太陽系第三惑星『地球』、そしてその唯一の衛星である『月』
そこには複数の民間コロニーが存在し、同時に地球連合統合平和維持軍及び地球連合宇宙軍月方面軍が駐留する。
そしてその上空…静止軌道上で複数の光がまたたいた。
「統合軍第5艦隊、通信途絶!」
「フィールド出力60パーセントへ、敵艦隊なお接近中!」
「ウリバタケさん、エステバリス隊の発進準備を急がせてください!ハーリー君、リョウコさん達が発進次第グラビティブラスト発射!」
ここ、宇宙軍第四艦隊所属、試験戦艦『ナデシコB』では突如出現した20隻に及ぶ国籍不明艦隊の奇襲を受け、苦戦を強いられていた。
何もない空間から突如現れた艦隊はいきなり『ナデシコB』に攻撃を仕掛けてきた。
たまたま近くにいた統合軍第五艦隊は、敵艦隊の出現をうけ、背後から襲い掛かるがミサイルは全て敵艦に命中するもキズすらつかず、グラビティブラストを撃つ前に敵艦からの主砲ビームに蜂の巣にされ、参戦してからわずか1分で壊滅してしまった。
『よっしゃー!ルリルリ、準備完了、いつでもいいぞ!』
彼らが直面している最悪の状況を一掃するかのように元気のいいウリバタケの声がブリッジに響き渡る。
「エステバリス隊発進!」
ルリの号令をうけて、4機の赤、オレンジ、水色、青とカラフルな塗装が施された人型機動兵器が『ナデシコB』から飛び出した。
Time for parallel 2201
YAMATO2520and機動戦艦ナデシコ
Vol.3
邂逅
「ようし、とっとと蹴散らすぞお前ら!」
「うんうんちゃっちゃとかたずけちゃおう!」
「叩く叩く叩く!」
「まっ、ちょっとばっか本気でいきますか。」
赤い機体…スバル・リョウコの機体を筆頭に、アマノ・ヒカル、マキ・イズミ、タカスギ・サブロウタら4機はスラスターを全開にしてこちらに向かってくる敵編隊の迎撃に向かう。
一方、ナデシコの方からもエステバリスの発艦と同時にグラビティブラストが発射される。
ナデシコから発射されたソリトン重力波は前方から迫る敵編隊の中央に穴をあけ、そのまま敵戦艦にすっ飛び、命中する。
だが、重力波は敵艦の装甲をブチ破るどころか装甲上でむなしく拡散するだけだった。
「ダメです、こちらのグラビティブラストは全く効いてません!すべて弾かれてます!」
(そんな…!)
唖然とするルリ。相転移砲に次いで強力な兵器であるグラビティブラストが効いていないことに、彼女の中で何かが崩れ落ちてゆく。
普通、どんなに頑丈な装甲でもフィールドを張らない限り絶対的な破壊はまぐがれない。相手がフィールドを張っていないからこそルリはこの一発に期待していたのだ。
だが…相手の装甲は今までの概念を覆すほどの物らしい。どちらにせよこれでナデシコは窮地に立たされてしまった。
そもそも試験戦艦であるがため装備はミサイルセル16発とグラビティブラスト一門のみ。そして双方が相手に対して効果がないと判明した時点で無残にも最後の希望も打ち砕かれた。
「ハーリー君、敵艦をフルスキャンして比較的防御の弱い個所を探してください。そこに全火力を集中させます!」
「了解!」
彼の顔にも余裕がない。必死の形相でスキャン作業を行っている。
ルリも表面的には冷静を装うが、内心では激しい緊張を強いられていた。
そう、これまでの感じたことのない劣勢に追い込まれたがゆえに…。
「クソッ、ちょこまかと動くんじゃねえ!」
一方エステバリス隊は敵編隊と交戦状態に入っていた。
しかし、戦果は一向に上がらない。
レールガンを発射してもあっという間によけられてしまい、ミサイルもキズをつける程度に留まっている。かといって接近戦に持ち込もうとしたら機首の触覚状の先からレーザーが発射してくる始末だ。
おかげで彼らは迎撃するどころか、逆に敵編隊の迎撃を受け必死に攻撃を避け続けていた。
「しつけえんだよ、こいつら…!」
執拗に攻撃を仕掛ける3機に対し、ムダだと知りつつもレールガンを発射するリョーコのエステバリス。
この三機の攻撃をよけているうちに他の味方のエステ三機と離れ離れになってしまったのだ。三機をまくため後ろをむいたその時…。
「な、なんだ!?」
そこには恒星の輝きの如き光が、彼女の目の前に出現した。
「左20度方向にタキオン粒子反応検知、空間歪曲が発生しています!」
「なんですって!」
ハーリーの興奮したかのような声とともにその宙域の映像が映し出される。
そこには光の粒子が集まって光の球体となし、それが縮んで一際輝いたと思いきや、突如弾かれたかのように円盤型に展開し、その中心に空間歪曲が発生した。
そしてその中から、さながら宇宙の深淵から浮上するが如く何かがゆっくりと姿をあらわす。
「あれは…敵?それとも…。」
「なんだ!」
「ぶ、ぶつかる!」
空間歪曲から通常空間へとゆっくりとワープアウトするYAMATO。だが艦橋が通常空間に出た途端、一機の紅い人型機動兵器が突っ込んできた。
「チッ!」
舌打ちしながらもリョウコはIFSを操作して機体に逆噴射をかけ強引に衝突を回避する。
さらにその戦艦の上空を追尾してきた三機が通過していった。
「…戦争してんじゃん。」
目の前の光景に唖然とするナブ。
通常空間に出たYAMATOクルーが見た物…。
それはこの世界の地球戦艦と黒色艦隊との艦隊戦だった。
だが、傍目でみても地球側は圧倒的に不利な状況にあるようだ。
「左20度、敵戦闘機3機接近!」
「全艦非常戦闘体制!迎撃ミサイル発射用意、艦載機発進準備急げ!」
シマの指示を受け、ナブとスピード達は艦載機格納庫に向かうべくリフトに乗り込む。
その一方レオンがひっきりなしにコンソールを操作する。
「迎撃ミサイル発射用意…準備完了!」
『戦闘モードに切り替わります。』
準備がおえた時点で戦闘モードに入るYAMATO。それと同時に艦内の補助照明が落とされる。
接近して来た戦闘機がYAMATOにレーザーを撃ち、甲板に命中するが弾かれてしまう。お返しにとばかりに艦首にある6基のミサイルセルから発射された短距離迎撃ミサイルによって撃墜されてしまった。
「超ヘビー級の戦闘艦です。全長約400メートル、船籍は…アンノウン!」
一方、『ナデシコB』でも突如現れた国籍不明艦に対応を窮していた。円盤状の敵艦と違いどちらかと水上艦のフォルムを持つ艦は明らかに何処の国家の物ではない。
(それ以前に、あれだけの艦の建艦技術自体、連合や木連はもちろんのこと、ネルガルやクリムゾンにはないはず・…。)
迷っている所でスクリーンに映る戦艦の砲塔が動き出す。砲塔が敵戦艦に向けられるとそこから青いビームが発射される。
ビームはそのまま敵戦艦の艦腹に命中、弾かれることもなく爆発、四散した。
「ハーリー君。あの艦が使った光学兵機の種類、特定できます?」
「一種のプラズマビームと思われますが…所細は不明です。多分連合が所有する技術と比べても…数世代は進んでいる物と…。」
語尾に若干震えが混じっていた。あの艦への畏怖の念を感じるがゆえに。敵か味方かもわからないからなおさらだ。
しかし彼らがもう少し冷静なら気づくはずだ。なぜ、地球連合側の戦艦のビームやグラビティブラストを吸収、もしくは弾き返したのにYAMATOの主砲はそうでないかということに。
これはひとえにテクノロジーの違いと言える。
暗黒星雲を領域に含むテザリアム星の艦船は外宇宙にでるとなるとどうしても暗黒星雲を通過する必要がある。しかしその星雲の中は通常宇宙と違い、センサー、通信が全く使えなかったり、何らかの対抗措置をとらない限り通過するのは自殺行為といえる宙域等、宇宙の神秘性と凶悪性を併せ持つ空間なのだ。
そのため航宙技術でもとりわけ亜空間技術が2520年度の地球連邦の技術水準にせまるくらいまで発達していた。それらの技術は民間から軍事レベルまで幅広く応用されている。そしてそれらの技術の一つがこの戦闘でも顔を見せている。
見た目ではわからないが黒色艦隊の艦の周囲には極僅かな亜空間フィールドが張ってある。この技術は元々暗黒星雲内の航行をサポートするために開発された物だが実質上一種の防御シールドの役割も果たしている。
このフィールドはある程度のエネルギービームなら吸収して自艦のエネルギーにまわすこともでき、それが不可能な場合でも重力波など磁性をもったものなら弾き返すことが出来る。『ナデシコ』のグラビティブラストが聞かなかったのもそのためだ。
しかしビームや重力波のエネルギーがフィールドのキャパシティを越え、なおかつ集束されていれば打ち破ることも出来る。その証拠に暗黒星雲内での対初代ヤマトとの戦闘においては主砲の一撃で簡単に撃沈されている。
しかも彼らが相手にしているのは初代と比べ物にならないほど火力と機動力、そして防御力をもった未来のヤマト…第18代宇宙戦艦YAMATOなのだ。フィールドの強度を高めようがYAMATOの前では薄紙も同然である。
『ナデシコ』にも次元センサーがあればそのことに気づいたかもしれないがそれが無い以上、気づきようない。そういう事実が把握できない以上YAMATOに対し畏怖の念を抱くのも無理が無い。
もっとも状況はそんな考えを数秒で終わらせるほど過酷な物へとなっていく。
「サクラ准尉、あの艦へあらゆる周波数で呼びかけてください。ハーリー君、引き続きスキャンを続けて。」
「了解!」
「ハ、ハイ!」
他の敵艦もYAMATOの存在を脅威と見たのか、大型ミサイル発射用に特化させた改プレアデス級戦艦2隻を残し全力で攻撃するがビームはことごとく弾かれ、逆にYAMATOの主砲の餌食になった。
まともにいっても勝ち目は無いと悟ったのか敵戦闘機の4編隊ほどがその艦の艦底部から攻撃を仕掛けようとする。だがそれも艦底部に設置してあった主砲の砲撃を受けあっさりと全滅する。
そんな一方的な戦闘が続く中、艦底にある艦載機発艦口が開き、次々とYAMATOの艦載機が発進した。
「チッキショウ、しつこいんだよてめえら…ウワ!」
リョウコの機体の左腕が背後から迫る敵機のレーザーを受けて吹っ飛ぶ。同時にコクピットの表示が重力ビーム受信部の損傷を伝え、パワー供給システムがバッテリーに切り替わったことを伝る。
「ハハハ…そろそろ年貢の納め時かよ…。」
自嘲の笑みを浮かべコクピットの中でそう呟くリョウコ。
既に彼女の機体の弾薬は使い果たし、しかもこの距離ではナデシコにたどりつく前にバッテリーがそこをついてしまい、動けないところを攻撃してくるのは目に見えている。
だがその前に追撃してくる三機に袋叩きにされるのが早いかもしれない…。すでに彼女の機を包囲し、攻撃態勢を整えている。
(すまねえルリルリ、どうやら生きて戻れそうにもねえ…。)
リョウコは覚悟を決めた・…その時、先頭の一機がいきなり爆発した。
「なんだ!」
他の2機も、下方からのレーザー攻撃を受け爆発する。その爆煙の中から2機の流麗なフォルムのノーマル戦闘機が飛び出した。
そのうち一機がこちらに近づき、中に乗っているパイロットがしきりに手を振っている。
(こっちへこい…て言ってんのか…。)
そう思った矢先、いきなりビームがこの2機に襲い掛かった。
気が付くと敵戦艦の近くまで知らないうちに接近していたのだ。
「クッ!」
回避行動に出ると同時に距離をとるリョウコ。例のノーマル戦闘機も同様に回避行動に出る。そして安全圏にまで退避し、飛び去ってゆく。
リョウコもその機に続いていく。そしてその目の前には、あの空間歪曲から出現した国籍不明戦艦がただずんでいた。
例の戦闘機は上下あるうち下のハンガーデッキに着艦する。それを見てリョウコは愛機を上のハンガーデッキに突っ込ませた。
彼女の機体は床面へこすりつけながらも…何とか停止した。それと同時に後部のエアロックも閉じられる。
「なんとか成功と…おっと!」
いきなり機体がガクンとゆれる。機体がフックのような物に固定され、上に持ち上がっているみたいだ。
上昇が数秒ぐらい続くと前に向かって移動し、停止した。
「止まったか…とりあえず降りてみるとすっか。」
コクピットが開き、機体から降りるリョウコ。
どうやらこの戦艦の艦載機格納庫らしい。彼女の機体の前にあのノーマル戦闘機と同型の機体が一機駐機していた。
機体の大半は出撃しているらしい。外の騒々しさと比べ、この格納庫はあまりにもひっそりしている。
その時、後方の方から艦載機が一機引き上げられ、そのままリョウコのエステの後ろで止まった。おそらく彼女のエステを誘導した機体だろう。
その機体の風防が前のほうにスライドし、中から一人のヒューマノイドがヘルメットを脱ぎながら降りてきた。
「に、人間!?」
そう、どっから見ても、自分達と変わらない姿の若者がそこにいた。
未だかつて見たことのないテクノロジーを満載していた艦だけに今度こそ本物の異星人が乗り組んでいると思っていたリョウコは、驚きのあまり呆然と突っ立ているしかなかった。
「なにボケっと突っ立っているんだ。ついてこいよ。」
若者は突っ立っているリョウコに気づき、気楽な態度で話し掛けてきた。
「お、おう。」
リョウコもついつられて返事を返す。そして若者の後についていった。
「敵艦より大型ミサイル4接近!」
「全速回避、迎撃ミサイル発射!」
直ちに『ナデシコ』からミサイルが発射される。だが命中したものを破壊するには至ってない。
ナデシコクルーは知らないが黒色艦隊のミサイル艦から発射されたミサイル…空間重魚雷は本来ヘビー級戦艦や大型要塞攻略用の大型徹甲弾である。
そのため弾頭自体の装甲も強固なため、直撃しない限り破壊することはできない。
それでも、命中時の爆発の影響で2発が直撃コースから逸れた。しかし2発がコースを買えることもなくまっすぐナデシコBに向かってくる。
距離500で一発がミサイル攻撃に耐えきれず破壊される。そして最後の一発が400まで迫ったとき、唐突とミサイルが止んだ。
「ミサイル、残弾ゼロ!ダメです、もう打つ手がありません!」
ついに恐れていたことが起きてしまった…。
もともと『ナデシコB』はワンマンオペレーションシップ計画の実験艦として建艦された艦で戦闘を主目的とした艦ではない。
そのため武装も必要最低限のモノしか搭載されてなかったのだ。まさにこの艦のネックが最悪の形で現れようとしている。
「左舷側の乗員を右舷に避難させてください!総員、対ショック用意!」
激しいあせりを感じながらも冷静に努め、指示を出すルリ。そしてとうとうミサイルが弱りきったフィールドをたやすく突き破り、左舷ブレードに命中した。
「なあ、どこに向かっているんだ、このリフト?」
正体不明の戦艦のリフトに一緒に乗っている若者に尋ねるリョウコ。
少年はニヤリと笑みを浮かべながらその疑問に答えた。
「YAMATOのバトルブリッジさ。」
「YAMATO?それがこの艦の名前なのか?」
「ああそうさ。コスモアドベンチャースーパー宇宙戦艦YAMATO…。」
そうこういっているうちにそのバトルブリッジについたらしく、正面のドアが開く。
その目の前に通路があり、その先にあるドアをくぐり抜ける。
「うっひゃ〜。」
思わず感嘆の声をあげるリョウコ。
それほどこの艦のブリッジは広く、機能的かつ洗練されたものだった。
彼女が知るナデシコBやCのブリッジと比べても何もかもが目新しく見える。
「ナブ!」
「とっとと配置につけ!」
ナブと呼ばれたその少年は3層上の自席に駆け寄ろうとする。だがふと足が止まり、リョウコの方に振り向いた。
「いつまでメットかぶってるんだよ。ここは地球型の環境だから脱いでも大丈夫だぜ。」
「あ?ああ。」
ナブに指摘され、ヘルメットを脱ぐリョウコ。そして再びブリッジ内部を見渡す。
どう見ても地球や木連の代物ではない。だが乗っている者達は…少なくともこのブリッチだけを見る限り…全員自分達と変わらぬ姿だ。
(何者なんだ…こいつら。)
そう思いながら正面の大スクリーンに目をむけたその時、スクリーンの中で何かが光った。
「左20度の中型戦艦にミサイル命中!」
「何!」
悲鳴のようなセンサー担当要員からの報告にリョウコはもう一度スクリーンに視線を向ける。
閃光が収まり、艦の形が露わになってくる。
「ひ、ひでえ…!」
リョウコがそう呟くほど『ナデシコB』の損傷は酷かった。
直撃を受けた左舷ブレードは根元から消え去り、その周囲の区画もボロボロと外壁が剥がれ落ちてゆく。
フィールドも消滅したらしく、周囲に敵戦闘機や護衛艦が雲霞の如く群がり、攻撃を加えていく。
機関部から爆発が起こり、ナデシコは満身創痍とかしてゆく。
「アガ、全速であの艦の左舷へ回り込め。ナブ、レオン、主砲発射用意。」
『了解!』
「イエッサー!」
「おまえら…どうするつもりだ!?」
リョウコの叫びに近い声にナブは平然と答えた。
「決まってんだろ。あの艦を助けに行くのさ。」
「ハーリー君、被害報告!」
煙が立ち込めるブリッジでルリの声が響き渡る。
先ほどのミサイルの直撃はブレードのみならず右舷側外壁付近の区画までも崩壊させ、爆発時のフィードバックのせいでブリッジのコンソール数台が爆発を起こした。
ブリッジ下層ではミサイル直撃による衝撃と爆発で両舷コンソールにいた数名が投げ出され、今医療班員達の手で担架に乗せられ医療室へ運ばれてゆく。
「機関部に直撃、回避行動継続不能です!あ…敵艦隊ミサイル発射!」
いまにも泣き出しそうな顔で報告するハーリー。ブリッジのほうからも接近する12発のミサイルが見えた。
(もうダメ…かな。)
死が目の前に迫っているというのに、自分でも冷静なことに驚くルリ、いや、もしかすると恐怖のあまりその感覚が麻痺してしまったのかもしれない。
既に敵戦闘機の爆撃で脱出ポットもやられ、艦の全区画のうち3分の一が崩壊し、ただのうかぶ箱と化した『ナデシコB』…。
そして今、おそらく最後の攻撃であろう12発のミサイルがトドメを刺さんと迫ってくる。
(イヤダ…。)
諦めの感情に支配されたルリの心の中で何かが突き出る。
(イヤダ…死にたくない!)
アキトをユリカの元に…みんなの所へ連れ戻したい。
今この艦の乗組員達を…大切な人たちを助けたい。
そう、まだ自分にはやるべきことがたくさんある。
様様な感情がルリの心の中を駆け巡る。
(アキトさん…。)
クルーの手前、自分が悲しみに打ちひしがれた姿を見せるわけにはいかない。肘掛を握る手に自然と力が入り、来るべき衝撃にそなえる…しかしその金色の瞳からは今にも涙があふれそうだった。
「!…例の戦艦がこちらに向かってきます、信じられない加速です!」
「え?」
涙を拭いながらもウインドボール上のウインドウに目をむけると、あの戦艦が高速で近づいてくるのがわかる。それに敵艦隊が気づき、大型ミサイルを発射するが400メートルクラスの艦とは思えないほどの機動力で回避してしまう。
「冗談だろ…。」
この艦の加速もそうだが高速で迫ってきたミサイルを回避した機動力にリョウコは驚くしかない。
あっという間にYAMATOはナデシコの左舷まで接近する。敵ミサイル艦のうち一隻がYAMATOに向けてミサイルを発射する。
傷ついた我が子を身を呈して守るかのごとく迫りつつあるミサイルにその姿をさらすYAMATO。そしてその右舷後方には黒色艦隊が接近してくる。
「右70度方向に敵ミサイル艦2、さらに後方距離2300に敵艦隊接近!」
「敵艦隊及びミサイル、主砲射界に入りました!」
「1番から6番砲塔、発射用意!」
メガネとレオンの報告を受けシマの声がブリッジに響く。
甲板上の左舷側の砲塔3其がせり上がり、右舷側の3基と共にミサイルと敵艦隊にその鎌首を向ける。
その様子はバトルブリッジの正面ウインドウからもよく見えた。
「1番から4番、4番から6番、発射準備完了!」
「全砲塔、ターゲットロック!」
レオンに続きナブが復唱する。同時にナブのコンソールからガンタイプのトリガーがせり上がり、それを両手で構えた。
そして、YAMATOと『ナデシコ』が交差し、敵艦隊がYAMATOより右90度に位置に達した時、シマの号令が響き渡る。
「撃て!」
「全主砲、発射―ァ!」
トリガーが引かれると同時に各主砲の砲口から青いプラズマビームが飛び出した。
発射の衝撃か、艦体が幾分左に傾く。主砲口からあふれんばかりの勢いで飛び出したプラズマビームは接近してくる全ての存在に襲い掛かる!
ビームは接近して来た空間宙魚雷を消滅させ、そのままミサイル艦に向けてすっ飛んでいく。
すぐさまミサイル艦のFCSは自動的にフィールドのリミッタ―を解除しフィールドを艦首側に最大出力で集中展開、ビームを弾き飛ばそうとする。しかし今回ばかりは相手が悪かった。
たしかにそれなら初代ヤマトの主砲なら楽に防げたかもしれない。しかし彼らが相手にしているのは初代ではなく第18代YAMATO…全ての面において比べ物にならないほどのパワーを持つ艦を相手にしているのだ。
主砲の威力も初代とはとても比べ物にならないほど強力な物になっている以上、フィールドに触れた途端、フィールドジェネレーターがオーバーロードを起こし、フィールドが崩壊するだけだ。
盾を失った艦がたどる運命については、わざわざ語る必要はあるまい。
フィールドを瞬時に崩壊させられたミサイル艦はまたたくまに粉砕される。それでも勢いは収まらずビームはその後ろの敵艦隊に襲い掛かった。
直撃を食らった艦はバラバラに分解し、消滅した。
わずかにかすった艦もそこから衝撃波が艦全体に行き渡り爆発する。
ビームはさながらナイナガラ瀑布の如く行く手にあるもの全てを粉砕してしまった。
「おい…こんなのってありかよ…・」
信じられない光景に唖然とするリョウコ。その後ろでは…・。
「やったな!」
「へへ、当然だろ!」
「敵残存艦隊、弾幕は張りつつ後退します!」
と、YAMATOクルーがはしゃぎまわっていた。
「ようし!戦闘体制をとけ。」
シマも安堵した表情で戦闘終了を宣言する。
今、この世界にきて初の本格的戦闘は、YAMATOの圧倒的な勝利で幕を閉じた。
「敵艦隊、80パーセント壊滅・…残存艦隊は弾幕を張りつつ後退していきます。」
そう報告するハーリーの震えまじりの声はこのブリッジにいる全員の気持ちを如実に代弁していた。
それも無理もない。自分達の最大の兵器を持ってしてもキズすらつけることすらできなかった艦隊を、あの艦はたった一斉射で壊滅させてしまったのだから。
しかも、今回は助けてくれたが仮に敵に回ったら…・、
どのような手段を持ってしても勝つことはできないだろう…。まともにいけば。
『艦長!スバル中尉はそちらに戻っていますか?』
いきなりルリの正面にサブロウタの顔が映ったウインドウが展開される。
「リョウコさんに何かあったのですか?」
『さきほどの戦闘ではぐれてしまい、それから通信が途切れているんです。緊急着艦するとか言ってましたからそちらに戻っているものと…。』
『リョウコなら大丈夫よ、ルリルリ、サブちゃん。』
そこへきてパイロット三人娘のうちの二人…ヒカルとイズミが割り込んできた。
『リョウコならあの艦の着艦口に突っ込んでいったわ。』
ヒカルの言葉に続き、そうつけくわえるイズミ。その口調にはいつものおちゃらけた様子は微塵もない。それだけ、その戦闘が過酷な物だったという証拠だ。
『損傷し、危うく撃墜されそうなところをあの艦のノーマル戦闘機に助けられたみたいね。そのままあの戦艦に緊急着艦したみたいよ。』
「それじゃ、リョウコさんはあの艦の中に…!」
再びウインドウに目をやるルリ。
ウインドウの中で、その艦は右舷に艦を傾けながら180度ターンし、ゆっくりとこちらに向かってきた…。
「貴様!どうやらあの艦のパイロットのようだが…。」
男の声が後ろから聞こえ、慌てて振り返れるリョウコ。
艦長席にいた50歳台の男性がリョウコに近づいてくる。男は敬礼をしながら彼女の1メートル前で立ち止まった。
右手の爪先を伸ばし、胸のほうに持っていくやり方の敬礼といい、彼がきている白地にグレーと赤の配色がなされている服といい、明らかに地球連合のものではないことを改めて実感する。
それでも彼の軍人然とした態度におもわず返礼を返してしまう。
「地球連合統合平和維持軍中尉、スバル・リョウコ…。」
「統合軍だと、なぜ統合軍士官が宇宙軍の艦艇に乗っとった?」
シマのみならず、周りにいるYAMATOクルーも困惑の色を浮かべる。
彼らが合法、非合法問わず可能な限り集めたデーターを見る限り元からある宇宙軍と陸海空軍を統合した統合軍との関係は最悪で、士官を派遣するような関係でもない。
「今じゃ統合軍でもかつては宇宙軍に居たもんでね。先の『火星の後継者』の乱での任務にみずから志願したのさ。その後も『出向』という形でその指揮官の指揮する艦に残っている…。それよりもおまえら一体何者だ!?」
警戒するような視線をクルー達に向けつつそう叫ぶリョウコ。その視線におくすることもなくシマは平然としゃべり始める。
「申し遅れた、私は地球連邦宇宙軍大佐トーゴー・シマ。この宇宙戦艦YAMATOの艦長だ。我々は…。」
「言っとくがな、自分達は外宇宙から来たなんてふざけた答えは無しだぜ。返答次第じゃただじゃおかねえ!」
「それじゃ俺達はどの道あんたらの手で撃沈されるしかねえな。」
操舵席に座る茶髪の若者がリョウコの発言に皮肉めいた表情を浮かべてつぶやく。
それを聞いてリョウコは今にもつかみ掛からん勢いでその若者に迫った。
「おいてめえ!そりゃどういう意味だ!」
「どうもこうもしねえよ、もしその定理で言ったら地球以外の惑星に住む地球人は全員正体不明の宇宙人になっちまう。」
「アガの言うとおりだぜ、俺達は太陽系の出身じゃねえが祖先は全員地球の出身だ。この宙域にワープアウトしてきたのも、あんた達の艦を助けたのも別に何かを企んでやった訳じゃない。むしろ助けてほしいのは俺達の方なんだぜ。」
ナブの言葉にリョウコは冷や水を思いっきりぶっ掛けられたような気分になる。
そんなリョウコにシマは慎重に言葉を選びながら話し掛ける。
「今彼らがいったことはすべて本当のことだ。貴官が戸惑う気持ちは分かるが…。」
「ああ、全く訳わかんねえぜ…。この艦といい、機動性といい、主砲の威力といいどう見ても俺達の世界の産物じゃねえ!いきなり正体不明の艦隊に襲われ、もう終わりだと思ったらこの艦に助けられ、謎テクだらけのブリッジに飛び込んじまったんだ…これで戸惑うななんて土台無理な話しだぜ…。」
そのまま押し黙るリョウコ。その時マーシィが自席に座ったままシマに報告してくる。
「艦長、例の艦から通信がはいってます。今度は先ほどとは違いYAMATOで回収した向こう側のパイロットの安否確認を求めています。」
「そのパイロットの名前は?」
「スバル・リョウコ中尉です。」
「…こちらで保護したと伝えろ。通信をメインパネルへ!」
「サクラ准尉、あの艦からの応答は?」
その問いにサクラ准尉は首を振りながら答える。
「ダメです、全く応答がありません…あれ?」
その時、彼女が驚愕の表情を浮かべ、やがて喜びと変わった。
「応答がありました、艦長!」
「こちらにまわしてください、ハーリー君!」
「ハイ!」
「これからの会話をオモイカネと一緒に逐一監視してください。ウソをいっている素振りがあったらIFS経由で直接教えてください。」
「了解!」
「おい、みろよ!」
「うっそう信じられない!」
「まだ少女だぜ。」
メインパネルに映った指揮官を見て驚きの声を上げるクルー達。
無理も無い、そこに映っていた士官はどう見ても16、17歳ぐらいの少女だったからだ。
「…マジかよ、おい。」
「とうとう…、ここで極まったな…けどいくらなんでもキツかない?」
(おめえらも人のこといえねえだろ…。)
アガとナブの会話にリョウコが心の中で毒づいた。
メインパネルの少女は表情をほとんど変えることもなくしゃべり始めた。
『はじめまして、私は地球連合宇宙軍第四艦隊所属、試験戦艦『ナデシコB』艦長ホシノ・ルリ少佐です。あのう…教えてください、あなたたちは誰なんですか?』
「ホシノ・ルリだって!」
「それじゃ彼女が!?」
驚くYAMATOクルーたち、ホシノ・ルリと言う名の士官がひきいる艦がこの世界の太陽系内の内乱を鎮めたということは知っていたが、そのホシノ・ルリがこの少女だったことにYAMATOクルーらは驚きを隠せない。
そんな一方で、その少女の口調に戸惑いが入り交じっているのをシマは見逃さなかった。彼もまた淡々とした口調で話し始める。
「ホシノ艦長、私は宇宙戦艦YAMATO艦長、トーゴー・シマ大佐です。」
『シマ艦長、あなたがた全員…少なくとも私から見れば地球人のようにみえますが…少なくとも私達の知る地球人ではありませんね。』
「・…もしその疑問が我々がこの太陽系内の惑星及びコロニーの出身かということを指すのなら、その答えは『ノー』といわせていただきたい、ホシノ艦長。」
その後ルリとシマの間でいくつかの会話が交わされる。シマからは自分達がこの世界に踏み込んでしまった経緯を話したが、それ以上に込み入った話をしようとしなかった。
(ハーリー君、オモイカネ、どうですか…。)
そばでシマの会話をオモイカネと共に分析しているハーリーにIFS経由でルリが尋ねてくる。すぐさま答えが返ってきた。
(今の所ウソをついている兆候はありません。本当のことを話しているものとおもわれます。)
“データーが不足しているため完全な判断は不可能、しかし彼らが使うテクノロジーを考慮に入れるとなると、シマ艦長の話しは本当の可能性が高いと思うよ、ルリ。”
ハーリーの説明にオモイカネがそう補足する。
再びスクリーンに映るシマに目をむけるルリ。
『少なくとも現段階ではあなた方の話しをにわかに信用することはできません。とはいえ、あがた達のおかげで私達やリョウコさんが助かった訳ですし。』
シマのちょうどとなりに居るリョウコに目をむけるルリ、しばらくして笑顔を浮かべてシマに向き合う。
『ですから…いまはあなた達のことを信じます。』
その答えを聞き、ほっとした表情を浮かべるシマ。
「少佐、できれば直接そちらにいってこれまでの我々の経緯について話したいのだが…。」
『わかりました、本艦は修理のためドック艦、『コスモス』と合流します。合流次第こちらにおいで頂けますか?』
「…よかろう。」
シマはうっすらと笑みを浮かべ、軽く頷く。
『リョウコさん、すみませんがもう少しその艦に居てもらえます?』
「ああ、かわまねえよルリルリ!しばらくこの艦でのんびりしてみるのも面白そうしな。」
『それでは後程。』
それを最後に、『ナデシコB』からの通信が途絶えた。
その直後、『ナデシコB』はゆっくりと動き始めた。
「『ナデシコ』、微速0.5で地球に向けて発進します!」
「ようし、本艦も発進するぞ!『ナデシコ』後方20宇宙キロにつけ!微速前進0.5だ。」
「了解!」
シマの命をうけてアガがコンソールを操作する。その様子を横目で見ながらシマはリョウコの方に顔を向ける。
「さて、『ナデシコ』がドッグ艦と合流するまで、貴様にはいろいろと知ってもらわなければならんことがある。ナブ、マーシィ、例の資料の方は?」
「そうくると思ったぜ艦長。」
「いつでもいいですよ、艦長。」
元気のいい返答が帰ってきた。その様子にリョウコは気が気でならない。
「何を見せるつもりなんだ、艦長。」
シマの口元にほんのりと笑みが浮かぶ。その問にナブが代わりに答えた。
「『歴史』だよ。俺達の世界のな…。」
それを横目で見ながら、シマは目の前を航行する艦に目をやる。
今回この宙域にワープアウトする前に、時空間センサーも用いた上での念密なスキャンを行った。だが、数十分後の未来をあらたか予測できるとされている時空間センサーも僅かではあるが…誤差が生じることがある。
そして今回…皮肉にもその誤差が当たってしまったらしい。
…神の意志か…悪魔の所業か…それとも偶然か、どちらにせよこの世界とかかわってしまった。
はたしてその先に何が待ち受けているか…それに答えられる者は…誰も…いない…。
To be continued
あとがき
書き上げるよりも…推敲するのに時間がかかっていると言うのがここ最近のパターン…。
実質問題、この戦闘シーンも書き上げてからまた手直ししてますし…。
というわけで更新スピードも更に遅くなることは請け合い・…。
もっともその分満足のいく仕上がりを目指すつもりですので、そこら辺をご理解いただければ
幸いです。
とは言え、書いてるうちにやはり詰まってしまうことがあるわけで…そう言うときの大半はキャラ
が暴走したりしている場合が殆どだったりするわけで、そう言うときは基本に立ち返るため、『2520』
や『ナデシコ』を見直したりするのですが…それでこの作品で部分的に不味いと感じた所を手直しす
る始末。
どちらにせよ、ナデシコにしろ、YAMATO2520にしろ、ヤマトにしろ、人によっていろいろな思い入
れもありますし、この手の融合小説自体敬遠してしまう方がいらっしゃってもそれは仕方が無いことと思
います。
私自身双方のこの作品において、元の作品イメージは損なうつもりはありませんが、それでもれっきと
した一つの作品として、仕上げていくつもりです。
どのみち時間がかかりそうですが…じっくりやっていくつもりです。
と言った所で、本日はこれで…
By YAMATO
機動戦艦ナデシコはジーベックの作品です。
YAMATO2520はニシザキ・ボイジャーエンターテインメント、及び松本零士の作品です
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