(ここは・…)
ゆっくりとコンソールから上体を起こすナブ。
(そうだ、俺達はセイレーンに追われて、そして遺跡の通路に入ったんだよな…。その途中で頭がぼーとして…。)
周りを見渡すとバトルブリッジにいるYAMATOクルーも同様に気絶している。ここだけでなく他の部署も同様だろう。
ナブは自席から立ち上がると隣の操舵席に座るアガを起こしにかかる。
「おい、大丈夫か。目覚ませよアガ!」
ナブに体を揺さぶられ、目を開けるアガ。
「ナブ・…ここは…ジャンプに成功したのか?」
「とりあえず通常空間にはでられたけどな…ここがどこなのかは・…」
「全員…無事か?」
ナブの言葉が終わらないうちに艦長席に座ったまま気絶していたシマが開口一番そう呟く。
それを皮切りに、気絶していたブリッジクルーが目を覚まし始めた。
「艦自体に異常はありませんが…メインのセンサー系がダウンしています。直ちに補助システムに切り替えます!」
レオンがコンソールの表示を確認し、そう報告する傍らジャンプのショックでダウンしたセンサー系を初めとする艦の一部機能を補助に切り替え始めた。
「艦長、俺達は他の部署のほうも見てくる!」
「たのむ。」
ナブとアガが勢いよくブリッジから飛び出した直後、艦のセンサー系が機能し始める。
『全センサーシステム回復、位置座標特定開始します。』
YAMATOのメインコンピューターが柔らかな女性の合成音声で告げる。
中央のメインオペレーション席に座るレオンはコンソールを操作する。だがその表情はたちまち信じられないというような物へと変わる。
「位置は特定できたか?」
「はい、特定は出来ましたが…」
語尾の最後がトーンダウンした。
「センサーが完璧に機能しているのなら、我々は太陽系から8.5光年の位置にいます。」
シマの方を見ているレオンのその表情は、冷静さを保っているように見えても、その裏にある驚愕の感情は完全に隠し切れなかった。
「我々は、太陽系に戻っています!」
Time for parallel 2201
YAMATO2520and機動戦艦ナデシコ
Vol.1
困惑
「どういうわけだよ!竜座銀河に行くはずが太陽系に来ちまうなんて!」
YAMATOメインコンピューター室でコンマンが開口一番そう叫ぶ。
「しかし本艦が太陽系にきているのは紛れのない事実です。どこかで計算違いが起きたとしか考えられませんね。」
目の前のホロビューを見ながら答えるレオン。
「ナブ、マーシィそれで原因はわかったのか?」
シマの問いに先に答えたのはナブだった。
「コントロール装置そのものにそうなる要因はなかったな、ただ、ジャンプ中にどうやら外部から次元運河そのものに干渉があったみたいなんだ。」
「それが本来のこの艦の針路を捻じ曲げ、太陽系に出てしまったと思います。」
ナブの説明の後にマーシィがそう付け加える。
「セイレーンのモノポール砲が原因じゃ…。」
「それはないわ、この干渉波はなんらかのエネルギー兵器によるものなのは確かなんだけど、私たちのとは違う時空連続体からきたものよ。追跡してきたセイレーン艦の物じゃないわ。」
アガの疑問にマーシィが淡々と答える。
「まあ、起こってしまったことにはしょうがない。とにかく今はYAMATOの修理と現状の把握が最優先だ。」
シマがその話を一端打ち切ったところでナブが口を開いた。
「センサーと通信系統は30分もあれば復旧できる・…ただ艦長、ひとつ腑に落ちねえことがあるんだけど。」
「どうした、こういう状況になるほど活気付くお前がそんな顔で。」
幾分不安げな表情のナブにシマが今までの厳格な口調からあっけらかんとした表情でそう聞いてくる。
だがその反面、何かが起こっていることを彼の表情を見て感づいていた。
「第7艦隊はもちろんのこと、地球連邦のネットワークとのリンクが確立できないんだ。通信ができないというのじゃなくその反応すら察知できねえんだよ。セイレーンも同じく…・。」
「なんだと!」
シマのみならずここに集まっている主要クルー全員が驚愕の表情を浮かべる。片方ならまだしも両陣営のネットワークが使えないということ事態到底、次元運河をとおった過程で何かが起きたとしか考えられない。
さらにマーシィからの報告がそれに追い討ちをかけた。
「そのかわり、太陽系からかなり微弱な通信波が飛ばされています。メインセンサーが使えるようになればその内容を傍受できるはずです。」
「わかった。ナブ、マーシィ、復旧を急がせてくれ。その通信波を傍受できれば我々が次元運河にいる間なにが起きたのかわかる。」
「そうと決まれば今すぐにでも取り掛かろうぜ、みんな。俺の予想が当たっているのかどうか確かめたいし。」
「いいだろう。フリック、エンジンのチェックも急がせるんだ。解散!」
シマの言葉を最後に、YAMATO全クルーが各自の持ち場へと散っていった。
「なあナブ、予想てどんな予想だ?」
出て行く時に言った彼の言葉に機関担当のフリックが尋ねてくる。
その問いにナブは笑顔を見せずに答えた。
「さあな、俺自身確信があるって言うわけじゃねえんだ。いまいったらたぶん腹抱えて笑い出すと思うぜ。せいぜい俺の予想があたらねえことを祈ってくれ。」
その言葉に、フリックはしばし呆然としてナブを見送る。
それから20分後、損傷個所の復旧が完了し、太陽系の探査に入った。
もともとYAMATOなどの艦は探査調査のため連邦圏外の地域にでることが多く、その場合、修理のための資材や食料に至るまで全て自前で調達しなければならない。
そのための分子から物質を形成するレプリケーターや修理及び工場施設などは完備してあるのだ。つまりYAMATO一隻が20万都市と同様の機能を持っていると言っても過言ではない。
また艦の修復や航海補助のためのドロイドやアンドロイドなどを装備しており、仮に戦闘中艦体が損傷しても自動的にドロイドが修復してくれるためすぐさま機能を取り戻せることもできる。
そうした装備を駆使して普通なら1日かかる仕事を20分でやり終えたのだ。もっともドロイドなどの自動設備のみならずナブ達YAMATOクルーが総動員で修復にあたったことも関係しているのだが。
「どうだマーシィ、コンマン、侵入に成功したか?」
ここYAMATOのバトルブリッジより一段上にあるエクゼブティブ・ブリッジでマーシィとコンマンがそれぞれ自席でハッキング作業に取り掛かっていた。
最初は太陽系からくる微弱な電磁波を捉えようと躍起になったが、捉えたものを情報が欠落したり、一部YAMATOの物とプログラミング言語の違いがあったりしたため急遽ハッキングに切り替えたのだ。
これにはレオンが反対したが「状況を把握するためにはやむおえん」というシマの一言で決行がすんなり決まった。
そもそも規格外の代物だけに、セイレーン型のシステムのエキスパートであるマーシィと地球型のシステムのエキスパートであるコンマンが二人掛りで当たったのだが…。
「どうなんだよマーシィ。」
「うるさいわね、成功したわよ!あまりにあっけないほどにね。」
マーシィはナブのしつこさに辟易しながらも困惑した表情で答える。
「ほーんと、結構ハードなセキュリティがかかってると思ったらふた昔前以上のもん使っているもんなあ。あまりにあっけなさすぎるぜ。」
コンマンがかけているバイザーを光に反射させながらマーシィのほうにいるナブ達に振り向く。
「それだけじゃないわプログラム形態のみならずシステム自体も相当旧式なものよ、ざっとみて300年前のものとにているわね。」
『300年…』
マーシィの言葉に全員が息を飲む。とくにナブは厳しい表情でハッキング状況をモニターしているメインスクリーンに視線を向けている。
「なあ、そろそろいいんじゃないかナブ、おめえが恐れている予想ってやつをよ。」
そう言うアガに対し、ナブが振り返った。
「まあな、あのジャンプの干渉が原因で別の宇宙に飛ばされた、つまり俺達が今ここにいる空間は俺達が知る世界の物じゃないということさ。」
「!?おい、冗談きついぞナブ、いくらなんでもそんなことあるわけが・…」
「データー、でるわよ。」
マーシィがそういった直後、メインスクリーンに複数の映像が出る。
うち一つは地球の町並みが映し出されているが・…どこか古臭さを漂わせる、なんとなくレトロチックな建物が立ち並んでいた。
他の映像はなんかの番組みたいだがそこに出てくる人たちの服装も一昔前…どちらかというと20世紀の物に近いものだ。しかも画面や番組を収録しているスタジオのカレンダーが2520年でなく、2201年8月と表示されているではないか!
「2201年だって!」
コンマンが素っ頓狂な声をあげる。他のクルーも驚きの表情をうかべている。
この模様は艦の各所の映像モニターで流されていたが、そのほとんどが驚きのあまり声が出ない。
そんな中、バトルブリッジで意外にもミミとスーシャが極普通に会話している。
「セイレーンの策略なんかじゃないの?」
「それだったらなんでわざわざ300年前の古いシステムなんか使っているのよ?」
ま、これもまた一つの反応だろう。
「となると、私達は300年前の過去の太陽系にスリップしちゃったわけ?」
たしかにマキの言うとおり、傍目から見ればYAMATOが過去にタイムスリップしたかに見えなくもない。
だがその疑問をレオンがあっさりと否定した。
「いや、それにしてはあまりに町並みの様子が違いすぎる。2201年と言えばガトランティスの襲来でまだ戦火のあとが残っているはずだ。だがこの映像を見る限りそのような跡が全く見られない。」
「ビンゴ!それに策略にしても戦艦一隻相手にここまで手のこむことはしないはずだからな。マーシィ、この地球の歴史データーベースにアクセスできるか。」
「まかせて頂戴。」
もともとシステム自体が(YAMATOからみれば)古いだけにそれほど時間はかからなかった。すぐさま21世紀から23世紀までの世界史データーが表示される。
「おい、冗談だろ?」
信じられないことが連発し、すっかりあきれ返ったアガがそう呟く。
2195年
木連火星圏に侵攻、蜥蜴戦争勃発
2196年
木連内部にて秋山源八郎を首班とする熱血クーデター勃発。
連合と休戦協定を結ぶ
2201年
「火星の後継者」の乱勃発
同年7月ホシノ・ルリ少佐指揮のナデシコCにより本拠地
として占拠されたセントラルポイント「イワト」の全シス
テムを掌握。
首班草壁春樹元木連中将逮捕により終結
「全然違うじゃねえかよ、俺たちが知る歴史と!」
「ということは、ここはパラレルワールド!」
コンマンとメガネが口々にそういう。普段は冷静なレオンでさえ、愕然とした表情を隠しきれない。
「なあ、ナブ、おまえが予想していたという事は、この事だったのか?」
「いや、予想以上だ…少なくともどこか別な宇宙に吹っ飛ばされたと思っていたんだが…こいつは…。」
といった所で言葉が途切れる。
視線をアガから前方のスクリーンに目をむけるが、その手は小刻みに震えていた…。
「ちょっと、なによこれ!」
突如割り込んできた雑音混じりの音声通信に顔をしかめるマーシィ。
「どうしたんだマーシィ。」
「わからないけど、なんかのSOS通信みたいだわ、ひっきりなしに「助けて」を繰り返している。」
ナブの問いに答えながらマーシィは少しでも明瞭にしようとコンソールを操作する。そのかいがあってようやく聞き取れるようになった。
『(ガー)こちら・…統合軍第8・…『タガマガ』分遣隊、当ステーションは…体不明の敵艦隊の襲撃を受け…・(ザー)』
最後の言葉が雑音に飲み込まれ、通信が途絶えた。
先ほどから厳しい表情のまま艦長席でスクリーンを見ていたシマがふと口を開く。
「マーシィ、位置は特定できたか。」
「はい、今スクリーンにだします。」
スクリーン表示が切り替わり、太陽系の星図が映し出される。星図にはこれまでの情報収集によって自動的に書き込まれたコロニーの位置が表示されている。
その中で他のコロニーと比べ土星よりのコロニーがSOSの発進点らしい。
「通信波の状態から見て、受信できたのは本艦だけだと思います。他のコロニーにはおそらく・…。」
マーシィの言葉が終わらないうちにナブは自席についてコンソールを操作し始める。
「ナブ!」
「そこに住む住民を見捨てるわけにはいかない、まして受信したのが俺達だけならなおさらじゃないか、艦長!」
「だれが見捨てると言った。・…全員部署につけ、発進準備だ!」
『おうっ!』
各員が発進準備に取り掛かる。
エクゼブティブブリッジでは全員が配置につくとブリッジそのものが一層下のバトルブリッジに降下し始める。
もともと建艦時にセイレーンの規格に設計しなおしたYAMATOであるが、その際にいくつかの改良が現在この艦に乗り組んでいる若者達の手でなされている。
その一つがこのブリッジ構造である。
元の設計である第17代ヤマトでは艦長室の艦長席と第一艦橋との2層構造になっていたのだが、このときの改良で艦長室、エクゼブティブ・ブリッジ(第一艦橋)、バトル・ブリッジ(第二艦橋)の三層構造になっている。
通常時、要員はそれぞれの部署にいるわけだが戦闘時や探査、救助活動時は各ブリッジでの機能をバトル・ブリッジで一元化するのだ。
バトルブリッジではパイロットや探査要員もおり、戦闘時や探査、救助活動時にブリッジ指揮機能を一元化することでより各員とのコミュニケーションの伝達を早め、また同時にパイロットなどは出撃直前まで状況を把握することが出来ると言うわけだ。
ブリッジのみならず、YAMATO艦内ではクルー達があわただしく各部署につく。
機関室ではアイドリング状態だった補機である2機の波動エンジンとメインのモノポールリアクターの出力が引き上げられる。
2機の波動エンジンは可変式のシリンダーが圧縮され、フライホイールが唸りを上げて回転する。2基の波動エンジンの中央に設置してあるモノポールリアクター内では、エネルギーが臨界点まで引き上げられ、エネルギーを満ちあふらせていく。
先ほどまでの不安に満ちた空気はたちどころに吹き飛ばされ、艦内は活気に満ちていく。
バトルブリッジにエクゼブティブブリッジのコンソールが降下した時にはすでに発進準備を終えていた。
「航路設定完了!」
『メインエンジン及び両舷サブエンジン異常なし!』
「半径1000宇宙キロに障害物なし!」
「オールシステム異常なし、艦長!YAMATO発進準備完了です!」
「よーし、YAMATOォ発進!!」
艦尾のメインノズルからタキオンとモノポールの混合粒子が吹き出し、一気に加速する。
数秒もたたないうちにYAMATOは光速へ、そしてその光速を越え、宇宙を切り開き、異次元空間を疾走する。
おそらくそこが全ての始まりとなるだろう・…誰もがそう思った
YAMATOは一路、『タガマガ』へ飛んだ。
「マジン部隊全滅!」
「守備艦隊損耗率80パーセント!」
ここ『タマガマ』では突如出現した敵艦隊を前に、絶望的な戦闘を繰り広げていた。
当初火星の後継者の残存艦隊と誤認したのが全ての始まりだったと言ってもいいだろう。たった一発のミサイルがこの状況へと追い込んでしまったのだ。
全艦黒ずくめの数隻の戦艦の三連装砲塔から絶えず紅いビームが打ち出され、そこから飛び出した芋虫形戦闘機の触覚状の先端からは飛び出すレーザーは進撃を必死に食い止めようとするステルンク―ゲルをハエのように落としていった。
「司令!ダメです。各ステーションとも応答がありません。」
「回路が焼ききれても構わん!呼びかけを継続しろ!」
「ハ!しかし敵艦隊のジャミングのせいで通信波が届いてない可能性があります。仮に届いたとしても…。」
「呼びかけを継続しろ!」
「ハ!」
通信員が再び呼びかけを再開する。司令は基地内通信を開き迎撃部隊全員に檄を飛ばす。
「いいか、当ステーションには700名以上の民間人が残っている!我々が全滅したら彼らを守る者がいなくなってしまうんだ!増援がくるまでなんとしても持ちこたえろ!」
「敵編隊、最終防衛ライン突破!当ステーションへ急速接近!」
「打ち落とせぇぇぇ!」
敵爆撃隊が最終防衛ラインを突破しステーションブロックに迫ってくる。たちまちステーション上に配置されているエステバリス砲戦フレームが全銃火器で砲撃し始めた。
数機ほどが耐え切れず爆発したが反撃もそこまでだった。お返しに敵編隊が放ったレーザーがエステバリスを紙のように貫き、次々と沈黙させられる。そしてとうとうそのレーザーが司令ブロックを直撃した。
『ウワッ!』
側面のコンソールが爆発し、要員数名が火だるまになって吹っ飛んだ。各所から火の手が上がり、スプリンクラーが作動し始める。
「被害報告!」
ズブ濡れになりながら司令が叫ぶ。
「エステバリス隊損耗率90パーセント、迎撃艦隊及びステルンクーゲル部隊…全滅です。」
すでに民間人の居住ブロックにも被害が出始めている。だが、それらを守る手段は・…もう残されていない・…。
「…万事休すか…我々は…何もしてあげられなかった…何も…!」
そのとき天井で爆発音がした。
上を見ると、爆撃を受け、粉々になった構成材が崩れ落ちてくる。
「いかん!総員退避…ウワッ!」
またコンソールが爆発し、司令が吹っ飛ばされる。
全員が逃れようとドアに駆け寄るが開かない。爆撃で電装回路が切断されてしまったからだ。
手動であけようとするがそれもかなわず、全員が・…崩れ落ちてきた構成材に押しつぶされた…。
「もう…ダメなのか…。」
失意を胸に、そう呟く司令。
彼の体は下半身が崩れ落ちた天井に押しつぶされ、息が耐えるのも時間の問題だ。
(…おそらくこいつらは太陽系内のものではない…蜥蜴戦争時の連合が作り上げた幻の地球外生命体ではない、本物のだ…。)
数的には相手の戦力を上回るほどの戦艦や機動兵器ぐらいはこのステーションに常駐してあったのだ。だがそれですら全く歯が立たなかった。
接近してくる艦隊のうち、一際大きい艦から一発の大型ミサイルらしき物が飛び出した。ミサイルはまっすぐ司令ブロックにめがけて飛んでくる。
おそらく指揮系統に完全にトドメを刺すつもりだろう。司令は覚悟を決め、衝撃に備えようと目をつぶり、歯を食いしばろうとした。
だがそのとき、敵艦隊とステーションの中間地点で突如光の粒子が浮き上がる。
(ボソンジャンプ・…いや、違う!これは…・!)
金色の光の粒子が寄り集まるスピードが速まり、寄り集まった光が縮んだと思いきや、そこから空間歪曲が発生した。
そしてその歪曲から一隻の戦艦が飛び出した。
(…美しい…。)
それはいままでの地球や木連の艦艇にはない、実に流麗なフォルムをもった戦艦だった。
20世紀初頭の超ド級戦艦のイメージを漂わせながら、鋭角上の艦首部分とパルバス・バウが力強く突き出ており、更に艦首上部には両舷に艦体中央で一体化している鋭角上のフィンが45度ほどの角度で取り付けられている。
艦橋は美しい局面を描き、艦首と艦中央側面に設置されている紅い光を点滅させているビーコンが力強くその存在を示していた。
力強さとスピード感を併せ持つその艦は敵艦隊の針路を割り込み、砲撃を開始する。
(これで…助かる…。)
今の彼にとってその艦が星籍不明艦だろうがなかろうが、どうでもよかった。
自分達のSOSを聞きつけ、助けにきてくれたことがなによりうれしかった。
助かるという安堵感に全身の力が抜け、息を引き取ろうとした直前、先ほど敵艦が放ったミサイルが司令ブロックに命中し、彼の体を構成材ともども蒸発させた。
彼の体が分子に還元されるまで、彼はふと見たような気がした。
その戦艦がその身で攻撃を庇いつつ、敵艦隊を殲滅するその雄姿を…・。
ワープから抜け出たYAMATOが見た物。それは無防備のコロニーに攻撃を仕掛ける黒ずくめの艦隊と攻撃を受け火災を発生するコロニーそのものだった。
「セイレーンか!」
「いや、それにしては古臭くないか!?」
たしかに基本色はセイレーン艦艇同様黒と赤なのだが、中央に配置されている三連装の主砲塔といい、垂直に立っている角ばったブリッチといい、何かが違う。
「解析完了…これは…テザリアム艦隊のプレアデス級戦艦です!」
そう言ってマーシィはその解析データーをブリッジ正面のメインスクリーンに転送した。
「プレアデス級…黒色艦隊か!」とシマ。
「敵艦隊ミサイル発射!ステーションの方に向かってます!」
メガネが切羽づまった声で報告してくる。
「迎撃ミサイル発射用意!」
「迎撃ミサイル発射スタンバイ!」
シマの号令の元、レオンとナブが発射準備にかかる。
すぐさま発射諸元データーが打ち出され、そのデーターがナブの戦術席に転送される。
そのデーターを元にミサイルの標準をロックする。
「準備完了!」
『全システム戦闘モードに入ります。』
発射準備が完了した時点でコンピューターが自動的にYAMATOの全機能を戦闘モードへと切り換えた。
「撃てーッ!」
号令とともにYAMATOの艦尾側にある片舷10セル、計20セルからミサイルが連続発射される。
その数20発。
途中で各ミサイル弾頭のカバーが外れ、そこに納められている6発の小型ミサイルが飛び出す。
20発のミサイルから飛び出した小型ミサイル計120発はそのまま黒色艦隊が放ったミサイルとぶち当たり、辺り一面閃光に包まれる。
光が収まりきらないうちに、弾幕を潜り抜けたミサイルが更に迫る。
これらのミサイルに対しYAMATOの主砲とパルスレーザーが火を噴いた。
YAMATOに搭載されている主砲はプラズマショックキャノンと呼ばれている物だ。
これは従来のショックキャノンのビームをプラズマ化したものでこれによりビーム出力の調整次第でビーム自体を貫通させたり敵艦の装甲付近で四散させることで装甲を溶解させたりすることができるようになった。
砲塔自体も電磁ベアリングによって支持することで全体の角度、高さを変えることができ、さらに砲塔内部のプリズムの角度調整次第でプラズマビーム自体の角度調整が可能である。
YAMATOにはこのタイプの主砲を艦首側の上部と艦底部に三連装8基、艦尾上部と艦底部に4基装備がなされている。
その自慢の主砲が黒色艦隊に向けて青いプラズマビームを発射する。
たちまちミサイルが粉々に粉砕される。だがそれでも勢いは収まらず、その まま後方の敵戦艦に直撃し、大破させる。他の艦もYAMATOの連続砲撃を受けて粉々に粉砕される。
その主砲ビームの嵐から一隻だけがかろうじて遁走した。
「一艦逃走します。」
「ほっとけ!探査プローブ及び艦載機発進準備、ステーションに残っている敵戦闘機をけん制するんだ。その隙に生存者の救助にあたれ!」
「了解、みんな、いこうぜ!」
飛び出すナブに続いてエクゼクティブブリッジブロックにいる数名を残し、全員がブリッジから飛び出した。
YAMATO艦底部のかつて第三艦橋であった場所は艦載機発艦口に設計変更がなされており、そこの発艦口が開かれ、そこからフックに固定された戦闘機〜SR−1型〜が降りてくる。
エンジンが始動すると自動的にロックが外され、ハンガーデッキから飛び出してゆく。戦闘機が飛び出すのと同時に次から次へとYAMATOから発艦して行った。
YAMATOから飛び出した戦闘機はステーションを攻撃している敵爆撃隊に向かって突っ込んで行く。
その数、21機。
『現在敵爆撃隊はステーションを攻撃中、各機二手に分かれて敵攻撃隊を牽制してください。そのすきに探査プローブを突入させ民間人の救助にあたります。で、それがそのデーターよ、ナブ。』
「サンキュー、マキ。ようし、とっとと敵さんを追い出すぞ、左の方は頼むぞ、スピード、エミリオ!」
『任せとけ、行くぞエミリオ!』
『ロックンロ〜ル!イーヤッホー!!』
二手に分かれた戦闘機隊は円を描き敵爆撃隊に突っ込んでゆく。
驚いたのは敵の方だ。接近してくるみなれない戦闘機に向けてレーザーを発射し始める。
だがほとんどが急速な回避行動で交わされてしまう。お返しとばかりにうったSR―1のレーザーが正確に敵戦闘機の機体を突き抜け、爆発を起こす。
一方的な戦闘とかしたのを尻目に、YAMATOから飛び出した有人探査プローブが基地のエアロックに着陸する。
その頃YAMATOでも新たな問題が発生した。
「…なんだこれ!」
「どうした!」
「ステーション内の2つの反応炉にエネルギーの異常反応をキャッチしています!」
メガネの報告を聞きつけてすぐさまマーシィが基地コンピューターにアクセスし問題の反応炉の状態をチェックする。
そこに出た表示は、決して楽観できるものではなかった。
「攻撃の所為で冷却系が駄目になったんだわ、メルトダウンを起こしてる。艦長!このままでは5分以内に反応炉が爆発します!」
「ステーションにいる救助隊と戦闘機隊に連絡だ。マーシィ!その2基の反応炉の制御系にアクセスし直接コントロールしてくれ。少しでも爆発を遅らせるんだ。 レオン、本艦をステーションから距離100まで寄せろ!」
「了解!」
「イエッサー!」
YAMATOからの警告を受け救助作業を急がせるがクルー達の気持ちとは裏腹に救助作業は思い通りに進まない。すでにステーション内部で内部で暴走動力炉のせいで電送系がオーバーロードを起こし始め、各セクションで爆発を起こし始める。
「もう時間がありません、急いで、急いでください!」
「さあ、しっかり!」
ミミとスーシャが避難民達の呼びかけながら負傷した者の体を支えながらプローブの中に載せて行く。
これと同じ光景はこの基地あちこちで繰り広げられていた。
それぞれ生存者を乗せると、すぐさまYAMATOに帰艦する。だがリミットが迫るにつれてステーション内の爆発が激しくなり、数機が爆発に巻き込まれそうになった。
「艦長、これ以上は無理です、あと50秒で確実に吹っ飛びます!」
「今、最後の2機がステーションより離脱しました!」
間一髪とはこのことだろう。いま最後まで残っていたプローブ2機がステーションを離れ、YAMATOに向かってきている。
「ようし!プローブを回収次第全速で当ステーションを離脱する。マキ、ステーションにいる戦闘機全機に連絡だ!」
「了解!出撃中の全機へ、全速で戦闘宙域から離脱せよ、繰り返す、全速で・…」
最後のプロープ2機がYAMATOに収容され、全速でステーションを離脱する。
救助隊援護のため最後までステーションに残っていた21機の戦闘機も全速でYAMATOに続く。
もう着艦作業を行っている時間もない。ただひたすら、ステーションから離れるしかなかった。
そしてYAMATOがステーションから退避し始めて30秒後、突然ステーションが火の玉とかし、その数秒後に衝撃波がYAMATOに到達した。
衝撃波を受けて、その艦体をビリビリ震わせるYAMATO。しばらくしてその光と衝撃が止み、あたりは再び静寂に包まれる。
センサーにはステーションはもちろんこと、まだ周辺にいた敵戦闘機すら消え去っていた。
あの爆発は逃げ遅れた者の生存も許さなかったのだ。
しばらくして艦底部の離着艦ポートが開かれ、難を逃れたYAMATO戦闘機隊の収容に入った。
「全員無事か!?」
開口一番バトルブリッジに入ってきたナブが聞いてきた。
「いや、まだスピードとエミリオのやつが戻ってきていない。」
そくさまアガがそれに答えた。その返答に怪訝そうな表情を浮かべるナブ。
「爆発に巻き込まれたのか?」
「いや、2機とも無事ステーションから離脱している。がその後なぜかYAMATOに戻らず、センサー圏外から出てしまったんだ。」
アガに代わってそう答えるレオン。そのとき、センサー圏外から接近してくる飛行物体をセンサーが捉えた。
「何だ、また敵か!?」
「いや、ちがう、識別コード確認…スピード、エミリオ両機です!まっすぐこちらに向かってきます。」
メガネが振り返ってシマに報告する。それを受けて憮然とした表情のままで指示をだす
「マーシィ、すぐに通信をつないでくれ。」
「了解!」
「いったい何考えとるんだ、あの二人は!」
指示を出して数秒たたないうちに二人の顔がメインスクリーンに映し出される。
「スピード、エミリオ!」
『すまねえ、艦長、ナブ。おそくなっちまって…。』
「なにが『遅くなっちまって』だ!どこをほっつきあるいとった!」
そのシマの怒声とは対照的に、エミリオがあっけらかんとした口調で答える。
『いや〜ちょっと面白い物見つけたもんだから回収すんのに時間かかっちまって、なあ。』
『おう、多分こいつを見たらぶっ飛ぶと思うぜ。』
「いったい何見つけたんだ?スピード。」
「そうだ、もったいぶらずにとっとと教えろ!」
急かすナブとアガにスピードはニヤリと笑みを浮かべ、モニターの映像を切り替えた。
『これよ!』
そこには一つの黒っぽいボックス型のデーターディスクらしき物が映されていた。なんかの爆発をうけたのだろうか?滑らかだったはずの表面がでこぼこしている。
「データー…ディスクか?」
『あったり〜。』
『しかもこれ、どこにあったと思う。敵戦艦の残骸の中さ。』
「なんだと!」
驚きの声をあげるシマ。他のクルーも同様の表情を浮かべている。
しばらく沈黙の状態が続くがそれをナブの声が打ち破った。
「わかった、すぐに戻って来いよ!」
「でなきゃもう中に入れんからな!」
とシマが付け加える。
『了解!』
それを最後に通信が途絶える。すぐさまシマは視線をブリッジ周囲に向けた。
「コンマン、マーシィ、やつらが戻り次第、すぐにデーターディスクの解析に入ってくれ。なぜ連中がこの時空にいるか、その手がかりがつかめるかもしれん。」
「了解!うっひょ〜なんかわくわくしてきたなあ、ウシシシ…。」
「な〜によからぬこと考えてるのよ。」
「ゲ!姉ちゃん!」
いつのまにかコンマンの後ろに、彼の姉である医療担当のローズが立っていた。
「なんで姉ちゃんがここにいるんだよ!怪我人の世話はおっぽり出して…。」
「その患者の容態を報告しにきちゃいけないって訳?」
「いや…それは。」
口篭もるコンマン。そこへマーシィが助け舟を出した。
「大丈夫よローズ。この私がついてますから!」
「それなら安心ね。ほらとっとといきなさい!グズグズしないで、さあ!」
少しいじけた表情を浮かべながらしぶしぶバトルブリッジから出て行くコンマン。そのあとにマーシィが続いた。
その兄弟のやり取りにシマは微笑みながら見ていたが、すぐさま表情を引き締まらせローズに顔を向ける。
「負傷者の容態は?」
「重傷者3名は一命を取り留めました。一週間ほどで完治できます。ほかは打ち身や擦り傷だけの軽傷者だけですでにホールの方に戻っています。それと…。」
「何だ?」
「彼らは今が2201年8月だといっており、このYAMATOをこの世界の宇宙軍の最新鋭艦だと思ってます。…彼らはひっきりなしに帰りたがってます。自分達の故郷へ…。」
その言葉に全員が複雑な表情を浮かべる。
そう、いつまでもここに留まるわけにはいかない。いずれにせよ、救助された避難民達はこの世界の地球連合に送り届ければならない。
だが、この見知らぬ艦を見て、この世界の人間がどのような反応を示すか、予想もつかない。
「艦長…。」
「とにかく、回収したデーターディスクの解析を急がせるんだ。…それで全てがハッキリする…。」
シマの言葉を最後に、ブリッジは重苦しい沈黙に包まれる。
これから遭遇するであろう誰もが経験したことのない未知に不安を抱きながら…。
To be continued
あとがき
ふう、つかれた・…
さすがに難しいものです。あまり無茶すると双方のパワーバランスが崩れそうで…。
それゆえに定期更新とは行かないわけで・…。
と、愚痴を言っても仕方がない。最後までやって見せるでー!
……失礼。
By YAMATO
機動戦艦ナデシコはジーベックの作品です。
YAMATO2520はニシザキ・ボイジャーエンターテインメント、及び松本零士の作品です
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