお同年、辺境星域S250にて艦隊の残骸を発見、ディンギル軍のものと酷似しておりボラーチュウム100の反応があるが詳細は不明
西暦2214年、研究機関が地球人と暗黒星団人の生態移植は不可能と断定、地球は暗黒星団帝国の唯一の銀河系有人惑星植民地として重要性が高まる
西暦2215年、銀河系の2分化が完成、両国の冷戦化が決定的になる
西暦2217年、スカルダート、ベムラーゼ両首脳による銀河分割平和維持条約が締結
西暦2230年、暗黒星団、ボラーによる通商条約可決、いて座星域において一部のみ両国の交流が可能になる
西暦2232年、アルファ・ケンタウリにて原因不明の爆発事故により5千名が死亡、ボラーの破壊工作の線が強いが証拠不十分
西暦2251年、ボラー統治下バース星系にて独立運動激化、地球に援軍が要請される、反乱を地球があおっているのではとボラーの態度硬化
同年、地球艦隊バース星の反乱鎮圧のため出動、しかし星系に反乱軍が仕掛けた偽装戦闘衛星により両軍激突、両軍あわせて撃沈20を出す惨事に
同年、地球軍、ボラーと反乱軍の仲介として講和にあたるがこれに暗黒星団帝国が介入、重核子爆弾によりバース星の住民90%が死亡
翌年2252年、暗黒星団軍バース星系に駐留を続けボラー艦隊との緊張高まる
半年後暗黒星団帝国軍撤退するも反乱鎮圧の見返りとしての領有権もしくは滞在権を主張、これによりバース星系は長く両国の火種として残ることになる
その後この冷戦構造は140年にわたって続くことになる
西暦2394年、惑星バースの帰属問題により現地での衝突が増加
西暦2395年、駐留していた現地艦隊及び周辺艦隊間で交戦が続発、両国艦隊が鎮圧に乗り出す
同年、バース星に両国の揚陸艦隊が強行着陸しようとして護衛艦隊同士が激突
同年、両軍主力艦隊同士が激突開始、両国ともに増援部隊の投入を決定
西暦2396年、限定的な空間において断続的な戦闘が継続、消耗戦の様相を見せる
西暦2397年、停戦協定が締結、犠牲は両軍あわせて約85万

その後は再び冷戦状態が継続され『武蔵』のやってきた西暦2404年へと続いていくのである

「終わりです」
スクリーンから映像が消え、長かった記録ディスクが終わった。
誰もがどっと疲れた顔をしている。
人は古来より未来を知ることに情熱を燃やし続けてきた、しかしその未来を確固とした形で見たとしたらそれがその者にとってはたして幸であるといえるのだろうか。
「ろくなものじゃないな」
最初に口火をきったのは島だった。
「でしょうね、まあ私たちがこれまで生きてきた世界のことなので少々複雑ですが普通に評価するとそんなものでしょうね」
黒田大尉も自嘲的に笑う。
歴史というのはこのうえない悲劇と喜劇で構成されているものだがそれにも度というものがあるであろう。
22世紀末まで地球人は宇宙というものの厳しさにほぼ無知であり、そのつけを200年にわたって延々と払わされているようなものだ。
1秒が永遠にも感じられるほどの長い沈黙のあと土方艦長がゆっくりと口を開いた。
「我々は今知るはずの無いものを知ってしまった。そして知ってしまった以上知らないころに戻ることはできん、このまま時勢が進めばどこまで今見たとおりになるかはわからんがこれより多少なりとも良くなるとも思えん。この戦争は単にこの時代だけではなく今後数百年にわたる地球史の礎となる、この戦争を最小の被害を持って終結させ迅速に外敵への備えを整えない限り地球は宇宙の荒波を乗り越えることはできん」
それはまさに藤堂艦長たち『武蔵』の面々が望んでいた答えそのものであった。
「よって、これから『ヤマト』は今大戦の早期終結を目指して行動をとるものとする。それにいたって『武蔵』の方々には全面的な協力を仰ぎたい」
この瞬間『武蔵』の目的の半分は達せられたといってよい。
しかしおおやけに行動できない『武蔵』は今後陰軍として行動することになるであろう。
はたして『ヤマト』と『武蔵』はいかなる手段をもってこの戦争を終結させることになるのか。

第22章 完

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