逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第23章 新任務スタート!! 攻撃目標敵空母!!

運命の出会いの日から3日、宇宙戦艦『ヤマト』は『武蔵』と別れ太陽系へとひた走っていた。
「島、次のワープまであとどのくらいだ?」
「おおよそ30分で完了する予定だ、徳川さんそちらはどうですか?」
〔機関室のほうは大丈夫だ、こんなときだ、気分屋のエンジンにも多少の苦労はしてもらうさ〕
今『ヤマト』はワープにワープを重ね、一刻も早く太陽系へたどりつこうと急いでいた。
すべてはこのままの歴史だとおとずれるはずの地球の凋落を防ぐためである。
しかし、すでに白色彗星は先に『武蔵』によって負わされたガス体のダメージを回復して太陽系へと驀進を再開している、けっして時間的な猶予はない。
「全乗組員につぐ、これよりヤマトは太陽系方面へ向けての大ワープを行う。総員ワープ準備にかかれ」
土方司令の命令に従い、ヤマトの乗組員たちは座席に腰掛けてベルトをしめた。
だがそのとき、相原の席から地球からの通信を知らせる警告音が響いた。
「艦長、地球司令本部から入電です」
「なに、ワープ一時中止。パネルにつなげ」
やがて『ヤマト』の艦橋天井大パネルに地球防衛軍藤堂長官の姿が映し出された。
〔土方君、ずいぶん近くまで戻ってきたな、どうかねヤマトは?〕
「ヤマトは健在です。予定ではあと3回のワープで防衛軍艦隊と合流できるはずです」
〔うむ、そのことなのだが君たちには別の任務を請け負ってもらうことになった〕
「どういうことです?」
この状況で防衛艦隊の一員となる以外にどんな任務があるというのか。
〔うむ、君たちも先日の白色彗星の突然の減速については知っていると思う。そしてその後の敵の足取りについてなのだが、我々の哨戒網によれば太陽系外周まで接近してきていた敵の主力と思われる大艦隊が第11番惑星近海で停止して、どうやら白色彗星が追いついてくるのを待っているらしいというのがわかった〕
これも『武蔵』が現れた影響だと『ヤマト』のクルーたちは理解した。
実際はこのとき白色彗星主力艦隊は白色彗星本体の到着を待っていただけではなく、先のラーゼラー艦隊の敗戦をもって周辺に配置されているかもしれない敵の伏兵(もちろんそんなものはいないが)に備えて徹底した索敵行動をとっていたのだった。
「なるほど、しかしそれならばなおのこと、ヤマトは主力と合同して敵とあたるべきではありませんか? 戦力の分散は兵法の初歩的な愚ですぞ」
〔もちろんそれは承知している。防衛軍主力は敵白色彗星本体が到着する前に雌雄を決すべく再集結を急いでいる。君たちにやってもらいたいことは他にある、まずこれを見てほしい〕
長官の姿が消え、パネルには太陽系を中心とした簡略化された宇宙図が現れた。
そこには太陽系に向かう白色彗星が大きな赤い矢印で、第11番惑星付近に無数の小さな赤い矢印があり、土星付近にそれらより少ないが青い矢印が集まりつつあった。
〔現在両勢力の配置図はこのようになっている。だが問題はこれだ〕
すると宇宙図に第11番惑星へ向かうかたちで別の赤い矢印が表れた。
「これは、別の敵か!?」
〔古代、そのとおりだ。中央大天文台がプロキオン方面から太陽系へ向かう異常を観測したところ、敵の増援部隊らしいということがわかった。ほとんど奇跡的な確率で観測に成功したのだが、おそらく敵は待機している時間を利用してさらに増援を呼び集めるつもりなのだろう。そしてまずいことに今防衛艦隊は急ピッチで出撃態勢を整えているが、どうしてもこの増援到着以前に準備が整いそうに無い〕
「なるほど、それで一番敵に近いところにいるヤマトに白羽の矢が立ったというわけですな」
〔そうだ、君たちは独立部隊としてこの敵の増援部隊を足止め、可能であれば撃滅してほしい〕
そういうことであれば是非もない。
「了解いたしました。宇宙戦艦ヤマトはこれより敵増援部隊の攻撃へと向かいます」
〔うむ、それからわずかではあるが、君たちには援軍として戦艦を2隻派遣した。それでは頼んだぞ〕
藤堂長官の姿が消え『ヤマト』には新たな作戦に向かうために忙しさが戻ってきた。
地球から暗号文で敵に関する情報が伝達されて、新たな目標へ向けてのワープの再調整が始まる。
それと平行して別行動をとっている『武蔵』にこれが伝えられたのはいうまでもない。

そして1時間後、進路変更した『ヤマト』は地球とプロキオンの半ばほどにある、名も無い小惑星帯にたどりついていた。
「ワープアウトを確認、地球防衛軍信号をふたつ確認、戦艦『メリーランド』『蝦夷』の2隻です」
『ヤマト』の眼前に、まるでペンキのにおいでも香ってきそうなほどの光沢に艦体を包んだ新品の主力級戦艦2隻が現れた。
「新鋭艦か、確か無人艦隊の工場が破壊されたために、その分の資材を未成艦につぎこんだと聞いていたが、それでもよく間に合ったものだな」
これは『武蔵』はあえて伝えなかったが『武蔵』が無人艦隊の工場を破壊した影響であった。
「なんでも造船所では何人も過労で倒れたという、みんな地球の未来を守るために必死なんだ、我々も頑張らなくてはな」
思えばこの『ヤマト』も地球の危機に際して必死の思いで作られた艦だ、世代は違えど船に託された思いは『ヤマト』と同じであることを南部や島も感じていた。
「艦長、両艦の艦長から入電です。パネルに回します」
『ヤマト』のメインパネルが左右に分割され、ひとつにやや青みがかった黒髪の青年士官が、もうひとつに豪奢な金髪を掲げた同じくらいの年齢の女性士官が映された。
〔戦艦『蝦夷』艦長、子龍岩城(しりゅういわき)中佐です〕
〔戦艦『メリーランド』艦長ニナ・シェリー中佐です〕
ふたりともよく整ったかたちの敬礼で挨拶をすると、土方艦長もまた敬礼でこれを返した。
〔藤堂司令長官より、これより『ヤマト』の指揮下に入り作戦行動を行うようにと命令を受けています。よろしくお願いします〕
「うむ、まずは偵察機を出して敵の正確な所在と編成を計るものとする。そのあいだに本艦で作戦の大筋を作成する」
〔では、私たちも作戦会議に出席するために『ヤマト』へ赴きたいのですが〕
「わかった。およそ出撃開始予想時刻は5時間後となる、そのあいだにクルーたちには充分に休息をとらせておきたまえ」
〔はい、それでは失礼します〕
ふたりの姿がパネルから消えた。
「ずいぶん若いな、昔の俺たちと同じくらいか」
「送られてきた資料によりますとふたりとも訓練学校では上位に入る成績だったそうで、藤堂長官の命令で卒業を早めて新鋭艦に配属になったそうです」
それを聞いて古代が渋い顔になった。
「おいおい、そんな実戦経験のないど素人をいきなりこんな重要な任務に駆り立ててまともに動けるのか?」
だがそれに意外にも真田は笑いながら答えた。
「確かに実戦経験はないだろうが仮にも戦艦を一隻任されるほどの奴らだ、並みの人材じゃあるまい。それに実戦経験のない素人ばかりで、ただ一隻29万6千光年の大航海を成功させたのはどこの船だった?」
そう言われると返すことばがない。
「しかし過剰な期待をするわけにもいかん、彼らにもこれからの地球の未来を背負って立つ大事な役目がある、こんなところでむざむざ死なせることはできん。皆、先輩として責任は重大だぞ」
土方艦長の言葉に皆は自身の責任を強く意識した。
やがて『ヤマト』にふたりの中佐艦長がやってきた。
ふたりの印象は、子龍中佐は古代とほぼ同じくらいの背格好にややおさまりの悪い黒髪、凛々しいがやや少年じみた顔つきで、銃より剣でも握っていたほうが似合うかもしれない。
ニナ中佐は名前のとおりの白人系で、腰まであるストレートヘアがたなめき優雅な雰囲気を漂わせて雪とはまた違った美しさがあったが、やはりまだどこか少女じみたところが残っており、艦長より中世のお姫様といったほうが適任そうだった。
つまりふたりが並ぶと、姫とそれを守る騎士といった一種ファンタジックな雰囲気が現れて、『ヤマト』のなかでは異彩を放っていた。
ふたりともいまや伝説と化している『ヤマト』の艦内を興味深げに見回していたが、作戦会議室に入るととたんに表情を引き締めた。
会議室には偵察飛行に出ているコスモタイガー隊の加藤を除いて『ヤマト』のメインスタッフが集まっている。
「ようこそ『ヤマト』へ、君たちのことはざっと見させてもらった。初陣でいきなり危険な任務を任すことになると思うが君たちを戦力と数える以上遠慮なく使わせてもらう。また君たちにはそれを期待できる技量があると考えさせてもらう、よろしいか?」
開口一発、土方艦長の先制の一打が飛び出したがふたりは同時に「了解です」と答え、気負いがないことを示して見せた。
「ではこれから作戦計画の立案に入ります。地球の天文台からの観測ではこれのワープ時の重力異常などからかなりの規模の艦隊というのはわかったが、艦隊構成などはつかめませんでした、しかし艦隊そのものの進撃スピードなどから推測すると空母機動部隊の可能性が大だと思われます」
「空母艦隊か、確か第11番惑星軌道上での敵主力艦隊の偵察情報でも多数の空母が確認されていたな、もしこれの敵主力との合同を許すと航空戦力の低い地球艦隊は艦隊戦を待たずに全滅、さもなくばかなりの被害を受けて決戦どころではあるまい」
島の言うとおり、現在の地球艦隊には主力戦艦改造の攻撃空母が数隻あるだけで、まだ空母機動部隊というものは持てていない。
ヤマトの設計思想を受け継いで、戦艦にも艦載機が搭載されてはいるものの当然正規空母の搭載量とは比較にならない。
「しかし、地球艦隊はその欠点を埋めるために対空武装の強化を行っています。航空攻撃への耐性は強いのでは?」
太田がそう意見を述べた。
それには言葉どおりの意味のほかに、先日『武蔵』によって見せられた記録映像のなかで、地球艦隊が対空砲火のみで白色彗星艦隊の航空攻撃を撃退してみせた場面があったことを示唆していたが、子龍とニナのふたりがいるためにそこを言うのは避けていた。
「いや、数が違いすぎる。仮にこの援軍に含まれる空母の数が第11番惑星軌道にいる敵空母と同数だとしても、その破壊力は比較にならんほど膨れ上がる。仮に戦艦が耐えられたとしても巡洋艦以下の艦艇には多数の損害を出すだろう、そうなれば丸腰の地球艦隊は簡単に包囲殲滅されてしまう、拡散波動砲を使う暇もあるまい」
「と、なると合同させる前にここで各固撃破してしまえるかどうかが、この戦争のキーポイントになりますね。まさに天王山というわけですか」
真田の説明を相原が批評すると、さらにそれを土方艦長が補足した。
「そのとおり、ここが地球艦隊が勝利を収められるかどうかの天王山といっていい、ただし皆勘違いしてもらっては困るが、主要攻撃目標はあくまで空母であってこれを殲滅することさえできれば、残る戦闘艦艇が合流に成功したとしても拡散波動砲を有する地球艦隊に充分勝ち目がある。むろん状況に応じて戦果の拡大を図るが、戦略目標が空母にあることを諸君忘れないでほしい」
「はっ!」
了解を意味する声が気持ちよく人数分重なると、土方艦長は満足そうにうなづいた。
と、そのとき作戦室に第一艦橋でメインスタッフたちの代わりに任務についていた通信員から直通の連絡が入ってきた。
〔加藤機より入電、ヤマト北方420万宇宙キロに敵機動部隊発見、編成は空母12、戦艦20、護衛艦多数!〕
さっと氷水を撒いたような緊張感が場を包み込んだ。
「意外と近くにいたな、加藤機は敵に補足されたのか?」
〔いえ、短文が発せられた後全機撤収の短信を傍受しました。一瞬のことでしたし、このへんは暗黒物質による電離層の異常も頻繁なのでまず気づかれてはいないと思います〕
となると今頃散っていたコスモタイガー各隊もヤマトへ帰頭しようとしているはずだ。
「敵の規模からして別働隊がいるとは思えんな、しかし空母12隻とは、正攻法では厳しいな」
「となるとやはり奇襲?」
「それも、かなりうまくやらないといかん。第一撃を加えるとしたらやはりコスモタイガーだが、最低でも初撃で敵空母の飛行甲板をすべて使用不能にせねば反撃を許すことになる」
古代の懸念ももっともであった。ヤマトは半空母の能力を有しているとはいえ、搭載しているのはコスモ・ゼロ、コスモタイガーすべて合わせて十数機しかなく、それだけの数の空母を同時に仕留めるのはいかにも困難と思えた。
「こちらも空母があればな、雷撃機型のコスモタイガーなら2,3撃で空母ごときは撃沈できるものを」
「ないものねだりをしても仕方ない、ただでさえ防衛軍ではまだ数隻しか完成していない虎の子のなかの虎の子だ。主力艦隊を守るためにもはずせないのだろう」
そもそも地球防衛軍では対ガミラス戦以降、航空隊の強化を急ピッチで行ってきたが、あれから1年そこそこしか経っていないために質、量ともに揃えるにはあまりに時間がなさ過ぎたのだ。
「ともかく初撃で空母を無力化して艦砲戦に持ち込むのが定石だろう。古代、敵には戦艦が20隻ほど護衛についているが、本艦とあと2隻で対応は可能か?」
「はっ、敵戦艦のデータからすると、敵はヤマトより大型ですが主に近距離戦を想定しているらしく射程は我々より短いものと想定されるので、長距離からアウトレンジすることが可能かと思われます。ただし、敵戦艦の拡大写真を見る限り、大型の艦橋砲らしきものが確認できるため正面からの接近は避けるのがよいと思われます」
土方の問いに古代は明瞭に答えた。
なお、この時点ではまだ白色彗星型の戦艦とヤマトを含む地球防衛軍は交戦したことがないのでこのデータもまた『武蔵』からのものである。
「と、なるとやはり問題は空母か、うーん、ヤマトじゃどうしたって近づく前に気づかれちゃうしなあ」
問題の根幹を解決する案がなかなかでないことに南部が眼鏡を押し上げながら困った声を出した。
そのとき。
「土方司令」
それまで黙っていた子龍中佐が静かな物腰で、意見具申を意味する挙手をしながら一歩前へ出た。
「なにかね?」
発言を許可するという意味合いで土方が短く答えると、子龍中佐は物怖じしないで言った。
「はい、ですがその前にひとつ確認させていただきたいのですが、ヤマトのデータベースのなかには彗星帝国軍の航走パターンに関するデータも揃っているのでしょうか?」
訪ねられた太田はその子龍中佐の質問の意味を図りかねていたが、かなり詳しく情報が揃っていると答えた。
すると子龍中佐は一度後ろで控えていたニナ中佐と軽く目配せをすると、土方のほうを向き直って進言した。
「敵艦隊が太陽系へ向かってワープしようとする寸前を奇襲するべきだと考えます。ワープ直前なら護衛艦載機も全部収容していますし、艦自体も完全に無防備でしょう。少数機で完全な戦果を得るためには、このほかには無いかと思います」
それを聞いて古代たちは落雷が落ちたような衝撃を受けた。
「なるほど、確かにワープ直前はどんな艦でも無防備になる、奇襲には絶好のタイミングだ。いや……当然これには気づくべきだったんだ」
古代たちの脳裏には先日のデスラーとの戦いが再現されていた。
あのときデスラーはヤマトがワープしようとする直前を狙って奇襲をかけてきた、おかげでヤマトは早々に戦力を喪失させられ、あと一歩のところまで追い詰められてしまっている。
この作戦案が生まれるとしたら本来は『ヤマト』のなかからであらねばならなかったと古代たちは反省するとともに、その案を考案したふたりを高く評価した。
「だが、同時にリスクも大きい。敵がワープするタイミングを正確に測らねばこの奇襲は成立しない。攻撃が早すぎれば逆襲を喰らうし、遅すぎれば取り逃してしまう」
確かに、この作戦はタイミングが命である。反撃を食らうだけならまだしも、取り逃してしまったら敵のワープ能力からして二度目のチャンスはない。
しかし、それでも3隻の戦艦と十数機のコスモタイガーで12隻の空母に勝つにはこの手しかないことは誰もが理解していた。
「子龍中佐の意見を採用する、各員はこれより具体的な作戦案の作成に移るように」
土方艦長の宣言がそれを確定させた。
「はっ」
こうなればあとは嫌も応もない、危険性の高い作戦だろうと、それを少しでも実現可能な策に作り直すために努力するだけだ。
(しかしそれにしても、こいつらなかなかやるな)
子龍中佐とニナ中佐はまた一歩後ろへ下がって、会議の様子を見学するように口を閉ざしていた。
だが、その才能に目をつけた先輩方によって強引に作戦立案に加えされられるようになるまで少ししかかからなかった。
ふたりは訓練学校での厳格な教育に則ってか、必要なとき以外は後ろで黙っていようとしていたようだが、実力を認めた者を黙らせておくほど『ヤマト』は頑迷ではなかった。
その後はふたりも加わって作戦の詳細を設定していった。
敵艦隊のワープ開始は計測によるとおよそ3時間後、航空機による奇襲後に3隻の戦艦によってどう敵を叩くか、様々な視点から綿密に計画は練られた。
作戦決行は地球時間午後4時30分……。

「……艦長、1630まであと1分です」
正確に合わされた時計が一秒ずつ時を刻む、誰もがそのときを固唾を呑んで待ち構えていた。
そして秒針が文字盤を一周しついに12の数字を指した時。
「全コスモタイガー隊発艦。両弦全速『ヤマト』発進!」
「了解、波動エンジン始動、『ヤマト』全速前進」
土方艦長の命令を島が復唱し『ヤマト』は轟然と噴射炎を噴出して進撃を始めた。
「よし、加藤、山本行くぞ、コスモタイガー全機発進せよ」
『ヤマト』の艦尾発進口が開き、十数機のコスモタイガーが銀翼を翻して飛び立っていく、当然その翼下には敵空母に叩きつけるためのミサイルを満載している。
「コスモタイガー一番隊発進完了」
「同じく二番隊、全機発艦完了」
加藤と山本のコスモタイガー隊は一機も欠けることなく編隊を整え『ヤマト』を追い越していく。
「コスモ・ゼロ、発進」
最後に古代の駆るコスモ・ゼロが艦尾カタパルトから勇躍出撃、あっという間に編隊の先頭に踊り出ると目指すべき敵機動部隊へ向けて飛び去った。

「さて、始まりだな。波動エンジン点火、『蝦夷』発進」
「私たちも行きましょうか、両舷前進、『メリーランド』出撃します」
子龍中佐とニナ中佐の2艦も作戦計画に従って前進を開始した。
「全乗組員、いよいよ俺たちの初陣だ、目標は敵の大機動部隊と大変な大物だが、死力を尽くして立ち向かえば必ず勝てる。『ヤマト』と『メリーランド』の戦果を全部かっさらっていくつもりでいけ!!」
『蝦夷』の艦内で大きな歓声があがった。
「艦長より『メリーランド』の全員へ、これから戦いが始まります。敵は強大で我々は寡兵です。しかし決して無力ではありません、そして我々には地球人類とひいては全宇宙の命運がかけられています。その大義を胸に戦い抜いてください。皆さんとともに勝利を喜び合えるときを楽しみにしています」
『メリーランド』でも艦長の激に乗組員たちの歓声があがった。
この2隻は同時完成で乗組員たちも艦長と同じく同期や元同僚も多い、そのため自然とライバル意識が生まれていたのだが、今回はそれがよい方向に働いて新乗組員たちの過度な緊張を解いていた。
2戦艦は己に与えられた仕事を果たすために速度を上げた。

地球時間1710
白色彗星帝国第2機動艦隊は、太陽系で待つバルゼー提督の第1機動艦隊との合流のための最後の大ワープのための準備でおおわらわとなっていた。
本来第1機動艦隊のみでおこなうこととなっていた地球攻略作戦は、予定外の地球の備えに対応するために予備兵力を含めた全力でおこなうこことになり、分散して各地の警備にあたっていた第2機動部隊は急遽呼び集められて参戦することになって集められてきたのだった。
「ゲルン提督、全直援機収容完了、全艦のワープ回路の同調も完了しました」
「うむ、このワープが終わればいよいよ本隊とお目見えだ、植民地警備で腐っていたがようやく我らの本領を発揮できる」
第2機動艦隊司令官ゲルン提督は満足そうに答えた。
彼の第2機動艦隊は久しぶりに全艦揃っての艦隊行動となるので、最初はうまく陣形を組むことができずに運動もエネルギーロスが大きかった。実は地球側がこの艦隊を発見できたのはこれが原因だったのだ。
しかしそれも航海のうちに解消して、いまや万全に近い状態で戦えるようになっている。
本隊と合流すれば空母の総数は30隻近くなり地球艦隊は足元にも及ばなくなる、そうなれば艦隊決戦など待たずに地球艦隊を撃滅させ悠々とあの美しい星を占領することができる。
ゲルンは間近に控えているであろう輝かしい未来を想像してほくそ笑んだ。
だがそのとき。
「あれ、まだ帰艦していない部隊があったのか? 提督、ちょっといいですか」
「どうした?」
レーダー員の報告にゲルンはいぶかしげに答えた。
「いえ、おかしな編隊がいるんですよ。4時方向、プラス60度から速度80宇宙ノットでやってきます。識別信号は出していません、うかつなやつらですな」
「まったく、どの空母の所属機だ。もうワープに移らねばならないというときに、すぐに所属を問い合わせろ」
まさかゲルンもこんなところに地球軍の艦載機が現れるとは予想もしていなかった。ワープ準備のためにエンジンはエネルギー充填にまわされ、すぐに命令があれば飛びたてたはずの戦闘機も格納庫に固定されてしまった。
まったく呼びかけに応じない編隊に、さすがにゲルンも違和感を感じ始めたときにはすでに遅かった。
瞬時に全空母の甲板が火の海になり、ゲルンも衝撃で床へ投げ出された。
「奇襲だ!! 地球軍の奇襲だ!!」
乗組員の誰かの絶叫が艦橋に響き渡る。
事態を飲み込めずに呆然とするゲルンの眼前を、勝ち誇るかのように悠然と銀翼の戦闘機が駆け抜けていった。

23章 完

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