逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第24章 大撃滅戦!! 奇策を駆使して翻弄せよ!!

 『武蔵』と別れ太陽系へ向かう『ヤマト』
  だが、そこへ敵がさらなる増援をかけようとしているという情報が入ってきた
  ただちに迎撃に向かう『ヤマト』に新鋭戦艦『蝦夷』『アイル・オブ・スカイ』が合流
  新進気鋭のふたりの若き艦長とともに、白色彗星帝国第2機動艦隊に奇襲をかけることに成功する

「こちら古代、奇襲に成功、敵空母の飛行甲板はすべて使用不能!」
  コスモ・ゼロから奇襲成功の打電が『ヤマト』以下3隻、そしてコスモタイガー全機へと飛ぶ。
  敵の空母はすべて飛行甲板から炎を吹き上げて、なかには誘爆を起こしてさらによろめく艦もある。
〔こちら『ヤマト』、作戦第1段階成功を確認、ただちに全機撤収せよ!!〕
「了解、加藤、山本、引くぞ!!」
  ミサイルを使い果たした航空隊をこれ以上敵の上空にとどまることは危険だ、コスモタイガー隊は損害のないうちに全速で翼を翻した。

「主砲発射用意、1番2番各個に照準」
  『ヤマト』の艦首砲塔が敵艦隊へ向かって始動を始める。
「よし、作戦通り、まず戦艦を始末する。一隻も残すな、速攻で片付けろ!!」
  『ヤマト』はまだ白色彗星型の戦艦とは戦った経験が無いが、『武蔵』からのデータにより敵戦艦には強力な艦橋砲が装備されていることが確認されている。
  空母を先制して撃つこともできるが、放っておいた戦艦に横から撃たれてやられては意味が無い。
  真田の指示は南部から各砲塔へと伝達され、砲撃準備は着々と整いつつあった。

 そのころ、奇襲を受けた彗星帝国第2機動艦隊は大混乱に陥っていた。
  各艦から被害報告や指示を求める電文がひっきりなしに旗艦に流れ込み、回線はパンク寸前の状態だった。
  しかも命令を下すべき旗艦も攻撃を受けて炎上しており、指揮官ゲルン提督は外と内の対策を同時に打たねばならず、とても余裕などなかった。
  そしてそれはレーダー員からもたらされた報告によって決定的となった。
「提督!! 4時の方向、20万宇宙キロに艦影を確認!! 速度27宇宙ノット、データ照合……これは、『ヤマト』です!!」
「なに!? 『ヤマト』だと!!」
  ゲルンもその名は聞いていた。ただ一隻で猛将ゴーランド提督のミサイル艦隊を破り、テレザート守備隊を全滅させた艦。
  しかし、それがこのようなところに現れようとはゲルンの想像力を軽く超えていた。
「なぜこんなところに、我々の位置をどうやって知ったというのだ? ええい、全護衛艦群に『ヤマト』を攻撃させろ! いくら『ヤマト』でもこちらは戦艦だけで20隻、包囲して押しつぶしてやれ!」
  混乱した通信回線に今度こそ明確な命令が飛んだ。
  空母の炎上を手をこまねいて見ているしかできなかった護衛艦隊は、雪辱を晴らさんとばかりに『ヤマト』へ艦首を向けていく。
  しかし全艦の回頭が完了するより早く、最前列にいた戦艦を火炎が包んだ。
「な、何事だ!?」
「『ヤマト』です、長距離砲で攻撃してきます!」
  愕然とするゲルンの眼前で、さらに一隻の戦艦が艦橋基部を撃ち抜かれて司令塔をもぎ取られた鉄くずに変わっていく。
「おのれ、なんという射程と射撃精度だ、ならば全戦艦衝撃砲発射用意」
  ゲルンが発射準備を命じた衝撃砲とは、大型戦艦の艦橋と一体化している大型砲で、正面にしか撃てないが、代わりに当たれば戦艦ですら粉々にする威力がある。
「射程ならこちらも負けてはおらん、一発でも当たれば地球の艦ごとき粉々だ、10隻以上の戦艦の一斉射撃はかわせまい!!」
  たとえ『ヤマト』が一発で一隻を仕留めようとも、衝撃砲の発射準備が整ったときにはまだ10隻は健在なはずだ、ゲルンは勝利を確信していた。

「艦長、敵艦隊急速回頭、砲撃態勢に入ったもようです」
「そろそろ敵も反撃してくるぞ、長距離砲撃に気をつけろ」
「了解、しかしあれだけの敵の攻撃を回避しきるのは難しいな。頼むぞ、『蝦夷』『メリーランド』」
  島は操縦桿をつかむ手に力をこめながら、別行動をとっている2隻へとエールを送った。

 そして、その期待に応えるべく、2隻の新鋭戦艦は今こそ初陣に臨もうとしていた。
「艦長、敵戦艦部隊すべて『ヤマト』への攻撃コースに移りました。今奴等はこちらに横っ腹を見せています」
「よし今だ、全速前進、主砲射程に入り次第全力砲撃だ!」
  『蝦夷』が子龍艦長の命令に従い彗星帝国艦隊の右側面から一気に突っ込んでいく。
「機関全速、全砲門自動砲撃、当てる必要はありません。まず敵に我々の位置を認識させます」
  『メリーランド』もニナ艦長の指揮のもと左側面から突撃に移った。
  だが、その2隻にはどこから現れたのか数多くの艦影が後ろから付き従っていた。その数総計およそ40隻。

「ゲルン提督、我が方の両側面に新たな艦影を補足、艦数各20隻、地球人の新たな艦隊です!」
「なにっ、そんな馬鹿な!?」
  ゲルンはレーダー員の言葉を信じられなかった。
  地球人は本国を防衛するためにほとんどの戦力を土星圏に集結させていると聞いていた。しかもその総力でも現在対峙しているバルゼー艦隊の規模には及ばないもののはずなのに、地球のどこに40隻もの戦力を割く余裕があるというのだ。
「戦艦部隊を反転させろ、2部隊ずつに分けて敵の増援に対処するのだ!」
「しかし、すでに『ヤマト』への攻撃準備が完了しておりますが」
「馬鹿者!! この敵の数を見てわからんのか! 『ヤマト』は囮でこの艦隊で我々を挟撃するのが奴らの狙いだ。このままではいい的だ、早くしろ!」
  ゲルンの命令にようやく砲撃を開始しようとしていた戦艦部隊の各艦長は激怒したが、命令である以上従わなければならない。
「反転!!」
  涙を呑んで転進を命じた艦のいくつかは、その途中で『ヤマト』の砲撃を受けて轟沈した。

 一方、滅多やたらに撃ちまくりながら進撃してきた『蝦夷』『メリーランド』の2隻でも、敵艦隊が反転してくるのは確認していた。
「艦長、敵艦隊がこちらに進路を向けました。10隻程に減少していますが、間もなく敵の通常艦砲の射程にも入ります」
「釣られてくれたか、よしダミーバルーンを前に出して本艦は後方へ下がる。砲撃とバルーンの発光をよく混ぜてもうしばらく敵に気づかれないようにしろ」
  子龍艦長の命令で『蝦夷』は艦隊の先頭から入れ替わるように最後尾に回った。
  実は彗星帝国軍のレーダーに捉えられた艦影は『蝦夷』と『メリーランド』を除いて全て風船仕込みの偽者であった。
  これは『ヤマト』で使用されているダミーバルーンを大型化して、レーダーやセンサーをごまかせるように熱源発生装置や見せ掛けのレーザーなどを装備させた大掛かりなものであった。だが、本体はほとんどがらんどうであるし各種の偽装装置もそんなに上等な物ではない、『ヤマト』の艦内工場の設備と工作班の手だれを持ってしたら2時間程度で必要な量は余裕で確保できた。
「敵艦隊砲撃開始、先頭のバルーンに命中します」
  敵艦隊もそろそろ焦ってきたと見え、まだ回頭が済んでいないのに連射力に任せて艦首の回転速射砲を撃ちこんで来た。
「無駄なことを……」
  ニナ艦長は瞳を閉じて哀れむようにつぶやいた。
  実際敵艦隊の砲撃はダミー艦の船体を軽く貫通するだけでまったく損害を与えていなかった。敵から見たら外れたようにしか見えないだろう。
  これはバルーンの内部が多層式になっていて、ひとつの層が破られてもガスが洩れるのはそこだけであること。
  また、バルーンが一度膨らますと硬化して、密閉が破られてもすぐにはガスが抜けないことが理由であった。簡単に言えばセロハンテープを張った風船を針で刺しても割れないのと同じ理屈と思えばいい。
  しかもバルーンはいかにも発砲しているというふうに発光や噴射炎を噴出すので簡単には見破れない。
「とはいえ、いつかは見破られること。それまで戦艦3隻の火力でどれだけ敵の戦力を削れるか」
  敵戦艦部隊は3方向からの包囲攻撃に有効な反撃ができずに壊乱状態になってきている。しかしまだ敵には多数の巡洋艦と駆逐艦が残っており、これだけでも有効に運用すれば混乱した戦況を立て直すことはできる。
  しかも、あくまで攻撃目標は敵空母であるから、いつまでも戦闘艦を相手にしてはいられない。
「敵艦発砲、これは今までと違います!!」
  ついに完全に回頭を完了した白色彗星艦隊は必殺兵器である衝撃砲を放った。
  それはダミーバルーンを数個まとめて粉々に粉砕して、2戦艦にもかなりの衝撃を与えた。
「敵の大型艦橋砲、こりゃ想像以上だ。敵艦の延長線に本艦が入らないように注意してこちらに艦首を向けてくる奴を優先して撃破しろ」
  子龍艦長は彗星帝国軍の底力に驚嘆すると同時に適切な指示を下すことを忘れなかった。
  それはニナ艦長も同じで『メリーランド』も不自然にならないように下がっていく。

「コスモタイガー隊、全機補給完了。発進するぞ!!」
  戦艦が護衛艦を引き受けている間に加藤と山本のコスモタイガー隊は補給を完了していた。
  再びミサイルを満載して、敵空母にとどめを刺すために飛び立っていく。

 そして、『蝦夷』と『メリーランド』が敵戦艦の眼をそらしている間に、ついに『ヤマト』は主砲射程に敵空母を捉えていた。
「よし、護衛の艦にはもうかまうな。空母だけを狙い打て!!」
  一番の脅威であった敵戦艦が『蝦夷』と『メリーランド』のほうに注意が向いている以上、今『ヤマト』は好きに敵空母を撃てるということになる。
  巡洋艦や駆逐艦程度なら距離が開いている以上、射程に勝る『ヤマト』の敵ではない。
「照準よし、第1第2砲塔射撃準備完了」
「発射!!」
  『ヤマト』から満を持して46糎衝撃波砲が放たれた。
  哀れにもその最初の目標となった中型空母は、船体と飛行甲板の連結部分を貫通され、三つに分解しながら轟沈した。

 友軍空母の轟沈の模様は、当然のごとくゲルンの旗艦空母でもはっきりと捉えられていた。
「中型空母コーペンス轟沈!!」
「な、なんということだ、護衛艦隊は何をしている!?」
「『ヤマト』の射程があまりに長く、まだ有効射程に到達できていません。それに、先程の敵機が去り際に妨害物質を散布していったらしく、命令の伝達が全艦にうまく伝わっていかないのです」
「なんだと! なぜそれを早く言わん!?」
「それが、この宙域は自然の電波障害がまれに発生しますもので、それとの見分けがつかずに」
「ええい、信号弾を使え。護衛艦隊はすべて『ヤマト』を含む敵艦隊へ突撃、空母艦隊はそのあいだに全速で退避するのだ!!」
  ゲルンの怒声におびえながらも兵士は連絡用信号弾を発射する用意に取り掛かった。
(よし、これでなんとかなるだろう)
  ゲルンはどうにか状況を打破できる策を打てたことに安堵した。
  目の前で2隻目の空母が『ヤマト』に血祭りにあげられたが、それは許容範囲内だ。
  しかしこのとき宇宙の神は徹底的にゲルンを見放していたらしい。
  旗艦空母が信号弾を上げるのと同時に、旗艦の隣にいた別の空母が救援要請を告げる信号弾をあげてしまったのだ。
  見方によっては旗艦が救援要請をしているとも取れるこの信号弾によって護衛艦隊は混乱に陥った。
  本来の命令に従って攻撃に向かおうとする艦と、救援に向かおうとする艦が入り混じり、指揮下の艦や上位の艦が自分の受けた命令とは異なった行動を取り出して、隊列などもうめちゃくちゃとなってしまった。
  そこへコスモタイガー隊が殴りこんできたからたまらない。
「なにをやっているのだ、命令を守らんか! おのれ、急いで退避しろ、ここにいてはやられる」
  だがそのとき床が激しく振動し、ゲルンは床に叩きつけられた。
「な、なんだ!?」
「地球艦載機の第2次攻撃です。機関部をやられました。出力30パーセントダウン!」
  ゲルンの脳細胞、とたんにフリーズ状態に陥る。
  コスモタイガー隊は空母に逃げられまいと艦橋や機関部に攻撃を集中した。これによって乱れていた隊列が手のつけようも無いほど救えなくなる。
  もちろん、そうこうしているうちにも『ヤマト』は艦隊の端から一隻ずつ空母を仕留めていく。
  しかし混乱していた護衛艦隊の中から、自発的に『ヤマト』へと突撃をかける者が現れた。彼らは届かぬと分かっていながらも、めったやたらに砲とミサイルを撃ちながら少しでも注意を引こうと一心不乱に『ヤマト』へ向かっていく。

「敵ながらあっぱれな連中だ。しかし我々も負ける訳にはいかない。副砲及び魚雷発射管開け、目標敵護衛艦隊」
  それまで暇をかこっていた『ヤマト』の各武装が待ってましたと火を噴く。その照準は正確無比。
  一方の彗星帝国艦隊は隊列を組むことさえできなかったために、先頭にいるものから順に各個撃破されていく。まるでもぐら叩きのよう。

 だがそのころ、『蝦夷』と『メリーランド』は、ようやく様子が変だと気がつき始めた敵戦艦部隊の残存艦からの集中攻撃を受けていた。
  まだ仕掛けそのものには考えが至っていないようだが、唯一攻撃を仕掛けてくる2隻に向かってそれぞれ3隻ずつが復讐の砲火を向けてくる。
「トリックもここまでか、もう少しいけると思ったんだがなあ」
  子龍艦長は収まりの悪い頭髪をかきむしって、眼前を通り過ぎる敵のエネルギー弾を見つめた。
  できることならば、最後まで敵にはトリックに気づかずに逝ってもらいたかったが、気づいたものはしょうがない。近距離砲戦では艦数と手数に勝る敵のほうが有利だ。
  しかも、敵の大型艦橋砲も隙あらばとこちらを狙ってくるために、こちらはゆっくり照準することもできない。
「じゃあこちらもそろそろ奥の手を使うぞ。煙幕展開!」
  とたん、『蝦夷』の艦体のあちこちからブワッと黒煙が吹き出し始めた。
  敵はこれを見て『蝦夷』が爆沈するものかと一瞬喜んだが、どうも炎も出ないし、第一いくらなんでも煙の量が多すぎる。
  しかも煙はどんどん広がって、たちまち視界を覆いつくすほどになってしまった。もちろん『蝦夷』の姿はもう見えない。
  彗星帝国艦隊もようやくこれが煙幕と分かって、いぶりだそうと砲撃を撃ち込むが、妨害物質がてんこ盛りに含まれてる上に目くら撃ちでは当たりはしない。
  もちろん反対側の『メリーランド』のほうでも同じような光景が展開されていた。
  彗星帝国艦隊、予想外の事態に狼狽する。野蛮人の原始的な作戦だとしきりに罵倒する。しかし、これを原始的だと罵倒することがそもそも頭が固い、温故知新と言うではないか、古いものの中に新しい発想を見つけ出すのはむしろ賞賛されるべきことだ。
  やがて、大方の罵倒を言い尽くした彗星帝国艦隊の艦長達が、まあいいこれでは敵もこちらが見えないから攻撃はできまいと、気を取り直していると、突然背後から砲撃を受けた。
  何事かと思っているうちに第2第3の攻撃が来る。なんとそれは反対側で戦っていたはずのもう1隻の戦艦の煙幕の中から来るではないか。
  見えないはずなのに何故か? と言えば、いつの間にか彼らの上空にやってきていた数機のコスモタイガーの仕業であった。制空権を完全に取ったことによって攻撃を終了して手空きになった機がそれぞれの位置を事細かに報告していたのだ。
「敵戦艦A、距離7.1宇宙キロ、座標AX0200」
「照準固定、撃ち方用意完了」
  見えない目標に向かって『メリーランド』の砲身が暗闇の中で動く。狙いが遠いだけあって少しのずれが命取りになるだけあり、慎重に慎重を期する。
  だが、それにしても何故目の前の敵ではなく、離れた場所の敵をわざわざ狙うのだろう。それは、敵が背後の敵は味方が抑えているから、そちらから攻撃は来ないだろうと安心しているからだ。
  よって彗星帝国艦隊は、目の前で敵が自分の位置を暴露する砲撃を行っているというのに、後ろから飛んでくる砲弾に気を取られて右往左往。
  つまり、ゲームの最中に相手が突然変わってしまったようなもの、当然手の内が読めずに有効なカードを切れない。
  哀れ、彗星帝国戦艦部隊は、己の敵に最後まで翻弄されてその運命を終焉させた。

 残る空母艦隊も、息も絶え絶えな状況なのに変わりはなかった。
  全ての空母が火災を起こし、もう空母としての役割を果たせるものは一隻もいない。
「大型空母サラトナ、爆沈!! ゲルン提督、もう防ぎきれません」
「残存艦はあとどのくらい残っている?」
「はっ、空母はあと本艦を含めて7……いえ、今6隻になりました。巡洋艦、駆逐艦はまだ40隻近く残っていますが、いまだ通信が回復せず、統率がとれません」
「そうか……全艦に撤退命令を出せ」
「提督、それでは!?」
「もう、戦局の建て直しは不可能だ。しかし誰かが生き残ってこのことを本隊に伝えねばならん。撤退用の信号弾なら確実に全艦に伝わるはずだ、急げ!」
  ゲルンは撤退を指示する大型の信号弾が上がったのを見届けると、自身の銃で自らの心臓を撃ちぬいた。
「バルゼー司令……私は……負けた……」
  ゲルンが息絶えるのと同時に、彼の艦は『ヤマト』の砲火を浴び、主人の後を追った。

「敵旗艦とおぼしき大型空母を撃沈。残存艦も浮き足立っています」
「よし、この機に乗じて徹底的に戦果を拡大する。古代、一発残らず撃ちつくすつもりでやれ!」
「了解、南部、後部砲塔及び両舷と煙突ミサイルも使うぞ」
「はい」
「『蝦夷』『メリーランド』砲撃戦に参加します」
「来たか、よし、目標を割り振って集中を防ぐんだ。特に空母は一隻も残すな」
「了解。よーし、突撃だ!!」
「波動エンジンフルパワー、全速前進」
  『ヤマト』は最大加速で残った敵艦隊との距離を詰める。『蝦夷』と『メリーランド』も遅れてなるかと後を追う。
  主砲斉射、全弾命中で中型空母が一隻、律儀にかたわらで護衛していた巡洋艦を巻き添えにして轟沈する。

「主砲連続射撃、我々は敵の左翼を担当する。これが最後だ、砲身が焼け付くまで撃って撃って撃ちまくれ!!」
  『蝦夷』は、まるで伝説のドラゴンのごとく、吐き出す火炎で次々と敵を焼き払いながら突撃する。
「敵右翼を殲滅します。回頭しようとこちらに艦腹を見せるものから優先して狙いなさい。敵はまだ数は残っていますから迎撃ミサイルの準備も忘れずに」
  『メリーランド』は粛々と、弓の女神アルテミスのように精密な射撃で敵を射抜いていく。
  3隻の戦艦の猛攻に彗星帝国艦隊は次々に撃ち減らされていく、コスモタイガー隊もここぞとばかりに機銃掃射を加える。
  やがて、かろうじて20隻ほどの護衛艦がほうほうのていで追撃網から脱出して、ようやくこの戦いは終結を見た。

「追撃中止、これ以上の深追いは無用だ。作戦完了、ご苦労だった」
  土方司令の命令によって、まずはほっとした空気が、遅れて勝利の歓声が全艦に響き渡った。
「敵空母の完全撃破、護衛艦隊も大半を撃沈、大戦果ですね」
「ああ、これで地球艦隊は戦力的に対応可能な数の敵とだけ戦える。おい、それより南部、今戦った敵の情報を地球本部へ送るのを忘れるな」
「もうやっています。今戦った敵の艦種は地球圏に集結しているものと同じやつばかりです。これで、情報的にも我々はだいぶん有利に立てますね。『武蔵』からいただいた資料は出所が言えませんから、伝えようがありませんでしたから」
  南部はてきぱきと資料を整理すると、地球へ送るために相原にファイルを転送した。
  そして相原がそれを送信するのと同時に、通信が彼の席へ入ってきた。
「艦長、『蝦夷』と『メリーランド』から入電です。やっこさんたち、きっと初勝利に大喜びですよ」
  やがてメインスクリーンにふたりの艦長の姿が現れた。
〔土方司令、任務完了いたしました。本艦の損害微小です〕
〔本艦も同様に、総員意気軒昂ですわ〕
  子龍とニナのふたりとも、顔を引き締めているものの、初陣の勝利した喜びがじわりと伝わってくる。
「両艦ともよくやってくれた。初めてにしては上出来だ、冷静沈着な戦いぶりだったぞ」
〔はっ、き、恐縮です!!〕
〔ありがとうございます〕
  土方司令も若き戦士の活躍ぶりに、相貌を緩めて称え、ふたりの艦長は素直に感謝してそれを受けた。
  だがやがて土方司令は表情を引き締めてふたりに言った。
「だが、これで気を緩めないように。戦いはまだまだこれからだ、気の緩みから勝てた勝負に負けた例は歴史上いくらでもある。君達もそうした愚か者と同列に見られたくないのなら、今回の緊張感を常に忘れず、常に己を見直しているように心がけたまえ」
〔はっ!!〕
  子龍とニナは力強く敬礼で返した。その瞳には一点の曇りも無い。
「両舷始動、取り舵40度、これより本艦隊は地球に向けて帰還する!!」
  『ヤマト』は2隻を引き連れて太陽系への航路を取った。
  そこには敵の主力艦隊と、白色彗星本体が待ち構えている。
  その戦いから『ヤマト』が除外されることは決して無いであろう。なぜならそれが歴史を変えるために必要なことなのだから。
(『武蔵』よ、未来からの使者よ、我々は第一関門を突破したぞ。貴艦もこれから戦いにおもむくのだろう。頑張れよ)
  はるかかなたの空を、新しい歴史を開くために飛んでいるであろう『武蔵』。
  その武運を祈るエールは、果たして光の速さを超えて『武蔵』へ届くのだろうか?
  歴史に記される戦いの一幕が終わり、歴史に記されない戦いの幕が上がろうとしている。

 24章 完

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